拾壱
5/11、訂正しました。
始めに女王紅玉の挨拶が行われ、それに続くように各国の代表の何人かが壇上で挨拶を述べると解放祭の式典とは名ばかりの交流会が始まった。
それぞれが食事をしたり話し合ったりと過ごしているなか、一人で壁に寄りかかりながらそんな光景をグラスに入った酒を飲みながら見ている。
ソウリューは挨拶回りがあるからと離れ、飄舞も壇上での挨拶が終わった双子に速攻で連れ去られるように引っ張られていき、コクロウが申し訳ないというように頭を下げるという場面があった。
だが、義弟にとっては良い刺激となる交流だろうと助けを求めるように視線を向けていたが、手を振って見送った。
故に現在一人なのだが、このまま何事もなければ一番良いため、本人的には現状に満足していた。
「おや、お一人なのですか?」
「…こんなところで話しかけていいのですか?シズク宰相閣下。」
声をかけてきた女性、数日前に双子のことを話した高官、現アリオクレイア宰相、シズク・ローズイア侯爵。
式典の準備で忙しかったのだろう、その表情は疲労の色が見えるが気丈な姿勢を崩さないのは流石だ。
「毎年出している招待をやっと受けてくれたのですから、声をかけに来るのは当然ですよ。…楽しんでいますか?」
「楽しめる状況だと本気で思っています?」
「いいえ、まったく。…こちらとしても異界の巫女様の参加は直前に知らされましたので皆気を張っていますよ。」
「ということは、彼女の独断ですか…。」
「えぇ…。最近は大人しくされていられてと思ったらこれですよ…。」
深い深いため息を吐く。
宰相は一番女王との付き合いが長い、故に一番苦労させられている。
だが、それでも彼女が仕えているのは、女王にとって彼女が心から信頼できる親友であり、ともに戦う同志ゆえだろう。
しかし、異界の巫女の参加は女王の独断で決定された。
その事実に仮面のしたで眉を寄せる。
何故呼んだのか、何故今更になって表舞台に出したのか。
そうすることで英雄がやって来るとでも思ったのか。
…思ったんだろうなぁ。
数日前の秘密裏の城下への創造神降臨という名の父神の息子の様子見のための下界への降臨。
“神に仕える一族”の長である女王なら父が周りへ気づかれないようにと施した結界に気づくはず。
だから、英雄がアリオクレイアにいるのだと直感的に思い至ったはずだ。
創造神は異界の巫女である母のいる神殿か息子のいる場所にしか降臨しないのは一部には有名は話である。
「多分、英雄殿に会いたいため、でしょうね。」
「っ…まさか、気づかれている?」
「えぇ、父神のせいで。多分異界の巫女殿にも話は言ってるでしょう。」
「…創造主様のせい、ですか?」
どういうことだ?と宰相が首を傾げるのをみて、身内の事情ですから気にしなくて良いですよとだけ言っておく。
それで察してくれたであろう宰相はそうですかと一言だけ呟き、追求はしてこなかった。
「では、私はこの辺で。情報屋も楽しんでく…。」
「漸く会えました!シオン様!」
宰相の言葉を遮るように、会場に響く少女の声。
声の発生源を見れば人族の代表者であったはずのベールで顔を隠した小柄の少女が近くにいた。
その顔が向いている先にはしっかりと自分がおり、ゆっくりとこちらにやって来る。
“シオン”と少女が発した名前に会場からはいつの間にか音が消え、全員の視線が自分に向けられた。
隣にいる宰相の至っては大きな声を出し、その名を呼んだ少女を見て絶句していた。
「…ドゥーベスタの代表者の方とお見受けしますが、生憎と私の名前はそのような高貴の方と同じ名前ではございませんし、様をつけられるような身分では…。」
「いいえ!貴方はまさしくこの世界を救った英雄シオン様です!貴方のお父上である創造主様が自分の新しい花嫁にと選んでくださった私、リリア・ドゥーベスが間違うことはございません!」
やんわりと訂正しようと思い近づくが、少女の言葉に唖然とし、周囲は一気に騒がしくなる。
この女はなんと言った?父神の新しい花嫁?
あんなに母を溺愛している父神が?
…それは天地がひっくり返ったとしてもあり得ない。
「誰からそのような話を聞いたかは知りませんが、創造主様は異界の巫女様を溺愛しているのは公然の事実。それに私が貴方の言うシオン様なのでしたらその母親たる異界の巫女様の側にいるものではありませんか?」
「創造主様直々に聞きましたの!それにドゥーベスタの神殿で祈りを捧げている私の前に創造主様が御降臨してくださり、花嫁にと言ってくださいました!ねぇ、貴方も見たわよね!?ドーラ!」
「えぇ、確かに。リリア様付き騎士として証言させていただきますが、創造主様降臨をリリア様の側にいた私の他にも神殿の神官達も目撃してます。」
彼女の後ろに控えていた騎士が主だというリリアという少女の問いに淡々と答える。
リリア・ドゥーベス、ドゥーベスタ国王の末娘の第一王女。
これがそうかと見下ろすが、はっきり言って父神の好みではない。
それに父の降臨には条件と制約があるからそんなに簡単に降臨できないのだ。
数日前の降臨はなんとか制約に引っ掛からなかったのだろう。
では、この王女の前に現れたのは別の神。
父の名を名乗り、彼女の前に現れて嘘を言ったとなるが、自分が知る限りの範囲でたが、そんな神は天上の神々にはいない。
そして、その神々にでさえ、面倒な条件や制約やらが多いのだ。
だが、ふと一人だけ思い当たる神がいた。
会ったことはないが知り合いの神に聞いたことがある。
父に良く似た、だが、悪事ばかりを働き、地上よりも下に堕とされた神。
“災厄の王”の生みの親たる堕天の神。
「そう、あの方が貴方を選んだの。では、私はもうお役御免ということかしら?」
すぐ側で聞こえた良く知る声。
考えから我に返り、顔を上げるとすぐ側に異界の巫女が笑み浮かべながらを立っていた。
ただし、目はまったく笑っていない。




