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英雄は静かに暮らしたい  作者: 雅樹
アリオクレイア編
1/20

前に投稿して、納得いかなくて削除したのを新しくして投稿しました。

趣味や好きなものを入れたいだけの作品ですので、暖かい目で読んでください


5/11、視点を情報屋目線にするために大幅に訂正しましたが流れは変わってません。


 この世界には七つの代表的な大国が存在する。


 その中でも他種族との交流を控え、自国での自給自足の生活をおくりながらも大国のひとつであり三大陸がひとつ、北西に位置する緑豊かなオールブレ大陸の半分を治める狐人の国、アリオクレイア。


 この国の国民は生まれ持った魔力と尾の数でその強さが示される。

 現女王は当代一の魔力と九尾の狐人で、他国を圧倒するほどの力をその身に宿していた。そのため、長年この国は安泰の時を過ごしている。

 そして、この国には他国と違う特徴がある。

 

 それは女狐が優遇されるということだ。

 代々この国を治めてきたのは皆女王で、その臣下も女狐がほとんどを占める。

 なぜならば女狐は男狐より魔力が強く、幻魔法-アリオトでは幻術と呼ぶ-を扱うのに秀ているため他国でも珍しい女系国家なのだ。

 

 しかし、だからといって男狐が冷遇されているということではない。

 兵士や建築など、体力を必要とする仕事は男狐が主力となる。

 故に身分制度はあるにせよ、アリオトには男女差別というものは存在していなかった。

 

 そして、彼ら狐人達は“神に仕える一族”と古くから呼ばれてきた。


*******************

 


 アリオトには長屋地区と呼ばれる、平民達の住まう区画のひとつがある。

 貴族と呼ばれる身分の者が住む貴族街に隣接する区画で、平民達が隣り合って繋がる家に住んでいるため、長屋地区と呼ばれていた。

 皆家族のように仲が良く、市や宿場町も含まれているためとても賑やかな区画といえよう。

 

 

 

 そんな長屋地区の一軒の家。

 家主である青年は慌てて朝餉を食べている義弟を見て苦笑を浮かべていた。


 

飄舞(ひょうぶ)、そろそろ行かないとまた遅刻してしまうよ?」


「んんっ…分かって、るけどっ!」


 

 肩にかかるくらいの黒髪が寝癖で跳ね、今にも泣き出しそうな深紅の瞳の少年は反論しながらも慌てて朝餉を口にかき込んでいる。


 自分の義弟である飄舞は昨晩、遅くまで最近自分から借りた書物を読んでいたせいで朝起きる時間が大幅に遅かった。

 起こしてやらなかった自分にも非はある。

 しかし、起きれなかったのは自業自得、目の前の自分を恨むのは筋違いであるが、甘んじて受ける。

 元から表情豊かな飄舞のころころと変わる顔が見ていて面白いから。


 そんな飄舞を腰までのびた癖のない銀の髪を耳にかけながら目元を隠す半狐面をつけ、事情により素顔が分からないようにしている自分はクスクスと笑いながら煙管をふかしていた。

 着ている和服はほどよく着崩し、堅苦しさをなくしている。



「ご馳走さま!行ってきまーすっ!」



 食べ終え、きちんと手を合わせてそう言えば律儀に食器を洗い場に下げ、急いで荷物を持って家を出ていく姿にやれやれと煙管を置き、見送るために外に出るが、飄舞の姿はもう何処にもなかった。

 


「あらあら、情報屋さん、おはようございます。飄舞くん、とっても急いで走って行ってしまったけれどまた寝坊かしら?」


「おはようございます。えぇ、また書物を読んで夜更かししたようで…。もうすぐ十二歳になるというのにこういうところは学習しなくて困ったものですよ。」


「ふふっ、でもそんなところが飄舞くんらしいんですよ。」


「まあ、そうですね。」


 

 向かいの部屋に住む顔馴染みの女性が微笑みながら言う言葉に苦笑しながらも言葉を返す。


 “情報屋”とは自分がこの長屋地区で知られている呼び名である。

 持ちうる知識と広い人脈とツテを使い、様々な情報を集め仕事として開示し、金を貰う仕事を自他国問わず誰に対しても行っているためだ。


 本名は訳あって皆におしえてはいないため、職業である情報屋と周りが呼んでいる。

 という理由もあるが、元々自分の本名を知っている者は少ないし、知られれば面倒なことになるためこれからも名乗るつもりはない。



 蛇足したが、飄舞の寝坊は実のところ最近毎朝のことで、周りに住んでいる長屋の者達の間では飄舞が今朝は寝坊するかしないかというちょっとした賭けが行われ始めているのだが、当の本人はまだ気づいていない。

 自分のことになると我が義弟は何故か鈍い。


 

「でも飄舞くん、魔族だから遅刻しそうでも得意の風の魔力を使って速く移動できるから羨ましいわ。うちの主人なんて寝坊したら間に合わないもの。」


「狐人は幻術が得意分野ですからね。」


 

 狐人ではない飄舞(たにん)がこの国で暮らすことは珍しい。

 他種族に対して狐人達は基本的に距離を取り、他人行儀な対応をするのは昔からあることらしい。


 しかし、飄舞の場合は狐人――というふうに事情により周りにそう思い込ませているだけだが――である自分の義弟として一緒に住んでいること。

 飄舞自身が元々人見知りもせず愛嬌があり、相手の懐に嫌悪感を抱かせずに入り込める性格のおかげで皆から受け入れられ、可愛がられている。

 狐人は他人に素っ気ない反面、一度認めた身内にはとことん甘いのだ。


 

「それよりも、そろそろお仕事なのでは?」


「あらいけない、もうそんな時間ね。それじゃあ情報屋さん、また。」


 

 自分の問いに女性は頭を下げると小走りで去っていく。

 アリオクレイアに住まう国民、大人達は基本的に皆働き、子供達は学舎へと通う。

 これも現アリオクレイア女王の政策方針であり、そのための国からの補償もある。

 国民のための政策を行う女王は国民から圧倒的な支持を得ているのは言うまでもない。


 

「さて…私は片付けでも…。」


「おい、本通の長屋のところに余所者が倒れているらしいぞ!」



 家に入ろうとしていたとき近くで聞こえてきた話の内容。

 それを聞いていたであろう周囲の者達が一瞬にしてざわつく。



「余所者、か…。」



 複雑な感情が含まれた声音でそう呟きつつ、余所者が倒れていると思われる場所に足を運ぶ。

 人が集まっていたためすぐにその場所は分かり、近づくと皆はその中心に倒れている余所者に対して興味と困惑が入り交じった視線を向けており、助ける素振りを見せるものはいない。

 一応警吏を呼びに行ってはいるであろうが。

 そして、運悪く人が多くて自分のところからは余所者の姿が見えず、その正体は分からない。



「ん、丁度良いところに。なあ、何処の余所者が倒れているんだ?」



 どうしようかと思っていると近くに顔見知りを見つけ、そう声をかけると相手は驚いたような表情を浮かべ、周囲の者も同様の反応を見せた。

 長屋地区で自分は有名であるからこのような反応をされるのだと分かっているが、全く気にしていない。



「情報屋さん、アンタが出歩くなんて珍しいな。…多分服装からして虎の国ミザルイスの()だと思うんだが…もしかして、情報屋さんとこのお客さんかい?」


「…虎の…。あいにくだが最近は虎からの依頼はないな。」


 

 そんなことを顔見知りに言いつつも近づけば分かるかと思えば人混みを掻き分け、倒れている余所者の側へと移動した。


 確かに倒れているのは虎の国の服を纏っており、そっとしゃがんで相手を確認すれば一瞬動きを止めるが、誰も気づくことはなかったため、小さく息を吐く。


 倒れているのは白い毛並みに黒の縞模様をもつ虎の獣人の少年で、青みがかった銀の髪や綺麗な肌、服が少し汚れているくらいで目立った外傷はないのが目視で確認できればほっと安堵し、口元に笑みが浮かぶ。



(白虎の子…。うちで預かるのがいい、な。)


「……知らぬ子だがこのまま放っておくことも出来ないな…。私の家に運ぼう。」



 そう言うやいなや、少年をひょいと抱き上げてスタスタと家の方へと歩く。

 少年が目立たないように来ていた和服の袖でその身を周りに悟らせないようにしながら隠すのを忘れずに。


「お、情報屋さん家で預かるなら安心だ。」


「まったくあんな子供が倒れているなんて、何があったんだろうねぇ。」


 

 自分が保護するとわかれば皆ほっとしたような表情で散っていく。

 去りながら話す野次馬の声を聞き流しながら長屋の部屋に向かっていると先程声をかけた顔見知りが後を追ってきた。


 

「相変わらずその細い体の何処にそんな力があるんだい?」


「この子が軽いだけだよ。」

 


 顔見知りの失礼な発言に怒ることはなく、ただ苦笑を浮かべた。

 他の男狐に比べると確かに自分は細く、鍛えているような体つきではない。

 だが、今のように軽々と人を運んだり、重い荷物をいとも簡単に運んでしまう。

 …ただし、気が向いた時にだけ。


 

「自分で運んでるってことは今は気が向いた時なんですか?いつもなら誰かに運ばせるでしょ?」


「そーだね…。それに、この子には気になることもあるし。」


「気になること…?」

 

 「…。」



 顔見知りの問いに無言で返す。

 答えたくないことだと察したらしい顔見知りは小さく謝ってから自分の長屋に戻っていった。


 顔見知りと別れ、そのまま家のある長屋に着くと住んでいるところではなく、その隣に借りているもう1つの家へと少年を運ぶ。

 布で全体的な汚れを軽く落としてやり、一度床に寝かせれば急いで布団をひき、気絶したままの少年をそっと移動させ、布団の上に横にする。


 いったん本来の家に戻るとある子飼いの一人を呼び、隣に聞こえないようにと小声で指示を出す。

 子飼いは頷くとすぐに指示通りに動くために姿を消した。


 そっと少年が寝ている方に戻ってくれば側に腰かけ、そのまま飄舞が帰ってくるまで眠る少年の顔をただ静かに見ていた。

 

 

「君はあの人の子なのかい?」

 

 

 ただ、一度だけそう尋ねるように呟いて。





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