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二章

 江洲虎吾と浦路美衣が夢切符の広告を見たモニターには、政治家同士の討論番組が映し出されていた。巨大与党である自主公正党の重鎮とされる人物と、ここ数ヶ月で急速に支持者を増やしている独立党の論客とやらが盛んに議論を交わしている。


『蓼野首相が就任されて三年間で、この国の経済は劇的に改善されました。タデノミクスによる選択と集中で優良企業の業績は伸び続け、平均株価は一四パーセントも上昇しました。雇用の創出効果も顕著に見られ、有効求人倍率は一・八倍を記録しました。これは今世紀に入ってから最高の水準です』


『雇用、雇用と言うが、正当市民の完全失業率は九パーセントを越えている。不当市民が法定の最低賃金を守らずに不正労働をしているからだ。政府は正当市民を適正な賃金で雇っている企業に減税措置を取って、不当市民どもを働かせている悪徳企業に課税すべきだ。こんな事は共和国では何年も前に導入しているではないか』


『スペード総統の経済政策は一概に成功しているとは言えませんね。保護主義的な関税の強化で世界経済からは孤立の傾向にありますし、その影響で国内的にも経済成長率に陰りが見えてきています。これは何処かの政党の経済政策にも似ていますが。そもそも一〇年前に比べて、現に共和国の失業率は上がっているではありませんか』


『それはサドンフィールド危機以前の話だろう。都合勝手に三年前より良くなった、一〇年前よりももっと悪い。糞食らえだ。重要なのは過去との比較ではない。恣意的に切り取った過去との比較では。大切なのは、政策を行った場合と、行わなかった場合の、その結果の比較だ。タデノミクスは破綻している。我々の政策こそがベストなのだ』


『タデノミクス導入後に株価は一四パーセントも上昇しているのです。法人税収も数兆円規模で増えています。ここで経済政策を転換して、この好循環を逆回転させては、三年前の暗黒時代に戻る事になります。我が国の経済は瀕死の状態から治癒の途中段階にあります。このまま回復を続けるか、治療を投げ出すかの選択なのです』


『その治療とやらは結局は何もしないで経過を傍観しているだけじゃないか。お得意の注視していくか。五年前にはサドンフィールド危機があったんだ。三年前より良くなったなんていうのは自然治癒に過ぎない。余りに緩慢過ぎる。この国の経済には手術が必要なのだ。我々はそれをやる。我が独立党が政権を担った暁には一〇年で市民の所得を倍増してみせるぞ』


『国民の所得は増加しています。そして、この流れを更に加速するために最低賃金を一〇〇〇円から一二〇〇円に引き上げる事を約束致します。給与の底上げが消費を拡大させ経済を刺激すれば、製造業を中心に更に企業全体の給与は上がります。これは無責任な空約束ではありません。既に国民の所得は増加しています。その恩恵は準正当市民の皆さんにも確実にもたらされます』


『最低賃金を上げれば企業は益々その不当市民どもを雇う事になる。奴らは最低賃金の六割で働いている。連中に職を奪われて、正当市民の失業率は上昇しているんだ。まずは最低賃金未満で不正に労働する事を全面的に禁止すべきだ。正当市民に正当な雇用を。あの差別主義者どもを職場から追放しろ』


『課税するんですか。禁止するんですか。どうも現実的ではありませんね。準正当市民層に経済的な恩恵が及ばなければ出生率低下の問題は解決しません。少子高齢化が経済を圧迫している現在、所得拡大を掲げられている御党の主張は矛盾しています。やはり国民のリーダーに相応しいのは自主公正党の蓼野新造の他におりません』


『自公党は不当市民にばかり良い顔をして、正当市民の方を見ていない。選挙で票が入ればそれで良いからだ。正当市民は誰も現状に満足していない。それでも自公党は、今まで以上に不当市民を優遇しようとしている。自公党は卑怯者だ。自公党は卑怯者だ。この国の指導者は我が独立党の生羽景清だ。我々は差別主義者を追放する。この国を差別主義者から取り戻せ』


 自然と耳を傾けて歩きながら、江洲虎吾は浦路美衣の事を考えた。この討論番組を見ている事だろう。彼女は年齢的に投票権を持たないが、今度の選挙では一体どの政党を支持するだろうか。意見は持ちたがるはずだ。一度聞いてみたら喜ぶかもしれない。


 まさか共産党のシンパではないだろう。そして浦路美衣や江洲虎吾の事を公然と不当市民と呼び、その経済的追放を公約にするような政党を支持する道理も無い。そうすれば、選択と集中を掲げ、最低賃金制度の不徹底を進める政権を追認する事になる。選択されず分配もされない者達が。


 所得が増加してるって。何の話だ。準正当市民とは何者だ。正当でないという意味において、不当市民と何が違うんだ。そこまで考えて江洲虎吾は、まるで共産党みたいだと思って頭を振った。


 モニターでは討論番組が続いていた。

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