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破壊の勇者は必要ですか?  作者: 嫂蔵ゆうすけ
第一章 異世界への転生者
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破壊の賜物(ギフト)

部屋の中は1つの蠟燭の火で照らされている。陽の光とは違い、影をはっきりと作り出す。机を囲む3人の影は炎が揺れるたびに輪郭を踊らせる。


「つまり今回もそうなんだな?」


「えぇ、まただわ」


「なんちゅーか、ムカつく話やな。俺たちはいつまで経っても犯人はわからず、そいつに動かされてるってことやろ?腹がたつわ」


「仕方がない。もしかしたら天災なのかもしれないんだからね」


2人の目には苦笑が映る。それにつられて今回の件が達観できるほどの事ではないと知っていながらフェルは笑みを含み続ける。


「それは絶対にないわ。現に王国内でこの件は知られすぎている。異様なほどにね。それにあなたの言う天災であれば魔王の侵攻を意味するのよ?そちらのほうが嫌よ」


「ふっ、そうだな。不吉なことを言ってすまない」


「お前が謝って解決すんならいくらでもしてもらうんやがなぁ」

机の上に足を乗せながら機嫌が悪そうに語るバン。




「私もそれなら気が楽なんだけどね」


「カインが頭下げる必要ないわ。額に土をつけるならバンで充分じゃない?」


「なんやとマセガキ?ワイは国王に頼まれてもそないなことせんわ。まっ金払われたらやるんやけどな」


3人の顔つきからは先ほどの険しさが抜けていた。


「この件は王国に帰ってからでないと答えは出ない。今は目先のことを議論しよう。彼の件についてだが——」


「あれはそこらの農民と一緒ね。カーナからの依頼だったからどんな逸材かと思ったけど大したことなさそうよ」


「一応、アリス嬢と面識があったんやないんか?」


「話を聞いた感じ昨日の夕刻に世間話をしただけらしいわ」


「ほな、アイツの趣味を押し付けられただけやんか。ホンマ腹立つ——」



今にも愚痴だらけになりそうな会話に手を挟み止める。

「まぁ2人とも落ち着いて。まだ彼の実力、いや、能力はわからないだろう?」


彼の言葉を聞いた2人は目を顰めた。

それが意味することは、稀に生まれる魔法とは違う能力を持つ者、その能力者たちは必ずその力を『賜物ギフト』と呼ぶのだが、ユーリはそれを持っているということだ。


「そないなことあらへんわ。現にアリス嬢が拾われてからまだ10廻りもたってないんや。いくらなんでも確率が低すぎる」


「しかし、彼の同行をお願いされたときカーナに頭を下げられた。絶対に何かがある」


「うーん、貴族の可能性もあるのよねぇ?」


「私の感情論になるが、たぶんない。貴族はあんな目をしないからね。もし仮にそうなら王国の未来は安泰だよ」


カインは彼の特訓後に見せた瞳を思い出す。純粋で力強く未来を見据えている目を。

子供がみせるような輝きをより一層強めたものだ。将軍のなかでも1人だけあの目をみたことがある。


汚い世界を見ていないからか?

邪推が生まれると同時に思考をとめる。



2人はそんな彼を不思議そうにみていた。


「さて、時間も時間だ。どうやら考えていても答えはでない件らしい。これらは城下に戻ってから話し直そう。」


そう言うとカインは立ち上がり、2人もそれにつられるように席をたつ。部屋の隅に掛けられている装備を装着し、部屋をあとにする。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



あれから僕らは話を交わした。

彼女、アリスは転生者だという内容だ。彼女が気付いたのは冒険者登録証にあるカタカナで表記されたユーリという文字だ。

最初はもちろん驚いたのだが、身近に同じ郷土の人間がいることは心強く安心した。

それは彼女も一緒かもしれない。昨日の会話よりも表情を豊かにしていることからの私見だが。


「ところで元の世界への戻り方って分かってるの?」


「ううん、分からない。ただこっちのおとぎ話は全て、勇者として認められた人が魔王を討伐すると神のご加護で消えていく、って流れになってるの。きっと元の世界に戻ることを示しているんじゃないかと思うのよ」


「それで勇者候補...」


「えぇ、私はどうにかして戻りたい。例えそれがここよりも不幸な世界でも」


多少の違和感を感じた。


「元の世界で何かあったのか?」


彼女は悲しい笑みを浮かべ俯きながら言う。

「そんなことわからないじゃない?転生者は前世の記憶を持たないんだもの」


「俺には元の世界の記憶があるぞ?」


「それは日本語とかの基礎知識でしょ?それなら私もあるわ」


「いや違う。転生されたときどこにいたか、とか、何をしてきたか、とか」




一瞬の間が空いて彼女はユーリをみた。

「え?」


「記憶はそのままだ」

今の僕の顔には優越感がにじみ出てる。


「じゃ、じゃあ、元の世界がどんなところか、分か」


「あぁ、わかるよ。魔法なんてなくて、魔法の代わりにここよりも技術が発達して平和な国、日本。戦争はないし、食べ物には困らないし、とりあえず娯楽には溢れているよ」


得意げに話す。

一瞬だけ彼女は希望を含んだ顔を見せた気がした。しかし、すぐに下を向いた。少しの間だけ静寂に包まれたがそれを壊したのは彼女が装備している胸当てのプレートだった。

肩を震わせると同時に金属がこすれ音をたてる。そこに彼女の激しくなる呼吸の音も混じり始める。


泣いていた。


理由はあるのだろうが、僕にはどうすればいいのか分からない。ただ、見守るだけ。









「——ごめんね、見苦しいところを見せて」


彼女はまだ震えた声で続ける。

「私は元の世界に戻ろうと必死になって8年間を過ごしてきたの。途中でなんども挫折しかけた。けど、戻るためにって思って頑張ってきたよ」


「けど、ときどき思うの。もし、ここよりも残酷な世界だったら私は何のためにこんなことをしてるんだろうって」


「...で、俺の話でそれも解決したと」


彼女は小さく首を横にふる。予想外の反応に僕は言葉を失う。

「今、無駄だと思っちゃった。この8年間の努力を、無駄だ、って。」


意味がわからない。元の世界と今の世界は、異世界ファンタジーが大好きな人間や戦闘狂でもなければ絶対に前者を選ぶはずだ。生死を賭けなくてもよい生活ほどここで生きてきた者としては理想郷に見えるはず。僕はきて日が浅いからか、後者を内心では選んで楽しもうとしているが。



「転生者はね、前世の状態と全く同じ状態で生まれてくるの。前世で右手がなかったら、こちらの世界でも右手はない。」


「私は前世で目が見えてなかったみたい。だから私は、今も目が見えないの」








いや、まて、それはどういう...。

彼女は僕の動揺を察したのか説明してくれた。


「私は魔法が、マナがなければ生きていけない。マナを感知しなければ、まともに歩けもしない。1人で生活もできない。みんなと同じ感覚を共感することだってできない!一緒に暮らしていた家族の顔だって見れないっ!!」


最後は悲鳴だった。


「...それをどうにかできると思って頑張ったのに」




最初は何も考えられなかった。彼女の言葉1つ1つを耳に入れていくにつれ頭の中が真っ白に染まっていった気がする。



だが。


こんな話を聞かされてそのままでいられるだろうか。いや、できない。



「助ける」


本能的にそんな言葉がでた。決して軽はずみにいったわけではない。



「無理だよ。——ユーリには無理」


絶望に染まった声だった。




なにか、何か策はあるはずなんだ。魔法での治療?いや、そんなことはもうとっくに試しているはずだ。彼女が今の今まで溜め込んでいた諦めなかった思いは本物のはず。なら、その努力も決して怠ってきたわけじゃない。



魔法で治せないってことは身体的な問題じゃない?じゃあ...。





「——聞きたいことがある。アリスは点字を知ってるのか?」






「...前世の記憶はないの。さっき言ったでしょ」





「点字は言葉だ。向こうで君は目が見えなかったのであれば文字を読むときどうやって読んでいたんだ」





完全に泣きやんだ彼女は手を机の上に持って行き、人差し指を突き出し何もない空間をなぞる。

「こうやって...っ」


そこで彼女は気づく。点字の読み方を知っているがその言葉を知らないということに。



「やっぱり。アリスの目はこっちにきてから見えなくなったんだ」


「魔法はどんな願いでも叶えられる、僕からしたらある意味チートみたいなものだ。それで身体的なものは治せないことがおかしい」


今まで試行してきたことを思い出しながら告げる。

「でも、治せなかった」



これであっている。すべて道理にかなってる。

「原因が精神的なもの、記憶だから」




「記憶...私はそれを忘れてるのに」




「きっと心の中では憶えてるんだ。失った今でも君に影響を与え続ける」



「じゃあ、どうすればいいの」

戸惑ったような声。


それは...





転生者に記憶の有無の差が出てくるのは僕が初めての可能性が高い。実際、転生者は記憶がなくなる、と彼女が言っていた。転生の負荷でなくなる可能性、とも考えたのだが、では僕の存在はなんなのか。


何か、転生者を区別するものは。



賜物ギフト



確か僕の『賜物』は『破壊』だったはずだ。しかし、消されたはずの記憶があるということは、名前の通りの能力であれば矛盾する。消されたその事象ごと破壊した?いや、そんな大層なものだったら最高だが...。




記憶が消されたと思ってたが違う可能性。

記憶は消されたのではなく、封印されたのであれば。


その封印を解けば記憶は蘇る?



「なぁ、賜物の使い方って知ってるか?」


「願えば...使える」


そうか、なら。




ここで僕は重大なことに気づいた。彼女の目が見えなくなった原因は精神的なもののはずだ。なら、その原因を蘇らせたら...



——目だけでは済まない可能性がある。







「なぁ、目が見えるようになればいいんだよな」


「私は...世界を、見たい」


「アリスが思ってるほど、綺麗な世界ではないかもしれない」


そうだ、仮に目が見えたとして、この選択が余計に彼女を苦しませるかもしれない。


「それでも、この、8年間は無駄だと、思いたく、ない。どんな代償でもいい。この世界に転移させられた時からの願い、だから。私たちの、9年間の願い...だから」


別に全てを消す必要はない。その原因だけを消せばいい。『賜物』は願うだけでコントロールできるらしい。ならそう難しくないはずだ。


僕はアリスの額に手を当てる。こうした方が能力をうまく使える気がしたからだ。そして願う。



彼女の目が見えなくなった原因である記憶のみを探り当て消す。

『破壊せよ』



彼女から何かが流れ込んでくる。これは記憶?

それが身体の中でのたうち回る感覚がした。言葉では説明できない痛みが襲う。全身の痛みは熱さに変換された。いや、違う。これは本物の炎の熱さだ。


「っ」


意識が朦朧とし、僕はアリスにあおり被さるように倒れた。

炎の中で熱せられ続け目は開いているのに暗闇しか見えない。目が見えない。


僕はそこで意識を手放した。



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