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EO -解放せし機械、その心は人のままに-  作者: 臣樹 卯問
第四幕 露顕と秘匿の攻防
75/164

4-18 豪腕、唸る

 -西暦2079年7月12日14時55分-


『揚陸したEOの集団を発見、だけど数が合いません。近江副長、報告にあった揚陸艇は全部片付けたんですよね?』


 郁朗の疑問ももっともなのだが、哨戒に出た彼がEOの集団を発見した時点で、警察局から報告のあた揚陸艇は水名神によって全て撃沈されている。


『警察局の報告に嘘が無ければ、という前提になりますが……こちらで沈めた揚陸艇の数が五十六隻です。ただし、随伴しているというクルーザータイプの武装艇の行方は杳として知れません。武装艇は今の所捨て置くとしても、揚陸艇の数に関しては警察局も我々に嘘をつくメリットは無いでしょう。信じていい数字と思いますがね』


『でも僕の目の前にいるEOの集団は、目測で百五十体いるかどうかって所です。少なすぎませんか?』


『確かに数が合いませんね……揚陸艇の特攻が二波に分かれていた事に何か関係があるかも知れません。ただ協力してくれている河岸警備の人員達からは、藤代君のいるエリア以外への揚陸の報告は上がっていません』


『別ルートでの浸透が有り得ると?』


『そう考えていいでしょう。幸い、施設の守りは今の所は強固なものです。まずはそちらの集団を片付けるのが賢明でしょうね。一人で問題は無いですか? 状況によっては火力支援も――』


 珍しく近江が積極的な攻勢を訴え出るが、水名神の火力はどれを取っても百五十のEOを相手にするには過剰なものだ。

 未使用の火器類のテストを終わらせて、懸念材料は全て炙り出してしまいたいという彼の心情は透けて見えるし理解も出来る。

 だが巡航ミサイル撃ち込まれでもすれば、この一帯には瓦礫の山が積み上がる事になるだろう。

 さすがにそれは止めなければ、そう郁朗は苦笑いの心情と共に苦言を呈する。


『近江副長、戦闘になる場所は一般の施設も近いですから遠慮して下さい。たかだか百五十のEOに水名神の火力は過剰なのにも程がありますから』


『それは失礼しましたね。では藤代君のお手並みを拝見という事にしましょうか』


『見せる程の物でも無いんですけどね、片付き次第報告します……その……僕が戦闘中は双子の事を……』


 郁朗が何か言い辛そうにしている事に気づき、近江が言葉を引き継ぐ。


『こちらで面倒を見ますので安心して下さい。我々がどれだけの数の困った新兵を叩き上げてきたと思ってるんですか? そんな小さい心配は我々に任せて、君は君の仕事を存分に』


『参ったな……じゃあ、すいませんけどお任せしますね』


 懸念材料を言わずとも理解してくれた、そんな近江の感性はやはり自分と近いものがあるのだろう。

 ならば安心して双子を任せても構わない。


 そう考えた郁朗は通信を切り、それを受けた近江は即座に双子へ連絡を入れる。


『聞いていましたね? 君達二人は現時刻から藤代君の手が空くまで、私達の管理下に入って貰います。宜しいですね?』


「「はーい」」


『随分と緩い教育をされてますねぇ……まぁいいでしょう。藤代君の発見した敵EOはおよそ半数。五十は揚陸艇と共に沈んだとしても、あと百近いEOがどこから来るのか――』


「はいはい! 近江のじいち……副長さん、ボクどこから来るか判ったかも」


 危うくじいちゃんといいかけた勝太であったが、郁朗に演習場の天井に撃ち込まれた事を思い出して踏み止まった。


「うそん、勝のクセに生意気やわ」


『……話してみなさい』


「タマキ君のとこは地下やん? 団長さんのとこは空やったやん? うちらのとこは」


『河ですね。そんな判りきった事を今更――』


 勿体つけた結果がその程度ですかと言わんばかりの近江の態度に、勝太は少しばかりカチンときた様で、彼の言葉を食いながら話を続けた。


「決めつけアカン! あんな? 河言うても別に船だけが進める訳ちゃうやん? 泳いだり潜ったり出来るで?」


『いやいや、ちょっと待って下さい。EOは水中での行動を想定されてはいませんよ? 設計基を見てもそれは――』


「判ってへんなぁ……ボクらの学校の爺ちゃん先生が言うてたで? 人驚かそう思たら誰も思わん事をやれて。なぁ? 景?」


「そういえばそんな事も言うてたな。爺ちゃん先生にはよう驚かされたもんなぁ。養護施設(ガッコ)の庭の池から、先生がいきなり飛び出して来た時にはびっくりしたもんなぁ」


「わざわざ酸素ボンベ持ち込んでまでボクら驚かそうてあの根性は凄いと思うで、芸人根性いうやつなんかなぁ?」


『…………少し待って下さい』


「「??」」


 彼等の言葉に思い当たる節があったのだろう。

 近江は双子を放置して何かを確認している様だ。

 一分経たない内に通信は再開される。


『……君達は軍人としては合格点は出せませんが、なかなかいい発想をしていますね。お手柄ですよ』


「「なにがですのん?」」


『想定行動範囲外という事で、沈めた船にまでは目がいきませんでした。数艇から位置信号が発振されている事の確認が取れました。どうやらビーコンになっている様ですね』


「ビーコンて」


「なんなん?」


『誘導信号を発している機械と思って下さい。どういう形でかは判りませんが、恐らく辻弟の言う通り河の中を来るのでしょう』


「勝、やるやん……」


「当たり前やん? 今日も才能が迸ってるで!」


『調子に乗らない。まぁそんな訳ですので、今回は相手の思惑を逆手に取ろうと思います。君達二人にはその矢面に立って貰うとしましょう』


「「え~……なんかめんどそう」」


『……返事は?』


「「りょ、了解しました!」」


 双子は郁朗と似た空気を持つ近江が、酷く苦手であった。





 勝太が敵浸透の思惑を看破してから十分程経過頃だろうか。

 環状大河のとある地点へ、緩やかな流れに乗って辿り着く何かがあった。

 フィルムに包まれ突然浮き上がったそれは、備え付けられた小型のスクリューで河岸へ近づいてくる。


 河川敷の広場の程近く、浅くなった川底に底面を擦り始めた頃……その内部にぽつんと光が灯った。

 フィルムは破られ、中からは黒い身体を持つ者が立ち上がる。

 小さな駆動音と共に移動を開始したそれは、河岸の湿った地面をその重たい身体で荒らしていく。


 上陸を果たしたその者達の数が五十体を超えたタイミングに合わせ、事を起こす為の声が彼等に届いた。


『いいでしょう、発砲して下さい』


 同時に河のせせらぎと黒い者の駆動音しか聞こえなかった河岸に、日常では遭遇し得ない爆音が響く。


 ヴィィィィィィィィィィィ!!


 モーター音と共に吐き出された大量の弾頭は、黒い者・EOの身体に動作不能になる程の穴をこしらえたのである。

 

「……堪忍な……ボクらもこれが仕事やから」


「ゴメンやけど……ボクらもまだ死ぬ訳にはいかんから」


 ビーコンに誘われ流れ着いたEO達を、河川敷の土手の上から攻撃しているのは双子であった。


 ビーコンの発見により、敵側の静的な浸透を読んだ近江が作戦を立案。

 水名神に搭載されている無線操縦型の超小型作業潜航艇を用い、河底に沈んでいた揚陸艇の残骸を移動。

 火線の構築が可能かつ、双子の特性(・・)を利用できる開けた地点に上陸してくるEOを誘導し、戦闘による実害の発生しない場で殲滅するという狙いである。


 幸いな事に流れ着くEOの数は断続的であり、初撃以外は数体のEOを相手にするだけでいい状況が作られている。

 初陣である双子にとっては丁度良い敵の数と言えるだろう。


「なぁなぁ、景。どうする? イクローさんにはあれ(・・)使えって言われてるけど」


「使わんかったら何されるか判らんからなぁ……やっとこか!」


「ほな、こいつら片付いたら……よっしゃ!」


 相対していた一団への掃射を終えると、双子は郁朗の指示に従って特性を発動させる為の準備を行った。


 双子は背中にマウントされている71式改の弾倉を、空いている左肩のマウントへと移す。

 本来ならば駆動バランスを著しく損なう行為であり、まともに機動しようと考えるのであればやらない事だ。

 だが彼等がこれからやろうとしている事を考えると、これが正解だと言える。

 二人はそのまま背中合わせになると、特性を発動させる為の音声コードを高々と叫んだ。



「いくで、景! ギガント!」


「アジャスト!」



 双子の身体にあって、郁朗達の身体には存在しないパーツやギミックが存在する。

 彼等の背中や肘、臀部等十数ヶ所に存在するコネクターの様な物。

 そして装甲各所を分割するかにも見えるスリット。

 それらは彼等の特性運用上で必須と呼べる物だった。


 背中合わせになった二人をそのパーツががっちりと接続。

 何箇所かのコネクターからは固定する為のジョイントも現れ、その繋がりをより強固なものとしている。

 接続された部分から、互いの循環液が交換する様に彼等の身体を巡り始めた。



 ギガントアジャスト。



 元々、双子達個人の持つ機体特性は面白味の無いものである。

 景太が筋力増強、勝太がモーターコントロール。

 既出の特性であり、性能自体も片山やアキラを劣化させたものに過ぎなかった。


 だが技術班の一人が彼等が双子である事に着目。

 一機での性能が劣るのであれば、二機を一機にしてしまえば……という発想に至る。


 彼等は一卵性であった為、遺伝情報はほぼ合致する。

 数回の循環液交換テストの結果、互いの循環液で身体を動かす事に問題が無い事が判明し、このギミックが急遽組み入れられた。

 双子のアジトへの合流が遅れた背景がまさにこれだったのである。


『合体はロマン』


 山中はうわ言の様にそう言うと、嬉々としてこのプロジェクトに参加。

 手持ちの作業を大幅に遅らせてしまい、水名神の進水式に出席出来なくなるという一幕もあったそうだ。


「アイハブ!」


 勝太がそう叫ぶと、肉体操作の主導権は彼に移る。

 景太の各関節部分のと装甲のスリットのロックが外され、分割された装甲とアクチュエーターが勝太の身体の表面を覆う様に変形していく。

 彼の生体アクチュエーターは彼の制御を離れ、勝太の駆動を助ける為の物に変わるのだ。


「どない? いける?」


「問題無い、いけるいける。ほな、やったろか!」


 景太の問いに違和感が無いと応えると、勝太は両前腕に装備された71式改を上陸しつつあるEOへ向ける。

 左右合わせて合計四門の砲身となった暴威を携え、ローダーシステムのモーターをフル稼働させた。


 ローダーで移動しつつ、両腕装備の71式改で射撃をする。

 隊内でこれを可能とするのは、双子の登場までは片山とフルドライブを使った郁朗くらいであった。

 彼等ですら跳ねる銃身の制御に手を焼かされ、実戦ではとても使えないと判断したのだが、ギガントアジャストを使った双子はそれを楽にこなしている。


 アキラ程の精度では無いものの、勝太のモーターコントロール技術は捨てる程では無い。

 そして二体分の生体アクチュエーターの筋力は、二挺の71式改に振り回されないだけの安定性を供給していた。


 ヴァァァァァァァァァァァァ!!


 移動しながらとは思えない集弾効率で敵EOを薙ぎ払っていく。

 勝太のモーターコントロールと、重量物をものともしない景太の筋力増強。

 それらが重なる事で銃身の重さにも反動にも振り回される事無く、緻密なコントロールを以って目標へと正確な射撃が行えるのである。

 その証拠としてフィルムを破り姿を見せた側からEOが、出てくるそばから蜂の巣にされ破壊されていった。


「ユーハブ!」


 砲撃しなが直進して河岸近くまでの接敵すると、勝太が71式改とマガジンパックをパージしてそう叫ぶ。

 そして景太の頭部が敵側へと向くように振り向いた。


「アイハブ!」


 コントロールの移譲を了承した景太が本体になり、先程と同じく勝太の身体が彼の身体を覆っていく。


「どない?」


 勝太が景太に尋ねると、


「うん、問題無いで」


 彼は腕をブンブンと振りながらそう応えた。

 景太は訓練の時を思い出し、身体の隅々まで動かしていく。


 訓練時にこの状態となった彼をどうにか止められたのは、そういう力任せの手合いを技術でやり込めるアキラだけであった。

 フルドライブやブラッドドラフト等の特殊駆動を使えば話は変わってくるのだろう。

 だが片山ですらあっさりと吹き飛ばされたそのパワーは、振るわれる側にとっては殴られるなどという生易しいものでは済まないだけの威力を持っている。


「どりゃさ!」


 ぶうん、と風の巻く音を立ててEOへ向かった双子の腕がその頭部を捉えた。

 直撃を受けたその部分は基幹装甲があるにも関わらずはじけ飛び、中身の脳漿を散らす。


「「うわぁ」」


 双子は不快である事を声を出して訴えるが、攻撃するその手を休める事はしない。

 ローダーユニットのキャリアーから片手棍の様な物を取り出し、上陸を目論むEOを言葉通りに水際で排除していく。

 

 ゴッ!


 また一体のEOが右腰から下を吹き飛ばされて歩行出来なくなった。


 両腕に一本づつ握られた片手棍は、勿論殴打する為の武器として用意された物だ。

 原始的な装備ではある。

 だが均質炭素鋼で製造されたそれは固く粘り強い特性を持ち、景太の力で全力殴打して曲がる事はあっても折れる事は無い。

 持ち手を握ると手の甲全体がロックされ、規格外の力によるすっぽ抜けを避けると同時に、その手首への負担を軽減する。


「景、後ろや!」


 後方の視界確保と微細なコントロール補正に専念している勝太が声を上げる。

 視神経の共有は神経回路への負荷が高過ぎる為に不可能であったが、こうして後方から声をかける事で彼等は三百六十度の視界を確保していた。


「あいあいー!」


 ローダーのモーターを左右の足で逆に回転させる。

 その場で超信地旋回、つまり回転しながらEO達への殴打を継続する

 その旋風に巻き込まれたEO達の欠損部位の増加はとどまる所を知らない。


 そうして双子は順調に上陸しようとするEOの破壊に邁進し、最後の一体を仕留めた後には、河川敷のそこかしこにEOのパーツが飛び散っているという惨状だけが残ったのである。


「これで最後かなぁ」


「副長さん、動いてるEOはもうおらへんで?」


『お疲れ様でした。頑張り過ぎですと言いたい所ですが、EOの戦闘というのはこういうものなのでしょうね。いやいや、見事な物です』


「「ふへへへへへ」」


 苦手な近江に褒められたのが嬉しかったのか、双子はだらしない笑い声を漏らしながら喜んでいる。


『喜ぶのはまだ早いですよ。もうしばらく警戒は続けて下さい。早い流れに乗りそこねたEOが現れるかもしれませんからね』


「「はーい」」


 またその返事ですか、と近江は思ったのだが、調子良さ気に身体を動かしている彼等を見ると口にするのをやめた。

 周辺へのレーダーとソナーによる警戒を更に強め、不測の事態への対応に備える。


「藤代君の方はどうなっているのでしょうね」





(これは……そういう事なんだろうね)


 郁朗の姿はアンテナ施設からそれなりに離れた、環状大河のとある突堤にあった。

 そこは河川輸送の集積地でもあった為、大量に置かれていた小型のコンテナの影に身を潜めて発見された武装艇の様子を窺っている。

 船は突堤から五十メートル程離れた位置で流される事無く鎮座しており、恐らくは錨で固定されているのだろう。

 複数のアンテナが張り出した目標物のキャビンを見ると、郁朗はそれがEOをコントロールする為の物であると即断した。



 上陸浸透していたEOをあっさりと片付けた郁朗は、遠巻きにその様子を覗いていた警察局の人間達に情報の共有を呼びかけられる。

 自身の異形に物怖じしない彼等の使命感に好感を持った郁朗は、迷う事無くそれに応じた。

 彼等の持っている最新の情報として、例のクルーザータイプの武装艇の行方の話が上がる。


 警察局は位置を掴んだと同時に、河岸警備艇での遠巻きの包囲を始めていた。

 だが装備されている兵装の火力が段違いである為、手が出せずに困っているとの事を伝えられる。

 郁朗は彼等に無駄な被害を出さない様に言い含めて包囲に専念させると、自らは強襲をかけるべく現地へ走った。


 報告のあった位置に武装艇を発見した郁朗は、どの様に強襲をかけるかで少しだけ思案した。

 武装艇と突堤の中間にあたる場所に作業用の浮島が一つあるのを発見すると、それを利用する事で突入を決定する。

 フルドライブを発動、高速移動の勢いを使い突堤から浮島へ、浮島から武装艇へ飛んでみせたのだ。


 郁朗が着地した衝撃で武装艇は大きくその船体を揺らす。

 船の各所に武装としてあった71式の本体基部を全て握り潰す事で無力化し、周辺の安全を確保する事でまずは一息ついた。


 破壊活動を行いこれだけ大きく騒ぎを起こしているにも関わらず、船内から誰一人として船外へは出てこない。


(何が出てくるか判らないけど、開けてびっくりってやつになるのかな?)

 

 そう思いながら、郁朗はキャビンのドアに手を掛け中へと侵入を開始した。

お読み頂きありがとうございました。

引き続きご愛顧頂けると嬉しく思います。

それではまた次回お会いしましょう。


2016.06.14 改稿版に差し替え

第五幕以降は改稿が済み次第、幕単位で投稿します。

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