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EO -解放せし機械、その心は人のままに-  作者: 臣樹 卯問
第一幕 逃れられない檻の中から
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1-5 逃れられない檻の中から

 -西暦2078年11月24日17時25分-


 彼から告げられた事態に郁朗は再び言葉を失っていた。


「いいか? これはフィクションでもなんでもない話だ。俺がまだ前の職場にいた頃に同僚に聞いた話なんだがな。そいつが愚痴るには海軍に潜水()は一隻も無いんだとさ。今年もまた艦は配備されなかった、高速移動用と作業用の潜水艇で何を守れって言うんだ、ってな」


「…………」


「その話からまだ一年も経ってない。なのにあれだけの数が秘密裏に建造されて配備されつつあるんだ。侵攻でもしない限り無用の長物だろうさ。ああ、言い忘れてた訳じゃないが俺は元極東陸軍の軍人だ」


(侵攻なんてあり得るのか……? 逆にこの人達がそういう立場なんじゃないのか? テロリストとか……それになんで僕なんだ? ああっ、もう訳が判らない!)


「……そんな大事に僕みたいなただの一般市民が巻き込まれて何が出来るって言うんです!? せいぜい簡単に殺されるのがオチですよ!? 大体なんで僕なんです? 戦争するんだったら……その人みたいな軍人くずれでも改造した方がよっぽど役に立ったんじゃないんですか!?」


 突拍子の無さ過ぎる話が続けられたので郁朗は軽いパニックを起こしたのだろう。

 静かに語る彼女達に対して、酷くヒステリックな物言いをしてしまった。


「アナタでなければいけない理由はちゃんとあるわ」


 千豊が宥める様に郁朗に答えた。


「アナタの遺伝情報が私達の改良したEOに適合したの。理由はそれだけ。だけどそれが一番重要なファクター」


 彼女は反応を見せない郁朗を畳み掛けて説明を続ける


「私達の支援者から機構の研究施設から盗んだEOのアーキテクトが届けられたわ。何人もの支援者が犠牲になって届けてくれた貴重な情報だった……本来EOへの転化手術には遺伝子改造の項目は無いの。元々そういう作りでは無いから。でも相手と同じシステムで戦っても数で劣る私達に勝ち目は無かったわ。質を上げるしか無かった……改良に成功した動力システムには人の遺伝子が必要だったの」


「俺が一人目の被験者だったって訳だ。たまたまなのか必然なのか判らんが成功しちまってな。兄さん、あんたはまだ冷静なもんさ。俺はパニックこそ起こさないで済んだ。だがよ、一週間くらいはこちらのマッドな姐さんが姿を見せる度に……殺すだの元に戻せだの喚き散らしたもんだ」


 元軍人の彼が胸をゴツゴツ叩きながら自らに呆れた風に軽口を叩く。


「たまたま成功って……失敗した例もあるって言うんですか?」


「ええ、そうよ。アナタの前に二人の被験者がいたけど目覚めないままでいるわ」


「その人達はどうなるんです……?」


「このまま目覚めないのであれば……彼等には申し訳無いけど、事態の収拾がつくまでの間、私達の用意した保護施設でそのまま眠って貰う事になるわ」


「な……」


「それでも収拾がついた後には……直ぐにでも元の身体に戻せる環境の用意はしてあるの」


「じゃあ……僕の身体も今すぐ元に戻してもらえませんか?」


 彼等としては郁朗のその要請は予想していた反応なのだろう。

 千豊からすぐに返ってきた返答は非情な物だった。


「それは……できないわ。アナタが姿を消してからもう二ヶ月が過ぎているの。アナタの動向が調査されれば間違いなく私達の計画は潰される。それを避けるためにはアナタを状況が終了するまで拘束しなければならないの。その間……アナタは意識を奪われ保護施設で置物のようにされるのよ?」


「二ヶ月って……そんなに時間が経ってるんですか……?」


「ええ、あれからそれだけの時間が経過しているの。運良くアナタは呼び掛けに応えて覚醒してくれた。でも保護施設で眠る事になれば次はいつ覚醒する事になるか判らないわ」


「判らないとは?」


「内戦が始まるのよ? 最悪の形になればどの勢力が勝ちを拾って誰が生き残るのかも判らない状況になるわ。私達が負ければあなたはそのまま。仮に勝ったとしても……アナタが目を覚ました時に、どんな状況になっているかも判らない」


「…………」


「それがどんな未来でも……アナタは後悔しないでいられる?」


 そんな見えない未来の話はもとより、既に二ヶ月が経過しているという事実は郁朗を打ちのめす。

 そのせいだけでは無いだろうが、彼は千豊の言葉にどう反応していいのか判らなかった。

 錯綜する現実を反芻しながら……生徒達の大会はどうなったのだろうか、その事がふと脳裏によぎる。


「後悔って……」


 と、郁朗がハッとして何かに気づいた。


「待って下さい。あなた達がいずれ戦う事になる……そのEOってヤツへの対抗策として僕は改造されたんですよね?」


「そうよ」


「相手のEOも人じゃないんですか? 僕に人殺しをしろって言うんですか!?」


「兄さん、やっぱりあんたは……優しい人なんだな。自分が死ぬ事への嫌悪感よりも、他人を殺す嫌悪感が先に来るんだからな……ああ、そうだとも。あんたに戦場に立てって事はそういう事だ」


「そんな評価は必要ありませんよ! 何でそんな簡単に同じ境遇の人間を殺せと言えるんですッ!」


「……あちらさんのEOは一度転化されちまうとな、思考能力なんざ無くなるんだ。解かるか? 脳移植と同時に記憶をまっさらにしちまうんだ」


「催眠や洗脳なんて生易しいものじゃないわ。完全にリセットして生体CPUや生体メモリと呼べる物に変えてしまうのよ。あくまで現時点の仕様でって事になるけれど……それでもアナタはそれを人と呼べるの?」


「……人と呼べるかどうかを決めるのはあなた達じゃない、僕だ」


「そりゃあそうだ。だがな、誰かが止めない限りはだ、兄さん。あんたの身内だってどうなるか判らんぞ?」


「だからって僕が誰かを殺す理由にはならないでしょう? その方がよっぽどさっき言った後悔をしそ……ちょっと待って……身内がってまさか……」


 郁朗の声に焦燥の色が見えた。

 思いがけず飛び出した身内という単語は、彼にある予測をもたらした。


 そんな郁朗を見た千豊は溜息を一つつくと、白衣の胸のポケットに入れていた小さな記録媒体を取り出す。

 大型のプレートモニターに差し込まれたそれから読み出されていく情報。


 郁朗のカメラアイからは極厚のガラスによる屈折の関係で読み取れないが、モニターには文字情報が大量に羅列されていた。

 彼女がその内の一つを呼び出すと、それは恐らく人物の情報なのだろう。

 顔写真と経歴などの情報が表示された。

 だが……その顔写真を見て郁朗は絶句する。


「このデータはアーキテクトと一緒に機構の本部から持ちだされた物よ。第八次転化計画の被験者候補に名前があるわね。藤代恭子さん、アナタのいもう――」


 千豊の冷淡とも取れるその声を郁朗の絶叫が遮った。


「……ッ! 嘘だッ! どうせあんた等の作ったデタラメなデータなんだろッ!?」」


「……信じるかどうか、それこそアナタが判断する事よ? ただこのデータを見せた意味を考えて頂戴……」


「……クソッ! なんだって恭子まで巻き込まれなきゃいけないんだッ! 何でなんだッ!」


「その件に関しちゃ俺達に矛先を向けられたって困るぜ? とりあえず落ち着けや、な? どういう状況かちゃんと話してやるからよ」


「チッ……」


 今の郁朗には身体が無い。

 何かに八つ当たろうにも動かす身体すら無いのだ。

 湧き上がった怒りのやり場を見つける事が出来ず、舌打ちする事でしか彼に返答する事が出来なかった。

 この様に理不尽に身体を弄られても、どうにか持ち直して普段の柔らかさで対話に応じてきた彼の心が……ギシギシと軋む音を上げながら折れようとしていたのである。


「……来年の夏の終わりぐらいになるだろうがな、機構は政府を使ってまず一般層の二十代の健康な者をまとめて徴兵する気だ。軍に人員を管理させてそこから段階的に転化手術を進めて戦力を増強していこうってハラらしい」


「そんな法案が通ると思ってるんですか!? 有権者がそれを許す訳が無いでしょう!」


「通るさ。議会を通ってさえしまえば有権者なんぞ関係無いんだ。徴兵、そしてそれに反対する人間への徹底した罰則、警察局を解体して軍に統合して警察権を移譲、これが全部セットになってる法案なんだぞ? 通してしまえばもう誰も逆らえん」


「ッ…………」


「それにな……俺は"まず"って言ったよな? そういう事なんだよ」


(まず……? 二十代をまずって……)


 彼の言葉の意味を理解し、カチリと何かが噛み合った時。

 郁朗の脳裏には……楽しそうに笑う坂口や他の生徒達の顔が浮かんだ。


「嘘だ……もう勘弁してくれ……勘弁してくれッ!」


 郁朗がその考えに至って半狂乱になりかけた時、千豊が大声で制した。


「落ち着いて! アナタをそうした私達が言えた事じゃないのは判ってるわ! とにかく話を聞いて!」


 どこか掴み所の無かった彼女の……そんな感情の乗ったそんな声を聞いて、郁朗は呆気にとられてつい黙ってしまった。

 千豊は真摯な眼差しで郁朗の双眸を見つめ語りかける。


「機構と軍はそうしてEOの量産を軌道に乗せた後に、十三歳以上の学生の徴兵も開始するつもりらしいわ。彼らは若くて幼い世代の伝達速度が早い脳神経を欲しているの。それを手にする事でより性能の高いEOを生み出す気と考えていい」


「そんな事が許され――」


「ええ、許される所業じゃないわ。そしてそれを決めた連中は……自分と自分に親しい人間だけで、人の身体のまま生きていこうとしているのよ? アナタはこれを許せて?」


「迫ってくる何かから国土や市民を護る為に学生を徴兵するってんならよ、判らなくも無いんだ。そこまで切羽詰まる何かがあるんならな? だが……今回の件はどう考えてもスジが通らねぇ。そうは思わねぇか?」


「…………」


「アナタの人生をこんな形で踏み躙った事は謝罪します。本当にごめんなさい……でもアナタの妹さんや生徒さん達がそうならない為にも私達に力を貸して頂戴。こんな理不尽に誰かの血を流す事が必要以上に続けられない様に……脅迫と取られたっていいわ、それだけの事をしているんだもの。全てが終わったらアナタの身体を元に戻すと私が誓う。その後にアナタに殺されても構わない。だからお願い……」


 少し疲れた顔をした彼女はそれ以降口を噤んだ。

 それは郁朗を説得する事に疲れているのでは無く……目の前の不条理に対し少ない対応策で立ち向かわねばならない事から生まれた、そんな心の疲弊の様なものが郁朗には見えた。


「こんな感情的な姐さん見るのは俺も初めてなんだがな、彼女には彼女なりの戦う理由があるんだと思う。中身まで聞かされて無いんで、細かくは知らんがね。勿論……俺にだってある。兄さんよ、あんたにだってもう出来たはずだ。知ってしまったんだからな」


 郁朗は先程激昂した事を思い出し、バツが悪そうに憮然とした声で答える。


「だからって僕に人が殺せると思いますか……?」


「連れてきておいてなんだがな、それは兄さんが自分で覚悟を決めるしかねぇよ。俺には何もいう資格は無い」


「随分勝手なんですね?」


「そうだな、否定は出来無いってのが辛いところだ」


「…………政治的な解決というのはもう無理な段階なんでしょうね……」


「そうだったら兄さんは今頃まだ学校の先生やってるぜ。機構をここまでの組織に育てちまったのは俺達有権者なんだろう。だがな、民主政治の責任の所在だなんだはこの地下都市じゃもう意味を成してない」


「何故です?」


「市民の存在が完全に無視されているからだ。それについての討論を続ける時間も、もう残されて無い。このまま禁忌に怯えて手を出さなかったら……兄さんの家族や生徒達が俺達以上の地獄を見る事になるぞ? さっきも言ったがEOのアーキテクトには遺伝子改造の項目は無くても、記憶洗浄の項目は用意されてるんだからな?」


 郁朗の感性からも彼女達の言ってる事は正しく感じた。

 情報が正確であるという大前提はあるが、正論である事に相違無いのだろう。

 自身だけでなく妹、更には可愛がっていた生徒達まで同じ境遇に晒される事を思考するも、想像出来た光景は身の毛のよだつものでしかなかった。


(でも僕が何もしなくても……事態は好転するかもしれないじゃないか……)


 彼の人間性が禁忌に走る事を拒む。

 これもまた、人としては正しい姿なのだろう。

 だがズルズルと泥沼の戦いにまでなれば……先程想像した状況よりももっと酷い事態に追い込まれるの事は容易に想像出来た。

 自分の知らない誰かの人生を奪ってでも、身内を護る価値は……ある。


(何が人間っていうのは業の深い生物だと思うよ、だ……ハハッ、笑えてくるじゃないか)


 エゴイズムと理解しながら、結局は何かを天秤にかける様な結論しか出せない自身の業を、郁朗は笑った。


(結局は……知らない十万人より身近な百人が大事ってやつ……なんだろうな……)


 あと少しだけでいい……後押しが欲しいと郁朗は自身の心を手繰る。


 仮に自身が動いたとして、何人が犠牲になった段階で事態に影響を与える事が出来るだろうか?

 力を行使出来るのならば、他人を殺すタブーを越えてでも即刻使うべきではないか?


 そんな結論が浮かび始めた時、一つの確認すべき疑念も共に浮かぶ。

 彼らが自分の主張を正義と盲信している狂った殉教者なのかも知れない……そんな可能性が存在する以上、このまま素直に力は貸してはいけないのだろうと郁朗は思ったのだ。


「……だからってあなた達のやってる事が正義とは思えない。少なくない血を流して自分達が正義だなんて言い分は通りませんよ?」


「いつ俺達のやってる事が正義である、なんて言ったよ? 俺もこの姐さんも自分の為に戦っちゃあいるが、自分達のやってる事が絶対正義だなんて思っちゃいねぇよ。ただこの国が真っ直ぐ……正しく歩いていける様に出来ると信じてやってはいるがな」


(そうだ……確かにこの人達は自分達が正義であるとは一言も言わなかった)


 業に塗れながら生きる……そんな覚悟の上で彼女達が戦おうとしている事は、郁朗の心を少しだけ後押しした。

 微動だにせずこちらの目を見つめてくる彼のその態度に……嘘は無いと思える。


「あなたがそんな身体になってまで戦う理由は何なんですか?」


 半ば心を決めた郁朗は、今のこのやりとりの流れに……自分のこれからの行末を委ねようと思った。


「この身体になったのは本当に成り行きでしかない。兄さんと同じでたまたま俺は適合者だった。それだけだ。ただな……俺の古巣でこんだけやっかいな事が起こってるんだ。俺の知り合いだってどんな目に遭うか判ったもんじゃない。恩人だっている。可愛がってた部下だっている。そいつらの家族だっている。そんだけの人間だけでもこの身体を使ってどうにか救ってやりたかった。そんな理由じゃダメか?」


「そのためには僕が戦って死んで犠牲になっても良いと?」


(我ながら、これは酷い意趣返しだ……)


 された事を考えれば些細な仕返しなのだろうが、彼等の弱みを抉る様な事をした事を郁朗は少しだけ後悔した。


「バカを言わんでくれ、良い訳ねぇよ。結果的に兄さんをそんな身体にする手助けをした俺に言えた義理じゃないが、済まないと思ってる。巻き込まれたはずの俺が今度は巻き込む側に回ったんだからな……それでも何十万人がこんな身体にされるよりはマシだと思えたんだ。こんな脅迫まがい……いやもう脅迫だな。そんな事をしなけりゃならんほど事態は切迫してる。この国に残されてる選択肢は本当に残り少ない」


(極東の住人全てを救うとは言わない分だけマシなんだろうな……)


 郁朗は彼の言葉をそう受け止めた。

 彼等が物事を秤にかける意味をちゃんと知っている……そんな夢見がちな理想を語るだけでは無い、どこまでも現実的な男、そして組織なのだと理解したのだ。


 それならば過酷な状況に襲われるだろう自身の身内だけでも……この戦える身体を使って、天秤の救われる側に彼等を何としても乗せなければならない。

そう郁朗は結論付けた。


「……本当に僕みたいな人間が戦って生き残る事ができるんでしょうか? ただの素人ですよ? それにいずれ元の身体に戻すと言ってましたが、そんな事が本当に出来るんですか?」


 会話の空気が変わった事を察したのか千豊と元軍人の彼の雰囲気が僅かに弛緩した。


「戦えない訳がないわ。この身体にはそれだけのスペックを用意したつもりよ。むしろ手加減を憶えないとダメなくらいだと思うわ」


 先程よりも幾分顔色を良くしながら、片山の肩をポンと叩いて千豊は言葉を続けた。


「それにね、元の身体に戻す件の算段はついているの。一度遺伝子改造されたあなたの脳細胞は元のものには戻せない。でもアナタの元の身体の遺伝子サンプルは抜け殻の肉体という形で残ってる。こちらの彼のクローン脳の生成にはもう成功しているから……遺伝情報を認証キーにした記憶転写技術も私達は持っている。事態が収拾したら必ず元の身体に戻すと誓うわ」


 すがりつける希望が増えるかもしれない事が嬉しいのか、先程の憔悴した彼女からは考えられない程に目が輝いている。


「その約束が空手形にならないという保証は……出来るんですか?」


「技術的な保証はできるわ。でも、私が施術をするという保証は残念ながら出来ないわね……私だっていつ……ただ私が死んだとしても契約という形で権利を行使出来るように取り計らうわ。契約内容もデータと書類を残す形にするし、そうすれば組織内のEOに関わった技術者が一人でもいれば問題なく施術を行えるもの」


 ここまで逃げ道を塞がれた上、元の身体に戻ろうにもその技術は彼女達頼み。

 それに郁朗自身も……出来るかどうかは別として、やらなければならない事なのだと理解している。

 これ以上協力への返答を先延ばしにするのは、互いにとって良い事では無いのだろう。


「……僕も自分の身内を助けるために血の茨の上を歩く事になるんでしょうね…………恨みますよ」


 最後の皮肉として言った郁朗の言葉を、彼は真っ向から受け止めた。


「残念ながらそういう事だな……それは否定しねぇよ。恨んでもらって構わない。それでも兄さんに助けられた人達は人間としてまっとうに生きていけるだろうよ」


 その言葉に強く頷く千豊を見て、彼等は自身も泥を被る覚悟のある者達なのだ……そう認識して信じる事にした郁朗は協力を申し出る。


「……どうせ後戻りできないなら僕は前に進みます。真偽はあなた達と行動して確かめるとしても、これだけの厄介事が身内にも降りかかろうとしてるんです。それに、元の身体に戻れるかもしれない希望もある。人を殺す覚悟なんてすぐにはできないだろうけど……僕が戦場に立つ事で家族や生徒達を救えるなら……踏みにじる誰かがいる事も抱えて、この身体で出来る事をやる事にします」


「ありがとう……今から身体の接続手術を行うわ。接続直後はまともに動けないと思うけどアナタなら馴染むまですぐだと思う」


 千豊は髪をまとめてひっつめ髪にすると、施術の準備の為に早速別室へ向かった。


「そういえばこれだけ長々と話をしていて自己紹介がまだだったな。俺は片山(片山)淳也(じゅんや)。さっきも言ったが元軍人だ。人数が揃い次第EOの部隊は俺が預かる事になる。一通りは仕込むから覚悟してくれ」


「出来なければ僕が困る事になるんでしょうね。やるって決めたんだ、なんだってやりますよ…………ところで……あの……ここって給料出るんですかね?」


 呆気に取られて一拍置いた後、片山の大きな笑い声が室内に響く。

 腹を括ったとたん平常運転になり給料を要求してきた郁朗。

 片山はその胆力に驚いたと同時に、これからの訓練が面白いものになりそうだと、更に大きな声で笑うのであった。

お読み頂きありがとうございました。

引き続きご愛顧頂けると嬉しく思います。

それではまた次回お会いしましょう。


2016.04.29 改稿版に差し替え

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