20話
確かに、私にも非があるとは思う。
ハンナが最近やたらいい笑顔で礼儀作法を一からたたきこんでくるなと思ったけど深く追求しなかった。
シェリがはしゃぎながら祝賀会用にと手渡してきたドレスがどうもものすごい裾が長くて真っ白だったことを疑わなかった。
祝賀会当日、やたらつるぴかに磨き上げられたと思ったら、やたら念入りに化粧をされて、やたら凝った髪型にされたが、久しぶりのパーティーに気合が入っているんだろうと気にしなかった。
祝賀会に送り出される直前に、シェリが感極まった様に泣きだした時にはさすがにおかしいと思ったが、問いただす時間はなかった。ハンナがあまりにも美しく微笑んでいるのを見て嫌な予感がしたが、問いただす勇気もなかった。大ホールの扉の前に陛下が立っているのを見た時には、嫌な予感は段々確信になりつつあった。
陛下は私の頭からつま先まで一通り眺めて、ちょっと笑った。低くて優しいいつもの笑い声は、私の嫌な予感を払拭してくれなかった。
何せ陛下のお召し物は私と同じ真っ白で、その手に持っていたのが、真っ赤な薔薇で美しく飾られた花冠だったのだ。
「花嫁の忘れものだぞ」
「は…なよ、め?」
「さあ、いこうか」
どこぞの花嫁さんの忘れものをなぜか頭の上に乗せられて、混乱で身動きが取れなくなった。それが私の敗因だったと言ってもいい。
我に返って制止をかける間もなく、陛下の手によって、大ホールの扉が開いていた。
―――人がいっぱいいるな、というのが正直な感想だった。扉が空いた瞬間、尋常ではない数の視線が突き刺さった。目がちかちかするほど色鮮やかなドレスに立ちすくんでいる私の手をいつの間にか握っていた陛下が、通常の3倍きりっとした表情で足を踏み出した。若干引きずられるようにして私も歩きだす。
数えるのも馬鹿らしくなりそうな人数が、アホほど広いはずの大ホールに所狭しと並んでいた。お姉様もフランツさんも、プレスコット公爵令嬢も、その隣に恐らく放蕩ロマンチストであろう男もいた。我が愛しのお兄様が、私たちの小さな妹とご自分の男の子を抱き抱えてにこにこ笑っているのも見えた。お兄様のお隣では、敬愛する母上様と父上様が、わが世の春とばかりに目をキラキラさせていた。
いつの間にか辿りついていた神官長の目の前で呆けていると、いつの間にか陛下が顔を覗き込んできていた。ちょっと困ったような顔をしている。
「誓ってくれ、私の花嫁」
ワタシノハナヨメが何語かは分かりませんけど、とにかく誓えばいいんですか?そうすればこのちょっとよくわからない状況を説明してくださいますか?国王陛下の完全復活と戦争の勝利の祝賀会かと思ってのこのこやってきた小娘が、神官長の目の前で真っ白いドレス着て真っ白い服着た国王陛下と向かい合って手を取られているこの状況を、誰か説明して下さるんですよね?
「…誓います」
歓声が、さざ波のように広がったような気がした。
嬉しそうに笑った陛下の唇と、未だに呆けている私の唇が、その瞬間確かに重なった。
後ろでとうとう爆発した歓声をぼんやり聞きながら、私はようやく、事態を飲み込んだ。
―――――どうも私は、たった今、結婚というものを経験したようである。
恋が叶おうが何しようが通常運転なのです。
次話で本編は終了となります。




