やや不安、のち不安
山口さんと呼ばれた女の子に連れられ、光は職員室を目指していた。
歩いて少し冷静に考えていくうちに、高成に悪いことをしたなと思い始めていた。
考えてみれば彼は中学生なのだ。
自分を高校に送り届けた後、きっと急いで中学校に向かって行ったに違いない。
よくよく考えれば自分のせいで間違いなく彼は遅刻したのだ。
高成の態度に刺があってもおかしくない。
謝るべきか、謝らないべきか考えているうちに声をかけられた。
「ちょっと、そっちじゃないよ。」
見ると案内をしてくれていたはずの山口さんが右の通路の方にいた。
「あっ、ごめんなさい。」
せっかく案内をしてもらっているのにと申し訳なく謝る。
「いいわよ。ねぇ、名前は?」
「え?あ、真山光です。ヒカリと書いてヒカルと言います。」
「ふーん。男か女かイマイチ分かりずらいな。うちの名前は山口晶、よろしく。」
「よろしく。あなたの名前も男か女か分かりにくい名前ね。」
「んー、まぁ最初だけだから。」
光は初対面なのに気さくで話しやすい彼女に少し好感を抱いた。
(さっぱりしていそうな性格の子だな。)
「同じ1年生だったら、同じクラスになるかもね。」
「えっ、なんで1年って分かるの。」
「スニーカーのラインの色だよ。学年ごとに色分けされてんの。うちらは赤、2年生が青で3年生が黒。」
「へ~。」
「はい、ここが職員室。」
「ありがとう、わざわざごめんなさい。」
「別にいいって、名簿を提出するついでだから。」
そういうと山口さんは、せんせーと言って職員室に吸い込まれていった。
(私、どうすればいいのだろう?)
「転校生の真山光か?」
職員室が入り口の前でウロウロとしていると、メガネをかけた男の人に声をかけられた。
「はい。」
「担任の波塚だ。随分遅かったな。」
「すみません。」
「あー、怒ってる訳じゃないよ。とにかくST始まってるからさっさと教室行くぞ。」
そう言ってさっさと歩く先生の後を、光は慌てて追いかけた。
階段を上がって降りて廊下を歩いて…。
(この学校、一人で歩けないよぉ。)
光にとって複雑に思える構造に、これからの学校生活にやや不安を感じる。
毎日迷いそうである。
そんなことを考えているうちに先生は1つの教室の前で足を止める。
中の様子は廊下にいても分かるくらい騒がしい。
ふと、入口の上にあるプレートを見上げれば13Hの文字があった。
(13Hって13クラスもあるのかしら?)
そんな疑問を聞こうと、先生に声をかけようと思えば怒号が聞こえる。
「うっるせーよ、おめぇら静かに待てねぇのか!時間見ろ、時間!!」
その一言でピタリと静かになる。
光は驚いて目を瞬かせた。
「んじゃ、ST始めるぞ~。」
先程の声と打って変わって気の抜ける話し方。
(この先生、怖いのか不真面目なのか分からない!)
「今日も特に連絡はなし……いや、1つだけあるぞ!」
そう言って光を手招きする。
なんとも言えない先生の締まりのない様子にため息をこぼしつつ、教室の中に足を踏み入れた。
先生はガリガリと黒板に光の名前を書きつつ説明した。
「見ての通り転校生だ。言わなくても分かっていると思うが仲良くしろ。」
ほれ、自己紹介と促され言われるがまま自己紹介をする。
「真山光です。よろしくお願いします。」
ペコリと頭をさげ、無難に挨拶をする。
その瞬間に授業のチャイムが鳴った。
「よし、以上!おめぇらしっかり授業受けろよ。」
そう言うなり、先生はスタスタと教室を出て行った。
(あれ、私の席は?)
教科書ももらってないのに…。
途方に暮れそうになったが、取り合えず辺りを見渡して空いている席へと向かった。
まともな自己紹介をしてもらえず、また自分もすることができず、光はこのクラスでやっていけるのかと不安になりつつあった。




