初めての登校
「ぐずぐずするな、置いていくぞ。」
高成はそう言い残して部屋を出ていった。
(…っむかつく~~!!)
年下の癖に生意気でバカにされた気分だ。
しかし、腹が立っていても言い返すことはしなかった。
機嫌を損ね、学校へ案内してもらえなくなってしまっては困るからである。
嗚呼、悲しいかな。
光は心底自分が方向音痴であることを恨んだ。
(後で覚えていなさい。)
心の中でそう毒づくと、鞄を手に取り階段をかけ降りる。
真新しいローファーに足を滑らせ、勢いよく玄関の扉を開けた。
「おせぇよ。」
玄関先で高成は自転車に手を置き待っていた。
乗れと言われ躊躇するが、遅れては仕方がないと渋々後ろに腰を下ろした。
「まじで遅刻しそうだから、捕まってろよ。」
言い終わらないうちに自転車は勢いよく走り出した。
スピードがでた自転車は心地よく風を切り走り抜ける。
(ああ、なんかいいかも。)
心地よい風に心が和む。
光は無意識に体重を預ければ、高成は一瞬目を向けて無言のまま自転車をこぐ。
(あー、男の子だ。)
いくら自分より小さくて生意気で少し口の悪い年下でも、腕を回している体は意外にしっかりとしていて男の子だと意識させられる。
(って、まるで私変態じゃん!!)
フルフルと頭を振って考えていたことをうち消す。
その顔はほんのり赤く、風が更に心地よく感じられた。
そのうち徐々に学校らしき建物が見えてきた。
と思えばいきなり自転車が動きを止めた。
「降りろ。」
「え?」
「まだ寝ぼけてるのか?着いたぞ。」
鼻で笑いなが告げられたことに再び先ほどの怒りがぶり返してきたが、それもそこそこに辺りを見てみた。
確かに学校である。
「あれ、いつの間に?」
「ボーとしているから、いや寝ていたから気づかなかたんだよ。ったく、人に自転車こがさしていい身分だな。」
(すっっごく嫌味な…。)
「取り合えず職員室に迷わないように案内してもらって。」
そう言われ見ると目の前には一人の女の子が。
(誰?)
「風紀委員の山口さん。じゃあ俺は自転車置いてくるからよろしくね、山口さん。」
(…?私との会話に比べて随分愛想がいいような?)
にこやかに山口さんと会話を済ませた高成は自転車を手にどこかへ行った。
きすれ違い様に耳元でこう囁いて。
「俺について余計なことは口にするなよバーカ。」
それは一体どういう意味か?
8時15分を告げるチャイム聞きながら光はいまいち理解できないと思った。
(それにしてもなんだかなぁ…。)
光の初めての登校は怒り7割、ドキドキ3割で幕を閉じた。