居候生活が始まります
「ああ、やっとついた。」
夕日を見つめ途方に暮れていた少女の瞳に安堵の色が浮かぶ。
黒い屋根に白い壁。
そして黒いドアの玄関。
そんな少しおしゃれな出で立ちに見惚れる。
(ここが今日から私がお世話になる家か…。)
少女、真山光は今日から始まる新生活を思い浮かべながら目の前の家を見つめた。
さかのぼること1ヶ月前、父親の2年間の海外赴任が決まった。
そこで父親の友人である佐伯高行の家に預けられることになった。
冒険へ出発する子どものようにドキドキと胸を高鳴らせながらインターフォンを押す。
ピンポーンと音が鳴ると家の中からバタバタと足音が聞こえた。
「光ちゃん!?」
あわただしく出迎えた中年の男性。
「こ、こんばんは高行おじさん?真山光です?」
あまりにも剣幕な様子に気圧され、全て文末が疑問形になってしまった。
高行はホッと胸を撫で下ろした様子だ。
「心配してたんだよ。予定の時間になってもなかなか来ないものだから。」
光はアハハハと乾いた笑い声を出した。
自分でも自覚するほどの方向音痴にも関わらず、迎えを断った上で5時間も遅刻したから何も言えなかったのだ。
「ここで立ち話もなんだから家のなかに入ろうか。」
光は人懐っこい笑みに誘われるように、家の中に足を踏み入れた。
家の外装が素敵なら内装もまた素敵だ。
そんなことを考えながらリビングへと足を進めた。
(この家のデザイン、スゴく私好みかも…。)
光の目は輝きウキウキとした様子に高行は微笑む。
「しばらくの間はここが光ちゃんの家だよ。ゆっくりとしてね。」
「はい!」
「じゃあ部屋に案内するね。光ちゃんの部屋は二階だよ。」
さりげなく光の荷物を持ち上げると高行は二階へと光を案内した。
「ここが光ちゃんの部屋。自由に使ってね。」
部屋は一人で使うには少し広く感じられる広さだった。
家具や生活品は一足先に光の家から運びこまれおり、すでに光の部屋として元からそこにあるようだった。
端の方に洋服が入った段ボールだけが2、3個積まれていた。
「ちなみに隣の部屋は息子の部屋だよ。隣だから入る部屋を間違えないでね。」
「息子さんがいるのですか?」
「ああ、高成て言うんだ。子供の頃に何回か会っているよ。」
光は記憶をたどるが全く思い出せなず、うーんと唸る。
そんな様子に高行は苦笑する。
「小さい頃の事だから覚えていないかもしれないね。高成はもうじき帰ってくるからすぐ会えるよ。その時は仲良くしてやってね。」
その後、高行にお風呂に入るよう勧められ光はお風呂へと向かった。
(きっとお風呂も素敵なんだろうなぁ。)
そう胸を踊らせていた光だったが、30秒後にその気分は消え失せてしまった。