未来は…
田舎からでてきたばかりの大学一年生の時僕池上竜也は命の尊さを知った。
今までぬくぬくと何不自由なく生きてきた僕には衝撃が強かった。
冷たい雨が降る秋のはじめ僕は小さな子猫を拾った。
目が開いたばかりで弱々しくミューミャーと鳴き真っ白な毛が薄く灰色に染まっていた。
「ひどいなぁ……捨てるくらいなら飼うなよ!雨の日に捨てるか?」
実は数日前にも僕は子猫を4匹拾っていたが運良くその内の3匹は里親が見つかり一人暮らししているアパートには一匹しか残っていなかった。
その一匹が今も貰い手がつかないのにも理由がある。
その子猫は真っ黒だからである。
縁起が悪いだの、真っ黒で可愛くないとか、まあ俺にとってはとっても人懐こく可愛いヤツだと思ってる。
今だに黒猫に偏見もつ人がいるんだなぁと改めて実感した。
やまとは(←猫の名前、由来は黒猫や〇との宅〇便)もう生後三、四ヵ月はある。
この位になってくるとなつきにくいなどの理由に貰い手がつきにくい。
やまとは今は遊びたい盛りであっちこっち元気良く飛んでいる。
大家さんも愛猫家なのであっさり飼うのを許可してくれた。
「しっかし小せーなぁ。やまとよりかなり小さいなぁ。死んでしまうかもな…』
「あら!竜也くんずぶ濡れじゃない!傘は?ないの?おばちゃんの貸し手あげようか?」
大家さんの奥さんだ!世話焼きが大好きらしい。
「あっ!こんにちは、おばさん!平気です。あと少しですので、失礼します!」
「あら!帰ったらちゃんと乾かしなさいよー」
走りだした僕に大家さんの声が追い掛けてきた。
『早くこのちびチャン乾かさないと…』
生きるか死ぬかこの子次第だが一先ず帰ったらキレイにしてやるつもりでいた。
『やまとはこの新入り受け付けるのだろうか…』そんな心配があったがまぁ平気だろうと軽く考えていた。「ただいまーやまとー弟つれてきたよー」
ドア開けたらやまとはもうすぐ玄関先で俺を待っていた。
子猫特有の高いかわいらしい声で
「ミュウ、ミュウ」
鳴きながら飛び付いてくる。俺は濡れた手でやまとを撫でてやり真っすぐ風呂場へ行った。
シャワーをつけ、ぬるま湯になったのを確認し洗面器にお湯を張ってチビの汚れと手っ取り早く体を暖める目的でやった。子猫を洗うのがいいのか悪いのか俺にはわからないがこの時はとっさにやった。
タオルに包みドライヤで乾かしていた時やまとは不信そうなまなざしで遠くから眺めていた。
さってっと!もう乾いたしあとはミルクあげたら一先ず安心かな?」
やまと達を拾った時普通の牛乳をあげていた俺は大家さんの奥さんに叱られた。子猫にとっては牛乳は強すぎるのだと、それでハラこわして衰弱し死んでしまうからだと…
ペットショップで子猫用の粉ミルクを見付け買っておいたのがよかった。
『残り少ないなぁ。あとで買いに行ってくるか!』
チビちゃんにミルクを作り哺乳ビンに移していたときだった、いつもならやまとは足元にまとわりついてくるのだがやけに静かだ!
後ろをむいた俺は驚いた。やまとが子猫の側に行き一生懸命に舐めてやっていた。
ミルクをあげたあと子猫はやまとと共に寝付いた。
『もう大丈夫だろう!名前何にしょう。』
しばらく眺めているとやまとが寝返りをうちお腹を上にして熟睡している。
『買い物行くか!』
買い物行く道国道反対側の斜線に猫らしきもの遺体があった。渡ろうとした時に跳ねられたのだろうか?
思わず目をそらした。
買い物を終えて帰る途中俺はフッと子猫を拾った場所を通った。
そこには小学生らしき兄弟がいた。弟は泣いていたのが気になり声をかけた。
「どうした?転んだのか?」
兄の方も今にも泣きだしそうな声で訴えてきた。
「違うよ!お兄ちゃん!ここに僕達が助けた子猫が居なくなったんだ!あのおじさんがきっと殺した!」
弟は怯えた表情でますます泣きだした。
「子猫?白い子かい?殺したって何?」
「え!?お兄ちゃん白い子猫知ってるの!」
「ああ、うちにいるよ。ミルク飲んで寝ているよ。心配するな。」
「本当?見せてよー」
ひとまず俺のアパートへ二人をつれてった。
子猫の無事を見て二人は落ち着き白い子猫の話しをしてくれた。
二人の話では公園で遊んでいたところ中年のオヤジが公園に住んでいた猫を捕まえ気絶させ道の真ん中に投げた。二人はその猫が公園で子猫を四匹産んだがカラスに食べられるなどして、あの白い子猫しか生き残っていなかったことそしてそのオヤジが子猫までも殺そうとしていたところを二人は必死に隠して連れ出したことを教えてくれた。
俺は怒りで言葉も出なかった。
猫を殺したこともそうだがこんな幼い子供の前でそんな酷いことできるなんて!その後白猫をミルクと名付けてくれたあの兄弟は今でも遊びに来るようになった。
やまととミルクは今やほとんど大きさも変わらない位になった。ミルクはやまとの姿が見えないとミャーミャーと探す。やまとを親だと思っているらしい。
あのオヤジは結局他にも犯罪を犯していたらしく捕まったと兄の方が教えてくれた。
買い物の帰りに見たあの猫の遺体はおそらくミルクの親猫のだったんだと…
猫だって生きている。おもちゃみたいに捨てたりするなんて俺には信じられない。殺すなんてもってのほか、そんな人間ばかりではないことはわかっていても未来にはそんな人間がいなくなることを祈るしかできない。