表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
短な恐怖(ダーク文芸集)  作者: 天音ろっく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/15

リフレイン

【あらすじ】

人気のない山道でのドライブ中、ある一人の女性と出会ったカップル。

その出会いこそが、運命の歯車を狂わせるキッカケになるとも知らずに──。


いつだって何の前触れもなく、こうして不条理は訪れるのだ。

自分には関係のないことだから大丈夫。そう思っているのはあなただけ。負の連鎖は静かにそっと忍び寄り、あなたを道連れにしようと今も首をもたげて待っている──。






 眩い光に思わず反射的に瞼を閉じた俺は、ゆっくりと瞳を開くと手元のハンドルを握り直した。


 変わり映えのない曲がりくねった山道を走っていると、どうにも気が緩んでしまう。電灯の少なさからこの車道はとても薄暗く、すぐ脇にあるはずの森には暗闇が広がっている。そのせいもあってか、時折すれ違う車のヘッドライトがやたらと眩しく感じる。

 暗闇に溶け込んでいる道路脇の森は、行きに見かけた限りでは急斜面が広がっていたはず。そんなところで事故など起こしてしまえば、まず無事ではいられないだろう。そんな一抹の不安にゾクリと身体を震わせると、気を取り直してハンドル片手に車内を(まさぐ)る。



(……あ。そういえば、さっきの一本が最後だったか)


 

 そう思い直して手を引っ込めようとすると、カサリと手に触れた目当てのモノ。念の為にと、それを手に取って中身を確認してみる。どうやら先程空になったと思ったのは勘違いだったようで、そこには一本のタバコが残っていた。

 その事実に多少の違和感を覚えつつも、今度こそ空になった箱をクシャリと握りつぶして最後のタバコを口に咥える。



「──夜景、綺麗だったね」



 助手席に座っている彼女が満足気に微笑んだ姿を見て、俺はタバコに火を付けると口を開いた。



「たまにはいいよな、こういうデートも」



 人里からそう遠く離れてもいないこの山へと来たのは、峠にある展望台からの夜景を見てみたいと、そう告げた彼女からのリクエストだった。

 展望台以外にこれといって何があるわけでもなかったが、ちょっとしたデートスポットであることから、先程からすれ違う車も何台か見かける。最近では心霊スポットとしても少しばかり噂になっているらしく、もしかしたらその効果もあるのかもしれない。

 


「山道って、なんだか不気味で怖いよね」


「灯りが少ないから余計だよな。幽霊とか出たりして」



 怖がりな彼女のことをからかうようにしてそう告げれば、やはり予想通りの反応を見せる彼女。



「やだ……っ。もう、やめてよそういうこと言うの! 本当に出たらどうするの?」



 霊感など全くないというのに、どうやら見えもしない幽霊のことが相当怖いらしい。そんな彼女の反応がなんだか可笑しくて、怖がる彼女を見てクスリと笑い声を漏らす。



「冗談だって。いるわけないだろ、幽霊なんて」



 助手席にいる彼女をチラリと横目にしてそう答えれば、「それでも怖いの」と言って少しだけむくれる彼女。

 そんな彼女の反応がとても可愛らしくて、俺は再びクスリと声を漏らした。



「……あっ。ねぇ、あれって人じゃない?」



 突然、そう言って前方を指先した彼女は、少しだけ身を乗り出すと俺の袖を軽く引っ張った。

 確かによくよく目を凝らして見てみると、前方に人影らしきものが見える。そう認識した数秒後、距離が縮まったことでハッキリとその姿を確認した俺は、信じられない思いから驚きに目を見開いた。



「え……、? 何でこんな所に?」



 この山は登山道なんてものもなければ車道だって電灯が少なすぎる程で、決して整備が整っている方だとは言えなかった。

 勿論、民家が存在するだなんてことは聞いたことがないし、そもそも走っている車だって多くはない。そんな場所に歩いている人がいるだなんて、にわかには信じられないような光景だった。



「──危ないっ!」



 そう彼女が叫んだタイミングと、俺がブレーキを踏んだタイミングはほぼ同じだった。

 突然、行手を阻むようにして立ちはだかった女性。バクバクと跳ね上がった鼓動を感じながらも、目の前にいる女性の無事を確認して安堵の息を漏らす。



「……っ、ビビッたぁ……」


「やだ……っ、もしかして……幽霊?」


「いやいや、そんなわけないだろ。足生えてるし」



 どうやら先程の会話がまだ頭に残っていたようで、助手席に座っている彼女は小さく身体を震わせた。

 そんな彼女を横目に吸殻を灰皿へと捨てた俺は、僅かに開いていた運転席側の窓をゆっくりと降ろした。



「どうかしましたか?」


「すみません……迷惑でなかったら、車に乗せてくれませんか?」


「……え?」


「途中で降ろされてしまって、困ってるんです」



 彼氏と痴話喧嘩でもしたのだろうか? 例えそうだとしても、こんな山の中に女性を一人置き去りにするだなんて、その信じられない行為に俺は驚いた。



「乗せてあげようよ」


「あ、ああ、そうだな。……あの、どうぞ後ろに乗ってください」



 つい先程まで怖がっていたというのに、同乗することを先に許可したのは意外にも彼女の方だった。この状況を考えれば、まあ無理もない。きっと同じ女として、一人置き去りにされたこの女性に同情したのだろう。

 礼を告げながら車内に乗り込んだ女性の姿を見て、再びハンドルを握るとゆっくりと車を発進させる。



「この近くに住んでるんですか?」


「はい。そう遠くはないです」


「家まで送りましょうか?」


「大丈夫です」



 そんな彼女と女性のやり取りに耳を傾けていた俺は、バックミラー越しに女性の姿を確認すると声を掛けた。



「本当に大丈夫ですか? 遠慮しなくていいですよ」


 

 荷物らしきものを一切持っていない女性は、おそらく身一つであの場所を彷徨っていたのだろう。きっと所持金だって持ち合わせていないはずだ。

 そんな女性を一人街中で降ろすのは、どうにも良心が咎める。果たして、その先自宅に辿り着くまでの手段はあるのだろうか?



「人を探してるので、それからでないと帰れないんです」



 ミラー越しにそう答えた女性は、随分と顔色が優れないようだった。

 一体、どれほどの時間あの場所で彷徨っていたのだろうか? 季節はまだ秋口とはいえ、標高の高い山道はとても気温が低く、夜になればその寒さは相当なものだった。



「その探してる人って、貴女をあそこに置いてった人ですか?」


「はい」



 あんな山道に女性を置き去りにするような彼氏に、この女性の身を任せていいのかも疑問だ。やはり、自宅まで送り届けた方が無難だろう。

 俺は内心そう思いながらも、これ以上深く立ち入るのも無粋かと口を(つぐ)んだ。



「それにしても、あんな所に置き去りにするなんて酷い彼氏さんですね」



 我慢できないとばかりにそう告げた彼女は、眉間に皺を寄せると憤慨した。

 真相は定かではないものの、きっと痴話喧嘩の末に置き去りにされたと判断したのだろう。それは俺も同じ考えだった。


 けれど、女性の口から出た言葉は意外なものだった。



「彼氏ではないです」


「……え、彼氏じゃないんですか? それじゃあ、男友達とか……? デートで来たのに置き去りにするとか、そんな男最低ですね!」



 益々怒りを露わにした彼女は、少しだけ声を荒げると頬を膨らませた。

 彼女がここまで怒るのも無理はなかった。彼氏だろうとそうでなかろうと、こんな山道に人を置き去りにするなんてろくなもんじゃない。



「友達……でもないです」


「…………え?」


「知らない男の人に攫われて……」



 まさかの発言に心底驚愕した俺は、驚きに見開かれた瞳でミラー越しの女性を凝視した。



(それって犯罪じゃないか……っ!)



 そんな俺の視線を避けるようにして俯いてしまった女性は、それでもゆっくりとした口調で話し続ける。



「やめてって言ったのに、やめてくれなかった……。痛くて、怖くて……』



 途端に不穏な空気に包まれた車内は、ゴクリと小さく息を飲む二人の息遣いだけが、ただ静かに鳴り響いた。



『家に帰りたかった……それだけだったのに……』



 固く凍てつくような女性の声を聞きながらも、俺の身体はカタカタと震え始める。霊感など全くないのだから大丈夫だと。そう何度も心の中で言い聞かせるも、もはやその考え自体に自信がもてなくなってゆく──。

 まるでそんな俺の考えを見透かしていたかのように、ミラー越しにこちらを凝視していた女性は、突然その目玉をドロリと崩れ落とした。




《どうして殺したの》




「っ……うわぁあぁあ!!!「きゃあぁああーー!!!」」



 全く見に覚えのない問いかけと共に、腐って崩れ落ちてゆく女性に背後から抱きつかれ、それに恐怖した俺は思わずハンドルを切った──次の瞬間。

 大きな衝撃音と共に意識を失った俺は、ゆっくりと瞼を開くとその視線を彷徨わせた。



「っ、ゔ……」



 全身に走った凄まじい痛みに顔を歪めると、助手席にいる彼女に向けて左手を伸ばす。名前を呼んで身体を揺すってみても全く起きる気配はなく、頭から血を流してぐったりとしている。

 車からはもくもくと煙が立ち込め、いつ火の手が上がってもおかしくはない。そう判断した俺は、傷だらけの身体でなんとか彼女を背負うと、そのまま急な斜面を登って車道へと出た。



(誰か……っ、誰か来てくれ……)



 祈るような気持ちで薄暗い車道を見渡すと、車のヘッドライトらしきものが近付いて来る。それに向けて(すが)るように右手を伸ばすと、行手を阻むようにして立ち塞がる。

 けれど、速度を落とすことなくこちらへ向かって走って来る車。そのヘッドライトの眩しさに思わず瞼を閉じた俺は、その言いようのない絶望感にただただ恐怖した。






──────



────






「うわ……っ、マジじゃん。今の……見た?」


「うん……、見た。なんか、全身焼けただれたみたいな……っ」


「やべぇ……俺にも見えた。ここ、マジで出るって本当だったんだな」


「なんか、車に乗せてくれって女の霊も出るらしいよ。美人だけど、車に乗せたら顔が崩れ落ちるんだって」


「ゔ……、なんだよそれ……っ。てか、こんなとこで歩いてるやつなんて絶対人じゃねーじゃん」


「ここって二十年以上前はデートスポットだったらしくてさ、今と違って勘違いする人もいたみたいだよ。今じゃただの心霊スポットだけどね」



 男達はそう騒ぎ立てながら山道を走ると、先程見た悍おぞましい姿の亡霊に恐怖した。


 かつてはデートスポットとして人気のあったこの場所も、今では度胸試しにと訪れる車ばかり。そんな場所でも、年間に訪れる若者の数は決して少なくはなかった。

 けれど、そんな車も立ち去ってしまえば、ただ先の見えない暗闇が広がるばかり。


 彷徨える魂達は幾度となく出口を探し求めては、明けない暗闇の中を今も彷徨い続けている。











─完─

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ