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短編集

朝から修羅場! 私の周りには百合予備軍しかいなくて困ってます(※困ってない)

作者:
掲載日:2026/01/30

 朝の教室って、なんでこんなに騒がしいんだろう。

 私はいつもの窓際の席で、頬杖をついてぼーっと外を眺めていた。

 青い空と白い雲がのんびり流れてるのに、私の心の中はすでに嵐予報。


 今日も平和に過ごせたらいいな……って、毎朝思うのに、なぜか実現しないんだよね、私


 突然、背後から甲高い声が爆発した。


「綾ちゃーん!」


 振り向く間もなく、両肩をがっちり掴まれる。

 熱い体温と、甘いシャンプーの匂いが一気に押し寄せてくる。


 ……はい、来た。朝イチの美咲アタック


「また寝不足? 目が完全に死んでるんだけど」


 犯人はもちろん、隣のクラスの陽キャ代表・美咲。

 今日もネクタイをわざと緩めて、髪をサラッとかき上げながら、私の顔をぐいっと覗き込んでくる。

 ゼロ距離って……慣れたけど。

 それにしても美咲ってまつ毛が長すぎて、逆に威圧感すらあるんだけど。

 それがまた、なんかズルい。


「死んでない。生きてる。……ギリギリ」


 本当は昨夜、美咲が送ってきた「今日のコーデ自撮り30連発」を見ながら、つい夜更かししちゃったせいなんだけど。

 絶対言えない。

 言ったら「じゃあ私のせいじゃん♡」って抱きついてくる未来しか見えない。


「ギリギリって何! それヤバいやつじゃん!」


 美咲は大げさに両手で顔を覆って、教室中の視線を一瞬で集め始めた。


 ……はい、始まった。いつもの「大げさ被害者アピール」からの、クラス全体巻き込み型カオスルート。

 みんなの視線が痛い。痛いのに、どこかで「またか……」って諦めと、ほんの少しのワクワクが混じってる自分が、ほんとに嫌になる。


「みんなー! 綾ちゃんが死にかけですー! 誰か心臓マッサージできる人ー!」


「やめなさいってば……」


 私が慌てて美咲の口を塞ごうとした瞬間、今度は反対側から別の手が私の頬をぷにぷに摘んできた。


「心臓マッサージより、まずは人工呼吸が必要なのでは?」


 さらっと恐ろしいことを言うのは、図書委員長の涼花(りょうか)先輩。

 三年生なのに私たちのクラスにしょっちゅう顔を出してくる謎の先輩で、いつも落ち着いた声でとんでもない爆弾を投げてくるタイプ。


「せ、先輩……?」


「冗談よ。……半分は」


 半分って何ですか!?


 美咲が「ちょっと待って! 人工呼吸は私がやるから!」と涼花先輩に割り込んで、私の顔を両手で挟んでくる。距離、近い。息が当たる。

 まつ毛が長すぎて逆に怖い。


「美咲ちゃん、それ完全にセクハラ案件だから」


 涼花先輩が冷静に指摘しながらも、なぜか私の手をそっと握ってくる。

 指先が冷たくて、ちょっとドキッとした。


「え、ちょっと待って二人とも! 朝から何この修羅場!?」


 そこにタイミング悪く?いや良いのか?

 現れたのは、同じ委員会の後輩・ひなた。

 ショートカットでいつも元気いっぱい、でも実はめちゃくちゃ照れ屋な子。

 ひなたは私の机に両手をついて、顔を真っ赤にしながら叫んだ。


「綾先輩をいじめるなら、私が守りますから!」


「……ひなた、守るって言ってるけど今めっちゃ私に密着してるんだけど」


 何で下級生のひなたが、この教室にいるのって言いたいけど、涼先輩もいるんだから今更感あるよなぁ。


「えっ!? あ、ご、ごめんなさいっ!!」


 慌てて離れようとしたひなたの足が椅子の脚に引っかかって、そのまま私の膝の上にどさっと倒れ込んできた。

 教室が一瞬静まり返ったあと。


「あーーーーー!!」


「キャー! 百合! 百合来ましたわ!!」


「これ写真撮っていい?」


「ダメに決まってるでしょ!」


 クラスメイトたちの悲鳴と歓声が一斉に上がる。

 私はひなたを抱えたまま固まって、


「……ねえ、みんな。朝からこれって、私の心臓が本当に持たないんだけど」


 本当に少し頭痛くなってきたかも。


「……ごめん、ちょっと興奮しちゃった」


「……私も、少し」


「す、すみませんでしたぁぁ……でも、綾先輩の膝、あったかかったです……」


 美咲、涼花先輩、ひなたがコメントしてくれたんだけど、何とか聞いとれてよかったと思う。

 まぁ最後のひなたの一言で、教室が再び爆笑の渦に包まれた。

 私はため息をつきながら、ひなたの頭を軽く撫でて、


「もう……みんな、ほんとにどうにかしてよ」


 でも、心のどこかで思ってた。……このカオス、嫌いじゃないかも

 放課後、この四人でまた何かやらかすんだろうなって、

 すでに予感しかしなかった。


 放課後のチャイムが鳴ってから、教室は一気に静かになった……はずだったのに。

 うちのクラスはなぜかいつも残ってる勢力がいる。特に今日みたいな日は。


「じゃあさ、綾ちゃんの家で今日もゲームしない?」


 美咲が私の机に肘をついて、にやにやしながら顔を近づけてくる。

 距離感ゼロ。いつものことだけど、心臓が少し跳ねる。


「え、私の家……? また?」


「だって最近ひなたが『綾先輩の部屋行きたい』ってうるさいんだもん!」


「み、美咲先輩! それは言わないでくださいってば……!」


 ひなたが顔を真っ赤にして美咲の背中をぺちぺち叩くけど、力弱すぎて全然効いてない。

 むしろ可愛いだけ。

 そこに涼花先輩が、いつもの優雅な足取りで近づいてきた。

 手に持ってるのは……私達のクラスの掃除当番表?


「今日の掃除当番は綾さんだったわね。でも、私が代わりにやってあげたから、もう終わってるわ」


「え、先輩……? ありがとうございますけど……なんでそんなことまで」


「んー? 単純に、みんなで早く出たいから」


 さらっと言って、私の左手を取る。

 指を絡めてくるから、思わず「ひゃっ」と変な声が出た。


 美咲が即座に反応。


「ちょっとー! 先輩ずるい! 私もー!」


 今度は右手をがっしり掴まれる。

 左右から引っ張られて、私はまるで人形みたいに立たされた。

 ひなたはそれを見て、ぷるぷる震えながら、


「……私も、綾先輩の手、握りたいです……」


 小声だけど、めちゃくちゃ真剣な目。


「え、えっと……じゃあ、ひなたは……ここ?」


 私はなんとか両手を解放してもらって、ひなたの頭をぽんぽん撫でながら、自分の腰のあたりに手を誘導した。

 ひなた、即座にぎゅっと抱きついてくる。

 背中が熱い。耳元で「先輩……好きです……」って囁かれて、頭真っ白。


「……おいおい、ひなたちゃん急に本気出してきたじゃん」


 美咲が笑いながら言うけど、声がちょっと震えてる。

 嫉妬? いや、まさかね。

 涼花先輩は静かに微笑んでいるのが少し怖く感じたんですけど。


「じゃあ、今日は私の家にしようかしら。広いし、ゲームもお菓子も揃ってるし……それに、ベッドも大きいから、四人でも余裕よ?」


「せ、先輩!? それ完全に誘ってるやつじゃないですか!?」


 私が慌てて突っ込むと、先輩はくすっと笑って私の目を見つめてきた。


「誘ってるわよ。……半分は本気で」


 また半分!?

 結局その日の行き先は、涼花先輩の家に決定した。

 先輩の家は本当にすごかった。

 リビングが広すぎて、ソファが三つ並んでる。

 しかもゲーム機が三台。


「これ全部違う機種なの……?」って私が呟いたら、


「うん。全部でやりたいゲームが違うから」ってさらっと言われた。


 金持ちってこういうことか……。

 ゲーム大会が始まって30分後。

 私はコントローラー握ったまま、ソファの真ん中で固まっていた。

 左側:美咲が私の肩に頭を乗せてきて、「綾ちゃんの匂い好き~」って連呼中。

 右側:ひなたが私の腕にしがみついて、負けると「先輩のせいですよぉ……」って甘えてくる。

 正面:涼花先輩が優雅に座って、私の顔をじーっと見つめながら「次は私が勝ったら、綾にちゅーしていい?」とか爆弾発言。


「ちょっと待って! ルール無視しすぎ! そういうのダメ!」


「えー、じゃあ負けたら罰ゲームでいいよね?」


 美咲がにやり。


「罰ゲームの内容は……私が決める!」


 ひなたが珍しく強気。


「ふふ、じゃあ私は……キス以上のものを要求してもいいかしら」


 涼花先輩の追撃。

 私はコントローラーを投げ出して、


「もう! みんな本気でどうにかしてよぉぉ!!」


 叫んだ瞬間、三人から同時に抱きつかれて、ソファに倒れ込んだ。


「「「綾(ちゃん/先輩)大好きー!!」」」


 三重奏の告白(?)に包まれて、私はもう笑うしかなかった。


 ……このカオス、やっぱり嫌いになれないや


 天井を見上げながら、

 心の中でそっと呟いた。


「明日も、きっとこんな感じなんだろうな……」


 でも、それでいい。

 むしろ、もっとこうでいてほしいって、

 どこかで思ってる自分がいた。

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