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人魚のお肉

作者: 小雨川蛙

 

 あるところに王子様と恋に落ちた人魚のお姫様がいました。

 これは物語ですので王子様とお姫様は結婚して幸せに暮らしました。

 物語はこれでおしまいです。


 物語の続きは歴史が語ります。

 人魚のお姫様と結ばれた王子様ですが、お姫様の美しさに心を奪われた大臣に地位と共に命を奪われてしまいました。

 お姫様は呆然としたまま新しい王様のモノになりました。

 その悲惨な運命はお姫様が死ぬまで記録されています。


 歴史の真相はもう人々の記憶しか語れません。

 あるいはもうこれも物語かもしれません。

 しかし、そんな荒唐無稽な話をあえて語りましょう。


 お姫様は痩せて虚ろな醜い姿になりました。

 最愛の王子様が殺された時点で以前の輝きはもう失われていましたけれど。

 新しい王様はお姫様のことを煩わしく思い始めました。

 なにせ、自分の罪の形でしたから。


 早く死んでしまえとさえ思っていたかもしれません。

 けれど、お姫様は死ぬことはありませんでした。

 それどころか老いることはありませんでした。


 何年も何年も経って、老いた王様がそれを疑問に思って問えば「人魚には寿命がありません。不老なのです」と言葉が返ってきました。


 死が少しずつ迫っていた老いた王様はそれを羨ましく思いました。

 死なない命なんて、あまりにも魅力的でした。

 するとそれに気づいたお姫様は。


 みたこともないほどのえがおでいいました。


「わたしのおにくをたべれば、えいえんにいきていられますよ」


 歴史には『人魚のお姫様』なんて出てきません。

 お姫様はお姫様でしかありません。

 王子様と結婚した後に他国の王に滅ぼされ、そのまま妾にされたとだけ記されているだけです。

 最期には『王に殺された』とだけあるだけです。


 けれど。

 私の古い記憶は確かに覚えております。


 お姫様は確かに人魚のお姫様でした。

 私は確かにお姫様の肉を喰らいました。

 全て。

 永遠の命が欲しかったからです。


 お陰で今も私は生きています。

 真実が『荒唐無稽』と馬鹿にされる今でもこうして。


 日銭を稼ぐため、こうして過去の話をホラ話と馬鹿にされながら話す乞食として。




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