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8.歌を歌うこと

 今日は久しぶりにカラオケに来た。


 ストレス発散の仕方は人それぞれあるだろうが、その中でも大きな声を出してスッキリするというカラオケは、ランキング上位に位置するものじゃないだろうか。お気に入りの歌を歌うもよし、ライブ映像を眺めて時を過ごすのもよし、安上がりで時間を潰せる場所であることは間違いない。ドリンクバーに加えて、軽食メニューやデザートも充実しているところが多く、一日ここに居ることもできるようになった。


 僕は歌は得意ではない。何度シミュレーションしてみても、歌が上手いことが有利に働く状況がやってこないから、練習して上手くなる必要性もない。だから、単に歌いたいから来る、ただの暇潰しだ。


 それでもロマンを感じるポイントとしては、狭さだろうか。


 この閉鎖的で迷路のような空間は、パニックになったら正しいルートが取れなくなる恐れがある。どのフロアも似たような構造で、隠れる場所は無数にある。人間が多く収容されているため、狭い通路は人で溢れて思うように進めないだろう。


 不測の事態に陥った時に、一番やってはいけないのがパニックになることだ。冷静さを欠けば正しい判断ができず、死ぬ確率が上がる。大きな声を出したり、バタバタと走り回ったりすればそれだけ無駄に体力も消耗してしまうだろう。


 通路に出ないと建物の外には絶対に出られない構造になっているこの場所では、籠城は最悪手だ。部屋の中に居続けても状況は何も変わらない。ドアの前に人がもたれかかったり、倒れた場合が本当に最悪だ。人間は思っているより重い。意志を持たなくなった肉体は、泥の詰まったずた袋のようで、ドア前に障害物として塞がれると簡単には開けられなくなってしまう。


 そうなる前に、冷静さを保ちつつ個室から通路に出て、建物の外に出なければならないのだ。


 地震、雷、火事、ゾンビ。どの非常事態でもそれは共通して言える。


 また、ゾンビにおいては個室に侵入してくる可能性が0とは言えない。入口が一つしかないこの個室で、入口を塞ぐように倒してしまうと、脱出の際に非常にリスクが高くなる。これは非常にマズイ状況だ。


 一番良いのは、こういった場所に長居しない、入店しないことだ。つまりカラオケ店には来ない方が良いという結論になる。あまりにも攻略難易度が高すぎるのだ。


 だが、しかし。


 冒頭で説明したように、僕的ストレス発散ランキング上位のこの場所に二度と足を踏み入れないとは誓うことはできない。


 ショッピングモールと同じで、入口をゾンビが通過すると生体センサーによって警報が鳴ったり、なんらかの処置が取られるカラオケ店を選んで入店することにしている。この場所に来るという選択肢を選ぶからには、少しでもゾンビと会わない確率を上げて、快適にカラオケが楽しめるようにしている。

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