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4.公園のヒーロー

 公園に来た。


 ここは日課の散歩コースの途中にあって、ちょっと休憩していくのに丁度いい場所だ。親子連れや年配者がちらほらと居る程度で、そんなにうるさくないのもありがたい。


 いつものベンチに腰掛け、本を取り出した。ミヒャエル・エンデの果てしない物語。前半パートの軽やかさや、純粋な冒険譚には目を奪われ、鮮やかな印象と共に読み進めることができるのだが、後半パートの徐々に粘度が増すような狂気にあてられるのか、何度読んでもラストを見失ってしまう。


 ここで木の葉の擦れる音や、少し遠くで聞こえる子供たちの元気な声、談笑するシニアの声をBGM代わりにしていると、丸っきりの空想の世界が日常のちょっと行った先の現実に変わりそうな気がして、親近感を持って物語の中へ入っていける。風が運んでくる街の喧騒も時々は聞こえたりして、その距離感が絶妙だ。


 前半ラストのシーンまで読んだところで、本から顔を上げ、公園内をぼんやりと見渡す。頭の中では、アトレーユが生き生きと動いて冒険をしていた映像が浮かんでは消えていく。空想の世界だ。耳慣れない名前と思いつかないような見た目のキャラクターたちが次々と登場し、物語は進んでいく。「夢みたいなこと言ってないで勉強の一つでもなさい」と僕もよく言われていたけれど、同じ空想でも本になると自分だけの物語ではなくなって、読んだ誰かの夢に広がりを持たせる。その世界に終わりはなく、どこまでも膨張し続ける大きな宇宙を誰もが持っているんだなと思うと、ちょっとだけ救われた気持ちになる。


「タカシ!!!」


 絶叫に近いような叫び声が穏やかな空気を切り裂いた。砂場で遊んでいた子供の後ろにゾンビが立っている。叫んだのはおそらく母親だろう。名を呼ばれた子供は、突然のことにびっくりしたのか固まってしまっている。それにしても、ゾンビはいつの間に公園に入ってきたんだ。


 状況の把握と疑問が脳内を一気に巡り、行動が遅れた。ゾンビは子供に手をかけ、今にも噛みつこうと近づく。叫ぶ母親。走って間に合うか、僕。走れ、動け、僕。


―――っ!!!


 空気を切り裂くような発砲音がした。びっくりして動きの止まる僕。視線の先のゾンビは、糸の切れた操り人形のように重力に抗わず地面に倒れた。誰かがZガンを撃ったんだ。銃を構えていた人物は、ベンチで談笑していた年配者の一人だった。


 母親が急いで子供へ近づき抱きかかえる。子供はそこで我に返ったらしく、大きな声を上げて泣き始まった。母親は撃ったであろう人物に何度も何度も頭を下げた。年配者の方は笑顔で何か謙遜の言葉をかけているようだ。


 僕の脳内シミュレーションは、役に立たなかった。あの状況では躊躇いなくZガンを使うべきだった。僕如きが駆け寄ったところで、仲良くゾンビの仲間入りになるのがオチなのに、判断ミスだ。


 年の功、というやつだろうか。年寄りのクセに躊躇せずZガンを撃った。悔しいけれど、スマートに子供を危機から救う姿、それを周りに見せつけることができて羨ましく思う。そんなクソジジイに僕もなりたいとか思ってしまって、さらに自己嫌悪が増した。


 また後半パートはお預けだ。僕は惨めな気持ちで家に帰った。

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