表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/16

11.視界不良の惨事

 雨に降られた。


 午後からは雨になると天気予報で知っていたのに、立ち寄った本屋で思いのほか長居してしまったのが原因だ。本降りになってきて、しばらくは止みそうにない。どこかでさらに時間を潰すか、強硬手段でこの雨の中帰るか、選択肢は二つに一つだ。


 僕は傘を持ち歩かない主義だ。


 傘というのは悪天候の中も、濡れることなく行動できるようにする道具だ。足元まではカバーできないが、上半身部分は不快になることが少ないのが最大の利点だろう。


 だがその反面、自由が制限される。片方の手は傘を持つことで拘束されてしまうし、視界も狭まるので咄嗟の判断が遅れがちだ。


 通りを眺めると黒やビニールなど味気ない傘に交じって、赤や青など思い思いの傘を差した人たちが歩いている。すれ違うのが非常に邪魔そうで、一人一人の歩みは遅い。


 傘を差していない人はそれだけで目立つ。ちょうど2、30m向こうの路地から傘を持たない人がゆらゆらと出てきた。どうも様子がおかしい。覚束ない足取りで、両手を力なく前方へ上げたまま歩いている。


 あれはゾンビだ。


 通行人は気がついていない様子だ。


 尻ポケットに入れていたZガンへ手をかけるが、傘と人の群れが邪魔をして確実に当てられる自信がない。


 クソッ。間に合え。


「ゾンビだ!!!」


 叫びながら走った。


 通行人は怪訝そうにこちらを見るがなりふり構っていられない。


 雨に濡れたアスファルトが滑って走りにくい。


 ガッッッ。


 勢いがついたままゾンビにタックルをかました。


 衝撃でメガネが吹っ飛ぶ。


 視界がぼやける。


 だがゼロ距離だ。この近さなら見えてなくても問題ない。


 立ち上がってZガンを構える。


「ちょっと!!!何してくれてんの!!!」


 怒鳴り声と共に肩を強く掴まれ、身体が反転した。


 声のトーンからして男だろう。こいつも傘を差していない。


「大丈夫ですか?」


 誰かが倒れたゾンビに近寄っていく。


「やめろ!そいつはゾンビだ!逃げろ!」


 僕の言葉は聞き入れられずゾンビを介抱しようとする人。


「だから言ったんですよ!ちゃんと許可取って、スタッフも確保しないとこういうバカが出るって」


 路地から数人が歩いて出てくるが、ぼやけてよく見えない。事態が飲み込めないでいると、誰かが僕のメガネを手渡してくれた。通行人に踏まれたのか、レンズにヒビが入っていた。


「あのねぇ、今、映画の撮影中なの。わかったら早くどっか行ってくれる?」


 クリアになった視界で周囲を見ると、合羽を着たスタッフらしき人が数人いて、僕がさっきタックルした人を抱き起しているところだった。


 こうやって近くで見てみれば、お粗末なメイクだ。B級映画のゾンビのような、どこか安っぽさが漂うゾンビ役の人がこちらを睨んでいた。


「はい!仕切り直し!路地から出るシーンから撮り直し!」


 この雨の中、サングラスをかけたいかにもと言った男が声を上げている。こいつが監督だろうか。


 ゲリラ的な撮影だったのか。


 僕はまんまと騙されてしまった。


「撮影の邪魔になるから、早くどいてくれる?」


 うんざりした顔でスタッフらしき若い男に再度言われた。


 惨めな気持ちでいっぱいになって、トボトボと帰路についた。


 メガネはだめだ。コンタクトを検討するか。


 その夜、僕は風邪を引いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ