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10.茜色と歩道橋

 歩道橋から夕陽を眺めている。


 忙しそうに行きかう人々が、煙草を吸っている僕をすれ違いざまに睨みつけては通り過ぎていく。


 今日も一日が終わるが、なんとなく何かをやり残している気がして、ふと歩道橋の上で立ち止まってしまうのだ。


 ラブロマンス、ホラー、アクションと幅広いジャンルの作品で、印象的なシーンとして位置づけられることの多いこの場所。両サイドに伸びた階段が地上とを結ぶ唯一の通路。何かと何かが交わったり、すれ違ってしまうことの容易さが分かりやすいのかもしれない。


 パニック映画で大事になってくる身を隠せるポイントも、遮蔽物になりそうなものない。だから作中では、こんな目立つ場所にわざわざ出向かないのがセオリーだ。


 橋や連絡通路であれば、話は変わってくる。生存率を上げるためや、食料調達、危険回避、様々な理由はあるが、こちら側よりあちら側の方がメリットが大きいために、危険を冒してもその選択肢を取る、ということがある。


 僕が今いる歩道橋と同じで、退路がない。前に進むしか道はなく、否が応でも相手と真っ向から勝負をしなければならないのだ。


 真っ向から勝負をするというのは、なかなか勇気のいることだ。それが怪物であれ、人間であれ、正面切って立ち向かっていくのは恐怖が伴うものだからだ。その後に起きることをシミュレーションしてみても、自分が無傷である確率の方が低い。それでも、その選択肢に挑まなければならない状況というものが、いつかはやってくる。


 その時に自分は、きちんと選び取れるだろうか。


 こういう状況にならないために、初動から何手も先まで考えて行動するべきだが、終わりがいつ来るかわからない場合、その時々で常に最適なアクションを選び続けなければならない。


 標的に立ち向かうことも、常に最善最適のための行動を起こし続けることも、精神力の強さがどれだけあるかということになる。


 僕は弱い。


 この世界はゾンビを適切に処理してくれる公的機関が存在しているから、そこに汚れ仕事は任せておけばいい。だが、それがなくなった時、僕は一人でも荒廃していく世界の中で生き続けられるだろうか。


 状況のシミュレートに関して言えば、その時だけのものなので最適を導き出せるかもしれない。が、希望の担保がなくなってしまった時、どうやって生き抜いていくべきか。


 これを考えると、どうしても思考が止まる。そしてこの退屈極まりない世界が、輝きをもって美しさを見せつけてくるのだ。


 そんな果てもない、捉えどころのない自分の心について考えてしまうのは、きっとこの夕陽のせいなんだろう。茜色に世界を染め上げるこの時間は、郷愁や寂寞たる思いを簡単に連想させてしまう。太陽という名の希望が沈んで、闇という名の絶望と入れ替わる最後の瞬間だ。


 やり残したことがなんなのか、今日もわからないまま日は暮れた。

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