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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

蝶になれない、芋虫たち。曼荼羅編

作者: たこちゃん
掲載日:2026/03/04

人は生まれた時から決められ人生を歩むのではないか。

あなたは、人の幸せも、また不幸、禍福など、おおきな宿命を感じた事はありませんか。ーー決められたように。うねる運命、避けられない環境など。

ーー人間の愛を求める衝動、幸福の核。真実のテーマは、男と女に生まれる。愛の行為、セックスは愛の和合。それから入る不遇の男(愛されない男)話。佛法を救いとするが…。男の抱く大曼荼羅の妄想。

それは下座行を本道とする菩提さとり幻想。

烏枢沙摩明王に現世の救いをもとめ、

愛染明王に、愛即菩提あたたかさを夢みるシンジ。

女体が、菩薩。菩提への執着と、現実乖離。

風俗店が霊山おやまとなり、修行の疲れに寄る。

ーーそんな滑稽な風景。

破滅な、孤絶、貧困の警備員の私生活は歪む。

ーーそんな晩生の再生のゆめであり、

ボランティアであるく、掃除する男だ。

ーーカネ持ちの道楽でもない。

己の生きるゆめは、

ーー佛と神への、繋めであった。(出家も得度もない)。

ただの、底辺に光明をもとめ、下座行そうじにくれる。始祖、釈迦牟尼世尊を夢みる。唱えるは大宇宙マントラ

ーー救いたまえ。下界地獄このよの無常のさま。

ーー南無妙法蓮華経。宗派門別に群れず、孤高のおじさん。

ーー現世安穏なし。カネなし、家庭なし、明日さえ何もない。ただ生きる。

ーー釈迦牟尼世尊を、菩提ゆめとし、街を掃除してあるく、変わり者。僧侶の格好して、下座行をする。

ーー奇行なシンジ。

エロスと交錯する、大曼荼羅は、おんなたち。

本来無一物。この男の唯一の救いは、

ソープランド「風俗店」だった。

自性清浄、シンジは菩薩おんなを、慈悲の夢とみて生きる。



「何をしてもダメな人間。要領がわるく、自らを卑下してきた人間が、自らの半生を後悔し、宗教にも騙され、残された預金さえ無いのに、ーー最期に辿りついたのは、奉仕の精神だった。ちいさな善行。街のゴミを拾う(下座行)」だ。

ーーそんな、つまらない男の話。

ーー彼は云う。

「人は、生まれた時から、決められた人生を、歩むのではないかとおもうのです。」

一人の男、シンジは告白します。

ーー女の前で。

歓迎されるでもなく、憐れな男は、見た目で分かるほど、老けてみえるものです。何をしてもダメな人間。

「生まれてきて、そういう人間は世にいるものです。」シンジもその、道を歩んでおります。

シンジという、名前の男らしい。

女は、訥々と話す男に、目を剥いた。

しゃべりだすが、長い。

「たとえば、人の一生を、ショートムービーで三分にまとめたなら、いかに、儚いかでしょうか。」(生老病死を)。

シンジは云います。我が人生なるものを。

「悲観論者と蔑むものもは高みの見物なのでしょうか。」

「此処は、弱い人間たちの、星なのです」。

「だから、弱いものから食われ、自然界すら成り立つのです。」

収奪してなりふり構わずの、世界を。

「富めるもの、貧しいもの。」

「人は神から、命を与えられるのに。」

「それは否めません。宇宙に存在するという真理であります。」

「あたかも、人間の幸せも、不幸も、試練と共にあるなら。ーー悲しくもあります」。

貴女(あなた)も、振り返れば、そう思う事はないでしょうか。

失敗する人は、何をしてもダメ。反対に、運を、持った人は、何をしても成功する者。」

「あと、何も挑戦しない人も。」

「寝て果報あるものもあるでしょうし。」

「千差万別であります」

「……。」

「は、」女は否定もしない。

シンジは、しゃべくる。

「つまりです、占いにおいても、実際に……、勝者劣敗は決められている、形をかえてね。言葉でも、説明できない不可思議なことがあるように。」

「どんな人間も、才能や能力の有無よりも、運命や宿命によって左右される力こそ。本来の、いわばみえない力で進んでゆく。それを人は、宿命というのではないかと思うのです。」

「努力を否定するのではなく、肯定しての話。みずからの意志に基づいて」

「運命は、環境といえましょうか」

「そこに、人間の、営みに、愛こそが究極の宿命としてあるならば、煩悩なやみこそ。即菩提さとりにかえよう、愛染明王あいぜんみょうおうの功徳によりーー愛欲煩悩を、さらけ出して、さらに深遠にして、わたくしは、広大な宇宙を捉えたのであります。」

ーーーー。

「光輝く、菩薩たち、清浄静寂にして、動静をひとつにする、悟りの境界に」。

ーーーー。

「シンジという、私の命は、

佛神へ、感謝と祈念の始まりでありました。小さな私の、不幸にも、恵みが生まれました。ーー貧しき私にも、笑いに変えたのです。」ーー。愛の力であります。

そんな興奮を、愛欲菩提さとりとして。

女をやや上目でみます。

ーーーー。

男の数をみてきた冷徹な瞳。女の面は、笑っていて、笑っていない。

眼は、芯がある。突き刺すように。

女の特有の眼差し。

シンジを小馬鹿にしているのが、小鼻の膨らみに言葉を含ましたようでした。それほど、無関心の面で見ております。

シンジはそれを知っているように、みておりましたが、云います。

……。

「穢れ、汚れ、そして、わたくしが愛を得られず苦しみさまよう。その本願こそを、風俗店で求めました。おカネを払ってであります」。

シンジは眼を半眼にします。

「見ての通り、わたくしはモテません」。ーー容姿も、冴えない。

痩せた芋のようである。

生まれた土地が、日陰であったのだろう。よく見れば僧侶のような、袈裟をきている。ーー変わった客。

ーー賢そうにもみえません。すべてが、しまらないネジで止めたような、マヌケが感じてならないのですから。ーー伝わるのは、緊張のないシンジの間延びしたような顔でもあります。

ーー。シンジは、いいます。

「決められたとは、単に、結果論ではありません。」

「私はそれに、気づいたのです」。

「ーーあなたはどう思いますか!?」

ーー女は、目を丸くした。

ーーなんだこの男は!

運命か、宿命か、そんな事をきいているのか!?

「理由、ーーしらないそんなの」

女はめんどくさい感じて答えました。

…………。

すると、また、

ーー男は、喋りだします。

「私は生まれた時から「決められた」人生を歩んでまいりました……。」

「蝶に成れない芋虫が、蝶になりたいと願ってもなれません。ーー私は芋虫だったのです。」

「もとから、種が違う、芋虫は蝶になれる筈もありません。蝶でない者。成虫にさえなれない。貧困の環境。くわえて、宿運、宿命に、流されました。」

「不出来な(シンジ)。美をいつしか考察し、観るようになります。なぜ、美しいかを」。

「美とは、恵まれること。の意味であります」

「わたくしこと、シンジは、愛を求めても、えられませんでした。だから、此処に………風俗店ならやさしくしてくれると思い、いわゆる天上の音楽(天国に流れる音楽を云う)、神の創造を経験おもい、悟りを得たい、欲望の昇華を望みたいと思いました」。

「体験することは、生きる意味でありますから」

「体験とは、貴女を抱くことです」。

「幸せ、愛、それらを混合しているのかと思われましょう。そうです、愛はおおきなもので構成されて、内包しているのです。ですので」。

頭がイカれている。

女はマジマジみます。

シンジはいいます。

「執着の力といえます、私にとって美は、豊満な愛でありました、佛法に合わせて、愛を求めたのです」。


「おのれの不遇だけを、いえば、単に、罰あたり。」

「いま思えばそれだけ」。

「人は、みえない制限された人生を歩むもの」

「よく想えば、拒否できない宿命とやらも。」

「…………。」

「そして、種(因縁でさえも。)」

「そんな、観念が、生まれながらに感じておりました。出来る人、出来ない人。それすら、分からずに苦しんだ青年期。中年期。初老に至るまで。」

「そうです。宿命ですよ、若い時は分かるはずはありません」。

「蝶になれない、芋虫………。それは私自身」

「何かしなければならないのに、それがわからない。それでいて底辺に落ちたのです」。

シンジという男は、五十を過ぎている枯れかけた男であった。


よくしゃべる男である。異常者だ。女は思った。


そんな彼は、女を見つめたまま、

「芋虫とは、そういう意味です」

「苦海一生、地獄めぐりです」

「生まれて苦海。」

「話は、すこし、変わりますが、死ぬにあたり解放浄土を、希望にかえました。解放とは(苦しみ)でありました。佛法しかないと」。

「私は、芋虫とたとえていいました。」

「葉っぱの裏で、雨にうたれ、蟻がきたら逃げて這いずり回り、鳥がきたら、一目散に、穴の中に隠れる。食物連鎖の下層ですから。」

ーー情弱な生き物は、目をみればあきらかである。

虫も、動物も、そして人間も。

シンジという男は、チンケな瞳をしていた。

漫画にしたら、面白い目の形をしている。三角のような、眼。

魚のような、前しか、目えないような、恥すらないのか。この男ーーそう女は、思うのである。

ーーあらゆる幻覚をみた感覚。あざとい笑顔が、あった。幻覚ではないようだ。

ーー物悲しそうな眼をして、哀れんだ。

(人相をみれば、幸せからかなり遠いと思う、皺が入っている。泣き顔にもみえて。)男は、話すのだ。


不幸の者の色をして。

(蝶になれない芋虫。まんざら、表現として、外れていない)。女はおもった。

女も、直感がいいのだろう。

(蝶になるとは、変身のことか。それとも、この男の幸せの、幻想なのか)。

不確実性の連続が、人生。しかし、運命やら、宿運など、男も女も、たしかに生きている。

世間、世相も、平和やらも危うく、不況もましているので。そう思う。

個性を尊び、自由をもとめる人間ばかりになってしまう日本において、生きる競争が無数に現れれば、この世は地獄になる筈の道理ではないか。

(だれも、足を止めることもなき、思考。)

ーー男の言葉の、その意味さえ、問わないのは、女が男に対しての、いわば手加減でもあった。

ーー無視のように。

此処の風俗店では、この風景は、驚きに値しない。

だれでも、何かを抱いてくるからである。スケベにはかわりない。だか、この男は、佛やら、菩提なら、ーー聞き慣れない言葉を吐いてくる。

女は、ふと思う。

こんな惨めさを、思うと。

自身をおもうと。

表裏ーー。人間とは、お金が絡めば、悲劇も、喜劇になり、見下す真理さえ生まれるのであって、まさに、修羅、餓鬼の世界でも見える時がある。

生死さえままにならない。

この世界の喜怒哀楽。あらゆる階層にして、コメディになってくるのは何であろうか。ーー悲しみでさえ、人間を軽くするのは、(お金で)あったから。おカネ、この一言は、人間の重みとやらを変える。

、一瞬に、吹き飛ばしてしまう。

おカネがなければ悪にさえ、裁かれる現実社会を。たとえば納税であるし。


神さえ、持ち出して争う人間だもの。女も多感であった。


シンジは

明日、死のうか、生きようか。シンジは悩んでいた。今を生きるこの瞬間を。と云います。


ーーーー。シンジという男は、一言でいば、此処に迷いこんだのではなく、目的地として来たような、感じさえ感じるのには、驚きを隠せない。

老いた、疲れた。そんな感じで。

ーー。

佛法より、温かき、愛する女に抱かれたなら、死んでも良かった。とさえ云うのだから。


女は、蔑む。

眼をみれば、わかった。冷たい瞳。


以外に、擦れていない初老男性なのか、

不明なのである。未成熟。まさに小心者なのであろう。これは、大人子供という(さなぎ)にもみえてくる。

成人になれぬ男。未成熟のいまの老人。


小刻みに震えている。

みっともないとさえ、思う。女である。


夏なのに。憐れにも、だれも目にとめない。冷たくない。これが学歴教育であり、社会的常識てあり、差別なき社会のベールである。

人間が、小さくも、女にはみえた。

チンケな男にもみえた。冷笑はとまらない。シンジは手を女に引かれてゆく。


マットプレイ前に、しばし時間がある。


此処は風俗店だから。

貧困で、痩せたような、腕。足。爪先。

汚れまで、そうみえた。投げやりな客。酒に溺れた客もいる。共通しているのは不満に満ちている。女は思う。


シンジは、

未熟な精神なのか。

一人佛法、僧のなりをして。

一人ごとを云う。

ーー小馬鹿にして、適当にあやして返せばいいのである。

サービスをするしない、は女の裁量でもある。

(勿論、仕事だからするが当然。)


この、身体を売る商売は、女は、心から嫌になっていた。わけても、このような男と会うたびに。苦しい。

うまくいえないが。 

偏見を除いても、平均がわからなくなる。ーー女の話である。

女の人生観すら、狂いだすように。

平衡感覚が、常識とやらも、一線が壊れてるように。(お金のため)。

(おカネさえあればと)

不特定多数の客なのだから。

男は、孤独や、やりきれないものなど、それを性欲とまるめて抱えてくるのである。

女も、この男もか。と感じた。

しかし突き放す。


男という生き物を見て来たが、ろくな男はいないと。ーー心理であろう。

(お客様なので、みなイイ男であるが、お金であるから)。強くなければいけれない。女は、拒食症になった過去さえある。男のせいで、ある。

精神の病であろう。女も疲れていた。

いい男を抱けば、違うのだが。

そうはいかない。


この業界は、いろいろある。女は、男に適当に相槌をうちながら、話をしながら、準備をしなければならない。

他愛の無い世間話。

今日は休み!?仕事!?

よく風俗店はくるの!?など。


ーーそうして思う。


貧乏な男、貧弱。それに反して、女もいつも自分を鏡でみる。

風俗店は、いつもキラキラ、チャラチャラな軽い音楽が流れている。

ーーそこから、海底のように、湧いてくる、お客様。女は此処は下界か、天界か。女自身は天使か。自身がわからない時さえあった。


(何であろうか!?)

迷うのだった。

カネのために、売る。それだけ。


天使も、悪魔も、同居するソープランド。夢の国。混在する泡を立てるのに。汚れも落としたい。マットを引きながら、女も死にたくなることさえある。

シンジに少し待たせ、

自身の身体を洗う。

そして、浴室、マットを用意する。

お湯を出す。一連の作業。


ーー女は、お金を呪う気持ちで、財布に詰め込む夢で、毎日を数える。

なんとか、カネをためて、此処から出る。その夢だ。

風俗店で働く女の仲間は、ストレスでこの仕事を辞めるものも多い。病んでしまうからだ。もちろんすべてではないが。

しかし、女は、知っている。闇を。


新人を売り出す、店。どこも同じ。

闇は闇であり、光にすらなる。


ーーそうして、この、今日は珍客だ。

(忌々しい。皆、同じ穴から湧いてくるようにもみえる。)

(なんで私がこの男の相手をしなきゃいけないの)。

皺の入った一万円札を浮かべて、笑う顔を作る。

……。

落ち着け。女は、深呼吸をした。


彼だけが特別ではなく、

お金もちで、プライドの塊のようなやつ。

インテリで、傲慢な男や、

下品醜悪な者。恥も無いような年齢不詳の生き物。

もはや、夢の中の、生物として、割り切って、相手をしていると思わないと。

ダメなのだ。

仲良くなることなど、微塵もない。見下す奴も、持ち上げる者も、裏に潜むのは人間の欲の波を観るように、一様に女は眺めていたのである。


性欲とは、やっかいなものである。

女も、それを知っている。

なので、割り切る。

不信はつのり、お金だけが、信用できるーー。

彼女たちは、お金のために、沈み、稼ぐ。

這い上がる為に。

明日の為に。戦う意味を固めて。

最先端の時代で、

軽薄な時代で、

ーー過酷な労働を強いている二人。

ーー思考さえ。それらを。のみ込んで。シャワーをだして、湯加減をみて、女は浴槽に湯を張る。

男。男を洗わねばーーと。汚い男。

憐れな男、泡をたてる。

クルクルと泡を手で作る。

女は、水が好きである。

浴槽のお湯が溜まる。


穢れを流してくれる、水。

キモい男を前に。言いしれぬ余韻は、(なぜこんな奴に身体を任せる仕事についたか、の後悔だ)。


「ふぅ~」聞こえないような溜息を吐く。

はみ出した男たちをのんでゆき仕事に。自らもはみ出してゆく精神を支えるのに。必死。

黒いようなちんこがみえる。

これを咥えなければならない。

ーーーー。

女は瞳を閉じた。過去を振り返る。


ーー女は大学中退をした。男に騙され、カネを取られたからだ。それで借金をした。二百万。惚れたのは女だった。

イケメンで。誰もが羨む美男子。

これが仇になった。

そうして風俗店に入る。それでーー世の中はどんなもか知っている。やはり、おカネ。金だ。

世間では、大不況で、倒産が増えている。

日本はどんどん貧しくなる。

それに生き方さえ、仕事の数も減る。

女は、結婚できなければ、年収をあげるしかない。

勿論、学歴や、キャリアがあってこそだが。

少しでも、その土台がら踏み外せば、誰も、否定はできない底なし沼に落ちる。

このシンジという男のように。こんな珍客だけは死んでも嫌だ。


女は、利口な方である。男を愛して、失敗しただけ。割り切る。

(女には、言葉にできない、トラウマがあった。しかし、その心理を誰に打ち明けたこともない。過去の話だ。

ーー愛を失った(彼との別れ)、この喪失感。この身体を売る仕事は。この高額な仕事でさえ、もしかしたら、愛を取り戻す過程でさえ、あるのかもしれない。そんな一縷の望みをどこかで幻想をいだく。

ーー女は、世相を暗くするものを呪う。

(政治のことはよくわからない)ただ肥え太るものは、既得権益の連中ということは分かる。いつも貧しいものが泣く世の中だ。

このシンジという、ヘンテコな男も。

言い訳ばかり、何が佛だ。何が菩提だ。菩薩とか、理由わからん。


それにうんざりして、彼女すら、涙も殺して生きた。弱い人間に、ヘドがでる。

私とは違う。ーーそういう心理は、(同じ類として)

ーー選別するのは、もしかしたら同じ不幸の、センサーで感知するからであろうか。

女は、そう感じた。

大雑把に。誰に語るでもなく……。風俗店で夜職を選び、お金を貯めて何かをしょうとするのに、女はその先がわからなかった。


女は愛に騙され、堕ちた。


この男は、堕ちて、さらに堕ち行く。


シンジという、貧しい男には、わかる筈もないだろうと、見下して。

ーーーー。

シャワーの音量が意識を呼ぶ。数百万の貯金も出来たが、今では辞めれない。


この街に、目的なんて何も見つからない。お金だけ。お金があればなんとかなる。そう信じてきた。

お金のために、こんな男の相手をせねばならない不遇をたらせば、身勝手だと言われるだろう。

ーー皮肉な話だ。


ーーーー。(この男、なんだろう。)そうおもった。

女は、今日、苛立ちを覚えた。重ねてみたのは、情弱な、この男と、女の、弱い精神なのに。邪険に嫌うのは、女は直感でわかっていたのかもしれない。

ーーあがらうことのできない、運命や宿命を。シンジの佛の話は、まるですべてが嫌味にきこえた。


風俗嬢の女の前での場面である。

優しい女を演ずる、そんな元気もない。

ひとの悩みなど、女には興味がない。


泣くこともない。彼女自身。

とりわけ、女性たちが稼ぐ場所は、風俗店タブーでもあるし。(貧困日本の女性たちの働く場所、秘匿その場所は必要な場所であるから、世の中はなんとも、上手くできているのか)。

理由があって、働く場所、ーー風俗店だからである。光があたる場所でもあり、

闇の部分は否めない。利用せねば、這い上がれない。 


そこにーー。

前置きして話し出す男がいる。女をみて、妄想で楽しんでいら変態野郎。

しかも僧形。(裸体になった男をみて)

時折、合掌のようなポーズをしている。

ーー殴りたいと、思った。

「マットの上で仰向けになって」女は言った。

「は、はい。」

シンジは寝た。


「人は生まれながらに決められた人生を歩んでいる。ーーもっとも、分かりやすくいえば、能力というものでしょうか。」と。

ーーーー。同じ事を繰り返すなと女は思う。が、聞いてやる。


 言語が時折、とまるときがあり、間がとれない。

ーー。

毒を、飲んだように、苦しいさまを見せるのですが、演じているのでしょうか。

僧のなりをしております。坊さんのように。平素闊達でもない。

知見のように、海のような知識も無い。

ーーそんな言葉にならない思いが込み上げる。


なのに、悩みを喝破するでもなく、飴のように、舐めるような言動。不快でしかない。

間髪入れず、女は、バッサリと、いいます。

「あなたは言語しゃべりが、遅いなあ」。

「え」男はたじろいだ。

小馬鹿にしたのである。


ーー女はまだ若い。神経がそのまま、反射的に罵った。

ーー揶揄したのです。男は歳下の女性に言われて少し、ムッとしました。

彼と対する女は、

対象的に、女性は、賢そうな人相をしております。

オデコは広く、眉は美しく、鼻梁は細い。肌は白く、美人の類であります。唇はやや薄く、瞳は整形のような二重でありました。

シンジは、歳下の女性に、馬鹿にされた。いかに、どんなことがあろうと、許されるものではない。としりながら。シンジは笑う。想えば、この女性は(プロフィールに年齢28歳とあり)ーーまるで芸能人の、それであります。綺麗なドレスを着た写真で魅了して、エロスのすべてを商品にした物にみえたのですから。

ーー拍子抜けしたのです。

男は妄想は、儚いと知りました。


やはり、失望は大きい。


…………。女は、関係ありません。女は、気も使いません。

ーーキモい。それだけ。

ーーすべて裏切る女。

しかも、喋りが遅いといわれて。悩みを打ち明けながら。この無様さ。その男は、眼を細くします。

ーーーー。滑稽であります。

足蹴にされたような、感覚。

普通なら、怒っても良い筈だ。 

なのに、(お客の)シンジは笑った。真意はわからない。この男は、怒りを楽しむように、笑いました。南無とばかりに。

馬鹿にされるのに慣れているのだろう。

そうに違いない。シンジすら、笑いの中に、潜むような、なんとも、やりきれない横顔が、暗がりの室内に滲んでみえます。

「ああ、そうです。おもった事も、言えず、いつも相手の事を優先し、合間を取る自分は、それでいて不器用な人間でありました」と言います。

また同じ繰り言を…………。


苦海巡めぐり。ーー苦役と称する労働者。

彼は、

大人子供のような、【大人】でありながら(すでに齢五十路とおもわれる)幼い目。

未熟なような目の揺らぎ。

みれば、頭髪は、剃っているようにみえる。ハゲているのか、坊主なのか、照明が暗いのでわからない。目の皺が際立つ。

孤独、孤絶、陰影は、絵の具にもない、土で溶いたような血の色があります。

風俗店には、いろいろあるものでございます。

わずかな若いような光は、稚拙な言動にあるように思えるのである。

たとえば、生きてきた経験が浅いのか、特に、知的障害でも背負ったような感じもあり、回りくどい話し方をみても、宿命的な、要領の悪さなどあるとみえるし、まんざら外れていないようにみえた。彼は健常者なのであろうか。しかし健常から外れない。それだけ。異常な、はみ出た男。

ギリギリアウトにならない、異常のなに人間なのだろう。

付け加えるなら、シンジという男は、いつも失敗するたちでありました。

素直であり、嘘のつけない馬鹿正直。それが仇となり、人から揶揄されたり、利用されたり、いわゆるどうでもいい(単に使われて捨てられるような)扱いになっただけなのであります。


ーーシンジは女を眺めていいました。

ーーふと、横顔が夜叉にもみえました。

菩薩おんなは、正面をむくと現れます。二面あるようにみえたのです。

女とは不思議でありました。

シンジは、おんなを知りませんでしたから。

ーーシンジの顔は、呆けております。

彼の瞳は、細いのであります。眉は伸びてますが、少し太く、気性はやや、穏やかなでありそうで、起伏があるのが感じます。内心は荒い気性か。と思う女。

阿呆な、憐れなシンジだ。おんなは、菩薩でありますが。それでさえ気品を絶やしません。男を憐れみ、呑んでゆきます。


女は、人を見る目が自然と備わっておりましたから。

やや間があり、シンジは、細い歯を見せました。その顔は、痩せたジャガイモの様に見えます。……。

「私は、徹底的な敗者でございます」。

「低賃金の警備員。恨むことなどなく、ひたすらに、生きました。ただブラック会社で飼われて、情けなく生きております。ーーもう三十有余年、勤めてますが、まるっきり、初任給扱いです。笑えません。この歳で。建て前は、ベテラン。ですが、悲惨ですよ。結婚もできず、真面目に働いたんですが。人の幸せとは、いつも自問しました。何もつかめませんでした。金もたまりませんし。それを誰かのせいとはいいませんが。確かなのは、そういう人間を集めてビジネスにする会社に、まるで大きなクモの巣に引っ掛かる人間が、わたくしなのですよ。それでいて。いまさら、こんなインフレの時代になり、、すべてがお手上げ状態になりました。困窮と窮乏。それでもウチの会社にもね。深刻な人手不足。人材投資もなし、福利もなし。安くつかうだけの、警備員なんですよ。誰でも取り替え可能な安価な仕事。ーーもう、死にたくなりましてね。少しまえまでは有給も取るなと平然といいました。ーーわたくしは、捨て駒であります。わらえます。それで我慢して、生きておりました。優秀な人間から、私の警備員の世界は辞めてゆきますーー」。

この男は、死ねばいい。

ーー女は思いました。冷酷さが、彼女の割り切りかたでありました。なぜなら、それを許せば、彼女自身が生きれなくなる。どこかで、彼女自身も、分かっていることだから。この世の有様を。


「笑ってください」。

シンジは、うなだれた。

「利益にありつけない人間とは、私であります」。

「ろくに、大した親孝行など、できません。掃除や、洗濯、身の世話の手伝い、介護、ーーしかし、気が病みます。」


「私は能無しなんで」。


「だから、みずから、お坊さんのなりで、自分の浄土をみつけるために、出家したんです。」

「お寺なんぞにも、帰属しない、出家です。」

「はっははっはっ」。男は笑うが声が小さい。なんと情けない。

ーー女は無視した。

…………。

「はじめから寺に属してません。帰属するような宗派もありません、師僧もおりません。自由意志を貫きます。かのーーお釈迦のように、悟りを得たまま、裸足で歩く始祖をめざしてまして。そこにシンジは己の大曼荼羅ほとけを根ざすのです。原始仏教いばらのみちを。

「そこに、ふと、浄土宗やらのお言葉で、背中を押してくれました」

「宗派など、寺にも帰属せず、本来宿運命運も、千差万別ならば、ーー生まれる行も、選ぶべきは、己であります。ですので」とシンジは、熱弁してつづける。

「ーー煩悩即菩提ぼんのうそくぼだい」「人間の持つ煩悩(欲望・怒り・迷いなど)そのものが、そのまま悟り(菩提)へと転じ、本来一体である」という大乗仏教の教えであります。生死即涅槃しょうじそくねはんと対で語られますが。煩悩を敵視して捨てるのではなく、悩みや苦しみといった現実の生命活動の中にこそ、悟りや喜びの源泉があると捉え、それを転換・昇華させることで真の幸福に至るならば、それを、私の愚鈍の悩み、若き日より、今に至るまでの孤独を、愛に捉え、ーー女性の胎蔵する(シンジの抱く煩悩こそ)愛の姿で、無明こそ鑑みようと、こうして風俗店を、巡るように、女性たちを、菩薩とみて、行をするわけであります」。

「諸仏諸神、宇宙法界、ありのままの姿こそ、愛の曼荼羅まことと観念いたしております。」

(変態野郎か!?)

何を言ってんのか、理由もわからない。

「はあ!?」。

キモ、なんやこいつ。ゲスやわ。

女は気持ち悪い、と思いました。

「キモ」声がでました。

しかも笑いながら。歳したであるのに。

勿論、それを知っての事である。

女は空間をつくる雰囲気を得意としていた。

話しを聞いてやる立場になっておりましたから。

不思議と裸に、互いがなれば、緊張が解けてもくるのであります。

女は、男にとって、

上位になっておりました。(まるで、子供の相談でも聞いているように)。

シンジはこれを愛と、感じているかはわからない。

侮蔑、さまざまな言い方もあるが、シンジは馬鹿にされているのである。しかし、

シンジが神聖化するのは、越えれない、女のしたたかさ、それに尽きました。

女の方が歳も智慧もある。

シンジの性格だと、そう思っておったのでしょう。上手だと。

ーー上手くいえない、男の不器用。孤独、わずか一生をも百年もいけれぬ人間に、男はなにを菩提とするのか、女には滑稽でありました。


ーー執着が愛ならば、放すことが必要なのに。離せないのだから。


女には馬鹿にされておりますが、それも介せず、喋ります。

ーーそして、シンジは、いいます。

愛の色盲なのでしょう。わたくしは。

心の眼が、曇っている。 

女は思った。この男は。

ーー芋虫。まんざらだ。女は思う。


愛を菩提として、釈迦牟尼世尊が、悟りを得た、菩提樹が、女にみえておりました。だから、シンジは、女の乳房を吸いました。まるで果物をもぎ取る手のように、ぐいと、引きました。

「痛っ」

ーーシンジは押されました。

突然なので、女が引き離したのです。

「やめて!」

「えっ」シンジは泣き顔になります。


女は素になっておりました。こんなチンケな人間に、なんでわたしが。

シンジの境遇など、

知ろうともしませんが。汚らしい目つきで睨みました。


「風俗店に通う、始めの第一理由は、重いかもしれませんが、愛を探求する、強さを知りたかったのです。世間さまの云う、愛の強さを」。

 また、いった……。

…………。(愛!?)女は、胸糞悪いものを感じました。

「愛!?」女は吹き出しました。

シンジは云います。

童貞の腐ったなれか。ーー腹から胃液がでそうに、不快になります。

「私は、生まれてから、宿命を感じております。」

「世間で、云います、負け組ですよ。分不相応に風俗店に来ておるのは、希望なのです。」

「女の人とマトモな恋愛もしたことありません。」

「笑ってください。いいんですよ」。と。

「……」。どうだろう。女も感じます。


「救われる風俗店。」

「わたくしは」

「生まれつき、愛されない男なのかもしれません」

「いろいろありまして、高校から社会人になる頃、宗教に入信したのですよ、そして」

「宗教にだまされ、お金を騙され、しまいに、風俗店通いがやめられない。ーー明日、死ぬ、それを今日よりも明日と信じてこうして生きてきました」。

「ですが、私の煩悩をとめられません」。(愛されない苦しみ。)

「…………」。シンジは続ける。

「最近なのですが、行きつけの、メンタルクリニックのカウンセラーに、あなたは、風俗依存症といわれたのですよ。そんな事はない、とすこし、怒鳴ってしまいました。そのカウンセラーがいうに、私の幼少期に、両親が離婚した経験から、愛が変形したたようで女性を愛せなくなりました。と、いいますが。いま思えば、私の問題であったのです。ーー勿論、過去の事実をカウンセラーは述べたのですがね。私は女性が常に、優位に見えてしまって、神聖化してみえて、それが原因で風俗店に通ってしまうというのですよ。そう真実なのどから。女性を優位にみてまう、そして、極めつけに愛せない(男なのです)」。

「私は幼い頃、両親が離婚して、それも起因しているのでしょうが」。

「欺瞞、憤懣、真実を渇望し、佛さま、いわゆる仏教に傾倒しました。自身が教祖となり、菩提心を、此処、大曼荼羅の発願とし、巡る決意をしたのです。ーーいわゆる、霊場のおやまと、同じです。」

「おやま、霊山と同じ、意味です。」

「風俗店は私の、菩提心なのです。いわばホーム。世間の薄暗いような理由はありません。ですので」

「だから、私は風俗店は、私の、修行の場ですと、キッパリ言ってやりました」。

「射精して、スッキリするだけでなく、私の修行の場所。宇宙の呼吸を感じるのです。」

「私は自分の宗教をつくりました。」

「私は、風俗店の女性たちを、大宇宙の曼荼羅の、諸天善神。呼吸し遍満する菩薩にみえたのですから」。

「エロスは天衣に見えて。釈迦牟尼世尊は、いつも、苦しまぬ、境地にみえました。」

…………。

なんなんだ、この男は。

だから、女は、言ってやりました。

「あなたは、あなたの悟りを開いてね! 

」と。女は強かに笑いました。

「はぁ。」

「………」

「はい。」

毒ついた女の心を悟ったように、シンジは、やがて警戒しだすようになっていった。女の態度が悪くなっている。

ちんこを口でくわえても、手で粗雑にシコいて、終わろうとしている。射精すればおわりなのだが。

シンジは射精する間に、修行の苦しみ、もっといえば、街の中で、彼がしてきたボランティアのトイレ掃除、ゴミ拾いなど、下座行として、みずからを枷としての日々の、黄金の記憶の合体でもあったからだ。

「あの、お尻を見せてください」

シンジはお尻が好きでありました。

菩薩の沸く、法華経のように。

シンジは、もう一度、お尻(肛門)を眺めたいと言った。

(気色悪い奴だ、女は思ったが仕方ない。)大宇宙の星たち。

宇宙のホコリさえ、星になる、神秘たち。シンジは、魅惑でありました。

ーー宇宙の神力、神秘。この造形。ダイナミックなお尻、まさしく地球の胎内でありましたから。

「あぁあ。」いってしまいました。

女は手コキで、陰茎を、激しく、シコリましたから。

女は、たくさんでたぞ。と、笑って、シャワーですぐさま流しておりました。

シンジは、いつまでも、この下界からぬけれないと悟りました。

六道輪廻このせかいの、欲界、菩提さとりをもとめ、烏枢沙摩明王うすさまみょうおうのように、我が身、我が魂はそのまま覚悟の上にあります。六道輪廻このしくみ、私の不浄をも、熱とかえて、我が身の力になります」。

「ただの糞尿、汚濁でなく、天上てんの露にも雨にも変えりて、土にも恵みとなり、蓮の葉にも栄養そようになります」。


「みな、お世話にる、六道せかいの菩提、菩薩のくりき」

「ならば、天恩。その身を、天地天罰じごく天国不浄ふじょう天人五衰ふしだらといえど、清浄天地、清浄天人、汚濁悪政はらんの世を、いかに救おうか、と悩みましたところ、まず、己を磨く行として、トイレを掃除致して、悟りの門を開かんと、一念発起したのであります」。トイレのすがたこそ、不浄の姿、綺麗にいたすことを、我が身に変えようとしたのです。烏枢沙摩明王ーーの行であります。

と誇らしげにシンジは笑った。

(シンジは下座行こそ、佛神の道と感じておりました。人の為に、お役に立つこと。菩薩行と発願しておりました)。


女は、舌をだしました。

もはや人知しらん不能しらんとばかり。


シンジは、女の尻を舐めておりました。

そうすると、たくましい牛のお尻にもみえました。

ーーーー。命のかたまり。

「わたくし、地獄、苦しみだけの世にうまれても。悔いはありません。シンジはひとり事をいいました。

「……」

女は嗤います。

ーーはぁ!?。女は、唖然とします。

シンジは、朗々と、また述べます。

「ーーたとえ餓鬼のごどく、常に飢えや渇きに苦しむ世界であろうと、、清浄の行します。街にあるトイレをボランティアを申し出て、綺麗にして、歩こう。それが、まず、心の行であり、お経を合わせての一体行と致します。汚い私、汚い穢れ。清浄を同一する本人わたくしの、行であります。

ーー愛はある筈ですから。

ーー愛のために。

ーー菩薩おんなは微笑みました。

「そうか、そうか」と。

世には物好きもあるものだ。と思います。ーーーー。

「感謝にみちて、人と愛和し、たとえ畜生のごどき欲望のままに生きる世界であろうとも。」シンジは続けます。

「修羅なり、争いばかりの世界に生まれても。」

「人間を愛して、汚れを見ようと。ーー汚れとは、本質を見ようと挑む決意であります。垢であり、業であります。」

天上てんじょうの音楽のように、悟りは生命に流れます。喜びや楽しみは永くは続かない。ーーただし、真理は揺らぎません」。


「今日は、気持ちよかったです。」

「今度、シンジは千日行をします。これは私の千人行。街を綺麗に(掃除、下座行)をします。

ーーゴミを拾い歩く、過酷な行です。」

「ひたすらに、他者を思い、ゴミを拾う。この重みを知る、行であります」。

ーーーー。

「佛を知り、己をしる。不浄をしり、人の不徳、善徳を噛みしめる。大慈悲自然界ほとけさまの清静作用を、大徳し、行する。お経は唱えるにあらず、行の一体。」

「南無妙法蓮華経や、光明真言など。」

「無辺に、輝きだしますよ」

……

「もちろん」

「空き缶や、各地のトイレを、掃除を願いたて、烏枢沙摩明王の行をするのです。烏枢沙摩明王とは、不浄を払う佛さま。そこに、善徳神力かみさまと今世に知らせて、愛を深めんと、大願をしたのであります。まさに、私の行。」

「わたくしの菩薩行です」。

「へぇ。なんだか、モノは言いようね」

女は、燻るような、笑顔と、口もとが歪み、片方がつりあがります。

シンジは、謹んでいいます。

「良かったら、あなたも、どうですか!」

「しませんよ、絶対に」女は、嗤いました。

ーーシンジにしてみれば、至極、最上級のデートの誘い文句でありましたが。


女は、嘲笑(わらう)


「でも、面白そうね」。


「指名を沢山してね。考えてみるわ。」


ーーリアルな現金で、男を試しました。

案の定、シンジはおカネが厳しいのか、目を細めました。

「佛だの、悟りだの、いじましいのよ」

女は、あまりにおかしくて、嗤いました。「アッハッハーー」と大声で。

その時、

シンジは女の肛門を、眺めておりました。シンジはお尻が好きでしたから。

まるで、天地のように、盛り上がる大地のように、眺めておりましたから。

宇宙の臍を観るがごとく。生命はここから生まれるーーと。

宇宙の創造主と見立てて、お題目やら、真言を唱えておりました。

女体は人間を生み出す佛たち、と重ねました。まさしく、シンジは菩薩を、みておりました。

これは、シンジの佛さまを抱く、理想形でありましたから。

ーー生命の大地。神の地球(ほし)とばかりに。シンジは、幸せでした。

その、ー体観が、シックスナイン(シンジの顔の前にお尻が乗る形であり、シンジの陰茎が女性の顔にある体位になっておりましたから)。すると急に、

運動をすると、腸がうごきます。

ゴロゴロ、と何度か、響きます。

ーーなんでしょうか!

ーーゴロゴロと女の腹から音がします。女は今朝食べたフルーツと、納豆など、その他、発酵食品のサプリのせいで、【ぶうーーーーきゅっ】と、凄まじい屁が出てしまいました。

「わ、あら、らら……あららら」

「いや、ごめんね、出たわ、やっと!」

「便秘でさ」

ーーシンジが笑うと思ったのでしょう。

シンジは、その時、女のお尻を眺めていたのです。屁は匂いは、なかなか去ることがありません。

ーー臭い、腐った魚のように。

ーー生ゴミのように。

諸行無常といいますが。匂いは、女の聖なるものを破壊しだしました。

凄いスピードであります。

ーー饐えた匂い。いままで女が、菩提、如来とか、大曼荼羅とか、方便、表現しましたが。ことごとく雲霧、蒸発してしまいました。微塵に。

ーー恐ろしい限りでございました。

シンジの荘厳な佛の世界は、嘘のように消えてしまいました。黄金の佛、菩薩たちは、忽ち消えます。

臭い。あまりにも臭い屁であった。

ぷーっ。ぶっ。間断な音は、遠慮もありましたが。


「煩悩即、ぶーー。」女は言葉で、ジョークを言ったのですが、返事は無し。

ーー女は嗤いました。シンジは、瞼をとじて、泣き顔でありました。


「ーー青天の霹靂ね」女は夜叉の顔で言いました。


天界の天女も、地へ、堕ちるほど。

とにかく腐った匂い。

肥溜めのような香り。肉体の可愛いらしさとは、あまりの対比で、ありました。

ぷーー。ぶぶ。ぶり。

豚の鳴く声。

雷のように、雲を裂きます。

空中散華、荘厳仏界は、裂けました。

女の美しい肛門から放たれた音。

男の脳膜を、鼻腔まで、つらぬいた。


「がぁ。」シンジは眼を大きくした。

細い目つきが、おおきくなりました。ーーがあ。顎に力を込めております。

ーーーー。想像するに、大きなトラウマになる姿であります。

電流がながれたように、苦しみました。

ーーーー。地殻変動。生まれる予感。

大宇宙の深淵の大菩薩、大曼荼羅は架空のモノに成り下がり、女は、単に性欲の糧でしかなくなっていた。

単に性欲のハケになり、菩薩たちは立ちどころに消えました。

あれほど、霊山(おやま)とたとえ、生きるゆえの、愛の執着とやらも。

ーーああ悲しい。この結末。

余程、その屁とは、恐ろしい。

仏天はたちまち崩れ去り。霊山と崇めた風俗店は、餓鬼畜生、どころではありません。飼育小屋のように、空気は抜けません。

お釈迦さまも、裸足で逃げるだろう、シンジは執着菩提ぼんのうと、この肉欲と愛にしがみついておりましたが。憐れなさま。

屁の、お経により、宇宙が回転したのであります。

ーー菩薩たちは、一斉に天国へ消えて参りました。屁は天空へ、菩薩たちを返しました。

シンジは、

【此処は、屎糞所(しふんじょ)地獄か】と呟いて、袈裟のようなボロを纏い、首に掛けて、店から逃げるように、走り去りました。シンジの衣服は、衣に穴をあけたような、袈裟(糞尿衣)でありましたから。

履物は、草履でしたので、転びそうに駆けてゆきました。

それをみて、

ーー女は、ゲラゲラと嗤い、

「ーーお客様お帰りです」と乱雑にいいました。

電話をして、見送ったのです。

「なんだうぜぇな」女は、腹を抱えて、笑いだしておりました。屁で答える女。 

女はさすがに、やりすぎたと思ったか、愁眉になりました。

 

ーー後日。

ーー女は、悟りを得たようです。

ちんまりとした風俗店みせをやめて、こんな男に相手にされないように、菩薩になりたいと、願ったのでしょう。

彼女から、お店の店長に、「仏教マニアの男性から、学んだことがある。ーーくだらいとおもった変わり者の珍客だったが。大きな収穫があったと。

ーー宿命という枷を外すこと。

自分の運命すらも、

飛び越えて、変革しろ、ということ。愛の求める力など。屁でもないが……。」

【ちいさな悟りで満足するな】という事だろう。大曼荼羅あらゆるものは宇宙に呼吸して、いろんな人間たちを、育てている。

ーー女は荷物をまとめて、退店した。丁度、1年前の春である。

シンジはまだ、下座行をしてんのか!?女は、時折、思いだすときがある。

 意図しない、あれ。

【ーーオナラである。】




南無烏枢沙摩明王、

南無、愛染明王、

南無妙法蓮華経、すべての菩薩たちに、

感謝してシンジは霊山おやまから降りた。ーー菩薩おんなたちに幸あれ。シンジは手を合わせて遥拝した。


彼は、自己満足して、下座行そうじをして自らの罪業消滅を、祈りあるいてゆく。ーー皮肉なのは、菩薩おんなーーに愛されないことだ。

ーーあらゆる菩薩行の、まだ途中なのだろう。愛はあるか。

ーーもちろんある。誰かの為にする思いの深さに、菩薩行は曼荼羅として胎蔵きのうする。



          終わり      



宿命、宿運、それは海の波間のよう。

嵐は人生を、小舟のごとく、もてあそぶ。

わずかな平安は、きらめく、幸福の波のうねり。

つながり、広がり、ながれゆく。

やがてたどり着く愛の大海。それは寂静の世界。

シンジの佛、菩薩は女であり、満たされた曼荼羅であったが。

女人の屁がいけない。美との亀裂。

ーー菩薩となり、黄金浄土であるはずの理想。

一ー音楽も、文学も、愛になり、かなめになっているがノイズは形相を崩す。

ーー烈火の愛染明王のたとえ。愛欲すら悟りかえてしまうほどの愛を、求道として。シンジは、生きたい。

ーーその炎は消えない。

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