蝶になれない、芋虫たち。曼荼羅編
人は生まれた時から決められ人生を歩むのではないか。
あなたは、人の幸せも、また不幸、禍福など、おおきな宿命を感じた事はありませんか。ーー決められたように。うねる運命、避けられない環境など。
ーー人間の愛を求める衝動、幸福の核。真実のテーマは、男と女に生まれる。愛の行為、セックスは愛の和合。それから入る不遇の男(愛されない男)話。佛法を救いとするが…。男の抱く大曼荼羅の妄想。
それは下座行を本道とする菩提幻想。
烏枢沙摩明王に現世の救いをもとめ、
愛染明王に、愛即菩提を夢みるシンジ。
女体が、菩薩。菩提への執着と、現実乖離。
風俗店が霊山となり、修行の疲れに寄る。
ーーそんな滑稽な風景。
破滅な、孤絶、貧困の警備員の私生活は歪む。
ーーそんな晩生の再生の道であり、
ボランティアであるく、掃除する男だ。
ーーカネ持ちの道楽でもない。
己の生きる糧は、
ーー佛と神への、繋めであった。(出家も得度もない)。
ただの、底辺に光明をもとめ、下座行にくれる。始祖、釈迦牟尼世尊を夢みる。唱えるは大宇宙
ーー救いたまえ。下界地獄の無常のさま。
ーー南無妙法蓮華経。宗派門別に群れず、孤高のおじさん。
ーー現世安穏なし。カネなし、家庭なし、明日さえ何もない。ただ生きる。
ーー釈迦牟尼世尊を、菩提とし、街を掃除してあるく、変わり者。僧侶の格好して、下座行をする。
ーー奇行なシンジ。
エロスと交錯する、大曼荼羅は、おんなたち。
本来無一物。この男の唯一の救いは、
ソープランド「風俗店」だった。
自性清浄、シンジは菩薩を、慈悲の夢とみて生きる。
「何をしてもダメな人間。要領がわるく、自らを卑下してきた人間が、自らの半生を後悔し、宗教にも騙され、残された預金さえ無いのに、ーー最期に辿りついたのは、奉仕の精神だった。ちいさな善行。街のゴミを拾う(下座行)」だ。
ーーそんな、つまらない男の話。
ーー彼は云う。
「人は、生まれた時から、決められた人生を、歩むのではないかとおもうのです。」
一人の男、シンジは告白します。
ーー女の前で。
歓迎されるでもなく、憐れな男は、見た目で分かるほど、老けてみえるものです。何をしてもダメな人間。
「生まれてきて、そういう人間は世にいるものです。」シンジもその、道を歩んでおります。
シンジという、名前の男らしい。
女は、訥々と話す男に、目を剥いた。
しゃべりだすが、長い。
「たとえば、人の一生を、ショートムービーで三分にまとめたなら、いかに、儚いかでしょうか。」(生老病死を)。
男は云います。我が人生なるものを。
「悲観論者と蔑むものもは高みの見物なのでしょうか。」
「此処は、弱い人間たちの、星なのです」。
「だから、弱いものから食われ、自然界すら成り立つのです。」
収奪してなりふり構わずの、世界を。
「富めるもの、貧しいもの。」
「人は神から、命を与えられるのに。」
「それは否めません。宇宙に存在するという真理であります。」
「あたかも、人間の幸せも、不幸も、試練と共にあるなら。ーー悲しくもあります」。
「貴女も、振り返れば、そう思う事はないでしょうか。
失敗する人は、何をしてもダメ。反対に、運を、持った人は、何をしても成功する者。」
「あと、何も挑戦しない人も。」
「寝て果報あるものもあるでしょうし。」
「千差万別であります」
「……。」
「は、」女は否定もしない。
シンジは、しゃべくる。
「つまりです、占いにおいても、実際に……、勝者劣敗は決められている、形をかえてね。言葉でも、説明できない不可思議なことがあるように。」
「どんな人間も、才能や能力の有無よりも、運命や宿命によって左右される力こそ。本来の、いわばみえない力で進んでゆく。それを人は、宿命というのではないかと思うのです。」
「努力を否定するのではなく、肯定しての話。みずからの意志に基づいて」
「運命は、環境といえましょうか」
「そこに、人間の、営みに、愛こそが究極の宿命としてあるならば、煩悩こそ。即菩提にかえよう、愛染明王の功徳によりーー愛欲煩悩を、さらけ出して、さらに深遠にして、わたくしは、広大な宇宙を捉えたのであります。」
ーーーー。
「光輝く、菩薩たち、清浄静寂にして、動静を一にする、悟りの境界に」。
ーーーー。
「シンジという、私の命は、
佛神へ、感謝と祈念の始まりでありました。小さな私の、不幸にも、恵みが生まれました。ーー貧しき私にも、笑いに変えたのです。」ーー。愛の力であります。
そんな興奮を、愛欲菩提として。
女をやや上目でみます。
ーーーー。
男の数をみてきた冷徹な瞳。女の面は、笑っていて、笑っていない。
眼は、芯がある。突き刺すように。
女の特有の眼差し。
シンジを小馬鹿にしているのが、小鼻の膨らみに言葉を含ましたようでした。それほど、無関心の面で見ております。
シンジはそれを知っているように、みておりましたが、云います。
……。
「穢れ、汚れ、そして、わたくしが愛を得られず苦しみさまよう。その本願こそを、風俗店で求めました。おカネを払ってであります」。
シンジは眼を半眼にします。
「見ての通り、わたくしはモテません」。ーー容姿も、冴えない。
痩せた芋のようである。
生まれた土地が、日陰であったのだろう。よく見れば僧侶のような、袈裟をきている。ーー変わった客。
ーー賢そうにもみえません。すべてが、しまらないネジで止めたような、マヌケが感じてならないのですから。ーー伝わるのは、緊張のないシンジの間延びしたような顔でもあります。
ーー。シンジは、いいます。
「決められたとは、単に、結果論ではありません。」
「私はそれに、気づいたのです」。
「ーーあなたはどう思いますか!?」
ーー女は、目を丸くした。
ーーなんだこの男は!
運命か、宿命か、そんな事をきいているのか!?
「理由、ーーしらないそんなの」
女はめんどくさい感じて答えました。
…………。
すると、また、
ーー男は、喋りだします。
「私は生まれた時から「決められた」人生を歩んでまいりました……。」
「蝶に成れない芋虫が、蝶になりたいと願ってもなれません。ーー私は芋虫だったのです。」
「もとから、種が違う、芋虫は蝶になれる筈もありません。蝶でない者。成虫にさえなれない。貧困の環境。くわえて、宿運、宿命に、流されました。」
「不出来な人。美をいつしか考察し、観るようになります。なぜ、美しいかを」。
「美とは、恵まれること。の意味であります」
「わたくしこと、シンジは、愛を求めても、えられませんでした。だから、此処に………風俗店ならやさしくしてくれると思い、いわゆる天上の音楽(天国に流れる音楽を云う)、神の創造を経験、悟りを得たい、欲望の昇華を望みたいと思いました」。
「体験することは、生きる意味でありますから」
「体験とは、貴女を抱くことです」。
「幸せ、愛、それらを混合しているのかと思われましょう。そうです、愛はおおきなもので構成されて、内包しているのです。ですので」。
頭がイカれている。
女はマジマジみます。
男はいいます。
「執着の力といえます、私にとって美は、豊満な愛でありました、佛法に合わせて、愛を求めたのです」。
「おのれの不遇だけを、いえば、単に、罰あたり。」
「いま思えばそれだけ」。
「人は、みえない制限された人生を歩むもの」
「よく想えば、拒否できない宿命とやらも。」
「…………。」
「そして、種(因縁でさえも。)」
「そんな、観念が、生まれながらに感じておりました。出来る人、出来ない人。それすら、分からずに苦しんだ青年期。中年期。初老に至るまで。」
「そうです。宿命ですよ、若い時は分かるはずはありません」。
「蝶になれない、芋虫………。それは私自身」
「何かしなければならないのに、それがわからない。それでいて底辺に落ちたのです」。
シンジという男は、五十を過ぎている枯れかけた男であった。
よくしゃべる男である。異常者だ。女は思った。
そんな彼は、女を見つめたまま、
「芋虫とは、そういう意味です」
「苦海一生、地獄めぐりです」
「生まれて苦海。」
「話は、すこし、変わりますが、死ぬにあたり解放浄土を、希望にかえました。解放とは(苦しみ)でありました。佛法しかないと」。
「私は、芋虫とたとえていいました。」
「葉っぱの裏で、雨にうたれ、蟻がきたら逃げて這いずり回り、鳥がきたら、一目散に、穴の中に隠れる。食物連鎖の下層ですから。」
ーー情弱な生き物は、目をみればあきらかである。
虫も、動物も、そして人間も。
シンジという男は、チンケな瞳をしていた。
漫画にしたら、面白い目の形をしている。三角のような、眼。
魚のような、前しか、目えないような、恥すらないのか。この男ーーそう女は、思うのである。
ーーあらゆる幻覚をみた感覚。あざとい笑顔が、あった。幻覚ではないようだ。
ーー物悲しそうな眼をして、哀れんだ。
(人相をみれば、幸せからかなり遠いと思う、皺が入っている。泣き顔にもみえて。)男は、話すのだ。
不幸の者の色をして。
(蝶になれない芋虫。まんざら、表現として、外れていない)。女はおもった。
女も、直感がいいのだろう。
(蝶になるとは、変身のことか。それとも、この男の幸せの、幻想なのか)。
不確実性の連続が、人生。しかし、運命やら、宿運など、男も女も、たしかに生きている。
世間、世相も、平和やらも危うく、不況もましているので。そう思う。
個性を尊び、自由をもとめる人間ばかりになってしまう日本において、生きる競争が無数に現れれば、この世は地獄になる筈の道理ではないか。
(だれも、足を止めることもなき、思考。)
ーー男の言葉の、その意味さえ、問わないのは、女が男に対しての、いわば手加減でもあった。
ーー無視のように。
此処の風俗店では、この風景は、驚きに値しない。
だれでも、何かを抱いてくるからである。スケベにはかわりない。だか、この男は、佛やら、菩提なら、ーー聞き慣れない言葉を吐いてくる。
女は、ふと思う。
こんな惨めさを、思うと。
自身をおもうと。
表裏ーー。人間とは、お金が絡めば、悲劇も、喜劇になり、見下す真理さえ生まれるのであって、まさに、修羅、餓鬼の世界でも見える時がある。
生死さえままにならない。
この世界の喜怒哀楽。あらゆる階層にして、コメディになってくるのは何であろうか。ーー悲しみでさえ、人間を軽くするのは、(お金で)あったから。おカネ、この一言は、人間の重みとやらを変える。
、一瞬に、吹き飛ばしてしまう。
おカネがなければ悪にさえ、裁かれる現実社会を。たとえば納税であるし。
神さえ、持ち出して争う人間だもの。女も多感であった。
男
明日、死のうか、生きようか。シンジは悩んでいた。今を生きるこの瞬間を。と云います。
ーーーー。シンジという男は、一言でいば、此処に迷いこんだのではなく、目的地として来たような、感じさえ感じるのには、驚きを隠せない。
老いた、疲れた。そんな感じで。
ーー。
佛法より、温かき、愛する女に抱かれたなら、死んでも良かった。とさえ云うのだから。
女は、蔑む。
眼をみれば、わかった。冷たい瞳。
以外に、擦れていない初老男性なのか、
不明なのである。未成熟。まさに小心者なのであろう。これは、大人子供という蛹にもみえてくる。
成人になれぬ男。未成熟のいまの老人。
小刻みに震えている。
みっともないとさえ、思う。女である。
夏なのに。憐れにも、だれも目にとめない。冷たくない。これが学歴教育であり、社会的常識てあり、差別なき社会のベールである。
人間が、小さくも、女にはみえた。
チンケな男にもみえた。冷笑はとまらない。シンジは手を女に引かれてゆく。
マットプレイ前に、しばし時間がある。
此処は風俗店だから。
貧困で、痩せたような、腕。足。爪先。
汚れまで、そうみえた。投げやりな客。酒に溺れた客もいる。共通しているのは不満に満ちている。女は思う。
シンジは、
未熟な精神なのか。
一人佛法、僧のなりをして。
一人ごとを云う。
ーー小馬鹿にして、適当にあやして返せばいいのである。
サービスをするしない、は女の裁量でもある。
(勿論、仕事だからするが当然。)
この、身体を売る商売は、女は、心から嫌になっていた。わけても、このような男と会うたびに。苦しい。
うまくいえないが。
偏見を除いても、平均がわからなくなる。ーー女の話である。
女の人生観すら、狂いだすように。
平衡感覚が、常識とやらも、一線が壊れてるように。(お金のため)。
(おカネさえあればと)
不特定多数の客なのだから。
男は、孤独や、やりきれないものなど、それを性欲とまるめて抱えてくるのである。
女も、この男もか。と感じた。
しかし突き放す。
男という生き物を見て来たが、ろくな男はいないと。ーー心理であろう。
(お客様なので、みなイイ男であるが、お金であるから)。強くなければいけれない。女は、拒食症になった過去さえある。男のせいで、ある。
精神の病であろう。女も疲れていた。
いい男を抱けば、違うのだが。
そうはいかない。
この業界は、いろいろある。女は、男に適当に相槌をうちながら、話をしながら、準備をしなければならない。
他愛の無い世間話。
今日は休み!?仕事!?
よく風俗店はくるの!?など。
ーーそうして思う。
貧乏な男、貧弱。それに反して、女もいつも自分を鏡でみる。
風俗店は、いつもキラキラ、チャラチャラな軽い音楽が流れている。
ーーそこから、海底のように、湧いてくる、お客様。女は此処は下界か、天界か。女自身は天使か。自身がわからない時さえあった。
(何であろうか!?)
迷うのだった。
カネのために、売る。それだけ。
天使も、悪魔も、同居するソープランド。夢の国。混在する泡を立てるのに。汚れも落としたい。マットを引きながら、女も死にたくなることさえある。
シンジに少し待たせ、
自身の身体を洗う。
そして、浴室、マットを用意する。
お湯を出す。一連の作業。
ーー女は、お金を呪う気持ちで、財布に詰め込む夢で、毎日を数える。
なんとか、カネをためて、此処から出る。その夢だ。
風俗店で働く女の仲間は、ストレスでこの仕事を辞めるものも多い。病んでしまうからだ。もちろんすべてではないが。
しかし、女は、知っている。闇を。
新人を売り出す、店。どこも同じ。
闇は闇であり、光にすらなる。
ーーそうして、この、今日は珍客だ。
(忌々しい。皆、同じ穴から湧いてくるようにもみえる。)
(なんで私がこの男の相手をしなきゃいけないの)。
皺の入った一万円札を浮かべて、笑う顔を作る。
……。
落ち着け。女は、深呼吸をした。
彼だけが特別ではなく、
お金もちで、プライドの塊のようなやつ。
インテリで、傲慢な男や、
下品醜悪な者。恥も無いような年齢不詳の生き物。
もはや、夢の中の、生物として、割り切って、相手をしていると思わないと。
ダメなのだ。
仲良くなることなど、微塵もない。見下す奴も、持ち上げる者も、裏に潜むのは人間の欲の波を観るように、一様に女は眺めていたのである。
性欲とは、やっかいなものである。
女も、それを知っている。
なので、割り切る。
不信はつのり、お金だけが、信用できるーー。
彼女たちは、お金のために、沈み、稼ぐ。
這い上がる為に。
明日の為に。戦う意味を固めて。
最先端の時代で、
軽薄な時代で、
ーー過酷な労働を強いている二人。
ーー思考さえ。それらを。のみ込んで。シャワーをだして、湯加減をみて、女は浴槽に湯を張る。
男。男を洗わねばーーと。汚い男。
憐れな男、泡をたてる。
クルクルと泡を手で作る。
女は、水が好きである。
浴槽のお湯が溜まる。
穢れを流してくれる、水。
キモい男を前に。言いしれぬ余韻は、(なぜこんな奴に身体を任せる仕事についたか、の後悔だ)。
「ふぅ~」聞こえないような溜息を吐く。
はみ出した男たちをのんでゆき仕事に。自らもはみ出してゆく精神を支えるのに。必死。
黒いようなちんこがみえる。
これを咥えなければならない。
ーーーー。
女は瞳を閉じた。過去を振り返る。
ーー女は大学中退をした。男に騙され、カネを取られたからだ。それで借金をした。二百万。惚れたのは女だった。
イケメンで。誰もが羨む美男子。
これが仇になった。
そうして風俗店に入る。それでーー世の中はどんなもか知っている。やはり、おカネ。金だ。
世間では、大不況で、倒産が増えている。
日本はどんどん貧しくなる。
それに生き方さえ、仕事の数も減る。
女は、結婚できなければ、年収をあげるしかない。
勿論、学歴や、キャリアがあってこそだが。
少しでも、その土台がら踏み外せば、誰も、否定はできない底なし沼に落ちる。
このシンジという男のように。こんな珍客だけは死んでも嫌だ。
女は、利口な方である。男を愛して、失敗しただけ。割り切る。
(女には、言葉にできない、トラウマがあった。しかし、その心理を誰に打ち明けたこともない。過去の話だ。
ーー愛を失った(彼との別れ)、この喪失感。この身体を売る仕事は。この高額な仕事でさえ、もしかしたら、愛を取り戻す過程でさえ、あるのかもしれない。そんな一縷の望みをどこかで幻想をいだく。
ーー女は、世相を暗くするものを呪う。
(政治のことはよくわからない)ただ肥え太るものは、既得権益の連中ということは分かる。いつも貧しいものが泣く世の中だ。
このシンジという、ヘンテコな男も。
言い訳ばかり、何が佛だ。何が菩提だ。菩薩とか、理由わからん。
それにうんざりして、彼女すら、涙も殺して生きた。弱い人間に、ヘドがでる。
私とは違う。ーーそういう心理は、(同じ類として)
ーー選別するのは、もしかしたら同じ不幸の、センサーで感知するからであろうか。
女は、そう感じた。
大雑把に。誰に語るでもなく……。風俗店で夜職を選び、お金を貯めて何かをしょうとするのに、女はその先がわからなかった。
女は愛に騙され、堕ちた。
この男は、堕ちて、さらに堕ち行く。
シンジという、貧しい男には、わかる筈もないだろうと、見下して。
ーーーー。
シャワーの音量が意識を呼ぶ。数百万の貯金も出来たが、今では辞めれない。
この街に、目的なんて何も見つからない。お金だけ。お金があればなんとかなる。そう信じてきた。
お金のために、こんな男の相手をせねばならない不遇をたらせば、身勝手だと言われるだろう。
ーー皮肉な話だ。
ーーーー。(この男、なんだろう。)そうおもった。
女は、今日、苛立ちを覚えた。重ねてみたのは、情弱な、この男と、女の、弱い精神なのに。邪険に嫌うのは、女は直感でわかっていたのかもしれない。
ーーあがらうことのできない、運命や宿命を。シンジの佛の話は、まるですべてが嫌味にきこえた。
風俗嬢の女の前での場面である。
優しい女を演ずる、そんな元気もない。
ひとの悩みなど、女には興味がない。
泣くこともない。彼女自身。
とりわけ、女性たちが稼ぐ場所は、風俗店タブーでもあるし。(貧困日本の女性たちの働く場所、秘匿その場所は必要な場所であるから、世の中はなんとも、上手くできているのか)。
理由があって、働く場所、ーー風俗店だからである。光があたる場所でもあり、
闇の部分は否めない。利用せねば、這い上がれない。
そこにーー。
前置きして話し出す男がいる。女をみて、妄想で楽しんでいら変態野郎。
しかも僧形。(裸体になった男をみて)
時折、合掌のようなポーズをしている。
ーー殴りたいと、思った。
「マットの上で仰向けになって」女は言った。
「は、はい。」
シンジは寝た。
「人は生まれながらに決められた人生を歩んでいる。ーーもっとも、分かりやすくいえば、能力というものでしょうか。」と。
ーーーー。同じ事を繰り返すなと女は思う。が、聞いてやる。
言語が時折、とまるときがあり、間がとれない。
ーー。
毒を、飲んだように、苦しいさまを見せるのですが、演じているのでしょうか。
僧のなりをしております。坊さんのように。平素闊達でもない。
知見のように、海のような知識も無い。
ーーそんな言葉にならない思いが込み上げる。
なのに、悩みを喝破するでもなく、飴のように、舐めるような言動。不快でしかない。
間髪入れず、女は、バッサリと、いいます。
「あなたは言語が、遅いなあ」。
「え」男はたじろいだ。
小馬鹿にしたのである。
ーー女はまだ若い。神経がそのまま、反射的に罵った。
ーー揶揄したのです。男は歳下の女性に言われて少し、ムッとしました。
彼と対する女は、
対象的に、女性は、賢そうな人相をしております。
オデコは広く、眉は美しく、鼻梁は細い。肌は白く、美人の類であります。唇はやや薄く、瞳は整形のような二重でありました。
シンジは、歳下の女性に、馬鹿にされた。いかに、どんなことがあろうと、許されるものではない。としりながら。シンジは笑う。想えば、この女性は(プロフィールに年齢28歳とあり)ーーまるで芸能人の、それであります。綺麗なドレスを着た写真で魅了して、エロスのすべてを商品にした物にみえたのですから。
ーー拍子抜けしたのです。
男は妄想は、儚いと知りました。
やはり、失望は大きい。
…………。女は、関係ありません。女は、気も使いません。
ーーキモい。それだけ。
ーーすべて裏切る女。
しかも、喋りが遅いといわれて。悩みを打ち明けながら。この無様さ。その男は、眼を細くします。
ーーーー。滑稽であります。
足蹴にされたような、感覚。
普通なら、怒っても良い筈だ。
なのに、(お客の)シンジは笑った。真意はわからない。この男は、怒りを楽しむように、笑いました。南無とばかりに。
馬鹿にされるのに慣れているのだろう。
そうに違いない。シンジすら、笑いの中に、潜むような、なんとも、やりきれない横顔が、暗がりの室内に滲んでみえます。
「ああ、そうです。おもった事も、言えず、いつも相手の事を優先し、合間を取る自分は、それでいて不器用な人間でありました」と言います。
また同じ繰り言を…………。
苦海巡めぐり。ーー苦役と称する労働者。
彼は、
大人子供のような、【大人】でありながら(すでに齢五十路とおもわれる)幼い目。
未熟なような目の揺らぎ。
みれば、頭髪は、剃っているようにみえる。ハゲているのか、坊主なのか、照明が暗いのでわからない。目の皺が際立つ。
孤独、孤絶、陰影は、絵の具にもない、土で溶いたような血の色があります。
風俗店には、いろいろあるものでございます。
わずかな若いような光は、稚拙な言動にあるように思えるのである。
たとえば、生きてきた経験が浅いのか、特に、知的障害でも背負ったような感じもあり、回りくどい話し方をみても、宿命的な、要領の悪さなどあるとみえるし、まんざら外れていないようにみえた。彼は健常者なのであろうか。しかし健常から外れない。それだけ。異常な、はみ出た男。
ギリギリアウトにならない、異常のなに人間なのだろう。
付け加えるなら、シンジという男は、いつも失敗するたちでありました。
素直であり、嘘のつけない馬鹿正直。それが仇となり、人から揶揄されたり、利用されたり、いわゆるどうでもいい(単に使われて捨てられるような)扱いになっただけなのであります。
ーーシンジは女を眺めていいました。
ーーふと、横顔が夜叉にもみえました。
菩薩は、正面をむくと現れます。二面あるようにみえたのです。
女とは不思議でありました。
シンジは、おんなを知りませんでしたから。
ーーシンジの顔は、呆けております。
彼の瞳は、細いのであります。眉は伸びてますが、少し太く、気性はやや、穏やかなでありそうで、起伏があるのが感じます。内心は荒い気性か。と思う女。
阿呆な、憐れな男だ。おんなは、菩薩でありますが。それでさえ気品を絶やしません。男を憐れみ、呑んでゆきます。
女は、人を見る目が自然と備わっておりましたから。
やや間があり、シンジは、細い歯を見せました。その顔は、痩せたジャガイモの様に見えます。……。
「私は、徹底的な敗者でございます」。
「低賃金の警備員。恨むことなどなく、ひたすらに、生きました。ただブラック会社で飼われて、情けなく生きております。ーーもう三十有余年、勤めてますが、まるっきり、初任給扱いです。笑えません。この歳で。建て前は、ベテラン。ですが、悲惨ですよ。結婚もできず、真面目に働いたんですが。人の幸せとは、いつも自問しました。何もつかめませんでした。金もたまりませんし。それを誰かのせいとはいいませんが。確かなのは、そういう人間を集めてビジネスにする会社に、まるで大きなクモの巣に引っ掛かる人間が、わたくしなのですよ。それでいて。いまさら、こんなインフレの時代になり、、すべてがお手上げ状態になりました。困窮と窮乏。それでもウチの会社にもね。深刻な人手不足。人材投資もなし、福利もなし。安くつかうだけの、警備員なんですよ。誰でも取り替え可能な安価な仕事。ーーもう、死にたくなりましてね。少しまえまでは有給も取るなと平然といいました。ーーわたくしは、捨て駒であります。わらえます。それで我慢して、生きておりました。優秀な人間から、私の警備員の世界は辞めてゆきますーー」。
この男は、死ねばいい。
ーー女は思いました。冷酷さが、彼女の割り切りかたでありました。なぜなら、それを許せば、彼女自身が生きれなくなる。どこかで、彼女自身も、分かっていることだから。この世の有様を。
「笑ってください」。
シンジは、うなだれた。
「利益にありつけない人間とは、私であります」。
「ろくに、大した親孝行など、できません。掃除や、洗濯、身の世話の手伝い、介護、ーーしかし、気が病みます。」
「私は能無しなんで」。
「だから、みずから、お坊さんのなりで、自分の浄土をみつけるために、出家したんです。」
「お寺なんぞにも、帰属しない、出家です。」
「はっははっはっ」。男は笑うが声が小さい。なんと情けない。
ーー女は無視した。
…………。
「はじめから寺に属してません。帰属するような宗派もありません、師僧もおりません。自由意志を貫きます。かのーーお釈迦のように、悟りを得たまま、裸足で歩く始祖をめざしてまして。そこにシンジは己の大曼荼羅を根ざすのです。原始仏教を。
「そこに、ふと、浄土宗やらのお言葉で、背中を押してくれました」
「宗派など、寺にも帰属せず、本来宿運命運も、千差万別ならば、ーー生まれる行も、選ぶべきは、己であります。ですので」とシンジは、熱弁してつづける。
「ーー煩悩即菩提」「人間の持つ煩悩(欲望・怒り・迷いなど)そのものが、そのまま悟り(菩提)へと転じ、本来一体である」という大乗仏教の教えであります。生死即涅槃と対で語られますが。煩悩を敵視して捨てるのではなく、悩みや苦しみといった現実の生命活動の中にこそ、悟りや喜びの源泉があると捉え、それを転換・昇華させることで真の幸福に至るならば、それを、私の愚鈍の悩み、若き日より、今に至るまでの孤独を、愛に捉え、ーー女性の胎蔵する(シンジの抱く煩悩こそ)愛の姿で、無明こそ鑑みようと、こうして風俗店を、巡るように、女性たちを、菩薩とみて、行をするわけであります」。
「諸仏諸神、宇宙法界、ありのままの姿こそ、愛の曼荼羅と観念いたしております。」
(変態野郎か!?)
何を言ってんのか、理由もわからない。
「はあ!?」。
キモ、なんやこいつ。ゲスやわ。
女は気持ち悪い、と思いました。
「キモ」声がでました。
しかも笑いながら。歳したであるのに。
勿論、それを知っての事である。
女は空間をつくる雰囲気を得意としていた。
話しを聞いてやる立場になっておりましたから。
不思議と裸に、互いがなれば、緊張が解けてもくるのであります。
女は、男にとって、
上位になっておりました。(まるで、子供の相談でも聞いているように)。
シンジはこれを愛と、感じているかはわからない。
侮蔑、さまざまな言い方もあるが、シンジは馬鹿にされているのである。しかし、
シンジが神聖化するのは、越えれない、女のしたたかさ、それに尽きました。
女の方が歳も智慧もある。
シンジの性格だと、そう思っておったのでしょう。上手だと。
ーー上手くいえない、男の不器用。孤独、わずか一生をも百年もいけれぬ人間に、男はなにを菩提とするのか、女には滑稽でありました。
ーー執着が愛ならば、放すことが必要なのに。離せないのだから。
女には馬鹿にされておりますが、それも介せず、喋ります。
ーーそして、シンジは、いいます。
愛の色盲なのでしょう。わたくしは。
心の眼が、曇っている。
女は思った。この男は。
ーー芋虫。まんざらだ。女は思う。
愛を菩提として、釈迦牟尼世尊が、悟りを得た、菩提樹が、女にみえておりました。だから、シンジは、女の乳房を吸いました。まるで果物をもぎ取る手のように、ぐいと、引きました。
「痛っ」
ーーシンジは押されました。
突然なので、女が引き離したのです。
「やめて!」
「えっ」シンジは泣き顔になります。
女は素になっておりました。こんなチンケな人間に、なんでわたしが。
シンジの境遇など、
知ろうともしませんが。汚らしい目つきで睨みました。
「風俗店に通う、始めの第一理由は、重いかもしれませんが、愛を探求する、強さを知りたかったのです。世間さまの云う、愛の強さを」。
また、いった……。
…………。(愛!?)女は、胸糞悪いものを感じました。
「愛!?」女は吹き出しました。
シンジは云います。
童貞の腐ったなれか。ーー腹から胃液がでそうに、不快になります。
「私は、生まれてから、宿命を感じております。」
「世間で、云います、負け組ですよ。分不相応に風俗店に来ておるのは、希望なのです。」
「女の人とマトモな恋愛もしたことありません。」
「笑ってください。いいんですよ」。と。
「……」。どうだろう。女も感じます。
「救われる風俗店。」
「わたくしは」
「生まれつき、愛されない男なのかもしれません」
「いろいろありまして、高校から社会人になる頃、宗教に入信したのですよ、そして」
「宗教にだまされ、お金を騙され、しまいに、風俗店通いがやめられない。ーー明日、死ぬ、それを今日よりも明日と信じてこうして生きてきました」。
「ですが、私の煩悩をとめられません」。(愛されない苦しみ。)
「…………」。シンジは続ける。
「最近なのですが、行きつけの、メンタルクリニックのカウンセラーに、あなたは、風俗依存症といわれたのですよ。そんな事はない、とすこし、怒鳴ってしまいました。そのカウンセラーがいうに、私の幼少期に、両親が離婚した経験から、愛が変形したたようで女性を愛せなくなりました。と、いいますが。いま思えば、私の問題であったのです。ーー勿論、過去の事実をカウンセラーは述べたのですがね。私は女性が常に、優位に見えてしまって、神聖化してみえて、それが原因で風俗店に通ってしまうというのですよ。そう真実なのどから。女性を優位にみてまう、そして、極めつけに愛せない(男なのです)」。
「私は幼い頃、両親が離婚して、それも起因しているのでしょうが」。
「欺瞞、憤懣、真実を渇望し、佛さま、いわゆる仏教に傾倒しました。自身が教祖となり、菩提心を、此処、大曼荼羅の発願とし、巡る決意をしたのです。ーーいわゆる、霊場のおやまと、同じです。」
「おやま、霊山と同じ、意味です。」
「風俗店は私の、菩提心なのです。いわばホーム。世間の薄暗いような理由はありません。ですので」
「だから、私は風俗店は、私の、修行の場ですと、キッパリ言ってやりました」。
「射精して、スッキリするだけでなく、私の修行の場所。宇宙の呼吸を感じるのです。」
「私は自分の宗教をつくりました。」
「私は、風俗店の女性たちを、大宇宙の曼荼羅の、諸天善神。呼吸し遍満する菩薩にみえたのですから」。
「エロスは天衣に見えて。釈迦牟尼世尊は、いつも、苦しまぬ、境地にみえました。」
…………。
なんなんだ、この男は。
だから、女は、言ってやりました。
「あなたは、あなたの悟りを開いてね!
」と。女は強かに笑いました。
「はぁ。」
「………」
「はい。」
毒ついた女の心を悟ったように、シンジは、やがて警戒しだすようになっていった。女の態度が悪くなっている。
ちんこを口でくわえても、手で粗雑にシコいて、終わろうとしている。射精すればおわりなのだが。
シンジは射精する間に、修行の苦しみ、もっといえば、街の中で、彼がしてきたボランティアのトイレ掃除、ゴミ拾いなど、下座行として、みずからを枷としての日々の、黄金の記憶の合体でもあったからだ。
「あの、お尻を見せてください」
シンジはお尻が好きでありました。
菩薩の沸く、法華経のように。
シンジは、もう一度、お尻(肛門)を眺めたいと言った。
(気色悪い奴だ、女は思ったが仕方ない。)大宇宙の星たち。
宇宙のホコリさえ、星になる、神秘たち。シンジは、魅惑でありました。
ーー宇宙の神力、神秘。この造形。ダイナミックなお尻、まさしく地球の胎内でありましたから。
「あぁあ。」いってしまいました。
女は手コキで、陰茎を、激しく、シコリましたから。
女は、たくさんでたぞ。と、笑って、シャワーですぐさま流しておりました。
シンジは、いつまでも、この下界からぬけれないと悟りました。
「六道輪廻、欲界、菩提をもとめ、烏枢沙摩明王のように、我が身、我が魂はそのまま覚悟の上にあります。六道輪廻、私の不浄をも、熱とかえて、我が身の力になります」。
「ただの糞尿、汚濁でなく、天上の露にも雨にも変えりて、土にも恵みとなり、蓮の葉にも栄養になります」。
「みな、お世話にる、六道の菩提、菩薩のくりき」
「ならば、天恩。その身を、天地天罰、天国不浄、天人五衰といえど、清浄天地、清浄天人、汚濁悪政の世を、いかに救おうか、と悩みましたところ、まず、己を磨く行として、トイレを掃除致して、悟りの門を開かんと、一念発起したのであります」。トイレの門こそ、不浄の姿、綺麗にいたすことを、我が身に変えようとしたのです。烏枢沙摩明王ーーの行であります。
と誇らしげにシンジは笑った。
(シンジは下座行こそ、佛神の道と感じておりました。人の為に、お役に立つこと。菩薩行と発願しておりました)。
女は、舌をだしました。
もはや人知、不能とばかり。
シンジは、女の尻を舐めておりました。
そうすると、たくましい牛のお尻にもみえました。
ーーーー。命のかたまり。
「わたくし、地獄、苦しみだけの世にうまれても。悔いはありません。シンジはひとり事をいいました。
「……」
女は嗤います。
ーーはぁ!?。女は、唖然とします。
シンジは、朗々と、また述べます。
「ーーたとえ餓鬼のごどく、常に飢えや渇きに苦しむ世界であろうと、、清浄の行します。街にあるトイレをボランティアを申し出て、綺麗にして、歩こう。それが、まず、心の行であり、お経を合わせての一体行と致します。汚い私、汚い穢れ。清浄を同一する本人の、行であります。
ーー愛はある筈ですから。
ーー愛のために。
ーー菩薩は微笑みました。
「そうか、そうか」と。
世には物好きもあるものだ。と思います。ーーーー。
「感謝にみちて、人と愛和し、たとえ畜生のごどき欲望のままに生きる世界であろうとも。」男は続けます。
「修羅なり、争いばかりの世界に生まれても。」
「人間を愛して、汚れを見ようと。ーー汚れとは、本質を見ようと挑む決意であります。垢であり、業であります。」
「天上の音楽のように、悟りは生命に流れます。喜びや楽しみは永くは続かない。ーーただし、真理は揺らぎません」。
「今日は、気持ちよかったです。」
「今度、シンジは千日行をします。これは私の千人行。街を綺麗に(掃除、下座行)をします。
ーーゴミを拾い歩く、過酷な行です。」
「ひたすらに、他者を思い、ゴミを拾う。この重みを知る、行であります」。
ーーーー。
「佛を知り、己をしる。不浄をしり、人の不徳、善徳を噛みしめる。大慈悲自然界の清静作用を、大徳し、行する。お経は唱えるにあらず、行の一体。」
「南無妙法蓮華経や、光明真言など。」
「無辺に、輝きだしますよ」
……
「もちろん」
「空き缶や、各地のトイレを、掃除を願いたて、烏枢沙摩明王の行をするのです。烏枢沙摩明王とは、不浄を払う佛さま。そこに、善徳神力と今世に知らせて、愛を深めんと、大願をしたのであります。まさに、私の行。」
「わたくしの菩薩行です」。
「へぇ。なんだか、モノは言いようね」
女は、燻るような、笑顔と、口もとが歪み、片方がつりあがります。
シンジは、謹んでいいます。
「良かったら、あなたも、どうですか!」
「しませんよ、絶対に」女は、嗤いました。
ーーシンジにしてみれば、至極、最上級のデートの誘い文句でありましたが。
女は、嘲笑。
「でも、面白そうね」。
「指名を沢山してね。考えてみるわ。」
ーーリアルな現金で、男を試しました。
案の定、シンジはおカネが厳しいのか、目を細めました。
「佛だの、悟りだの、いじましいのよ」
女は、あまりにおかしくて、嗤いました。「アッハッハーー」と大声で。
その時、
シンジは女の肛門を、眺めておりました。シンジはお尻が好きでしたから。
まるで、天地のように、盛り上がる大地のように、眺めておりましたから。
宇宙の臍を観るがごとく。生命はここから生まれるーーと。
宇宙の創造主と見立てて、お題目やら、真言を唱えておりました。
女体は人間を生み出す佛たち、と重ねました。まさしく、シンジは菩薩を、みておりました。
これは、シンジの佛さまを抱く、理想形でありましたから。
ーー生命の大地。神の地球とばかりに。シンジは、幸せでした。
その、ー体観が、シックスナイン(シンジの顔の前にお尻が乗る形であり、シンジの陰茎が女性の顔にある体位になっておりましたから)。すると急に、
運動をすると、腸がうごきます。
ゴロゴロ、と何度か、響きます。
ーーなんでしょうか!
ーーゴロゴロと女の腹から音がします。女は今朝食べたフルーツと、納豆など、その他、発酵食品のサプリのせいで、【ぶうーーーーきゅっ】と、凄まじい屁が出てしまいました。
「わ、あら、らら……あららら」
「いや、ごめんね、出たわ、やっと!」
「便秘でさ」
ーーシンジが笑うと思ったのでしょう。
シンジは、その時、女のお尻を眺めていたのです。屁は匂いは、なかなか去ることがありません。
ーー臭い、腐った魚のように。
ーー生ゴミのように。
諸行無常といいますが。匂いは、女の聖なるものを破壊しだしました。
凄いスピードであります。
ーー饐えた匂い。いままで女が、菩提、如来とか、大曼荼羅とか、方便、表現しましたが。ことごとく雲霧、蒸発してしまいました。微塵に。
ーー恐ろしい限りでございました。
シンジの荘厳な佛の世界は、嘘のように消えてしまいました。黄金の佛、菩薩たちは、忽ち消えます。
臭い。あまりにも臭い屁であった。
ぷーっ。ぶっ。間断な音は、遠慮もありましたが。
「煩悩即、ぶーー。」女は言葉で、ジョークを言ったのですが、返事は無し。
ーー女は嗤いました。シンジは、瞼をとじて、泣き顔でありました。
「ーー青天の霹靂ね」女は夜叉の顔で言いました。
天界の天女も、地へ、堕ちるほど。
とにかく腐った匂い。
肥溜めのような香り。肉体の可愛いらしさとは、あまりの対比で、ありました。
ぷーー。ぶぶ。ぶり。
豚の鳴く声。
雷のように、雲を裂きます。
空中散華、荘厳仏界は、裂けました。
女の美しい肛門から放たれた音。
男の脳膜を、鼻腔まで、つらぬいた。
「がぁ。」シンジは眼を大きくした。
細い目つきが、玉なりました。ーーがあ。顎に力を込めております。
ーーーー。想像するに、大きなトラウマになる姿であります。
電流がながれたように、苦しみました。
ーーーー。地殻変動。生まれる予感。
大宇宙の深淵の大菩薩、大曼荼羅は架空のモノに成り下がり、女は、単に性欲の糧でしかなくなっていた。
単に性欲のハケになり、菩薩たちは立ちどころに消えました。
あれほど、霊山とたとえ、生きるゆえの、愛の執着とやらも。
ーーああ悲しい。この結末。
余程、その屁とは、恐ろしい。
仏天はたちまち崩れ去り。霊山と崇めた風俗店は、餓鬼畜生、どころではありません。飼育小屋のように、空気は抜けません。
お釈迦さまも、裸足で逃げるだろう、シンジは執着菩提と、この肉欲と愛にしがみついておりましたが。憐れなさま。
屁の、お経により、宇宙が回転したのであります。
ーー菩薩たちは、一斉に天国へ消えて参りました。屁は天空へ、菩薩たちを返しました。
シンジは、
【此処は、屎糞所地獄か】と呟いて、袈裟のようなボロを纏い、首に掛けて、店から逃げるように、走り去りました。シンジの衣服は、衣に穴をあけたような、袈裟(糞尿衣)でありましたから。
履物は、草履でしたので、転びそうに駆けてゆきました。
それをみて、
ーー女は、ゲラゲラと嗤い、
「ーーお客様お帰りです」と乱雑にいいました。
電話をして、見送ったのです。
「なんだうぜぇな」女は、腹を抱えて、笑いだしておりました。屁で答える女。
女はさすがに、やりすぎたと思ったか、愁眉になりました。
ーー後日。
ーー女は、悟りを得たようです。
ちんまりとした風俗店をやめて、こんな男に相手にされないように、菩薩になりたいと、願ったのでしょう。
彼女から、お店の店長に、「仏教マニアの男性から、学んだことがある。ーーくだらいとおもった変わり者の珍客だったが。大きな収穫があったと。
ーー宿命という枷を外すこと。
自分の運命すらも、
飛び越えて、変革しろ、ということ。愛の求める力など。屁でもないが……。」
【ちいさな悟りで満足するな】という事だろう。大曼荼羅は宇宙に呼吸して、いろんな人間たちを、育てている。
ーー女は荷物をまとめて、退店した。丁度、1年前の春である。
シンジはまだ、下座行をしてんのか!?女は、時折、思いだすときがある。
意図しない、あれ。
【ーー屁である。】
南無烏枢沙摩明王、
南無、愛染明王、
南無妙法蓮華経、すべての菩薩たちに、
感謝してシンジは霊山から降りた。ーー菩薩たちに幸あれ。シンジは手を合わせて遥拝した。
彼は、自己満足して、下座行をして自らの罪業消滅を、祈りあるいてゆく。ーー皮肉なのは、菩薩ーーに愛されないことだ。
ーーあらゆる菩薩行の、まだ途中なのだろう。愛はあるか。
ーーもちろんある。誰かの為にする思いの深さに、菩薩行は曼荼羅として胎蔵する。
終わり
宿命、宿運、それは海の波間のよう。
嵐は人生を、小舟のごとく、弄ぶ。
わずかな平安は、きらめく、幸福の波のうねり。
つながり、広がり、ながれゆく。
やがてたどり着く愛の大海。それは寂静の世界。
シンジの佛、菩薩は女であり、満たされた曼荼羅であったが。
女人の屁がいけない。美との亀裂。
ーー菩薩となり、黄金浄土であるはずの理想。
一ー音楽も、文学も、愛になり、かなめになっているがノイズは形相を崩す。
ーー烈火の愛染明王のたとえ。愛欲すら悟りかえてしまうほどの愛を、求道として。シンジは、生きたい。
ーーその炎は消えない。




