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魔術師になりますので、あとのことはどうかお気になさらず~私、溺愛されているって、本当ですか?  作者: 秋月 忍


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会議

 今回の討伐隊は、総大将を皇太子とし、任務は遺跡の修繕だ。

 火の迷宮遺跡のあるデスラート山脈は険しい山岳地帯のため、岩場が多く、人もあまり住んでいない。そういう面では、少しだけ他の迷宮より人里に被害が及ぶまでに若干の余裕はあるが、そのぶん、遺跡にたどり着くまでの道が険しい。

 会議の場に集められたのは、五十人ほどだろうか。

 皇帝を筆頭に大臣、軍部の将軍など、お歴々が並ぶ。中央の玉座に陛下が座り、その脇に皇太子であるアラン殿下、あとは、全員がそれに対面するように座る。最前列には、聖女であるマリア・エラヌ伯爵令嬢が神官長であるヴァル・レイアーとともに座っていた。

 父であるラクセーヌ公爵は財務大臣のため、他の大臣たちと同様、前の方に座っていた。

 師匠は私を隣に座らせようとしたが、そうなると父との距離がすごく近いため遠慮して、私は最後列に座る。

 もっとも、父はまっすぐに前を見ており、私のことなど気づいていないようだ。いや、気づいていないふりをしているのかもしれない。事情は陛下から話してもらうことになっていたから、私が何を言ったのかはきっと知っているはずだ。

 ただ、私は間違った選択をしたとは思っていない。両親が反対しても、愛想をつかされたとしても、覆すつもりはないのだ。

 これまではずっと、両親に言われたとおりに生きてきた。逆らう勇気はなかった。

 だから。たとえそれが過ちであろうとも、一度くらい、自分の意志で選んで生きてみたい。

 そして、皇太子の最側近である兄は、殿下の後方でひっそりと立っている。この会場で武器の携帯を認められている数少ない護衛の一人だ。

 兄は、私と目が合うと、いたずらっぽくウインクをして、私にだけわかるようにちょっとだけ指を立てた。

 兄は私が魔術師になりたいと思っていたことを知っている。

 少なくとも家族で、兄だけは、祝福をしてくれているようだ。

「というわけで、今朝の報告によれば、現在は迷宮階層二階までの下級の魔物のみに限定されている」

 アラン殿下が、中央に立ち、状況を説明し始めた。

 迷宮遺跡から魔物が出てくる場合、徐々に階層の深い魔物が出てくるのが常だ。当然、階層が深いところにいる魔物の方が強い。

「迷宮遺跡の防衛隊は、火の谷で応戦している。戦線を維持はしているが、遺跡からは離れてしまっているため、修復はできていない」

 火の谷というのは、切り立った崖にはさまれた細い川沿いの谷の道だ。火の迷宮遺跡から伸びる一本道で、その狭さを生かして防御をするのには向いている。ただ、それは対人戦、および、人と移動手段を同じくする魔物に限定する。魔物には、切り立つ崖をものともせず移動するものもいるし、中には鳥のように空を飛ぶものもいる。そんな魔物が上空から攻撃してきたら、狭い場所に密集しているだけに、致命的なダメージを被るだろう。

「我々の目指すところはシンプルだ。遺跡にたどり着き、聖女の力で遺跡の魔物を抑えている間に修復を完了し、あふれ出た魔物を一掃するだけだ」

「どの程度、遺跡に接近すれば魔物の出現を止めることが可能なのですか?」

 将軍の一人が手を挙げた。

「神官長、どうなんだ?」

「はい」

 殿下に話を振られて、レイアー神官長が立ち上がる。

「歴代最高と言われた先々代の聖女でも、遺跡の門に触れる必要がありました。崩れた現場まで行かなければいけないということはないでしょうが、少なくとも遺跡の敷地内にたどり着く必要はあるでしょう」

 崩れた場所まで目視できる位置まで行く必要はないが、かといって遠隔地でどうにかなるというものではないということのようだ。

「そして、ここを気を付けていただきたいのですが、聖女どのの力による封印は、永続ではありません。ですから、一時的な停止と認識していただきたい。はっきりと申し上げられませんが、長くて、五日です。重ね掛けすることもできますが、徐々に継続時間は短くなります」

「つまり、その間に、物理的に修復をする必要があるということだ」

 殿下の言葉に、工兵と思われる騎士が息をのむのが伝わってきた。結局のところ、聖女の力で魔物の出現を抑えている間に、工兵がいかに迅速に作業できるかにかかっているということだ。

「教え長はどう思う?」

 殿下が教え長である、ジャックス・ヴァルド伯爵に意見を求める。

「幸い、と言っていいのかはわかりませんが、火の魔物は、攻撃力は高いですが、防御力はそれほどではありません」

 長は説明を始めた。

「接近できれば、通常武器で十分倒せます。ただ、奴らのほとんどが炎を吐いたり、まとったりしており、熱と火の粉をまき散らします。使える魔術については……ラクセーヌ嬢、わかるかね?」

「は、はい」

 突然、長に指名され、私はびくりとしながら立ち上がった。

「一部の魔物を除いて、火の迷宮遺跡の魔物は、全属性、それなりにダメージが与えられるとの記録がありました。ただ、火の魔術の場合は、周囲の大気の温度が上がります。防火服で火傷は防げても、熱中症の危険が高まります。また、周囲に少なからず延焼の危険もありますし、火のエレメントの魔術は避けるべきと考えます」

 私はゆっくりと習ったことを整理していく。

 火の魔物は、その存在自体が発火の原因になる。どんなに防火を施した服を着ていても、大気の気温上昇は止められない。火に火で対抗するのは、あまり得策とは言えないだろう。

「また、風の魔術も術者の魔力が魔物を圧倒していなければ、かえって勢力を強めることもございますので注意が必要です。光と影の魔術に関しましては、個別に効果が大きく違いますので、都度判断が必要となるでしょう。よって、水、大地のエレメント、可能であれば氷が一番有効と考えます」

 言い終えて辺りを見回すと、しんと静まり返っている。

 何か間違ったのかと焦って、長を見ると、長は大きく頷いた。

「うん。さすがギスカールの自慢の弟子だけあって知識量は十分だ」

「おそれいります」

 私は頭を下げる。

 どうやら今の質問は、ここにいるお歴々への顔見せということなのだろう。一斉に向けられた視線を気にしないように、真っすぐに長を見ながら、私はそのまま着席をする。

「あの」

 エラヌ伯爵令嬢が手を挙げる。

「防衛の魔法陣のような魔物除けの陣は効かないのですか?」

 魔物除けの術が可能であれば、少なくとも遺跡まで安全に行ける。そう考えるのは当然だろう。

「結論から申し上げるなら、魔物除けの陣については、あまり現実的ではありません」

 長は大きく息を吐いた。

「術に効果があるかといえば、あります。ただし、陣を地に縫い留める術であるため、移動はできないのです」

 防御の魔法陣は、帝都を守るには適している。だが、陣が動かせない以上、行軍中の軍を守るようなことはできないのだ。

「さらに申し上げるなら、防御の魔法陣は、多くの魔術師が魔力を込め、丁寧に描いた陣を使って維持しているもの。戦闘のさなかで、そのような共同作業は不可能です。一から一人で大地に陣を描いてとなると、大量の魔力を消費するため、並みの術者では、陣を描くことすら難しいでしょう」

 術を行使する以前の問題だと長は語る。

「陣を完成させても効果時間はせいぜい六時間弱。討伐隊のメンバーで使えるとしたら、殿下とクリッシュ公爵とラクセーヌ嬢の三人くらいでしょうか。また、その三人でも、術を一度使ったら、まる一日は気絶したままとなります」

 ざわりと、あたりにどよめきがおきた。

「使用判断は主席宮廷魔術師である公爵がするでしょうが、正直、その後のことを考えると、大幅な戦力ダウンとなることは否めないです。聖女殿の封印と並行して使うことなら、それなりの意味はあるとは思いますが」

「……そうなのですか」

 彼女は落胆したようだった。

 私はともかく、殿下や師匠が一日戦線から離脱してしまうのは、あまりにも痛いことは、簡単に想像できる。しかも移動できないのでは、その場にくぎ付けになってしまうということだ。

「ということは、やはり聖女さまのお力が、鍵というわけですな」

 ポツリと呟いた声は、神殿長のようだった。

 がっかりしているというより、どこか誇らしげに聞こえたのは気のせいだろうか。

 それにしても。

 私は魔避けの術を知らない。私も使えるというのであれば、出立までにマスターしておくべきだろう。いざという時、知らないから使えないでは格好が悪すぎる。そう考えると、出立までの時間があまりにも短くて、もどかしく感じてしまう。

 魔物と戦うのに、必ずしも高位の術は必要ないが、使わないのと使えないのでは話が全然違ってくる。

「というわけで、補給に就きましては……」

 会議が進む中、私は自分の中でやっておきたいリストを考えていた。



 

 

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