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空の歌(スカイ・ソング)  作者: 碧桜 詞帆
七章 空の歌が見える時
73/79

79.黎明 & 80.心を吹き抜ける風

 黎明を告げる光は大地と空の境界より現れる。

 五百年前に終焉を迎えた廃街(ゴーストタウン)にも。

 空と最も近い黄昏塔にも。

 人知れぬ荒野の一辺にさえも。

 グリームランドに生きる全ての者の許へ。その時を知らせようと。



 そしてそれは、古城の闇すら浄化し、光を届けた。

「いいのか? まだ戦えたんだろ?」

 テイトは石壁に身体を預けながら、その正面で空を仰ぐ者の背中に問いかけた。

 彼――ガリルフはテイトの声に振り返る。

「失敗した時は軍師返上でも結構って言い出すから、俺はてっきり決死の覚悟なんだと思ってたぜ?」

 そこに責めの意はない。なんとなく今なら彼の本音が聞ける気がしたのだ。この静穏に包まれている間なら。

「ふ……。私にも解らんな。なぜ彼女がそばに来た時、剣を上げなかったのか。たった一振りだったというのに」

 珍しく彼は自嘲の笑みをこぼした。しかし、それもどこか柔らかい。

「……だが、私もこの光景を見たかったのかもしれんな」

 その時、テイトは口を噤んだ。空を仰ぐ彼が、本当に笑ったのだ。

 何にも染まっていない心の綻びを、テイトは垣間見た。

「おかしくなったと思うか」

 無言でいるテイトへ、彼は今までになく穏やかな様子で問いかけた。テイトも微笑みを返す。

「いいや。納得してるならいいんだ。俺も死ぬ前に一度見れて良かったよ。連れて来てくれたこと、感謝すんぜ。軍師殿」

「ふ……」

 ガリルフは曾祖父が残した言葉の意味をようやく理解し、心のしこりがすっと消えていくのを感じた。

 そして、その隙間を吹き抜けていく風もまた感じながら、ガリルフは囁いた。

 ――これがグリームランドか、と。


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