60.信じてくれるから
温室育ちの世間知らずで。
体力のない方なのに好奇心旺盛で。
何をするにも楽しそうで。
マイペースなくせにみんなのことを常に気にかけていて。
そんな彼女の笑顔が、たまらなく好きで。
「守りたいんだ。俺の手で」
魔法が使えなくたって、騎士の試験に二度落ちたって、諦めきれなかった。
そばにいたい。
騎士として隣に立って、彼女を守りたい。
「ならば来るがいい」
ガリルフの剣が唸った。対するジンレイも左手を添え、剣を正中線に構え直す。
「言われなくたって!」
ジンレイが大きく踏み込んだ。攻撃かフェイントかは寸でのところまで見計らったが、ガリルフが防御の姿勢を取ったので無遠慮に叩き込む。
ガリルフの扱う得物はジンレイのものより長刃で分厚い。ガリルフはジンレイの攻撃を悠々と防ぎ止めることが出来るというのに、ジンレイがガリルフの攻撃を受け止めようものなら、一発でその刃を粉砕されてしまうことだろう。
この差は大きい。
諸々の不利点を抱えながらも今まで互角に戦ってきたが、左肩の傷が痛んでその形勢が傾いてきた。
押されている。……このままではまずい。
「その傲慢な願い、貴様の手には過ぎたものだと思わないか?」
「……そりゃ、思うよ。でも、――俺一人じゃない」
こんな力及ばない人間の我儘に、喜んで手を貸してくれる奴等がいる。
一人の旧友に会う。それだけのために大事な任務や仕事を放り出して、はたまた放浪の旅から舞い戻って来て他人の家に押しかけては、挙句の果てに孤立無援上等で敵の要塞に突撃する――まさに昔思い描いていたヒーローみたいなことを、この歳になって大真面目にやってのける奴等が。
これはもう、英雄というよりバカに近いのかもしれない。
いや、実際にバカなんだと思う。それもみんながみんな、筋金入りの大バカだ。
「五人で分ければ軽いもんだ」
そしてその中でも、ジンレイはとびきりの大バカ野郎。
己の夢を叶えたいという気持ちは強い。けれどそれ以上に、捨てかけたこの夢を拾い上げてもう一度チャンスをくれた彼らに、成就する瞬間を見てもらいたいと思う気持ちの方が何倍も大きかった。目的が擦り替わっているが、これがジンレイの本心だ。
信じてくれる彼らの期待に、応えたい。
「その仲間が無事とは限らんぞ」
「無事だよ。絶対に」
ジンレイは一片の疑いもなく断言した。
現存する全ての魔術を所持している、最高位魔術士のリンファに。
不屈と寛厚の精神に強靭的な肉体を持つ、心優しき豪傑のワモルに。
聡明で決して揺らぐことのない、高尚な意志を抱く努力家のアズミに。
仲間思いでいざとなれば手段を選ばない、一発逆転屋のキルヤに。
彼らがユリエナを前にして負けるはずがない。
「だから、俺も負けるわけにはいかない」
これ以上にない頼もしい仲間達がついている。恐れるものは何もないのだ。
今はただ目の前の敵に集中すればいい。
姫を守る従順な騎士のように。




