55.到底及ばない
アズミの指揮する部隊――フォルセス国軍第十二中隊の隊士達が駆け付けてくれたことで、残党も一人残らず制圧し、なんとか状況終了に持ち込むことが出来た。
「もう。あなた達という人は……」
結果だけ見ればまさに孤軍の大活躍。誉められることを期待してもいいところだが、彼らが黄昏塔で指揮を執っている軍師の命令を無視してここまで来てしまったということを忘れてはいけない。無事帰還したとして、果たして反省指導や謹慎処分で済むかどうか。せめて解散だけは免れるよう国王に陳謝する必要がありそうだ。
「それを隊長が言います?」
そばに立っていたライゼンが、彼女の独り言に耳の痛くなるような言葉を返した。
マグダラ召喚時は必ず隊士を補佐に付ける、というのがアズミと隊士との約束だった。その約束を守らなかったことについて随分と根に持たれているようだ。止むを得なかったとは言え、アズミも悪かったと思っている。ここで自分にもしものことがあれば、十二中隊は今日にでも解散させられてしまうのだから。
「でも、……ありがとう。みんなが来てくれて本当に助かりました」
式魔王を召喚しても、恐らくアズミ一人で状況終了に持ち込むのは難しかっただろう。運良く事が運んだとしても力尽きて倒れていたかもしれない。
そう考えれば、ケミーに回復魔法を施してもらった上に休憩まで取れたことは充分過ぎる幸運と言えた。おかげでほぼ全快している。
「いやいや、隊長こそよくあの局面でマグダラを制御しておりました。御見それします」
「内心焦ってたんじゃないです? 気が散ったりしませんでした?」
式魔召喚の際、契約主はどうしても無防備になってしまう。その不安から少しでも制御を怠れば式魔はたちまち暴走し、契約主は魔法力を食い尽くされ衰弱死に至る。その意味でも精神力が要となっているが、ユリエナや先に行ったジンレイ達を守るためならこの身を賭しても構わないと覚悟を決めていたアズミは、結果的に無事マグダラを制御することが出来た。
「どちらかというと、マグダラがわたしの意思を汲んでくれたようでしたけど……」
「そうだったんですか? だとしても、それも含めて隊長の実力ですよ。さすがは天才魔導士ですね」
「そんな。わたしなんて天才じゃないです」
「またまた~。ご謙遜を」
確かに最も高度な資格を最年少で取得し、同時に国家資格まで取得したアズミを天才と評する者は多い。そしてそれだけに留まらず、策士の資格も取得し弱冠十五歳にして中隊まで与えられているのだから、むしろ天才児以外の何者でもない。
しかし、アズミは知っている。自分など天才でもなんでもないということを。
そして恐らく、リンファだって。
「ほんとです。あの人の才能と比べたらわたし達なんて、到底及びません」




