6.8年前のあの日
それは八年前のこと。
読み書きや四則演算、魔法の基礎などを学ぶ場所――学修院というところで、俺達は知り合った。学年は三つにまたがっていたが、俺達六人はそんなことお構いなしに毎日遊び回っていた。ママゴトを無理矢理やらされたこともあった。けれどあの頃はやっぱり、チャンバラするのが一番楽しかった。
当時、昼休みは大概校舎の裏庭でチャンバラをしていた。
「今日もまたそれ?」
壁際に積まれた木箱に腰かけている少女が、頬杖をつきながら飽き飽きした口調で呟く。
「毎日毎日棒ふりまわして、よく飽きないわね」
「これがすげぇ面白んだって。リンファもやるか?」
「やーよ」
少女はぷいっと顔を反らす。
「えー」
「キルヤ行けば?」
共感してもらえなかったことに残念そうな顔をすると、少女はその隣で壁に寄り掛かっている少年に話を振った。しかしその少年も苦笑して首を横に振る。
「オイラなんかが入ったら、すぐけちょんけちょんにされるっスよ」
「でも、ジンレイとワモルはほんとに強くて、……かっこいいのです」
口を開けばきつい言葉が飛び出す少女のすぐそばにもう一人、ちょこんと座っている少女もまた微苦笑を浮かべた。控え目な口調で、けれど一生懸命伝えようとする。
「アズミだってすげぇじゃん。この前ショウマよびだしたんだろ?」
「え、あ……」
一瞬で顔が赤く染まる。
「アズミなら〝まどうし〟も夢じゃないわね」
「リンファこそ、今回も魔法のテスト一位だったって……」
「まぁそこのジンレイとワモルがいなきゃ全部一位だったんだけどね」
「まあジンレイは体育しに学校きてるようなもんスから」
「そういうキルヤも、てんらん会で賞もらってたろ?」
他人を褒めてばかりの彼だって負けていないのだ。
「オイラ、機械いじりだけは好きっスから」
彼はガッツポーズを決めて屈託なくはにかむ。
「こうしてみると、みんな取り柄があるもんだな」
ジンレイの正面に立つ、チャンバラ相手の少年も話に加わる。
「みんなの力を合わせたらすごそう、なのです」
「みんなが……?」
不意にジンレイが黙り込む。そして。
「いいなそれ!」
少女の何気ない言葉がジンレイの感性に触れた。
「おれらヒーローになれるじゃん! 悪いやつらから世界を守るヒーローに!」
「ヒーロー、ですか?」
「そ! だっておれら集まったら最強じゃん?」
チャンバラに夢中だったのと同時に英雄に憧れた当時は、いつか世界の危機を救う存在になることを大真面目に夢見ていた。
「キルヤが〝ぎし〟でいろんなもの作ってくれてさ。アズミが〝まどうし〟でシキマたくさんよんで、リンファが〝まじゅつし〟で魔法をうちまくる。そんでおれとワモルが〝けんし〟で、一番前でたたかうんだ」
目を輝かせて語るジンレイに、みんなも少なからず乗り気な様子。
「悪いやつらって何よ」
そこへ頬杖をつきながら、毒舌少女。
「悪いやつらだよ」
「だから具体的にはなに?」
「えー……っと?」
その辺は全く考えていなかったジンレイに、少女は溜息を一つ。
「はぁ。せめてフォルセス国家の反逆者とか他惑星からの侵入者とか、もっとイメージ湧くようなもの言えないの?」
「おぉ! いいな、はんぎゃくしゃ! しんにゅうしゃ!」
「もう。私もまだ魔術士になるって決めたわけじゃないけど。でもまあ、――」
頬杖を外し、ジンレイを睨んでいた目を柔らかく細めた。
「それも悪くないわね」
淡い夢物語を膨らませてゆく幸せな時間。俺達に不可能はないと本気でそう思えた。
しかし、その空想は一人の少女の、たった一言によってあっさりと砕け散ることになる。
「あ、ユリエナだ」
「みんな楽しそうだね。こんなところで何してるの?」
後からやってきた少女にも話をすると、彼女はみんなとは違う反応を示した。
みんな少なからず目を輝かせたのに、彼女は――彼女だけは、きょとんとした顔をして。
そして俺達に現実を教えた。誇らしそうでもなければ、悲しそうでもなく、ただ知っていることをそのまま言葉にしたとばかりに彼女は告げたのだ。
「もし太陽がなくなったら、この身を捧げることになるかもしれないの」と。
太陽と同じ色をした彼女の髪が、妙に眩しかった。
***