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空の歌(スカイ・ソング)  作者: 碧桜 詞帆
六章 時が過ぎても変わらないもの
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51.強さを求める程に

『よかったら友達になってくれませんか?』

 そう言われた時のことをふと思い出した。

 先程撃った魔法の術式を復元(リピート)。その隣で水魔法と氷魔法を同時発動(ユニゾン)。背中には既に発動中の中規模魔法の魔法陣が展開されている。

 上級魔術士だけの裏ワザとも言っていいサブアクションを二つ三つ起こして、休みなく魔法を連発する。まさに魔法が雨霰となって降り注ぐ状態だ。

「くそっ……反則だろ、これ……!」

 先手は直接発動(ショートカット)できるリンファが取った。それを分かっていた反逆魔術士も撃ち合いは避け円柱の陰へ。そこで初撃をやりすごし次の詠唱の隙に反撃しようと考えていたのだ。いくら上級魔術士であろうと魔法と魔法の空白はどうすることも出来ないはず。

 しかしまだかまだかと窺っていてもその好機は一向にやってこなかった。発動と同時に次の魔法を展開して繋ぐため、リンファの魔法攻撃が途切れることはないのだ。反逆魔術士は反撃のタイミングも未だ掴めず、逃げ回る羽目になった。

 魔法を発動中に別の魔法を展開。確かにこれを繰り返せば連発は可能だ。しかし口が一つしかない以上、詠唱は一度に一つしか出来ない。どちらかの直接発動(ショートカット)は必須だ。その場合、直接発動(ショートカット)可能な下級魔法が間に入り込むことになる。それならそれで、かなりハードではあるが反撃も臨めるはずだった。

 それなのにリンファはあろうことか中級魔法も直接発動(ショートカット)するのだ。おまけに広間全体を飲み込むような中規模の範囲魔法もわんさか発動する。反逆魔術士は生き延びるので必死の状況だった。

「……だからって、このまま終われるかよ!」

 反逆魔術士は多少の負傷を覚悟して倒れた円柱の隙間で素早く詠唱。すかさずリンファにそれをぶつけた。精一杯の足掻き。だがこれで魔法の雨霰が止むならそこから体勢を立て直せばいい。――だが、リンファは飛んでくる巨大な爆炎玉の方へすっと手を伸ばした。

防壁ディフェンド・ウォール

 爆炎玉と彼女の僅か数十センチの間に青白く発光した壁が出現し、真正面から衝突。防壁の欠片と共に爆炎玉は飛び散った。

「ほ……保留(ホールド)してたのか……?」

 あっけなく防がれたことに目を疑う。

 いつから……? という疑問が反逆魔術士の脳裏に浮かんだ。

「最初から控えておくものよ。単体戦では当然でしょ」

 格が違う。踏んだ場数が違い過ぎて決死の反撃も児戯にしかならないことを思い知った。

「ちくしょう……! おまえ、本当に人間かよっ!」

 もはや人間ワザじゃない。悲鳴にも似た叫びを吐き捨てながら広間の中を逃げ回る反逆魔術士。リンファは特に反応を示さず、淡々と再び防壁を保留(ホールド)。同時に魔法陣を二、三個展開する。

『そんなことない! リハイドさんは将来絶対美人になります。今だってこんなに綺麗なんだからっ』

 別に、男扱いされることを気にしていたわけじゃない。そんな低能なやつらに元々興味なんてなかったし、慣れ合うつもりもさらさらなかった。

 こんな名前でなかったら男扱いされることもなかったのかもしれないと最初は思った。けど、なんで今更どうしようもないことで悩まなくちゃいけないのか。くだらない。退屈しのぎのネタにされるのはまっぴらだ。そう開き直ってからはますます男扱いされるようになったが、それすらもどうでもいいことだった。

 これでいいんだと思っていた。あの子に会うまでは。

 あの子に会って、今まで見向きもしなかったものが目に留まるようになった。自分のように気丈に振る舞えない子もいる。自分ならどうとも思わないことに傷付く子もいる。

 それに――。

 あれはほんの気まぐれだった。いや、たまたま露店で見つけたものがきっかけになっただけで、本当は前々から気になっていたのかもしれない。少しだけ女の子らしいことをしてみたいと思った。きっとあの子に出会うまでは、それに何の価値も感じなかっただろう。

『あ、そのカフス可愛い。雫の形してる』

 まだ自分の中でも抵抗があったから、いきなりがらっと変わるようなことは出来なかったけれど。見た目には小さくても自分の中では大きな変化だった。可愛い、と言われて嬉しかった自分が確かにいた。

「……最強、か」

 力は手に入れた。〝最強の魔術士〟の二つ名で呼ばれるようになって随分経つが、リンファは未だに自分を『最も強い存在』とは思っていない。

 子供の頃、秀才だとか強いだとか言われて過信していた。けれど、習っても自分は一切使えない魔法の勉強をひたむきにして、素直な心で人を褒めて、自分の意思をしっかり持っている――そんなあの子の方がよっぽど人として強いことを知った。

 そして共に、自分の弱さも知った。面倒事に関わるのは御免だと、人と繋がることから逃げていたことに気付かされた。

 あの子と離れてからもずっとそうだ。強さを求める程に弱さを知る。

 しかし、その狭間に自分というものがあるのなら、どちらも認めていかなければならないのだろう。

 ……あの子もよく、一人で泣いてたわね。

 近年旅に身を任せているのも、あの頃人と繋がる素晴らしさを教えてもらったから。

 ――だから、最高位魔術士となった今、持てる力全てでこの苦境を乗り越える。


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