45.コーエンスランドに未来を
コーエンスランドは高度な工学技術により発展した惑星である。正しくは『だった』だが。その発展は宇宙船や人型知性体までも造り出し、留まるところを知らぬ勢いで遂げられていった。
しかしその結末はあまりに惨憺たるものだった。大気は汚染され、大地は腐敗し、空は古代紫色の雲に覆われ、世界は鈍色をした猛毒の霧に包まれた。人類は求めすぎたのだ。目まぐるしい発展の中でいつしかそれが当然となり、貪欲にさらなる発展を欲するようになった頃、コーエンスランドは舵を失った。
誰もが自己利益しか考えないようになっていた。そう気付いた時にはもう全てが遅すぎた。だがその過ちを受け入れることといずれ至る人類滅亡を受け入れることは同義ではない。人類はその工学技術を駆使して腐敗した惑星で生きる術として飛行艦――シップを建造した。いくつかのシップがコーエンスランドを点々とし、各自漂泊している。
人類がシップの中に居を構え、シップを『街』と呼ぶようになって二世紀半。コーエンスランドの人間は誰も本物の空を見たことがない。太陽も知らない。引いては昼と夜の概念も明確には理解していない。鉄色のドームの中で意味もなくただ生かされている。
だがその状況に甘んじている時間さえも限られてきた。惑星とシップの間に生じる引力を利用して斥力を発生させ腐敗した大地の上を滞空してきたが、近年その惑星自体が崩壊しつつあることが判明した。コーエンスランドの余命はもう幾ばくもない。今日明日という話ではないが、惑星を修復するにせよ、他惑星に移住するにせよ、ここ数十年のうちに決断を迫られるだろう。
修復するならもはや人智を超えた力に頼らざるを得ない。また移住するとしても、その惑星の住人になってしまうのではなくコーエンスランドの人間として誇りを永遠に持ち続けてほしい。というのが上層部の共通見解だ。
母惑星の未来のために、道は多く残されていた方が良い。両方の問題を同時に解決する方法は一つ。すなわち自然と共生を果たし、魔法が闊歩するグリームランドを支配下に置くことだ。グリームランドを手に入れれば、そこから得られるものは計り知れない。
そのための進軍。そのための〝太陽の儀式〟妨害である。
「………………」
だが、自分がグリームランドに赴いた理由はそれだけではない。
知りたいことがあった。昔祖父が話していた、ある人のある言葉。それが心の中で何度も蘇り、ついにはしこりのようなものになってしまった。
忘れられないのならば、この目で確かめるのもまたいいだろう。どこかでそう思いながら、この作戦の最高軍師を申し出た。兵を率いてコーエンスランドを発った以上は、是が非でも成果を上げなければなるまい。全指揮権と引き換えに背負うものは軽くない。
負けられない戦いであることはむこうとて同じ。故に話し合いなど最初から不要だ。
そして、この惑星に住む少年が一人、塔の最上階であるこの部屋に乗り込んできた。




