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空の歌(スカイ・ソング)  作者: 碧桜 詞帆
三章 破滅と誕生の象徴たる塔
25/79

27.再会できるはずだった

 三人を乗せた巨大禽獣は一気に黄昏塔の最上階に向けて高翔した。

 その所要時間は、僅か二分。大気の温度変化がはっきりと感じられた。王都からでも見える黄昏塔の長大さからするとあまりにも短い時間でその頂に到着する。

 黄昏塔の壁に魔法陣を出現させたリンファはそこに飛び込み、壁を通り抜けて塔内部に着地する。キルヤ、アズミもそれに続いた。

「ジンレイとワモルはまだみたいね」

 リンファが階段の方を振り返りながら言う。

「どうかしました? キルヤ」

「いや、オイラもう二人についていけないっス」

 動悸を抑えようとしているのか、生きた心地がしなくて心音を確かめているのか、胸に手を当てたキルヤがリンファとアズミを警戒の目で見つめる。太陽神殿周辺の闘争を終息させたのは、他ならぬこの二人だった。しかもあろうことか、彼女達には魔法力を消費した後の疲弊が微塵も見られない。まだ余裕があるその様子にも、人間離れしたものを感じずにはいられなかった。

「こんなのまだマシな方よ」

 したり顔のリンファ。キルヤの反応を楽しんでいるのだろう。

 しかし冗談もここまでだ。三人とも気を引き締めて、聖堂の中へ入っていく。

「ユリエナ! いる!?」

 聖堂の中央で〝太陽の儀式〟を行うべく集った神子候補者達が身を寄せ合って座っていた。三人は候補者達の中から親友の姿を捜す。

「ユリエナ……?」

 しかし彼女の姿は誰の目にも止まらない。アズミは顔が真っ青になり、脱力しかける。

「いない……? そんな、ユリエナはどうしたんですか!」

 それでも何かの間違いであってほしいと、候補者達の間にユリエナの姿を捜し続けるが、やはり見当たらない。

「だ、誰ですか……?」

 黄昏塔に入り込んだ三人に向けて誰かが震える声で言った。張りのある女声。候補者達は血の気の引けた顔色でこちらを窺ってくる。

「グリームランドの者よ。助けに来たわ」

 三人が味方だと分かり候補者達は安堵の吐息を漏らし、身体の力を抜いた。一方で嗚咽はさらにひどくなる。

 リンファは静かに塔内を見回し様子を観察する。最上階のこの聖堂には敵味方含め兵士の姿はなく、壁などを破壊された形跡もない。多少床に血痕が付着しているが全て少量で、この場で斬った斬られた類のものではないと判断できた。幸い候補者達の中に負傷者はいないようだ。敵は彼女達に抵抗する力がないことを最初から知っていたのだろう。

 太陽創生には神子の全魔法力を必要とする。そのため〝太陽の神子〟候補者は誕生時より一切の魔法使用を厳重に禁じられている。神子の選定が終われば〝太陽の神子〟に選ばれなかった候補者達はその使用を許されるが、初めて実践で構成する術式が正常に発動することはまずない。魔術・魔導の道を極めんとする者が『魔法は基礎が最も難しい』と口を揃えて言う程に、魔法とは扱いにくいものなのだ。

 魔法で反撃しようなどと無謀なことを考える者がいなくて良かった。彼女達が無抵抗だった故に全員無事で済んだとも言えるだろう。それとフォルセス国軍がなぜリンファ達のようにここへ先回りして敵を迎え撃たなかったのかについては、ここで戦闘することを避けるために究極の選択を取ったとも考えられるが……。

「あの子なら……、私達を庇って……」

 項垂れる候補者達の中で、ややあってミディアムヘアの少女が重い口を開いた。

 切迫した面持ちでリンファとアズミが視線を交わす。アズミがすかさず頷き、リンファは候補者達に歩み寄った。少女を前にして片膝を着く。

「ねぇ。怖い思いをしたばかりで悪いけど、ここで何があったか話してもらえる?」

 彼女はまだ身体を小刻みに震わせていたが、躊躇なく頷き返してくれた。あの子の力になれなかった。でもせめて自分に出来ることを。そういう顔をしていた。


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