ファンタジー 敵より少しだけ強くしてくれた
「オーライ、オーライ!」
俺はゴミ収集車の後ろで運転手にバックする補助をしていた。
「オー・・・あっ」
俺の背中にドンッと何かが当たる。どうやら、電柱か壁か分からないが、思ったより下がり過ぎていたようだ。
「ストップ! ストップ!!」
俺は大声で運転手に止まるよう叫ぶと同時に大きく手を振って合図する。しかし、丁度近くを救急車が通り、俺の声がかき消された。
俺は、ゴミ収集車と電柱に挟まれて死んだ―――はずだった
目の前には、美しい女性が立っていた。
「あなたは死にました。私はその魂をここへ召喚しました。なので、あなたの命は私のものです!」
「は? 何言ってんのあんた」
びしっと俺を指差す女性に、俺は素で返す。
「あれ? 異世界物とか知りません? 私女神、あなた召喚された人、分かった?」
「お前、頭おかしいのか? ってか、ここどこだ?」
見た感じ、誰かの家の中っぽい。普通にベッドや本棚があるし。この自称女神の私室か?
「まあいいわ。とりあえず、私の管理している星について話すね。私って何故か他の神に馬鹿にされてて、私が管理している星に何でもかんでも送り込んでくるのよ。だから、一度星を綺麗に掃除しようかと思って。だから、ちょうど清掃業のあんたを召喚したってわけ」
「ってわけ、じゃねーよ。仮にその話が本当だとしても、ただの人間の俺に頼む案件じゃないだろ」
「まあ、聞いて。そこはちゃんとチート能力としてあなたに与えてあげるわ。ちなみに、この星にはあなた以外に人間は居ないから安心して掃除に励んでいいわよ。ああ、チート能力は『相手より少しだけ強くなる能力』よ」
「そんな力あたえられるなら自分でやればいいだろ」
「神が直接手を出しちゃダメっていうルールがあるのよ。じゃないと、魔王や魔人が星を支配しようとしても普通に排除してるわ。だから、少し力を与えた他人にやらせるってわけ」
「ほぉ。めんどくさいからとりあえず拒否だ。それに、俺は今、お前よりも強いって事だろ?」
俺は拳をゴキゴキと鳴らしながら自称女神に詰め寄る。女神はその分、後ろに下がる。
「ちょっ! そんなの無しよ! じゃあ、強制的に転移!」
「あ! 待―――」
俺は手をつきだすが、それは空を切る。
「くそっ。てか、ここどこだ?」
目の前には洞窟がある。そして、ご丁寧にその前に看板が用意されていた。最初から俺にやらせる気マンマンだったからか、普通に日本語で書いてあるな。
「大魔王、ここに封印す・・・って、何だよ大魔王って!」
そう叫ぶと、俺の脳内に女神の声が響く。どうやら、どうやってか俺の行動を監視しているようだ。
「ある世界の勇者が魔王を倒したんだけど、それを操る大魔王っていうのが居て、手に負えないと判断した勇者が異世界に封印したの。で、その封印先に指定されていたのが私の世界ってわけ。ああ、星自体は私の力で保護されているから、例え大魔王とはいえ星を破壊する事は出来ないから安心して」
「それは知らんが、勇者ですら手に負えない大魔王を俺がどうにかできるわけ無いだろ!」
「だからチート能力を与えたんじゃない。それじゃ、今封印を解くから」
「あ! 勝手に解くな! まだ心の準備が―――」
そう言っているのに、洞窟の中が爆発し、洞窟が崩れた。中からは筋肉ムキムキのザ・悪魔って感じの見た目の3メートルくらいある巨人が現れた。
「勇者め・・・。我を封印するとはやってくれるな。だが、我に同じ手が2度通用するとは思わぬことだ」
「えっと、俺、勇者じゃ無いんですけど・・・」
「目覚まし代わりに、貴様の叫び声を聞かせてもらおうか」
「この人、話を聞かないんですけど! おい、女神! 俺にせめて何か武器を寄越せ!」
「武器なんて必要ないわ。あなたがどんな装備をしようが強さが上がること無いし」
「なんだって?! じゃあ、どうしろって言うんだ!」
「何をごちゃごちゃと。大声ではなく、悲鳴を聞かせろ」
大魔王は、右手にエネルギーを集めると俺に射出する。
「ちょ――」
不意打ちの様な攻撃は俺と周りに生えていた樹木を吹き飛ばす。数十メートルに渡って更地となったが、俺はまだ生きていた。
「ぐふっ。痛ぇ、すごく痛いんだけど!」
「そりゃそうよ。大魔王の強さが100だとしたら、あんたの強さは101くらいだし」
「そんな僅差で倒せるわけ無いだろ! 俺には魔法も技術も何も無いんだぞ!」
「そこは気合でがんば」
「死ね!」
俺は女神に暴言を吐くが、状況が好転するわけではない。
「ほぅ。我の一撃を耐えるとは、長らく封印されていたせいで力加減を間違えたか?」
「くっそっがっ!?」
俺は助走をつけて大魔王へ殴り掛かる。大魔王は、俺の拳を片手で受けようとするが、俺の拳はそのまま大魔王の頬を殴りつける。
「ぐはっ!」
「え?」
大魔王は俺のパンチによって壁にめり込む。まさか、大魔王にダメージを与えられると思っていなかった俺は、自分の拳を見つめる。うん、普通に自分の手だな。
その瞬間、壁が吹き飛んで、どう見ても怒っている表情をした大魔王が再び現れた。
「貴様、そんな力を隠していたのか。痛みを感じたのは何百年ぶりだろうな」
大魔王はペッと唾を吐く。血が混じっていたのか、その唾は紫色だった。やっぱり、人間と血の色は違うんだな。
「今度は塵も残らぬよう、全力でやらせてもらう。この星ごと消え去れ!」
大魔王のはるか頭上に超巨大な魔法陣が現れ、そこから直径数キロはありそうな巨岩が現れる。
「あ・・・これは死んだか?」
「大丈夫よ。この程度の事で星は壊れないわ」
「星の心配はしてねぇ! どうすんだよこれ!」
「だから、言ってるでしょ? あんたはあれよりも少しだけ強いんだから、普通に壊せばいいわ」
「普通が分からんわ!」
俺は叫びながら、とりあえず巨岩に向かってジャンプして殴りつける。なぜか、出来る気がしたが、普通にジャンプが数キロ上の巨岩まで届いたし、殴った巨岩は爆散した。
地面にスタッと着地すると、大魔王が顎が外れんばかりに口を開けて固まっていた。
「とりあえず、お前は死んどけ!」
俺が思いきり大魔王の頭を殴りつけると、大魔王の頭部が消滅し、頭を失った体は地面へと倒れる。
「おぉう、本当に俺が大魔王を倒しちまったのか・・・?」
自分でも信じられないが、どうやら本当に倒せたらしい。
「じゃあ、次の場所に送るわね。次は、天使族を裏切った大天使らしいわ。ちなみに、大魔王より強いから」
「はぁ!? まだやらせるのかよ! もう地球へ返してくれよ!」
「まだ掃除は始まったばかりよ? 全部掃除し終えたら考えるわ」
「くそがっ!」
俺の叫び声が響き渡った。




