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ファンタジー 世界の異変

その日、世界に亀裂が入った。地割れとかではなく、空間に直接入った亀裂だ。そして、その亀裂から異形な姿の生物が出てくる。いや、それを生物と呼んでいいのかどうかも分からない。骨だけの者や半透明なもの、いわゆるキメラや妖怪というような様々な姿の者がそれぞれの亀裂から湧き出てくる。

それはまるで、その亀裂の一つ一つがファンタジーの世界につながったかのようだった。それらの者は、一様に人間を襲った。正確には他の亀裂から出てくる生物も襲うのだが、抵抗のほとんどない人間が一番の被害を被っているのだ。


「ここが人間界……か。思っていたよりも、かなり自然が少ないの」


亀裂の一つから、蝙蝠の羽を生やした美少女が現れ呟く。その姿を伝えるならば吸血鬼であった。しかし、日光には弱くないようで、太陽の下でも平気なようだ。


その吸血鬼の少女が降り立ったのは、東京のビルの屋上だった。近くには、いくつもの小さな亀裂が開いていて、そこから1匹ずつ化物が出てきている。


少女は、すぐ近くに開いた亀裂から出てきた小さな化物を、踏みつぶして殺す。踏みつぶされた化物は、ぴくぴくと肉片が動いていたが、すぐに動かなくなった。


「同時に開いた異世界の生物どもか。それらを放置していては、私の楽しみが減るでは無いか」


亀裂自体はかなり昔から存在が分かっていた。いや、そういう存在が無いと説明がつかないような現象があった。神隠しと言われ、目の前から急に消えた、そこに居たはずなのにいつの間にか居なくなっていた、飛行機が急に消えたといった近代的なものまである。


その亀裂の一つから、少女の世界に迷い込んだ人間が居た。その人間は、漫画やゲームを持っていて、少女はそれにひどく興味を惹かれた。文字は読めなかったが、なぜか言葉は通じる事が分かったので、その人間に漫画やゲームを代読させた。単語の意味は半分以上分からないものだらけだったので、そのたびに人間に説明をさせ、なかなか話が進まなかったのだが。


その人間も、数年もしないうちに死んだ。人間界と違う環境では、静かに、確実に体を何かが蝕んでいたのだろう。人間にとって即死する環境で無かった事が唯一の幸運だったのかもしれないが。そして、少女はその人間を重要視していたので、生活自体はそれほど悪くなかったはずである。……娯楽が少ないことを除けば。


「ふむ、あれが話に聞いていた車か。ほぅ、あれが――」


少女は、話だけ聞いていて実際に見た事が無かったものを見ていちいち感心する。その間にも、亀裂はいくつも開き、近くに居た人間たちが襲われる。ネズミくらいの小さな化物であれば、人間の脅威にはならなかったが、大型犬くらいの化物は十分に人間の脅威になり得た。実際、大型犬くらいの化物に手足を食いちぎられた人間は命を落としている。その化物は、自分よりも小さい化物も襲っているが、小さな化物でも自衛手段を持っていたりして案外としぶとく、やはり無抵抗に近い人間に標的を変えていた。


「うわぁぁあ! 誰か、た、たすけ……」


逃げ惑う人間の中に、帽子を被った青年が居た。その青年は、紙袋をいくつも抱えていて、周囲の人間よりも逃げ遅れていた。そして、その青年の近くには化物が一匹、涎を垂らして襲い掛かろうとしていた。


少女は、一瞬目を見開き、ビルの屋上から飛び降りる。当然、投身自殺などではなく、途中で羽を羽ばたかせて青年の近くに降り立つ。


「ひぃっ、新しい……少女?」


青年は、新しい化物と言いかけて、見た目が美少女だったため言い換えた。もし、ここで少女の事を化物呼ばわりしていたならば、涎を垂らした化物に殺されるよりさらに早く、少女の手によってこの世を去っていたかもしれない。


少女は、ジッと青年の顔を見る。


「当然、別人か……。あたりまえよの、あやつの最後は私自ら看取ったのだから」


少女はがっかりし、しかし見捨てる事はせずに涎を垂らした化物の方へと向き直る。


「き、君! 早く逃げないと! 殺されるよ!」


「笑止。私がこの程度の奴に逃げるなどありえんわ」


少女はそう言うと、化物の方へと歩いて行く。化物は、本能的に勝てないと感じているのか、その分だけ後ずさりするが、途中で逃がしてもらえないだろうと判断し、少女に襲い掛かった。


「遅すぎる」


少女は、手の爪を伸ばし、刀の様に化物を一刀両断する。真っ二つになった化物は、青い血を切り口から吹き出しながらドサドサと倒れる。


「あ、ありがとう、助かったよ……」


「助かったと判断するのは尚早ではないか? 私が何故貴様の味方だと思った? ほらみろ、異世界同士の者ならば、互いに戦闘するのは当然よ」


少女が指さす方を青年が見ると、いくつも違う世界同士の化物が戦っているのが見えた。ある者は食料とみなして、ある者はただ本能のままに戦う。


「だけど、君とは言葉が通じるし、それになんていうか、その……」


「なんだ?」


「僕の好きなキャラにそっくりなんです! ほらっ!」


青年が紙袋の一つから、まだ開封されていない箱を一つ取り出す。その中には、吸血鬼ではないが、鎧を着た美少女人形が入っていた。確かに、顔や髪型は吸血鬼の少女にそっくりとまでは言えないが似ているかもしれない。


しかし、少女の方はまた別の意味で青年に興味を持った。ちらりと見えた袋の中に、書物が見えたからだ。


「貴様、その袋を見せてみよ」


「え? ああ、いいけど……」


青年の持っていた袋の中には、同人誌や漫画などが大量に入っていた。これだけ重いものを持ち歩いていれば、逃げ遅れるのも納得だろう。というか、普通の人間であれば投げ捨ててでも逃げると思うが。


「これは……。ほぅ、これも……。なるほど、ではこれは……」


「ひっ、見るのもいいけど逃げないと、周りに化物が!」


逃げない青年と少女の周りに、異世界の生物同士戦い勝ち残った勝者が集まってくる。


「うるさいのぉ。この程度のやつらなら、こうじゃ」


先ほどの化物よりも強そうに見える化物たちに向かって少女は手から蝙蝠型の物体を飛ばす。その蝙蝠は、周りの化物に憑りつくと、爆発した。そして、すべての化物はその一撃で肉片と化していた。


「つ、強い……」


「当たり前じゃ。私はこれでも王族なのだぞ。王族は、世界で一番強いのじゃ」


「偉い人! えっと、僕はどうすれば……?」


「そうじゃな、貴様は私の配下にしてやろう。貴様の仕事はその書物を私に読み聞かせる事じゃ」


「そんな事でいいの?」


「大事な仕事じゃぞ。取り合えず落ち着ける場所まで移動するか。ところで、貴様の名前はなんじゃ?」


「僕の名前は――」


「ふむ。私の名前は――」


その青年と少女は、移動を開始する。


それからしばらくして、世界ではそれぞれの世界の者たちが集まり、コミュニティーを形成していく事となった。同じ世界の者たちが集まることによって、他の異世界への抵抗力が増し、簡単には手を出せなくなっていく。当然、弱いコミュニティーからエサとなり消えていく。


ただ、人間は貴重な食糧、情報源、娯楽と様々な理由でコミュニティーに飼われていた。


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