3話 どこにでもいる
現代ファンタジー。だけど今回あんまり関係無い。
FPSバトロワゲームの配信者達がチーターと戦う話です。
少年漫画ノリ楽しかったです。
登場人物
氷見谷 結衣・人間。女子高生。最近粧人の存在を知った。ゲームはスマホアプリのパズルを少々。
清水 真帆・女子高生。結衣と同じクラスで前の席。ホラゲーとホラゲー実況が好物。
伊野 篤志・男子高生。結衣と同じクラス。FPSゲームにドはまり過ぎてゲーム配信し始めた。
Rusty・ストリーマー。関西人。金木犀色の毛色をしたキンという猫を飼っている。一通り全てのゲームをやるゲーマー。
yacca・プロゲーマー。韓国人。『つ』の発音がまだ難しい。凝り性すぎるので大会前半年は他のゲームを始めない。
粧人・姿かたちはほぼ人間そのものだが、食物ではなく生き物の感情エネルギーを食べる生物。背中からほのかに発光する半透明な触手が生えており、これが彼らの口。触手は粧人同士にしか見ることが出来ず、また触手と感情エネルギー以外のものに干渉することが出来ない。
実は人間以外の動植物からも感情エネルギーは出ているが、人間と比べると量も密度も少なすぎるため主食にしている人は少ない。
LHRの教室。チャイムが鳴り響く。
赤江「はーい、では期末に向けて復習しておくこと。分からないところがあるなら明日以降に聞きに来るように」
返事をし、帰り支度を始める生徒たち。その中の尾村と山黒に目を留めた赤江は2人を呼び止める(3人ともあまり良さそうな表情に見えない)。そんな全員をよそに、清水はチャイムが鳴った直後からいそいそと自身のスマホを取り出し、イヤホンを付けてウキウキで動画サイトを開いた。
その様子を後ろから見ていた氷見谷が肩越しにその画面を覗こうとすると、清水がくるりと振り向く。氷見谷の肩が跳ね上がった。
氷見谷「あっ、その」
清水「いっしょに見る?」
氷見谷「……いいの?」
清水「いいよー! めっちゃ面白い動画見つけちゃってさ。ずっと見てるんだよね」
イヤホンを外した清水は画面を操作した後に氷見谷に見せる。全画面に薄暗い道をキャラクターが歩いているゲーム画面が映っており、そのまま進むと道端のポスターに選択アイコンが表示された。アイコンを選択すると一人称視点に画面が変わり、ポスター全体を見ることが出来る画面になる。氷見谷は訝しげながらもそのまま見続ける。すると突然、落ちくぼんで血の気の無い人の顔が全画面に映し出された。
氷見谷「わっ!?」
思わず悲鳴をあげ飛び上がる氷見谷を見て笑う清水。ぽかんとして清水を見つめる氷見谷。その眉が徐々にハの字に下がっていくのに気づいた清水は、慌てて氷見谷に抱きついた。
清水「ごめん! ごーめーん! 怖かったね、びっくりしたね」
氷見谷「お、面白い動画って……」
清水「嘘じゃないの! ただ、先にこれ見てもらった方がきちんと楽しめると思って」
清水はスマホを操作して別の動画を開く。
清水「ホラーゲームなんだけど、去年の夏にFPSゲームの有名な配信者さん達がそれを実況配信する企画があったんだって。それの、さっきのびっくりポイントの切り抜きまとめ」
動画が再生され始める。先程のゲーム画面とプレイヤーの名前、その隅に照明を消した部屋でゲームをしている日本人男性のワイプが映されている。恐々とポスターを見ている男性。ゲーム画面に先程の顔面が突然映し出される。
『ア゛ア゛ア゛ア゛ッ痛っ!』
悲鳴と共に跳ね上がった勢いでゲーミングチェアから滑り落ちる男性の身体。途中で肘置きに肩をぶつけ、男性は悶絶した。
ゲーム画面が戻り、外国人らしき男性のワイプと名前に切り替わる。びっくりポイントで絶叫する男性。
『Nooooooh my f*ck!!!』
氷見谷「ほんとうに言うんだ……」
清水「ね」
プレイヤーが切り替わっていく動画。ワイプではなく、イラストのアイコンのみや立ち絵が動くもの、声のみのプレイヤーもおり、それぞれのリアクションが流れていく。
『え……なに……イヤーーーーーーーー!!!』
『…………』
『アッハッハッハッハ!』
『아이 씨!……야~』
『スイマセン……スイマセン……!』
『あ、どうも~』
『ッ!』
『キャ―――!!!』
『ほら来た! 分かってた! 分かってたから!』
氷見谷「ホラーゲーム好きなの?」
清水「好きだけど、ホラゲやって怖がっている人を見るのが一番好きかな!」
氷見谷「S……?」
次々に聞こえてくる悲鳴とびっくりポイントに最初はビクッとしていた氷見谷だが、徐々に慣れていきだんだん笑顔が零れるようになっていく。そんな氷見谷の様子と動画内のリアクションを見て、清水は心底楽しそうに笑った。
『なんやねんゴラァ! もうええてぇ……!』
『おー(カップの中身をスプーンでかき混ぜながら)』
『もうヤダです……I want to spoHOLY SH*T!!!!』
『わぁ―――びっくりした!!』
『What!?......【That’s so funny】?......hmm……Bi*sh!!!』
『ヒャーーー!』
氷見谷「すごい沢山いるんだね」
清水「世界大会とかあるバトロワゲームなんだって。そっちの配信とか見てみると、キャラ結構違う人いっぱいいてそれも面白いの」
氷見谷「面白そう……」
清水「今年もやるのかなぁホラゲ企画。やるなら絶対見るのになぁ!」
氷見谷「……あれ?」
清水「どしたの?」
氷見谷「さっき、聞き覚えがある声したような……」
清水「見たことある配信者さんいた?」
氷見谷「どうだろう、あんまり見ないんだけど……」
マンションの防音室の中。広い机があり、デスクトップPCが設置されている。複数のモニターの一つにはFPSゲームが写っており、別のモニターでは動画サイトの配信管理画面が写っていた。PCの前にはRustyが座っており、ヘッドホンをつけ、まさにゲームをプレイしている真っ最中だった。
ゲーム内。近未来チックなマップの二階建て一軒家で銃撃戦が行なわれている。屋内に立てこもり、窓から撃ち込まれる雨のような銃弾に対抗するRustyと野良プレイヤー。そのさなか、2階からの侵入者とやりあっていたyaccaがダウンしてしまう。
yacca「ごめん相打ち」
Rusty「いやナイスあとはまかせろ! あと5秒でアビリティ溜まるから、オフェンス(野良プレイヤー)にここ抑えてもらって俺が起こしに……」
オフェンスの銃声と共に、外の敵のアーマーが割れる音がした。彼はシグナルを外に打ち、飛び出していってしまう。
yacca「あ、オフェンス死ぬよ」
Rusty「えっ」
激しい撃ち合いの音。慌てて外に飛び出すRustyだが、オフェンスは既にダウンさせられていた。
Rusty「う、うおおおおおおおお!」
yacca「がんばれー2タテしろー」
2対1の状態ながら善戦するRusty。しかし遂に撃ち負けダウンし、部隊が全滅してしまった。
Rusty「っか―――! すまん合わせられんかったぁ……!」
yacca「ドンマイドンマイ」
流れるように次のマッチングを始める2人。
Rusty「ポイント盛れへんなぁ。気分変えるか。yacca俺が使うキャラ指定して」
yacca「一番使ってないキャラ」
Rusty「マジかお前ランクやぞ」
yacca「え、ビビってる?」
Rusty「言ったなお前。お前俺よりダメージ数低かったら分かってんのか」
yacca「なに」
Rusty「あ―――……韓国行った時に一番美味くて一番高い焼肉奢ってもらう」
yacca「……罰じゃなくても奢るけど。こっち来てくれるなら」
Rusty「えっ」
yacca「当たり前でしょ」
【やり返されてて草】【懐の広さが違う】【さすがプロゲーマー】【それに比べてお前は】とリスナーからコメントを投げつけられているRusty。
Rusty「当たり前だよなぁ! そらぁ友だちが旅行に来てくれるんなら美味い飯くらい奢るわ! なに言うてんねん!」
【お前が言い出したんだろが】【手のひらドリルか】などと再びコメントを投げれられているうちにマッチングが完了し、キャラクター選択画面に変わる。
Rusty「触ってないの誰だ。サポートか? マジでチュートリアルぶりかもしれへん」
yacca「Rustyはディフェンスかオフェンスしか見てない」
Rusty「戦闘中に使える能力が良いんよ。……ん?」
同パーティになった野良プレイヤーの名前を目に留めるRusty。
Rusty「あれ、アツシ?」
yacca「アツシ?」
Rusty「野良の人。これアツシやんな?」
yacca「あぁ……そうだね」
そう話しながらRustyがサポートを選んでいると、野良プレイヤーのボイスチャットがオンになったアイコンがでる。
アツシ「Rustyさーん! 対よろーっす!」
Rusty「どんな確率やねん、同じチームなるとか」
Rustyがサポートのキャラを決定する。
アツシ「え、あっすいません! 人違いしました! よろしくおねがいします!」
本気で慌てている声のアツシに笑ってしまうRustyとyaccaとコメント欄。【人違いじゃないって言ったげて】【3パきた】というコメントに後押しされるように、Rustyはボイスチャットをオンにする。
Rusty「合ってる合ってる」
アツシ「なんだぁ! どうしたんすか、Rustyさんがサポートやるなんて」
Rusty「気分替えよ思ってな。お前こそ珍しいやんソロランクマッチなんて。いつもの2人は?」
アツシ「あ……えっとぉ……」
Rusty「なんや喧嘩か?」
アツシ「そういうんじゃないっすよ! なんというか……学校の用事、みたいなのがあって」
Rusty「あぁ、現役高校生やったっけ。じゃあパーティ組んでやる? yaccaもおるけど」
アツシ「いいんすか! yaccaさんが良ければぜひ!」
yaccaがボイスチャットをオンにしたアイコンが出る。
yacca「初めまして、よろしく」
アツシ「はじめましてー!」
Rusty「初めましてなん!?」
yacca「うん、話すの初めて」
アツシ「俺、アツシって言います。百鬼夜行さんの所のカジュアル大会とか時々出させてもらってて……」
yacca「それは知ってる。高校生なのは知らなかった。若いね」
Rusty「高校生やってんのにランク最高峰行ってんのやばいよな」
アツシ「いやでも、それはめきもきとダズがいっしょにパーティ組んでくれてたからっすよ」
Rusty「っかぁ―――……!」
yacca「Rusty死んだ?」
Rusty「眩しくて死にそう」
yacca「おじさんだもんね」
Rusty「まだおじさんちゃうわ、やめろぉ」
アツシ「Rustyさん何歳なんすか?」
Rusty「やめろやめろ。年齢不詳のお兄さんでやってんねん」
yacca「청취자.Rusty 몇 살인지 아십니까?」
Rusty「探るな探るな! リスナーお前ら教えに行くなよ!?」
マップの上空を飛ぶ飛行船の画面になり、ゲーム開始のカウントダウンが始まる。
アツシ「どこ降ります?」
yacca「今チャット見てるから遠くで」
Rusty「即降りしろ! てかアツシは配信やらんの?」
アツシ「あー……2人いないからやるつもりなかったんですけど、どうしょうかな」
Rusty「そういう風に決めてんの?」
アツシ「決めては無いんすけど、なんとなく……。あ、そうだ。Rustyさんの枠ツイートすればいいのか」
Rusty「え!?」
yacca「いいじゃんいいじゃん」
Rusty「待て待てあかんて! そっちのリスナーはあれやろ、高校生達のてえてえやり取り見たくて登録してる人らやん。そんなんがこっち来たら死ぬで? 治安悪すぎて」
【ひどい……こんなにお利口なリスナーなのに……】【お前に似たんやぞ】【俺らだけ悪いみたいに言うな】とボコボコにコメントに突っ込まれ「ホンマやろが!」と吠えるRusty。
yacca「いいじゃん、登録数増えるよ。収入大事でしょ」
Rusty「お前好き勝手言いよってからに……おい、リスナー。マジでちょっとお行儀良くな」
【オマエモナー】【お茶の子さいさいですわよ!】【お任せになって!】【わたくし達いつもお行儀良くってよ!】
Rusty「あかんわ化けの皮ボロボロや」
アツシ「じゃあ、ツイートしたんで降りますね」
yacca「OK」
Rusty「おん……」
飛行機から3人が射出され、マップの端の町にそれぞれが降り立つ。
アツシ「Lv2アーマー見っけ! いります?」
yacca「いいよ、使って」
Rusty「めっちゃ視聴者増えてんけど……すんません、アツシのチャンネルのリスナーさん俺の視点で」
アツシ「お邪魔してまーす!」
yacca「邪魔するなら帰ってー」
Rusty「yaccaお前それ誰に教わったん!」
yacca「Rusty」
Rusty「えっ……?」
笑うアツシとyacca。
所変わり、ビル郡の合間で撃ち合いをしている3人。
yacca「1人落とした」
アツシ「突っ込んでOKすか?」
Rusty「OKいけいけいけ!」
別の試合。高台でスコープを覗き込んでいるRustyとその後ろでモーションで遊んでいるアツシとyacca。
Rusty「誰もおらんな……。……おい、遊んでんの分かってんねんぞ」
yaccaに殴られ高台から落とされるRusty。
Rusty「お前! なにすんねん阿呆か! 狙われたらどうしてくれんねん!」
叫びながら慌てて高台を登るRusty。笑うyaccaとアツシ。登りきり、yaccaに殴りかかり落そうとするRusty。
yacca「痛い! やめろよ暴力!」
Rusty「お前が手ぇ出してきたやろが!」
笑いながら殴り合いに参加し始めるアツシ。
アツシ「おりゃっ落ちろっ!」
Rusty「アツシお前ぇ!?」
yacca「やんのかコラァ!」
また別の試合。市街地の建物の中で立てこもる3人。外では激しい銃撃戦が繰り広げられている。
アツシ「また別パ来てる!」
Rusty「この世のパーティ全部集まっとる……!」
建物の出入り口に積み重なった倒した敵の装備の山を前にyaccaが呟く。
yacca「邪魔だなぁ……。これグレネードで無くならないかな」
Rusty「やめろやめろ貴重な物資やぞ」
アツシ「赤アモ無いっすか!?」
yacca「無いね。黄ならいっぱいある」
アツシ「マジかぁ……。ちょっと武器替えるんでフォローお願いします」
yacca「いいよ、来て」
Rusty「俺も持ち替えたいから終わったらこっち頼むわ」
yacca「OK」
アツシ「オッケーっす」
別の試合。安全地帯の収縮がされていく中、その境と共にじりじりと進むRusty。
Rusty「心細いよぉ~!」
アツシ「ナイス隠密っすよ! 順位上がってる上がってる!」
Rusty「ソロってこんな寂しいんや……。あ、お花きれい」
yacca「最終安置まで残れば勝ちだから。全員殺せるでしょ」
Rusty「お前やないねん無茶言うな」
別の試合。身を翻しながら撃ち合い、ついに戦っていた敵をノックダウンさせたアツシ。体力がギリギリのため、近くの物陰に隠れ回復をする。少し離れた場所でyaccaとRustyがもう1人敵を倒し、同じように回復していた。
yacca「1人逃げた」
Rusty「追っかけるか?」
yacca「うーん、たぶん追いつけない。リスポーン時間切れるまで待とう」
Rusty「了解。……ん? たらちね?」
アツシ「どうしたんすか?」
Rusty「今倒したの『たらちね』だってリスナーが。え、こいつ?」
アツシ「yaccaさんと同じプロチームのですか?」
Rusty「たぶん」
回復し終わったアツシが先程倒した敵に目を向ける。見られている事に気づいた敵はノックダウン後用バリアをちかちかと付けたり消したりした。
yacca「あいつこのスキン持ってないよ」
Rusty「大人しいしなぁ。見間違いちゃう?」
物陰に隠れたまま敵に見えるようにモーションをしてみるアツシ。バリアを上下左右にぶんぶんと動かし始める敵。
アツシ「この人かもっす」
Rusty「マジで!?」
アツシの所に集まる2人。3人に見つめられ、敵はバリアをチカチカさせた。近くの壁に銃痕で「たらちね?」と書くと、敵はバリアをブンブンと縦に振った。
Rusty「マジか。もうそんな時間か」
倒れているたらちねに殴りかかるふりをするyaccaとバリアをブンブンブンブンと横に振りまくるたらちね。
アツシ「時間……あぁ、けっこう経ってますね」
Rusty「こいつだいたいこの時間からランクやってるから。アツシお前晩御飯は?」
アツシ「俺んところ結構遅いんで、まだ大丈夫っす」
Rusty「ならもうちょっといけるか」
yacca「俺に聞かないの」
Rusty「お前いつも勝手に宅配頼んでゲーム中に食ってるやんけ」
yacca「そうだけど……」
アツシ「Rustyさんはご飯いつ食べるんすか?」
Rusty「1人暮らしの大人はな、食べたいときに食べれんねん」
アツシ「おぉーそっか!」
Rusty「まぁそこまで食に興味無いしな」
アツシ「関西の人なのに……!?」
Rusty「関係ないやろ関西」
結局倒れている敵2人にトドメを指さずにその場を離れる3人。それをバリアをチカチカさせながら見送るたらちね。
その次の試合。キャラクター選択画面でアツシがふと声をあげた。
アツシ「そういえばたらちねさんって、世界大会とかは出てますけどストリーマー大会とかカジュアルなのでは見ないですよね。なんでなんすか?」
yacca「あー。……言って良いのかな」
Rusty「まぁ公言してるところまではええんちゃう? あいつボイスチャットNGやねん」
アツシ「え!? 野良の人相手に繋げないとかじゃなくて?」
yacca「チームメイト相手でも。全部テキストチャットとモーションとシグナル」
アツシ「マジで……?」
yacca「俺達はもう分かってるから問題ないけどね」
Rusty「カジュアル系大会ってだいたい皆配信するしボイチャするやん。だからあいつ出れへんのよ。ボイチャせんでもやれるyaccaとか天津とチーム組ませたらバランス壊れるしな」
アツシ「そっか……。なんでボイチャNGなんすかね」
Rusty「知らん。聞く必要も無いしな。動きだけでもうるっさいから逆に声邪魔かもしれへんし」
アツシ「へぇー……そうなんですね! 俺も一緒に遊んでみたいな」
ゲーム開始前の飛行船の中に画面が変わる。
yacca「カジュアルで思い出した。2人とも今年はあれやるの? ホラゲのやつ」
Rusty「あ―――」
アツシ「……やるんすかねぇ?」
Rusty「……あんま言うのもアレだけど、夜行はやる気だし俺は去年の打ち上げ配信で「来年も参加な」って言われた」
yacca「やった。あれ面白かったから、楽しみ」
Rusty「ほぉん? よう他人事でいられんなぁyacca」
yacca「……いや、俺怖がらないから面白くないよ」
Rusty「タレコミが入ってんだよなぁ! ゲームがバグり散らしてホラゲ―みたいになった時にビビりまくってたってよぉ!」
yacca「……」
Rusty「アツシお前もやぞぉ! 去年あんな良いリアクションしといて逃げられると思うなよ!」
アツシ「いやっすよ……マジで怖かったんすからあれ……」
Rusty「まぁまぁまぁまぁ俺もタダでとは言わんよ。次のゲームでチャンピオン獲ったらってのはどうや!」
アツシ「一応強制ではないんすね」
yacca「もしかして今日俺誘ったのって……」
Rusty「ワンチャンついでに誘えたらなとは思ってた」
yacca「俺トロールする。바보.쓰레기.뚱보」
アツシ「え、えっ!?」
ゲラゲラと笑いながら2人を連れて飛行船から飛び降りるRusty。
Rusty「ゴーゴーゴー! ギャハハハハ!」
アツシ「ずりぃよRustyさん、マジでぇ」
yacca「Rusty바보」
広い都市めがけて降下する3人。視界の隅に別のパーティが同じ場所目掛けて降りているのが見え、彼らと離れるように都市の端の建物に着地し、物色を始める。
アツシ「あの人達こっち来るんすかね?」
yacca「武器と装備によるんじゃない。直殴りしに来なかったし」
アツシ「いますよねぇ大乱闘勢。早く装備集めてそっち行きますね」
Rusty「おっアーマー2つもあるやんラッキー。yaccaいる?」
yacca「ほしい」
Rusty「アツシは?」
アツシ「こっちは見つけたんで大丈夫っす!」
装備を整理し、準備を整えたアツシ。Rustyとyaccaのいる場所を確認すると、そちらへ向かうために建物の合間を縫うように走り始める。
Rusty「このパターンだと最終安置、ドームだっけ?」
yacca「そう。一軒家取れたら強いけどズレる時もある」
Rusty「遠くはないけど、先に取られそうだなぁ」
路地を走る途中で遠くで足音が聞こえ、壁に身を寄せるアツシ。銃を構えながらその方向へシグナルを飛ばし、2人へ報告する。
アツシ「ここ見えます? 誰かいるっぽいんですけど」
Rusty「悪い、見えんわ。さっきの奴らちゃう? そっち寄っとくな」
yacca「上取るね。3人で固まってる?」
アツシは耳を済ます。足音はだんだん近づいてきているようだが、1人分しか聞こえない。
アツシ「1人だけっぽいっすけど、どうだろ」
アツシの顔に丸い影か掛かる。アツシが見上げると、それはちょうど彼の場所に落ちて来ようとしている手榴弾で、まるで吸い込まれるようにアツシの足元に転がった。
アツシ「う」
手榴弾が爆発する。アツシは咄嗟に手榴弾から距離を取り、爆発のダメージから逃れた。
アツシ「あっぶねぇ!」
建物の影に滑り込み、手榴弾が飛んできた場所を伺おうとほんの一瞬、少しだけ顔を出すアツシ。その頭に待ち構えたように何発もの銃弾が撃ち込まれる。
アツシ「ッ!?」
アーマーの割れる音と共に容赦なく削られる体力。アツシは身を翻し、建物の中へ飛び込み扉を開かないように抑えながら体力とアーマーの回復を図る。
アツシ「上手すぎヤバ……!」
Rusty「……いや、今のアーマーの溶け方おかしいやろ」
yacca「……」
アツシ「もしかしますかね、これ」
アーマーと体力が8割ほど回復出来た所で、アツシが抑えていた扉にヒビが入る。扉を蹴破り入ってくる敵のオフェンス。銃を構え、相対するアツシ。1対1の撃ち合いが始まった。
被弾を減らそうと動きながら撃つアツシ。しかし、相手の銃弾は彼の頭に吸い込まれるように撃ち込まれていく。瞬く間に回復させたはずのアーマーと体力は削り尽くされ、ノックダウンさせられてしまう。
Rusty「アツシ!」
アツシ「これは無理だー」
yacca「後で迎えに来る。逃げるよRusty、完全にチーター」
Rusty「っ……! すまん、アツシ! 絶対リスポーンさせっから!」
アツシ「大丈夫っす!」
ノックダウンし蹲っているアツシを見下ろすチーター。アツシが起動させたノックダウン後用のバリアも容赦なく破壊し、彼はアツシの額に銃口を向け、撃ちぬいた。
アツシの装備を漁り始めるチーターとその仲間のリコン。そしてもう一人の仲間であるオフェンスは、荷物を漁り終え何事も無かったかのように立ち去る彼の仲間達を見つめた後、ぎこちなくアツシの荷物を覗いた。
数分後、見晴らしの良い丘の上にある一軒家の中。扉の隙間からスナイパーの超遠距離スコープを覗き込み、丘の下にある町の様子を伺うアツシ。
yacca「あいつこのゲーム中にBANされると思う?」
Rusty「無理やろな。即BANしてもらえる時って運営がガッツリ現場を目撃してる時やろ。もし俺やyaccaの配信に運良く運営がいたとしても、チーターの動き自体は俺達の視点で見れてへんし」
yacca「ランクポイント守るの考えるなら、あいつらに合わないルートで安置に向かって順位だけ上げる」
Rusty「……腹立つわぁ、なんで俺らがコソコソせなあかんねん」
yacca「でも俺達が普通に稼いだポイントあいつらに溶かされるのも腹立つ。また稼げるけど」
Rusty「せやねんなぁ。あーもうマジで永久にBANされてくれマジで」
2人の話を聞きながらも、アツシは町中に視線を走らせる。移動の要所のため、時折辛うじて人型に見える大きさのキャラクターが見え、アツシはそれを撃ちぬこうとする。「ムッズ……」と呟きながらも、アツシは地道にダメージを稼いでいた。
yacca「まぁチーターがあのオフェンス1人だけなら途中で死んでるかもだけどね」
Rusty「そうやと良いなぁ! 3人全員チーターとかもう手が付けられへんもん」
スコープの中に大量の射線がうつる。見ると、見覚えのあるオフェンスがいるパーティが別のパーティと銃撃戦を繰り広げていた。
アツシ「あ」
Rusty「どした?」
アツシ「ここでさっきの奴らが戦ってます」
マップにシグナルを打つアツキ。再びスコープを覗き込むと、チーターに既に1人倒されているようだった。
yacca「は? なんでこのタイミングでそこにいる? もうすぐ安置外なのに」
Rusty「あ―……称号狙いか? 人の居そうな場所行きまくってキル数とか稼いでんのかも」
yacca「そんなので獲った称号なんてゴミだよ。なにが嬉しいの」
Rusty「持てれば嬉しいんちゃう。掲げてりゃ何も知らん人はすごいって思うわけやし」
アツシ「……」
また1人チーターに倒される。アツシはスコープの照準をチーターの頭に合わせた。
yacca「アツシ。撃っちゃ駄目だよ」
アツシ「……」
yacca「こっちに来ても逃げれるけど、準備が出来なくなる。それで戦ったら、勝つの難しい」
スコープの向こうで、チーターと戦っていたパーティが全滅する。我先にと装備を漁る3人。その後ろから安置外フィールドが迫って来ていた。突然、チーターがオフェンスを二度三度と殴りつけた。それを気にもとめず装備を漁り続けるオフェンス。チーターはもう一度オフェンスを殴り、リコンと共に安置内へと駆け出していく。それを見送ったオフェンスは身体を反転させ、安置外フィールドへ一直線に走りだした。
アツシ「え?」
アツシはスコープでそのオフェンスを追った。安置外フィールドに突入した後も、そのオフェンスは更に安置外の奥深くへ走り続ける。焼かれ削られる体力を回復させながら、チーター達が行った方向と真逆へ突き進む彼。そしてチーター達が到底装備を回収しに来れない所まで辿り着くと、彼は手榴弾を自身の足元に投げつけ、自らをノックダウンさせた。
Rusty「アツシ?」
アツシ「……チーターのパーティ、オフェンスが1人欠けました」
驚くRustyとyacca。オフェンスが装備を残して消えるのを見届けたアツシは、スコープから目を離す。
手に力が入り、持っていたマウスを握りしめてしまう伊野篤志。ミシッと軋むその音で気づきマウスから手を離した伊野は、息を吐きながらヘッドホンを着け直した。
アツシ「Rustyさん、yaccaさん」
Rusty「お、おう」
yacca「……」
アツシ「俺、ぜってぇあのチーターをチャンピオンにさせたくないっす」
その言葉を受け取るRustyとyacca。
Rusty「当ったり前やろ!」
yacca「当然でしょ」
Rusty「好き勝手されたままで終われへん。チート入れた程度では勝ち抜けん事を教えたろうや」
数分後、収縮していた安全地帯がドームと呼ばれる集落の周辺まで狭まり、停止する。そこにギリギリで駆け込んできたチーターと仲間のリコンはひとまず手近な小さい岩場の影に身を隠した。
Rusty「アツシ、分かる? 武将かなんかで「戦いは始まる前にやってきた事の差で勝敗が決まる」みたいなこと言った人」
アツシ「いや、分かんないっす」
Rusty「そっか。それ昔聞いた時、あんま好きな考えやなかってん。ジャイアントキリングとか第三陣営の登場で大混乱! みたいなんめっちゃ好きやったから。でもこういうゲームやってて、好きやないけど的を得ているなぁってしみじみ思ってんなぁ」
自身のいる位置が次の安置から外れているのに気づいたチーターが岩陰から顔を出す。すると牽制をするように、数発の銃弾が彼のアーマーを削った。
Rusty「マップ知識。最終安置とそこまでのファイトに備える位置取り」
チーターは削られたアーマーを回復させ、先程撃ってきた場所へ銃弾を返す。
Rusty「他パーティから余計なヘイトを買わない立ち回り。安置に無事に入るためのルート知識」
銃弾が急所に撃ち込まれ相手のアーマーを削るが、強化されたもののためノックダウンまではいかない。チーターがリロードしていると、先程とは少し違う角度から彼めがけて銃弾が撃たれた。リコンがカバーに入るが、複数の場所から狙われ少しずつ削られていく。チーターも都度撃ち返すが追いつかない。
yacca「ちょっかいかけて良いかどうかの判断。移動するタイミングの読みと意思の共有」
今撃たれている場所から射線の通らない場所へシグナルを打った直後に走りだすチーター。その場所へ逃げ込めたは良いものの、かなりダメージを負ってしまい、回復のための物資を多く消費してしまう。そして元の場所にリコンが取り残されており、こちらも遅れて移動できたもののかなり被弾してしまった。
yacca「自分と仲間の状況把握。相手の状態の把握と予想」
手榴弾がチーターとリコンの足元にコロコロと転がってくる。爆発を避けるため、更に逃げることになる2人。
yacca「全パーティの位置と状況把握。漁夫しに来るか、来るとしたらどこから来るかの予想と警戒。押し引きの判断と仲間との息の合わせ方」
先程のいた場所から離れられたものの、どんどんと追いやられていくチーターとリコン。
アツシ「俺そこまで冷静に考えれてないっす……。めっちゃ感覚……」
Rusty「俺も言ってて引いてきたわ。俺らやばいゲームやってへん?」
yacca「こんなのまだまだでしょ」
Rusty「えっぐ……」
アツシ「マジですっげぇ……。俺が自信ある事なんて」
上空から、構えた銃でチーターに銃弾を撃ち込みながら飛び込んでくるアツシ。
アツシ「使い込んだキャラと武器のコントロールと撃ち合いぐらいっすよ」
yacca「それは皆そうでしょ」
Rusty「えぐぅ……」
照準が定まらないまま撃ち返すチーターとリコン。それでもかすった銃弾でアーマーが削られたアツシは着地した勢いでスライディングし、物陰に飛び込み彼らからの射線を切る。それを追い詰めようとした2人だが、別の場所で待機をしていたRustyとyaccaからの銃撃を受け、そちらへ銃口を向ける。2対2の撃ち合いの末、yaccaがノックダウンされてしまう。追撃しようとするチーターとリコン。その背後をアーマーを回復しきったアツシの銃が襲った。ノックダウンされるリコン。牽制のためにアツシを撃つチーターだが、その隙にRustyがyaccaをノックダウンから回復させていたことに気づいた。
3対1の状況に、リコンを置いてその場から走って逃げ出すチーター。アツシはそれを走って追った。飛び跳ねながら逃げるチーターと、彼を追いながら銃を撃つが照準がブレて上手く当たらないアツシ。歯噛みをするアツシの前を走り続けるチーター。
突然スナイパーの銃声が鳴り響き、チーターのアーマーが弾けて割れた。驚き、目を見開くアツシ。チーターも動揺したようで、コントロールがブレて障害物にぶつかり減速してしまう。
遂にチーターに追いついたアツシは咄嗟に銃を仕舞い、拳を握る。そして目の前のチーターに狙いを定め、勢い良く打ち抜いた。
アツシ「おらぁ!」
チーターの体力が尽きる。全滅のため、アツシの目の前で装備を残して消えるチーターの身体。
アツシ「やった!!」
Rusty「ナイス!」
yacca「ナイスー」
吠えるアツシを労う2人の声。アツシが達成感に打ち震えていると、その周囲をチュンチュンパラパラと銃弾がかすめた。
アツシ「あっそうだ終わってねえ!」
yacca「終わってないよ。本番だよ」
Rusty「物資足りとる? なんかそっち持ってったほうがええ?」
アツシ「いや、大丈夫っす!」
パラパラと遠くからばら撒かれる銃弾に急かされながらチーターの装備を漁り、物資を補充するアツシ。その後3人は合流し、状況を確認する。
アツシ「最終安置、あの家からはズレそうっすね」
yacca「ギリギリまでここで耐えたいね」
Rusty「ここの2パが消えたから、このルートならまぁ安全に近づけるとは思う」
数十秒後、牽制の銃弾が飛び交う中、最後の安置の収縮が始まるアナウンスが響きわたり、ゆっくりと安置外フィールドが迫ってくる。
Rusty「じゃあラストスパートいくで!」
アツシ「っしゃーす!」
yacca「OK」
銃を構え飛び出す3人。相対する敵のパーティ。飛び交う銃弾。飛び回るプレイヤー達。
激しい銃撃戦の末、1人、1人と倒れていき、最後に相対したのはyaccaと敵1人のみ。Rustyとアツシのノックダウン後用バリアで敵からの銃弾を防ぎ、ショットガンをぶっ放すyacca。見事ヒットし、敵の身体が装備を残して消える。チャンピオンの誕生を知らせるファンファーレとアナウンスが鳴り響き、アツシとRusty、yaccaの操作していたキャラクターがチャンピオン部隊として画面に表示された。
アツシ「ナイスyaccaさん! GG!」
Rusty「グッドゲームー! ッシャー!」
yacca「GG」
チャンピオン獲得に盛り上がるコメント欄。それを呆然と眺めながら、Rustyは椅子の背もたれに脱力しもたれかかった。
Rusty「今の試合マジでハイカロリーやったわ。満足感えぐいもん」
アツシ「色々あったっすもんねぇ」
yacca「ちょっとお菓子食べて良い?」
Rusty「おー……俺も腹減ったわ。配信終わりにして飯食おっかな。後味良いし」
yacca「えー」
アツシ「確かにキリいいっすね。俺もそうしよっかな」
yacca「えー……」
アツシ「Rustyさん、yaccaさんめっちゃ寂しそうっす」
yacca「寂しくないよ。파보.어이가 없다」
アツシ「ぜってぇ悪口じゃん。なんかyaccaさんのこと分かってきた気がする」
ケラケラ笑うアツシとむくれた様子のyaccaに笑うRusty。
Rusty「じゃあまたな! またパーティ組んで遊ぼな! 見てくれた人らもありがとうな! チャンネル登録、高評価よろしく。ほなね」
アツシ「ありがとうございましたー! お疲れ様でした!」
yacca「……お疲れさま」
Rusty「おつかれー! GGー!」
ボイスチャットを切り、配信を停止するRusty。しばし満足げに椅子に全身を預けたあと、床を蹴り椅子のキャスターを転がし部屋の扉の前に移動すると扉をゆっくり開けた。
扉を少し開けた所でその隙間から猫が顔を覗かせた。猫はRustyの顔を見ると無声で鳴き、するりと扉の隙間を通り抜け部屋に入り、Rustyの膝に飛び乗った。
Rusty「キンちゃんは甘えたやなぁ」
Rustyの膝の上でごろりと寝転がるキン。それを撫でまわすRustyの背中からはほのかに発光する半透明の触手が生えており、その触手の先は全てキンに向いていた。手と一緒に撫でまわすように蠢く触手。しかしキンはその存在を全く気にもせずゴロゴロと喉を鳴らしていた。
Rusty「自分から来てくれるのマジで助かるわ。ウーバーや、ウーバーキンちゃん」
キンがRustyを見上げ、ぴゃんと鳴く。
Rusty「美味っ……今日はサイッコーの1日やな!」