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7話 ストーカー、愛を語る

「あ…あのねジェイド?その、私は刃傷沙汰とか、嫌いだからね?………えっとつまり、いざとなったらアダム様を……とかいうようなやり方は、絶対にダメだからね?」

 ……だから私の事も、愛が報われないならザックリ!とか、やめてね本当にっっっ!?


「ケイティがそういうやり方を好まないのなんて、そんなの分かってるよ。ケイティはもっと、みんなで幸せになれる道を探すべきだっていう考え方するでしょ?俺はケイティのそういうところが好きなんだから、そういうケイティの気持ちを尊重はしても、無視するつもりはないよ」

「…私は平和主義者だからね?」

「知ってる。だから決闘なんてのは、本当に最終手段。アダム様の倒し方を研究してたっていうのも、あくまで念のためだよ」

 …いや、何かと念を入れすぎでしょう!


「今日だって、婚約破棄計画が絶対に上手くいくように、俺も色々仕込んでいたんだよ?」

「…そうだったの?でも婚約破棄も、貴族の身分からの解放も、私の婚約破棄計画だけで達成されたじゃない?…だったらあの後、ジェイドがあの場で私にプロポーズする必要なんか無かったよね?私、無駄に恥ずかしかったんだけど?」

「でもあのままじゃ、確かに目的は達成されていて結果だけなら上出来だけど、全員の体裁へのフォローはいまいちだったよね?夜会も雰囲気が悪いままだったろうし」

「うっ…確かに…!」

 痛いところを突かれて、弁明の余地がない。


「だからその辺のフォローを俺がするって、あらかじめ陛下に話をつけておいたんだ」

「…え…?あれはアダム様とマーガレットさんが何やら勝手に勘違いしたから、全体が上手くまとまったんじゃないの?」

「あの二人は偶然俺のフォロー計画と似た結末にたどり着くような勘違いをしたんだよ。全ては陛下のご慈悲的な結末にね。だから暴走しても放っておいただけ。もしあの二人が何やら言い出さなくてもそういう結末にたどり着くように、俺も色々と仕込んでたんだよ」

 …陛下は自分の株が上がると知ってジェイドに加担したってわけね…。まぁ、陛下としては当然の選択をしただけなんだろうけど…。


「……でも、みんなはジェイドのフォローで良い感じに収まったのかもしれないけれど、私は何だか色々と不本意な感じになったんだけど…」

 あのプロポーズ劇で、もしかしなくても悪女と評判だった私の株も上がった事だろう。だけどそれ以上に失ったものが多い気がする…。


「まぁちょっとケイティの外堀が埋まった感はあるけど、ケイティはいずれ必ず俺と結婚するから、そこは問題ないよ?」

「いやそれこそ問題大アリでしょう!?決定事項みたいに語らないでちょうだい!!私の気持ちを尊重するんじゃなかったの!?」

「うんだから尊重するつもりだよ?ケイティが何を心配しているのかだいたい分かるけど、俺はケイティの気持ちを無視してケイティをどうこうしようって気は全くないから。あくまでケイティの気持ちが最優先だから」

 時おり見せる黒い笑顔を綺麗にひっこめて、自分はいかにも品行方正ですと言わんばかりの笑顔を作るジェイド。

 ……い…意外と紳士!?紳士なんだよね!??……今無理矢理膝の上に乗せられてる状況は、……きっとウッカリとかなんだよね!?


「いい?俺はケイティを口説き落とすつもりではいるけれど、ケイティが俺を好きになってくれるまでは色々ちゃんと待つから。俺は自由なケイティが好きなんだから、ケイティは自分の自由な気持ちを大切にしてくれれば、それでいいんだからね?」

「そ…そう…なの…?」

「そう。ケイティの自由を、俺の勝手で縛りつける気なんて全然ない。無理矢理どうこうなんて、もってのほかだから」


「…だったら、膝の上から下ろしてくれないかしら?言っている事とやっている事が矛盾しているわよ?」

「それはそれ、これはこれ。口説き落とす気はあるって言ったでしょ?」

「…それってどういう基準で分けてるのよ…」

 どこまでなら良くて、どこからはダメだと思っているのか。彼の基準を知らない事には安心できない。


「ケイティが本気で嫌がるかどうか、かな?本気で嫌がる事はしないけど、恥ずかしがってるだけなら可愛いから遠慮なく攻めるよ?」

「膝の上に乗せられて、私が本気で嫌がっていないとでも言うの!?」

 私はそんなにチョロくないわよ!


「本気で嫌なら、ケイティなら魔法を使って攻撃するなり逃げるなりできるよね?そうじゃなくても、声を上げるなりして御者に助けを求めればいい。そうしないのはなぜ?」

「なぜって、………あなたは私の大切な幼なじみで、………色々本音で話せる友達で………、信用してるし………」

 そう言われて、何だかんだ彼を信用している自分に気がつく。……まぁストーカー疑惑は拭えないけれど、でも私を無理矢理どうこうしないっていう彼の言葉は信じられる。

 ………チョロいわけではないわ。ええ決して。全然、まったく。


「ね?ケイティは今、本気で嫌がってはいない、恥ずかしがってるだけ。単に可愛いだけ」

 愛おしげな表情をしつつも、茶化してくる。

「………っ、恥ずかしい事もやめてほしいんだけど!?あと、あんまりそういう事を言わないでほしいんだけど!!」

「そういう事って、好きとか可愛いとかそういう事?」

「………!!!」

 やっと熱が引いた頬が、再び紅潮するのを感じる。


「別に単なる事実を述べてるだけだと思えばいいんじゃない?」

「もう、いちいちからかわないで!!」

 人をからかって楽しむなんて、悪趣味よ!


「あぁそうだ、ケイティは明日からさっそく旅に出るんでしょ?俺、その旅に護衛としてついて行く事になってるから、よろしくね?」

「……………はい?」

 ダメだ、今日は幻聴がよく聞こえる日なのかもしれない。


「悪魔を封印した後、ケイティの両親に、ケイティに結婚を申し込む許可をもらいに行ったって言ったでしょ?」

「…うん…」

「ケイティとアダム様との婚約破棄が叶ったら、その時にはケイティと結婚させてほしいって言ったんだ。そうしたら、ケイティは婚約破棄後は家を出て外国を旅して回る気みたいだから、君みたいな強い人間がそばに居てくれるなら心強いって伯爵に言われて」

「………えっ、まさかお父様、また私の知らないところで勝手に結婚を了承したんじゃないでしょうね!?」

 アダム様との婚約は王命だから仕方がない。でも今回はギルティ!


「いや、伯爵はそんな事はしてないよ。結婚はケイティ自身が望むなら認めるけど、そうじゃないなら僕の一存では決められないって言われた」

「じゃあ何で私に結婚を申し込みたいとか言っている人を、私の旅の護衛につけようだなんて話になっているの!?」

 やっぱり幻聴!?疲れているものね!!


「まぁ結論から言えば、ケイティの両親が情にほだされたから、かな?」

「情………」

「一代貴族の身分を手に入れたのはケイティと結婚するためだから叙勲にこだわりはない。貴族でも平民でもケイティの望む立場を選ぶ。俺の願いはケイティと一緒に居る事だけ。ケイティが旅に出るなら一緒に行きたい。ケイティのためなら何でもする、護衛でも、御者でも、使用人でも、何でもいいから側に居させてほしいって頼み込んだんだ」

 …愛が重い…!そこまで執着されるような事、私、何かした!?


「それから、もちろんケイティの気持ちを無視する事はしないし、結婚するまでは手は出さない事も誓う。だからどうか側に居させてほしい。もしもいつかケイティが俺を好きになってくれたら、その時はケイティと結婚させてほしい。そういう話をしてね」

「…それでまんまと情にほだされた、と…?」

 心の中で、怒りがふつふつと湧き始めるのを感じる。


「まぁそういう事だね。それで伯爵に、結婚するまでは決して手は出さない事、何があっても必ずケイティを守り切る事を条件に、ケイティの護衛にならないかって言ってもらったんだ」

「…私は護衛はいらないって言ったのに、今度は勝手に護衛を決めてるとか…!!本当にこの国の国民は、すぐに情にほだされるし、恋愛的な事情に甘すぎるのよ!!」

 あっという間に沸点に達した怒りに任せて、今度こそジェイドの胸ぐらを掴んでガクガクと揺さぶる。そしてやっぱりすぐに冷静になる。

 ―――またしてもジェイドが、胸ぐらを掴まれて嬉しそうにしているから………。


 …本当にこの人、紳士なのかしら?…どちらかというと、ただの変態なんじゃないかしら…。

 そんな不安がよぎった時、馬車はピジョン伯爵家に到着した。


 …よ、よかった無事に家についた!ストーカーも変態も、どっちもお断りよ!

 そう思ってホッとしたのも束の間。再び問答無用でお姫様抱っこにされて家に運ばれる。


「だから下ろして、手は出さない約束なんじゃないの!?」

「手なんて出してないよ、ただのお姫様抱っこでしょ?こんな事で恥ずかしがるなんて、ケイティは本当に可愛いよね」

「………もういやぁー!!!ストーカー、変態ー!!!」

 そう叫んだ名門ピジョン伯爵家のご令嬢の声は、おそらくご近所中にも響き渡った事でしょう……っ。不覚!

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