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2話 婚約破棄計画、順調に進行中

「みなの中にも、私の婚約者であるキャサリンの悪い噂を知っている者は多いと思う。メグ…ブルーム男爵令嬢に対する嫌がらせの数々に、伯爵家所有のとある施設に見目麗しい男性を集めては、キャサリンに仕えさせているという目撃情報。彼女は悪事を働く女性、いわば悪女だともっぱらの評判だ」

 周囲にいる人間ひとりひとりに、目を合わせながらそう説くのは、この国の王子。

 言葉を交わすどころか、目を合わせることすらままならぬはずの存在が、まるで自分に訴えかけるかのように視線を合わせて語りかけてくれる。ただそれだけの行動で、彼は人々の心を惹きつける。


 …ところで私、悪事なんて働いていませんからね?…でも私に悪い噂があるのは事実。なぜならその悪い噂は、私が自分で流したから!


「しかも最近では、その施設でキャサリンが怪しい匂いのする粉を製造しているという噂まであるではないか!それがどのような粉なのか、未だに分かってはいない。だがしかし、このような悪評にまみれ、国民に不安を与えるキャサリンは、果たして未来の王子妃にふさわしいだろうか!?私はそうは思わない!」


 大袈裟な身振り手振りを交えて力説するアダム様……出た、彼の十八番(おはこ)、アダム様劇場!衆目を集める力はピカイチ、他の追随を許さないわ!!

 ……ていうか、自分で噂流しといてアレなんですけど。アダム様、根拠のハッキリしない噂話にすぎない情報を、鵜呑みにしすぎ!

 アダム様は、昔から正義漢の良い子なのよね。彼の心根は、本当にまじめな良い子!

 …だけど純粋培養すぎる上、思い込みも激しくて、国政を担う立場には向かないっていうか…。


「未来の王子妃にふさわしいのは、ブルーム男爵令嬢、彼女のような人だ!彼女の身分は確かに低く、ブルーム男爵家も裕福とは言えない。しかしその分彼女には、人々を身分や資産の有無で区別せず、全てのものに愛を向ける優しさがある。彼女こそが、愛の国といわれるランドルフ王国の王子妃にはふさわしいのだ!そして私は、メグ、彼女を愛している!」


 自国の王子が恋人への愛を堂々と語る姿に、周囲はどよめく。

 しかしそれは、彼に対する批判的な反応よりも、美しい二人の身分違いの恋物語に興奮を隠しきれない、といった様子の反応の方をずっと多く含む。

 この平和な国の人間はみな、恋愛話が大好きなのだ。


 …まぁ、私は別に恋愛話には興味がないのだけれど。

 でも、自分だけのお姫様を守る騎士になりたいというアダム様の子供の頃からの夢が叶って、アダム様がマーガレットさんを守る事に生きがいを見出しているのなら、彼の幼なじみとして喜ばしいとは思うわ。

 彼の事を、王族という立場の人間としてはどうかと思う。でも、人としては、本当に優しい人なのも知っているから。

 …なにより、二人を出会わせて恋に落ちるよう仕向けたのは、この私なのだから!


「私はキャサリン・ピジョン伯爵令嬢との婚約を破棄し、マーガレット・ブルーム男爵令嬢を新たな婚約者とするつもりだ!…メグ、受け入れてくれるな?」

「アダム様…!」


 彼のまっすぐな視線を見つめ返し、マーガレットさんの表情が不安げなものから、何かを決意した表情に変わる。


「…私も、今日ここにいるみなさんに聞いてほしい事があります。私はブルーム男爵領という田舎の領地で、平民に混じって農作業をしながら育ったような娘です。私は確かに、王子妃にふさわしい教養も、地位も権威も財産も持ち合わせていません。そんな私が、この国の王子であるアダム様の隣に立つ事がどんなにおこがましい事なのか、それは私自身もよく分かっているんです」


 声まで美しい彼女のスピーチに、周囲の者は熱心に耳を傾ける。


「でも、全く違う環境で育った私達だからこそ、お互いを支え合い、夢を実現できると思うんです!アダム様が愛ある国を作りたいと思い、そのために私が必要だと言ってくださるなら、私は私の愛でアダム様の夢を叶えるお手伝いをしたい。そう思うのは、他ならぬアダム様ご自身を、私が愛しているからなんです…!」


 マーガレットさんも、何度言っても教養のきの字も身につかなくて…というか、人の話を全然聞かないやっぱり思い込みの激しい子なんだけれど…。

 でも彼女もアダム様の言う通り、とても優しい子。だから私達の婚約破棄が実現して、マーガレットさんの王子様に見初められてお姫様になるという子供の頃からの夢が叶うなら、何よりだわ。彼女本人はそんな夢、叶うはずなんかないと思っていたようだけれど。


「私がどんなにアダム様を愛していたとしても、これはキャサリン様にとっては不義理な事なんだって分かっています。でもそれでも、私はやっぱり、アダム様のお心をいちばん側で支えたいんです…!」


 キラキラとした輝きをまといながら懸命に話す彼女の表情、仕草、熱意を帯びた空気、その全てから、それが彼女の心からの言葉だと周囲に伝わる。

 愛を訴える彼女の主張に、周囲は再び騒めきだす。その反応は、否定的なもの、肯定的なもの、様々だ。

 だからこそ、彼女の好感度を上げるために、私の好感度を下げるべし!


「まぁ嫌だわマーガレットさんたら、相変わらず理屈の分からない子なのね。愛で支えられる事だなんて、ほんの些細な事にすぎないのよ?あなたは大人しく愛人の座にでも収まっておけばいいの。身分を弁えなさいと、何度言ったら理解出来るのかしら?」

 彼女を見下すように小首を傾げつつ言いながら、周囲にいる人に紛れている私のスパイとそっと目を合わせる。


「お前は相変わらず、身分やら権力やら財産やら、そんな事にしか関心がないのだな!それでもこの愛の国の民なのか!?人として大切なものを持ち合わせていないお前が、愛の国ランドルフ王国の王子妃にふさわしいものか!!」

 アダム様の言葉を受けて、スパイに、今よ!という合図を送る。


「そうだ、アダム様のおっしゃる通りだ!ここは愛の国と名高いランドルフ王国!愛のない者に王子妃が務まるものか!」

 スパイが声高にセリフを口にする。

 …うん、会心のタイミングね!

「その通りだ、この国が平和なのは、愛があるからこそだ!」

 おぉ、こちらのスパイも、仕込みとは思えない演技力!

「アダム様のおっしゃる通り、この国の王子妃にふさわしいのは、ブルーム男爵令嬢のほうだ!」

 …ていうか、スパイのみんな、普通にアダム様とマーガレットさんに心を動かされてるっぽい?二人とも、人たらしだものね!まぁ、いいんだけど。


「そうだ、ブルーム男爵令嬢こそ、王子妃にふさわしい!」

「私も、この国では、愛こそを大切にすべきだと思いますわ!」

「その通りだ!」

「そうよ!身分の違いなんて、愛の前にはそれこそ些細な事だわ!」

 …おおぉぉ、仕込みじゃない人も釣れてる!本当にこの国の人、恋愛話大好きだものね。

 王子と男爵令嬢、美しい二人の身分違いの恋ってだけでも絶対に大好物なのに、それが目の前で成就する感動的な展開なんて、きっともはや食欲が止まらない感じよね!

 みなさんには美味しい恋愛話を楽しんでもらえて、アダム様とマーガレットさんは二人の恋が成就して幸せ!私もアダム様と婚約破棄する夢が叶ってハッピー!私の計画は完璧ね!


 …と思った、その時だった。


「みなの者、静粛に!第二王子アダムとピジョン伯爵令嬢の婚約は、王命なのだぞ!」

 その声を上げたのは、彫りの深い顔立ちをした、威厳のある雰囲気をまとう男性。

 彼の名は、ガブリエル・ランドルフ。この国の、国王だった―――。

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