君は僕の弱点を捉えすぎている
セミの鳴きはじめる季節の朝、教室の真ん中で堂々とラノベを読む男が居た。
冴えない上に顔も普通、典型的なラブコメ主人公っぽい感じのその男こそ 島田 亮悟 まあつまり俺である。こんな高校1年生俺だが、実は仲のいい可愛い友達がいる。それが…
「お前朝から汗かきすぎじゃね?ベトベトじゃんw」
「おいバカ 傷つくからやめろ」
この文面からじゃ想像もつかない可愛い毒舌系男の娘 嶋田 香。基本いつも一緒にいる。
中学の頃からの仲で、苗字の漢字は違うが読み方は同じなため、1部の腐女子からは絶大な支持を寄せてしまっており、公認BL夫婦みたいな扱いを受けている。 まあ、ツンデレで可愛いから満更でもないがな。
「んで、香はどうした?」
「どうしたも何も亮悟が1人でラノベ読んでニヤけてるから、キモイぜ?それ」。
結構ズバズバ言ってくる香だが言ってる事とは不釣り合いなほど天使の笑みを浮かべている。その上クラスで浮いてる俺に気を使ってくれてのこの発言 全く、恐ろしく可愛い。
「このラノベ面白いんだよ。ヒロインが多いハーレム系ラブコメなんだけどそれぞれのキャラが立ってて主人公を取り合うシーンなんか特に…」
「ハイハイ、分かった分かった。でも気になったから読み終わったら貸せよ。家帰って読む」
「OK 放課後に渡すよ」
トイレだと言って香は遠ざかっていった。香はオタクでもあるが友達は多いし陽キャ組にも混ざれる。まあでももちろん俺もそこそこ友達いるし… どうした?こんな完璧な男の娘いる訳ないし、第1なんで冴えないラノベ主人公っぽいとか言ってる癖に友達そこそこいるの?だって? それはフィクションだからの1言で片付いてしまうが、それ以外にも理由がある。それは…
俺はこの皆が今読んでいるラブコメ
「君は僕の弱点を捉えすぎている」の作者だからだ。
事の発端は2020年12月、しかも年末に起こった。18歳になった俺、島内 良翔は主人公の島田亮悟の学園ラブコメを書くラノベ作家として活動していた。俺の理想の高校生活を書いたその作品は、人気も絶好調で最終話を迎えたのであった。そして番外編を書いている所だったが執筆中に寝てしまうのは悪い癖だった。そしてその日も例外では無く、気付かぬうちに睡魔に後ろからやられ寝落ちしてしまい、気がついたら…
「体が縮んでしまっていた」 …といった感じで実際には中学生の島田 亮悟に、ラノベ作品の世界に、入り込んでしまったのである。最も、そこは俺の書いた世界に忠実であったが、3年間による俺の行動によっては俺の書いた通りではない状況になった。友達が少ない設定だったはずなのに友達がそこそこ居たり、元々高校で仲良くなるはずだった香と中学から仲良くなっていたりするのも全部、俺が作者だからこそ起こってしまった改変である。
「ねぇ、急にどこぞの名探偵のセリフ言ったかと思えば、また急に黙り込んでどうしたの?大丈夫?おーい?」
「あ、ごめん高松さん。考え事してた。」
「もう、名探偵のセリフ言う考え事ってなによ〜」
彼女は高松 花純さん。このラブコメのメインヒロインであり
最終話で主人公である亮悟と結ばれる女の子だ。可愛くて家事が上手いという素晴らしいスペックの彼女は作中でも、読者からも人気が凄い。もちろん、亮悟の弱点をしっかりと捉えている巨乳、優しさetc、これらから俺は彼女と亮悟を最終話で結ばせた。しかし…
「それでね、実は…その…今度の休み、一緒に映画〜」
彼女が俺を映画に誘おうとした所で唐突に教室の戸が空いた。
先生が入ってきたのである。
「それじゃあ、後でね」
そう言って少し機嫌悪そうに席に戻る高松さん。しかし実際にこの世界の住人になると彼女も悪くない。むしろ作中の亮悟と同じく惚れてしまいそうだ。だが…
「今日は転校生を紹介する。入って入って。」
先生にそう言われてガチガチに緊張して入ってきたのは金髪のロリっ子 鈴沢 佑香ちゃん
「す、鈴沢 佑香です。その…えっと…よろしくお願いしましゅ」
そう、俺はこの時を待っていた。彼女が定番の自己紹介で噛んでしまい赤くなっているのも、俺の席の隣がメインヒロインのはずの高松さんではなく空いているのも、この時のためだ 何故なら作者である俺の推していたヒロインは佑香ちゃん。
しかも俺は、その世界の亮悟になってしまったのだ。ならば…
「俺は佑香ちゃんを幸せにしてみせる!」
そう小声で決意して、俺のフィクションのはずだったラブコメは幕を開けた。
「亮悟の隣、空いてるな。じゃあ佑香さん。あそこがあなたの席よ」