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11 蜘蛛の恩返し

■■■聖女ミルフィーヌ視点


 美味しい朝食を食べ終わって一息ついたところだったのですが、どうやら外が騒がしいようです。


「な、何かあったのでしょうか?」


 レティちゃんがスライムを抱きしめながら不安そうな顔をしています。ふむ、スライムのクッションというのも柔らかそうでとても良さげです。


「大丈夫ですよ。今ルミナス村には勇者パーティがいるんです。どこよりも一番安全です」


「そ、そうでしたね。でも、お兄ちゃん大丈夫かな」


 外で畑仕事をしている兄をすぐに心配するあたり、レティちゃんは本当に優しい子のようですね。私なりに勇者様との間に入って距離を置けるよう手を貸したいと思います。


 仲間としてはいろいろと複雑ではありますが、私も間もなくこの村の一員になる予定なのです。村人の安全と心の平和は聖女としても守ってあげたいところです。


「では外に出てみましょうか」


「で、でも、危なかったら」


「大丈夫です。私も一緒ですから」


「そ、そうですね……それなら」


 外に出ると喧騒とした騒ぎは村の入口の方で起こっているようです。ちょうど勇者様とレーベン、エイルマーが走って向かっている後姿が見えました。あの三人が向かったのならもう安心ですね。


「では、レティちゃん。行きましょうか」


「は、はい」


 私が手を出すと素直に手を握ってくれる。何この子、可愛すぎますね。あと、スライムは一緒に連れていくのですね。胸の前に抱きかかえるようにして黒いスライムがいます。


 それにしてもこの騒ぎの原因は一体なんなのでしょうか。この一帯にはモンスターはおりません。なのでモンスターが村に攻めてくるというのは考えにくい……。


 い、いや、もしも昨日のモンスターだったら?


 あれは夢ではなく本当にあったことです。私としたことがとんだ失態を犯してしまいました。のんきに朝食など食べている場合ではなかったのです。



「は、早く、村長を呼んでくれ」

「こ、これは何なんだ!」


 私たちが駆けつけた時には、村の入口に白い糸でミイラの様に巻かれた何かが置かれていました。


 間違いありません。あの糸は、昨夜現れたモンスターのものです。おそらく蜘蛛のモンスターなのでしょう。


「お兄ちゃん!」


「おお、レティ……と聖女様」


 ついでのように呼ばれましたが、何処か後ろめたいことでもあるかのように直ぐに目を逸らされます。


 これはあやしいですね。


 顔は私のタイプですが、村のために何か良からぬ隠しごとをしているようであれば聖女として断罪しなければなりません。


「ミルフィーヌどこへ行っていたんだ。昨日は戻らないから心配したんだぞ」


 どうしましょう。私も勇者様から目を逸らしたくなってしまいました。今ならレン君の気持ちが少しだけわかりますね。


「そ、それは、その……。レティちゃんの家に泊まってました」


「何だって! うらやましい。じゃない、そうだったのか」


 頭の中がうらやましいで占めてしまったことで深く質問されることもなさそうな感じですね。これも私の日頃の行いが良いからでしょう。


 さて、先ずは事情を知っていそうなレン君から話を聞きましょうか。


「レン君?」


「とりあえず、これの中身を先に出しましょう」


「これの中身が何なのか知ってるの?」


「ええ……おそらくですが」


 レン君は糸でくるまれた中身を持っていたナイフで破っていきます。


 そうして現れたのはヒュージディア。中型の鹿のモンスターです。ルミナス村周辺では見かけない種類です。


「モンスターだ!」

「し、死んでいるのか?」


「レン君、説明してもらえますか?」


 もう逃げられないと思ったのだろう。意を決したようにレン君は昨日あったことを喋り始めたのです。


「実は昨日あの後ですが、何とか逃げようと持っていたトマクの実を黒い蜘蛛のモンスターに投げたのです」


「蜘蛛のモンスターだって!?」

「ど、どういうことだレン!」

「モンスターが現れたのか?」


 村人が驚くのも仕方がありません。ルミナス村ではしばらくモンスターが現れることはなかったのですから。


 それよりも気になるのはトマクの実を投げたことでしょうか。私は騒ぐ村人の声を抑えるように手を挙げて質問を促しましょう。


 とりあえず、関係者である私に勇者様方も任せてくれる感じのようです。


「トマクの実と、このヒュージディアが関係あるのですか?」


「昨夜現れた蜘蛛のモンスターは僕が投げたトマクの実を食べると、とても喜んでいるようで、もっとたくさんくれと催促をしているようでした。僕はあの場所から何とか逃げのびるために餌付けをしたんです」


「モンスターを餌付けですって!」


 しかしながら、レン君と意識のなかった私があの場所から逃げるにはそんなことでもしない限り難しかったでしょう。


 つまり、私とレン君はトマクの実のお陰で助かったということなのですね。


「ということは、このヒュージディアは?」


「多分ですが、トマクの実のお礼なんだと思います。実は育ち過ぎたトマクの実を村の外の森に廃棄していたことがあって。その、熟しすぎたのは売り物にならないし食べきれないので……。僕も森で黒い影を見たことがあるのですが、きっとあれはあの蜘蛛のモンスターなんだと思います。トマクの実がもらえるルミナス村周辺を守ってくれていたんじゃないかって」


「モンスターが村を守る? そんなことがありえるの」


「僕は昨日の夜にトマクの実を喜んで食べたあのモンスターを信じます。今朝だってこうやってお礼をしてくれたのです」


 モンスターが村を守るなんて荒唐無稽な話ではあるのですけれど、私たちが森を調べた結果やあの黒い影のモンスター、そして祝福されたルミナス村という事柄が合わさると……可能性としてなくはないのかもしれません。

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