第三十二話 騙し
──ブラッドは歩き続け、中間地点である港町へとたどり着いた。
「名前は確か──」
──リッカ、という港町である。
総人口、二十一万人に及ぶかなり大きな港町だ。
数々の国と貿易をして、常に賑わっている。
「……」
ブラッドはそそくさと足速にかけるようにこの港町を通りたかった。
理由はいくつかあるが、一番大きいのは、人が集まる場所が好きでないという点だ。
ブラッドは大人数というのがかなり苦手だ。しかも自分の知らない相手ともなれば更に。
「……」
だが、ブラッドはここで食料を切らしていることに気がついた。
──正直、道中の魔物を殺して食えばよい。だがどうだろうか、ブラッドは思う。魔物のあの不味さといったら無い。
それほどまでに不味いのだ。魔物とは。
故にここリッカで何か食料を調達しなければならない。
面倒ではあるが、仕方の無いことだ。
ブラッドはそれなりに金銭を保持している。手荷物自体は少ないが。
「……はぁ、俺も欲しいなぁ」
ブラッドが欲しがっているのは、空間鞄。
見た目は小さいが、その内容量といったら、なんという大きさだろうか。
それほどまでに大きく、しかし見た目自体は小さいのだ。
「……」
そんな超便利アイテムはそうそうない。
第一それももしかしたら空想上の産物なのかもしれない。
──或いは
◇
ブラッドが考えながら港へ来ると、何故かは分からないが賑わっていた。
「…?」
「…俺がとってくるでぇ!」
「おぅ!頼んだぞー!」
「お前こそ、希望の星だぁぁあァーッ!」
なるほど、とブラッドは思う。
この世には七海と呼ばれる七つの海が存在する。
その七海の覇王が遺したと言われる秘宝。
ならず海の七秘宝。
それが海のどこかで出現でもするのだろう──
と予想する。
「…さて、食料の調達でもするか」
……すこし考えて、ブラッドは少し恥ずかしく思った。
何独り言言ってんだ。と。
◇
なんとか食料は調達出来た。
あとはこの町を出るだけだ。
ブラッドはここで考える。
しかし良いのだろうか、何もせずに町を出るというのは。
ちょうど小腹も空いていたことだし、ブラッドは何か飯を食ってからこの町を出よう、とそう思った。
◇
食事処、『鮮丼』という名前の料理屋があったのでブラッドは入ってみることにする。
──ガラガラ。とドアを開ける。どうやら横開きのようだ。何やら不思議だなと感じていると、
「いらっしゃせ〜」
店主だろうか、気前の良さそうな男が出迎えてくれた。
だが何故だろうか、若干の気持ち悪さもブラッドは同時に感じていた。
「…」
メニューを見ても何が書いてあるのかブラッドにはさっぱり分からない。
──だから、魔法を使う。
「言語視」
……ふむ。と息をつく。
しかし、結局何が書いてあるのか、ブラッドにはいまいち分からなかった。
「お客さん、メニューでお悩みかね?」
「……ん」
「こいつぁどうだい、河豚の刺身…ってのはよォ」
「ふぐのさしみ?何だそれは」
「とにかく食ってみれば分かりますよ」
「じゃあこれを頼む」
「お代は後払いで構いません」
◇
「な、生の魚の白身が出てくるのか」
「えぇ。ですが、食えます」
ブラッドは少し周りを見渡して気づく。
確かに皆生魚を食っている。
ブラッドは肉体強度が異常なため、生で魚を食うことや、生卵、生肉も食らうことが可能である。
しかし一般人はけしてそうでは無い。
なのに何故それが可能となっているのか。
「刺身とは、不思議な食い物なのだな」
つまりは、特殊な食べ物に他ならないのだろう。
「…では」
出された刺身を見て、ブラッドは言う。
「──いただきます」
刺身を箸で掬う。
よく見れば煌めいて見える。透き通った白身だ。プルプルとしている。
そして、それを口へ投入。
ひと口、またひと口食べていく。
「うむ、美味い」
「そうですか!」
「なんだろうか、この旨み成分?というのか?これが──」
その瞬間、ブラッドはぐったりとする。
そして、それと同時に──
「──馬鹿がァっ!」
周りの席に座っていた連中がブラッドへ飛びかかる。
「あぁ、だと思ったよ」
そして、それを全て迎撃する。
「…は?」
飛ばされたもの達は呆ける。
何がおこっているのか、と。
「な、お前、食ったよな河豚を!?」
店主は慌てて言う。
「あぁ、食った」
「あれは、毒が全身に回った個体…!何故河豚毒を食らって尚生きている!?」
「そんなもの、一目見れば魔法で分かる。お前たちからは悪意が漏れていたからな。だから作戦にのってやったよ。ちなみに毒はもう解毒した」
「有り得、ねぇ!だいたいこの人数差だ。イキがっているだけ。数による圧制で潰しちまえばいいっ!」
そして、全員による総攻撃が始まる。
「おお、まだ前の盗賊よりやりがいがあるな」
ブラッドは容易に攻撃を躱しながらそう言う。
「動きからして傭兵か。確かに殺人に特化し他のことは器用貧乏に出来る、全員そんな立ち回りだな」
「はっ、いつまでそうして──」
「これは虚勢ではない。いいか、お前たちは恐らくその身の殆どを傭兵というものへの修行、或いはそれに近い努力を行ったはずだ」
「…」
「だが、お前たちの努力じゃ俺の才能と努力には打ち勝てないな。才能に勝ちたいならそいつの努力のもっと上をいかなければならない。そして努力は量じゃねぇ。質と量、どちらも大事だ」
──二分後。
店内は倒れ伏した男達だらけとなっていた。
「…こんなものか」
しかしブラッドは警戒する。
──どうやらコイツらは全員がSSSの手下らしい。
ブラッドの行動がバレていることに他ならない。しかし逃げないということは──
つまり勝てると思っているということか。
「…だが、まさか本物の店主はとうの昔に殺されちまってるとはな」
とうの昔にそれは蝿が集る肉塊と成していた。
「まぁいいさ。恨みを買うのは嫌いだ。漆黒の沼」
ブラッドを襲ったSSSの手下は漆黒の沼へ沈んでいく。
ブラッド本人もこの沼がどこへ繋がっているのかは分からない。
ただ恐ろしい破壊と地獄が待っているということは容易に予想がつく。
何故ならこの魔法を発動させる度に、その沼へから、何かこもった声の悲鳴が延々と叫び続けるのだから。
「さてと」
そしてブラッドは再び出立する。
◇
「…む。やられてしまったか。いや、まぁあの程度の滓ではどうにもならないなんて分かりきっていたことだね。まぁ良いか。さぁ、気分よく昼寝だ」




