第二十五話 SSS
転移拒否闇矢を使用する際に注意すべき点は、闇矢がどこから出てどこまで行くのか、というところ。
つまり、始点と終点が必須ということだ。
セイヤはあまり時間がないため、即決して位置を決める。
「ここと、ここだ」
それは、空中であった。
天使は基本性能として飛行という能力を持つ。故に、空中であれば転移拒否は発動しても当たるはずである。
……だが、セイヤは少し不安にもなる。
自分は本当にここに置いてよかったのだろうか。
もっと良い設置場所があったのではないのか。
そう迷っても、意味は無い。それは分かってはいるのだが、それでもセイヤは何故か胸がドキドキした。
…ドクン。
セイヤは己の心音が聞こえた。
ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ。
いや。
ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、
ドッドッドッドッ。
「…ち、一旦落ち着けるか」
自分に、精神安定をかける。
強靭な精神へとなる訳ではなく、心が落ち着くだけである。
しかし、セイヤにとってはそれだけで十二分にありがたかった。
「…」
他の三人が誘導させてくれる手筈だ。
だからセイヤは安心して待っている。
そして、じっと見ることしか出来ない。
彼らが今どこで何とどう闘っているのかは皆目見当もつかないが、しかしそれでも待たなければいけない。
そして待ち続けなければいけない。
闇矢を発射することを。
その時、セイヤのかなり近くから大きな音がした。
どうやら、智天使と三人が闘っているようだ。
「…」
セイヤはじっと、転移拒否の間の範囲を見続ける。
始点と終点。
この直線上へ乗った時がやつの終わり。
だから、集中して見る。見続ける。
「…ッ」
まだ、だ。
まだ姿さえ見えない、と内心焦る。
ドシンっ!
(見えた…!)
地面にニーヤの顔面を擦られながら、智天使は暴れ回っている。
「ごぉぉおおおおおぉ!」
天使が出すような声ではない。
しかし、実際目の前から聞こえてくるのだから、不思議だ。
「…」
コジロウは遠くに伏せてるのを見た。
アラはまだ闘っているが、そろそろ臨界点だろう。
…
「…」
アラはとの応戦が終了した。
これより、セイヤにヘイトが向くのは自明の理。
「…ギギギ」
「…?」
首を傾げる。
天使が何か、言おうとしているようだ。
「ギギギ、ギギャギャギャギャ」
智天使は、突然、(恐らく)笑いだした。
倒れた三人を見ながら。
弱者、とそう罵っているようだった。
倒れ伏した人間にそこまでするのか。いや、その程度しか出来ないのか。
とにかくセイヤが怒りを覚えたのは間違いない。
そして、智天使は余裕の足取りでセイヤへと歩み寄って来る。
まるで、自分の方が絶対的上位者であることが揺るがぬように。
負けることを知らないのだろう。
敗者側の気持ちを汲み取ることが出来ない。
本当に、そういう奴が一番嫌いなんだよ、と心の中で毒づくセイヤ。
「…ギ」
そして、セイヤの目の前へ智天使はたどり着いてしまった。
転移の始点と終点の直線上に乗っていない。
「…」
セイヤは睨みつけるように智天使を見る。
魔族と天使。
それは確かに、睨み合うのも無理はないと言えた。
「…」
そして、無言でそれは始まる。
智天使がセイヤへと飛びつく。
「我慢勝負に、何とか勝ったか」
神速の攻撃が迫る中、刹那セイヤは呟いた。
いや違う。
それはセイヤなどでは無い。
セイヤが作り出していた、幻。
幻術であった。
「発動!!」
空中から声が聞こえた。
智天使はすぐに引かなければと、己の危機を察し、飛び上がった時。
目の前で、一人の男と目が合った。
それは、セイヤであった。
まるで、ずっと自分が来ることを待ち構えているような、そんな目付きをしていた。
飛行によって、ずっと飛んでいたのだ。
そして、待っていた。
その時を。
このシュチュエーションを。
この状況を。
「じゃあな」
闇矢は放たれる。
瞬時に亜光速へと加速した闇の矢は智天使を貫通し、破壊し、粉々にした。
「…勝った、か」
やり終えた達成感。
そして、三人への心配と共に、地面へ降り立つ。
「────」
(絶句)
(絶望)
「…な」
目の前の存在が、夢であって欲しいと思った。
三人の前に居たのは、化け物のごとき力を持つ男。
世界最強の傭兵。SSS。
「何故、ここにっ?」
「…ん?見られたか。存在消滅」
…。
瞬時にセイヤは己が何を見ていたかを忘れる。
「あれ、何を見ていたってか、俺。ん?まぁ思い出せないってことは、どうでもいいことだったんだな」
そしてセイヤは三人を担ぐ。
「さて」
──逃げますか。




