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「ーーーッ!!!!?」
空いたドアの先には、タオルを体に巻き満面の笑みで立っている『それ』がいた。
「お!お前そんな格好で何考えてんだよ!ふざけてんのか!?」
「え?今しがたお姉さまがお風呂というのは若い男女が体を洗いあって1つになることでもあるとおっしゃっていたので。それに先程『またな』って仰っていたじゃないですか?」
あんのアマァーーー!
ふざけたこと吹き込みやがって!!!いくらなんでもやりすぎだ!!絶対にいつか仕返ししてやる!
「どういう捉え方したらあの流れのまたなが風呂で会おうって意味になるんだ!入ってくんな!!」
シャンプーで泡だらけの頭で必死に糾弾する。
頭皮から流れるシャンプーが目に染みて良く見えないが、『それ』が悲しそうな表情をしているのがなんとなくわかってしまう。こいつはあの悪党に騙され、何の悪びれもなくここに送り込まれたのだ。
「ご、ごめんなさい。仏丸さんが待っててくれているのかと思ったらわたし嬉しくって・・。
き、嫌いにならないでください」
「うるさい!こっちはただでさえお前のためを考えてやってんのに迷惑かけられたんじゃたまんないんだよ!!早く出ていけ!!」
「は・・はい。すみませんでした」
『それ』はしょんぼりと肩を落とし、重い足取りで風呂場を後にする。
少し言い過ぎたのか?
いやいや冗談じゃない!思春期の童貞を舐めるな!!
裸にハンドタオル?ふざけんな。
おかげで一生頭から離れない映像がしっかり永久保存されちまった。
すると再び洗面所からガタガタと音が鳴り、今度はみさきがひょっこりと顔を出した。
「あんた何ムキになってんのよ」
「うるせえ!てめえがアイツを騙して俺にーー」
「ーーて め え?」
・・うっ・・・。
みさきは舐めた口聞いてると殴るぞと言わんばかり睨み付けてくる。
くそ。理不尽だ。ちょっと先に生まれたからって悪いのはそっちなのにどうしていつもこっちが折れなければならないんだ。
「ふん、シラケるわね。ちょっとからかっただけじゃない。むしろ奥手のあんたにチャンスやったんだから感謝して欲しいくらいよ」
「ふざけんなよ。いくらなんでもやりすぎだ。
俺はあいつの彼氏になりたいわけじゃないんだぞ!?」
「でも可愛いって思うでしょ?本当は一目惚れして連れ帰ってきたんじゃないの?」
「ち、ちげえよ!俺はあいつの事をただ放っておけなかっただけで、別にあんなやつの事なんか・・」
みさきは体を半分風呂場に出し、下に用意してあったお湯が張った桶を泡だらけの俺の頭にかける。
「ふーん。あーんなに可愛い子なのに」
「外見がどんなに可愛くても相手は機械だろ?
俺は人間の女の子と恋がしたいんだ!」
シャンプーで染みる目を擦りながら言う。
「あっそ。でもあの子はあんたのこと本気で好きみたいだし、あんたもきっとあの子の事本気で好きになると思うわよ」
は・・・まったく。何を言い出すのかと思えば。
もちろん外見だけで言えば一目惚れをしていても可笑しくないが、機械で作られていると知ってしまったら惑わされるわけがない。
仮にあいつが俺の事を好きだと明言してもそれはあいつの意思によるものではなくあくまでもそういうプログラムだからだ。
言ってしまえば強制なのだ。それがわかっていてこちらが相手を好きになってしまうのはある意味で永遠に叶うことのない片思いと同義だ。
プログラム。その部分は変えられないのだから。
そもそも俺のファーストキスを突然奪い、口を開けば品性をぶち壊す単語のオンパレード。
やたらと性行為を求めてくるし、仮に人間だったとしても普通に好きになれん。
「そんなのありえねえ」
「まあいいわ。私達もお風呂入るからさっさと出て。あとさっき怒鳴った事は、後でぴーちゃんに謝っておきなさい」
振り返り際にそう告げると、みさきはそのまま洗面所を後にした。
「わかったよ」と風呂場に1人残された俺は呟き、反響する声が自分への罪悪感を認識させられているような気がした。
再度髪を洗い流し、風呂を出て、洗面所で歯磨き、ドライアー、一連の行動を終えて洗面所のドアを開ける。
すると目の前にはまたしても『それ』が半泣きの表情で突っ立っていた。




