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ようやく自宅に着くと『それ』は家を見上げて立ち止まり、ポカーンと目を丸くした。
「あの、ご両親は何をしている方なんですか?
なんか・・・凄いですね」
今の発言から文脈のみで捉えると家が豪邸か何かだと勘違いするかもしれないが、その逆である。
近所の中では有名なボロ屋で、ある日ポストの中に「何かに使ってください」という匿名の手紙と諭吉さん5人が入っていたことがあった。
もはやちょっとした虐めである。
「言いたいことがあるならハッキリと言っていいぞ」
「いや・・・あの、個性的なお家だなあ・・と」
屋根の瓦が3割消失している家を個性的で済ませるのか。個性的なやつだ。
と言いたいが、まあこいつにも一応人に気を使うことができるのだと少し安心した。
因みに見た目はボロイが別に貧乏というわけではない。
意外と中身はしっかりとしていて、ここまで見た目がひどくなったのは昔父親が仕事で家をひどく損傷させて、修繕工事はしたのだが時間がもったいないと外見を一切直さなかったのが原因である。
「ただいまー」
引き戸のドアを半分開けて顔を突き出し、リビングに向かって叫ぶ。
するといつものようにリビングから姉がひょっこりと出てきた。
「あ、おかえり。遅かったじゃん。
・・・?あんたそんなところで何やってんの?早く入りなよ」
姉は8歳年上の25歳で寺野みさきという。
俺と違って普通の名前をつけられた姉に昔は多少の嫉妬を覚えたりしたものだ。
気は強く、背も170cmで俺と同じくらい。髪は栗色で肩らへんまでのロングボブヘアー。普段仕事に行くときはバッチリとスーツで決めているくせに家に帰るや否や廊下に脱ぎ散らかし、基本下着にワイシャツというだらしない恰好をしている。
実は家庭の事情で両親はおらず、姉が働いて生計を立ててくれている。
嫁の貰い手が心配だったりするが、血の繋がったたった一人の姉なのでそれなりに仲は良い。




