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違和感なく喋る『それ』を見て、本当にロボットなのかと強く疑ってしまうがロープを解いてと言わないであえて亀甲縛り解いてと言うあたり博士の作品だと信じざるを得ない。
しかし改めて見ると本当にきれいだ。さっきは眠っていて気付かなかったが、目はパッチリ二重で少したれ目でとても大きい。そのうえ瞳の色は澄んだ水色。
どこら辺がロボットなのかは皆目見当もつかない。
本当に天才なんだろうなこのハゲ。神が人間に才能を分け与えているのだとしたらどう考えても人選ミスだと思う。
「おー、すまんかったのう。起動時に暴走した時用に念のため縄で縛っておいたんじゃ」
博士は女の子に話しながら縄を解き始める。
ちょっと待て、暴走する恐れがあったのかよ。
さっきは最善の状態でとかなんとか言ってたじゃねえか!
すると突然、縄から解放された『それ』は仏丸に近づき目の前に立ってこちらを見つめだした。
虚ろな目をして表情に色はなく、まるで殺人鬼にでも睨まれているのかと錯覚してしまうような感覚だった。
え、何?近い!急に動いてビックリしたけどやっぱ可愛いな。背も俺より低くて理想的な・・・っていやいやそんなことはどうでもいい!
なんでそんな目で見つめるの!?怖い!
無機物感を思わせる冷たい眼にうっすら危機感を覚える。
そんな仏丸の感情を意に介さず『それ』は両手を顔の方へ持ってきた。仏丸はとっさに目を閉じ身構える。
目を閉じた瞬間だった。ファサッと何かが俺の額に触れる。
・・これは髪だろうか?
そしてそれとほぼ同時に俺の唇に何かが触れる感触を感じた。
「っっっな!?」
唇に触れた感触はおそらく別の唇。
自分以外の唇の感触など妄想は沢山すれど体験はない。
しかし目を瞑っているのに確信が持てるのである。
・・キ・・・キスされたのか?今・・。
お・・俺のファーストキス・・・。
っていやいや、そういうことじゃなくて!なんでいきなりこうなるんだよ!!
「お、始まったか。
言い忘れとったが最初のキスが恋愛シミレーション開始の合図じゃ」
お、じゃねえよ!
全部間違ってるぞ!!全部間違ってるぞ!!!
俺の純潔を簡単にてめえの金儲けの為に奪いやがって!!
大体おかしいと思ったんだ。このイカれたジジイが俺のためにクリスマスプレゼントで童貞卒業!?
クソ!!俺はそこまで女の子に飢えていたというのか・・・。
童貞というのはここまで愚かなのか・・。
「は・・初めまして!
私はあなたの性奴隷としてどんな命令でも承るPX108と申します。
よ・・・よろしくお願いします!!」
「おめでとう仏丸よ。これで童貞卒業じゃ」
ブチッ
仏丸の中の何かが切れ、ニカっと歯を見せて満面の笑みを見せるハゲの顔面めがけて思いきり殴ると、身に着けていたメガネが割れ、その破片が顔に突き刺さり体をバタつかせながら悶絶し始める。
ざまあ。
バタバタと釣り上げた魚のようにのたうち回っているハゲを背に、俺は地下室から出ようとした。
「あのー・・。私は一体どうすればいいのでしょうか?」
あー・・・。
そうか、博士に対する殺意で一瞬この娘のことを忘れていた。
『それ』は困ったような表情で恐る恐るこちらを見つめてくる。
「・・えー・・・と・・・」
俺は本当にバカだ。ここに置いて帰ればいいものを。
頭ではわかっているのに、どこぞのモンスターのように仲間になってほしそうにこちらを見つめている『それ』を前にするとどうしても放っておくことができなかった。
きっと面倒なことに巻き込まれる。絶対に後悔する。
どんなに見てくれが可愛くても、相手は得体の知れない非生命体。
頭の中で警告音が鳴る。危険だともう一人の俺が頭の中で告げる。
それでも俺の口から放たれた言葉は、俺の考えに反する言葉だった。
「お前。ウチくる?」
「はい!」
『それ』は嬉しそうにニッコリとほほ笑んで言った。




