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ニコイチート~チート持ちとニコイチで異世界転生させられたので、手探りで冒険します~  作者: 桐山じゃろ
第三章

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6 竜と二人

「ちと他の竜たちと喧嘩してのう。魔力まで奪われて、こちらの世界に逃げてきた。儂の身体を隠せるほど穴が空いておったで、ここで眠っておったのじゃ」

「他の竜たち……」

「ああ、案ずるでない。そやつらはこちらの世界には来ておらぬ」

「は、はあ」

 ハインは他の竜と聞いて身構えたり、安堵したりと忙しそうだ。

 喧嘩の理由も聞こうとしたら、ラクに目配せされた。今は聞くな、ってことだろうか。


 というか、僕自身も不思議なほど、ラクとははじめて会った気がしない。ハインに何度か突っ込まれてるタメ口の件もそうだ。初対面のはずなのに、簡単な合図で意思疎通できてるし。

 ヴェイグはどうだろう。さっき威圧で緊張してたから、違うかな。


「話は済んだかの?」

 今度はハインと顔を見合わせた。聞くべきことは聞けたかな。ハインも頷いている。

 僕らがその場を辞して去ろうとすると、ラクが僕のすぐ横で耳元に囁いた。

「後でな」

 振り返ったときには、ラクは僕から数歩離れたところで、にこやかに手を振っていた。


 来た道を遡って山から出た。

 洞穴を見つけたのが昼過ぎで、今はもう日が暮れている。山の麓で野営することにした。


「予定よりだいぶ早く、ことが済んだな」

 ハインは晴れ晴れとした表情で、携帯食料を頬張っている。

「見張りは俺が先にやろう……アルハ?」

「ん? ああ、頼むよ」

 後でって、どういうことだろう。一人で考えても仕方ないのに、妙にひっかかってずっと頭の中でループしている。

 しかもあの言い方は、「また後でここに来てくれ」ではなく「後で会うだろうからそのときに」だった。

 僅かな言動で、こういう細かいニュアンスまで拾えてしまうのも不思議だ。

“どうした?”

 ヴェイグにまで心配されてしまった。

「ヴェイグはラクのこと、どう思う?」

“どう、と言われてもな。そうだな、少しアルハに似ている”

「似てる!?」

 ラクの人間姿を思い出す。跳ねた赤い髪、神秘的な金色の瞳、白い肌。共通点が見当たらない。

「どこが?」

“見た目の話ではないぞ。雰囲気といえばいいか、纏う空気が近い”

 雰囲気、空気……自分ではよくわからない部分だ。やっぱりピンとこない。

“アルハが魔力を渡したからな、そのせいかもしれん”

「魔力って個性出るの?」

“多少は”

 それなら納得できる、かな。



 帰りは魔物に遭遇すること無くメデュハンの町へ着いた。

 町に入る前にフードを被ろうとしたらハインに止められてしまい、速攻で町の人に見つかった。


 寄ってくる町の人への対応は、慣れているらしいハインに全て任せて、僕はさっさと冒険者ギルドへ向かった。


 結局それから二晩、竜と対話した二人の英雄を称える宴とやらで、あちこちに引っ張り回されたから、あまり意味はなかった。




◆◆◆




“ごめん……”

 昨夜、アルハが酒を断りきれず、口をつけてしまった。

 昏倒こそしなかったが、また入れ替わりができない状態に陥った。

 今は酒を手に入れるために、酒場を目指している。

「アルハが悪いわけではない。ついでにしばらく休んでおけ」

 アルハは久しぶりに朝寝をし、起きるなり頭痛を訴えた。


 頭痛や吐き気は身体の症状であるから、今身体を使っている俺にも多少は影響がある。

 しかし、アルハが感じているほど辛くはない。

 身体の悪い症状は、交代時にわずかに回復する。但し、交代を繰り返しても一定以上治らないのは実証済みだ。


 無事に酒を手に入れ、宿に戻って飲んだ。

「あー……」

 早速、確認のためにアルハと交代する。出てくるなり、辛そうな声を上げた。

“替わるぞ”

「ん、大丈夫。ちょっとやりたいことがあって」

“今でなければ駄目なことか?”

「駄目ってことはないけど、どうせなら今のうちかなって。それで、ヴェイグにまた頼みがある」

 ふらふらしながらも、アルハは頼み事を伝えてきた。

“構わんぞ”

 俺はアルハが無茶をする気でさえなければ、止めたりはしない。




◆◆◆




 [異界の扉]で異界に入る時は、ヴェイグが身体を使うように交代する。でないと、ヴェイグが体調を悪くしてしまう。

 ヴェイグの希望で何度か、交代しないで異界に入ってみたこともある。考えつく対策を全部やっても駄目だった。

 今回の、僕の感覚がヴェイグに伝わらないよう完全に遮断して、僕が身体を使ったまま異界に入る方法は、試した中で一番マシだったものだ。

 ヴェイグの体調が悪くなる前に、話をつけてこよう。



 異界に入って、気配を探る。目標はすぐに見つかった。全速力でそこへ向う。


「来たな」

 ラクは予想通り、ここにいた。

「手短に頼むよ」

「ふむ。確かヴェイグと言ったな。お主、遠慮をやめれば、つらい思いはせぬぞ」

 感覚遮断で、話は聞こえないはずのヴェイグが反応した。

「遠慮って?」

「そのままの意味じゃ。ヴェイグとやら、アルハの身体を慰撫するあまり、全身が縮こまっておるのよ」

 遠慮なんて、本当に今更な話だ。それとも……。


「僕を、信じきれてない?」

 中で、ヴェイグがざわめいた。胸のあたりを内側からノックされる。これは、交代ってことじゃない。

 感覚遮断を解いた。

“アルハのことは信じている。俺自身の問題だ”

 解いた途端、苦しそうだ。酷い吐き気と目眩、乗り物酔いのような状態になっているらしい。

“これから、ラクの言う『遠慮』とやらを、やめてみる。それでアルハ……”

 そういうことか。


「心配いらない」


 ヴェイグは優しい。いつも僕のことを気遣って、自分を抑えすぎる傾向がある。

 この身体の共有のことも、ずっとそうだったんだ。僕が気づかないところで、慎重に扱ってくれてた。


 本当に、何を今更、だ。


 身体の内側から圧が掛かった。交代の感覚とはまた違う、異物感。でも、痛みや苦しさはない。

 耐えるほどですらない。

 たったこれだけ、ヴェイグは伸びをするのも憚っていたのか。

 ほんの少しの時間で、内側からの圧力は消える。

 手足の指先が、じんわりと温かい。温度の問題ではなく……ヴェイグが、身体に馴染んだ気がする。


“アルハ、体調に変化はないか”

「平気。もっと早くやってればよかったのに」

“すまなかった。何度も言うが、アルハを信じていなかったわけではない”

「ヴェイグはどう?」

“もう大丈夫だ。こうしていて、目眩も吐き気もしない”


 ずっと透明なビニール袋を被せられて過ごしていて、それが普通だと思ってた。

 ヴェイグは、空気をたくさん入れたビニール袋の中に入ったような状態だったんだ。

 異界なんていう、時間や空間の認識が狂う場所だ。ビニール袋の中でシェイクされれば、そりゃ盛大に酔いもする。

 今、ヴェイグがビニール袋の存在に気付き、取り除いた。

 僕自身も、視界がクリアになった。呼吸がしやすい。動きが制限されない。

 強引に例えるなら、そんな感覚だ。



「試すなら、相手をしようぞ」

 話すのは後回しにして、ラクの挑発に乗った。

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