28 伝説の台座に刺さった伝説の剣の伝説
タルダさん達に案内されて、応接室へ通された。
廊下を歩いている間、二人ともずっと無言だった。歓迎されてないのかな。
すれ違う人たちが道をあけて会釈してくれるのに返しながら、少しの不安を感じる。
部屋に入り、扉を閉めて、少しの間。
「アルハ久しぶり! 元気だった!?」
イーシオンの大歓迎を受けた。
城では王族としての振る舞いを気にしているから、人目がなくなるまで大人しくしていただけだった。
「元気だよ。イーシオンは?」
「僕も! ねえ、また強くなったんじゃない? 何か見せてよ!」
友達が飼ってた柴っぽい中型の雑種犬を思い出した。人懐っこくて、家へ遊びに行くと玄関まで迎えに出てきてくれてた。
待て、伏せ! っていいたいのを堪えて、落ち着けとジェスチャーする。
「それは時間のあるときに…」
「イーシオン、アルハ殿は遊びに来たわけではないかと」
タルダさんにも言われて、ようやく椅子に座った。
“アルハ、俺から話す。そういえばイーシオンには俺のことを言ってないな”
「そうだっけ。説明しておこうか」
ヴェイグとだけ会話をしてから、改めて二人を見る。
「イーシオンは、ヴェイグのことを知ってる?」
「タルダに聞いたよ」
「申し訳ない、勝手に…」
しれっと言うイーシオンに、タルダさんが慌てた。
「いえ、話が早くて助かります」
一から説明する手間も省けた。
「少しだけ僕も会ったよね」
“アルハが寝ていた時だな”
「その一瞬で僕じゃないって思ったのか…」
自分じゃわからないけど、これだけの人に言われるってことはよっぽど雰囲気とか違うんだな。
「ここに来た理由はヴェイグから話をするよ」
交代して、ジュノ国の出来事を話した。
「そんな事が起きていたとは…」
タルダさんはため息をついて、頭を手で抑えた。
イーシオンの方は…。
「アルハがそんな堅い顔してるとなんか違うなぁ…」
話ちゃんと聞いてたかな? ヴェイグも苦笑してる。
「で、タルダには見当がつくだろう。今どこにいる?」
「最後に会ったのは、もう10年以上前です。その時は、ノルブにいました」
“見当? ノルブ?”
知らない情報と知らない単語が出てきた。ノルブの方は地名っぽい。
「俺には妹もいる。名をファウという。タルダの姉にあたる」
イーシオンに聞かせるためだろう。声に出して説明してくれている。
「今この世界で一番呪術に長けているのは、おそらくファウだろう。もしかしたらグランシスターとやらは、ファウのことかもしれん」
“そこまで分かってたの?”
「いや、確証はまだない。見当外れなことを言っているかもしれん。だが、最初に当たるなら、そこだ」
“じゃあ次の目的地は”
「ノルブだな」
「ま、待って!」
今にも立ち上がって出ていこうとするのを、イーシオンが止めた。
「すまんな。アルハとはまた今度遊んでやってくれ」
“その言い方だと僕が遊んでもらう立場っぽくない?”
「それは残念だけど、少しだけ。ねえタルダ、アルハとヴェイグにアレ見てもらおうよ」
「何の話だ?」
「兄上、お時間は取らせませんので、こちらへ」
連れてこられたのは、城の地下だ。入り組んだ場所の目立たないところに扉があった。
「こんな場所があったのか」
“ヴェイグも知らないの?”
「地下は牢ぐらいしか行ったことがない。他に用事もなかったのでな」
扉を開けて、タルダさんが持っていた燭台の火を部屋の燭台に移す。一つに移すと、他の燭台にも火が灯った。
部屋の奥に浮かび上がったのは、台座に刺さった一振りの剣だ。
“ゼル…”
「ゼル?」
“なんでもない”
台座と武器は2つあった。もう一つは短剣が刺さっている。剣に比べて台座も小さいから、最初は気づかなかった。
「この部屋は?」
「僕が見つけたんだよ。この城を民にも有効活用してもらいたいから、事前調査で城をくまなく調べて回ってるんだ」
「なるほど。いい心がけだ」
ヴェイグが珍しく褒めると、イーシオンが少し驚いて、得意げな顔になった。
「でさ、この剣、二つとも僕の力でも抜けなかったんだよ」
「抜こうとしたのか」
「台座見てよ。『選ばれし者へ』って。カッコイイじゃん!?」
「わかる」
思わず交代してイーシオンに深く頷いた。
「アルハは話がわかるな!」
イーシオンが益々得意げになる。
「それで、これを僕かヴェイグが抜いてみればいいの?」
「うん。僕が触ってもなんとも無かったから、大丈夫だよ」
そういうことなら、と剣の前に立って…ヴェイグと交代した。
「俺がやるのか?」
“なんか、そんな気がする”
剣の前に立った瞬間、「僕じゃない」と強く思ったんだ。
「…不思議だな。確かにこれは俺のだ」
ヴェイグは右手で無造作に剣の柄を掴んで、持ち上げた。
「抜けたぞ」
拍子抜けするほどあっさりと、剣はヴェイグの手中に納まった。
剣に装飾は殆どない。長さはよくある長剣と同じくらいだ。
ただし、全てが魔力で創る剣より黒い。刃の輝きも、その暗黒が吸い込んでしまっているようだ。
「兄上、これを」
タルダさん、部屋の隅でゴソゴソしてると思ったら、鞘を探してくれていたようだ。
剣を鞘に収めて、そのまま右手で掴む。
短剣の方へ進んだヴェイグが、今度は僕と交代した。
「なんだろうね、この感覚」
こっちは僕のだ。左手で柄を握って引っ張る。随分と手応えがしたけど、無事引き抜けた。
こちらもシンプルな作りで、色は鈍色。ただ、尋常じゃなく重い。こっちに関しては、イーシオンは重たくて抜けなかったんじゃないかな。
「この二つの武器の謂れなんかは、見つかってないですか?」
「ええ。まだそこまでは…書物を片端から漁っておりますので、分かり次第お伝えします」
短剣の鞘は[防具生成]で創った。早速装備しようとしたけど、重すぎてどうやってもベルトや服が引っ張られてしまう。専用のベルトか何か誂えたほうがいいな。
「ヴェイグの剣は重くないね」
“そうだな。俺が持っても至って普通だ”
剣は背中に装備して、短剣は無限倉庫にしまっておいた。
「本当にすぐ行くのか…」
「うん。今度はちゃんと遊びに来るよ」
「絶対だぞ!」
イーシオンのグータッチに返す。…こういうアクションをヴェイグとやれないのが残念だ。
そうして別れを告げて、見送られながら去ろうとした時だった。
「イーシオン様! 魔物が!」
城の兵士のただならぬ声に、足を止めた。




