38 実はすごい人
「伝説って確か……」「竜討伐者!?」「そういえば黒髪黒目の」
いつのまにか人が集まっていて、そういうことをざわざわされた。やめて。
「えっと、はい、多分それで合ってます」
否定するわけにもいかないので、なるべく小さな声で肯定する。
目の前の金髪さんは、僕の言動に気を悪くする様子もなく、朗らかに微笑んだ。
「私はこの国の皇帝、メイエラ・ガウア・テファル。貴方をここに呼んだのは私だ。……とりあえず、誰かリアスを取り押さえろ」
皇帝の言葉に、最敬礼のまま動かずにいた兵士2人が迅速に動いて、僕の手からリアスを引き取ってくれた。
ところが僕以外の人の抑制をリアスはあっさり弾き、その場から逃げ出した。
「捕まえたほうがいいですよね?」
念の為、皇帝に確認を取る。
「ええ、ですが……」
話してる間に距離を開けられてしまったので、足に力を込めて踏み込む。両足からいつもの放電現象が起き、音がする頃にはリアスの首根っこを捕まえていた。
「はっ!? なんなんだよお前、おかしいだろ!」
「何が」
「速さも! 強さも! 何もかもだよ! 人間じゃねえ!!」
「普通の人間じゃない自覚は、少しある」
「少しじゃねえだろうが!」
「どうします?」
追いついてきた兵士さんや皇帝に再び尋ねる。
兵士さんが皇帝に、首を横に振って無理無理、とやっている。
皇帝はため息を付いてから、兵士さんになにか命令した。
「このままでは、貴方以外の人間の手に負えないようです。今、拘束具を持ってこさせていますので、それまでそのままお待ちいただけますか」
兵士さんに言われて、しばらくそのまま待機。拘束具はすぐに届いて、僕も手伝いながらリアスの両手足を拘束した。
さすがのリアスも、手足に枷を嵌められたら動けなくなった。
その頃には皇帝はいなくなっていて、僕とボーダは改めて兵士さんに案内された。
謁見の場は、玉座の間とかではなく、客室に近かった。
黒と茶色系で統一され落ち着いた色合いの室内に、ゆったり座れるソファが4つ、頑丈そうなテーブルを囲むように置いてある。
先に座っていた皇帝の目の前のソファを勧められ、座った。
「話は色々と聞いたよ。まずは、冒険者ギルドに詫びねばならない。リアスを始めとした討伐隊の一部が、他の大陸との連絡の一部をもみ消していた」
そう言って、皇帝が頭を下げた。
「あの……」
「最高責任者は私だ。他のものでは謝罪に意味がないのだ」
「いえ、ですが……僭越を承知で申し上げますけど、皇帝がそう簡単に頭下げないでください。確かに最高責任者でしょうけど、問題はたかが連絡の不備です。言い方は悪いですが、もっと下の方がやるべきことですから。こんな簡単に貴方が頭を下げてたら、下の人は『皇帝が代わりに謝ってくれる』って勘違いしますよ。それは、よくないです」
“アルハも言うようになったな”
しどろもどろになりながら言葉をひねり出した。ヴェイグから余計なツッコミが入ったのはとりあえずスルーしておく。
皇帝相手に変なこと口走ってないか、僕もいっぱいいっぱいなんだよ。
その皇帝は無事に頭を上げ、僕を見上げてきょとんとした。初めて、年相応の表情になったかも。
「そのような考え方もあるのですね。心に留めておきます。伝説の冒険者は、王の資質もあるのですね」
「それはないです」
思わずきっぱり言い切ってしまった。
なんだろう、他の王様たちと比べて、妙に話しやすいからついずけずけと言ってしまう。
「面白い方だ」
皇帝は嬉しそうに笑った。
「話を戻そうか。もう知っている通り、十年前に国を開き、冒険者ギルドの設置を認めた。討伐隊とは、討伐の対象が違うことで住み分けるよう申し伝えたのだが……一部が暴走した結果、ご覧の有様だ」
皇帝はまた頭を下げかけたけど、自分で押し留めた。
「迷惑をかけた詫びに、すぐにでも冒険者ギルドとは協力関係を結びたい。ただ、討伐隊も歴史の長い組織だ。いくら強い冒険者が来たとて、隊員たちは認めまい」
僕に一度、討伐隊に参加して欲しいという話になり、僕はマサンに貰った白い封筒のことを思い出した。
封筒を皇帝に渡すと、ボーダさんまで身を乗り出して封蝋の印を覗き込んだ。
「マサンの印ではないですか」
「既にマサンの隊と。ならばもう、十分ですね」
印を見ただけでそこまで言ってもらえるなんて、マサン凄いな。
念の為、と皇帝が封を切り、中の書き付けを読むと、さらに声を上げた。
「アルハ殿一人で、討伐隊10隊分は活躍したとあります。マサンは余程、貴方を気に入ったようですね」
嬉しいけど、こそばゆい。
「光栄ですが、ちょっと大袈裟に書いてありますね」
「いえ、この手の書状でマサンが戦功を誇張して書くことなど有り得ません」
照れ隠し込みで言ってみたら、追い打ちまでかけられた。
「これなら、リアスも納得せざるを得ないでしょう。まあ、彼の性格からして、これを捏造だと言い張るかもしれませんが。その時は、リアスをマサンの元へ送り出しましょう」
「大丈夫なのですか?」
リアスとマサン、2人の強さは同じくらいだ。
「心配無用です。マサンはリアスの師ですよ。破門されてましたが」
「師弟だったんですか」
それなら安心、かな。
話を終えてから、ボーダと二人で討伐隊の詰め所へやってきた。
ボーダが白い封筒を見せながら討伐隊の人たちに話をすると、すぐに協力の了承を得られた。
「マサンの書状なら疑う余地もない。いや、これまでも協力はしたかったんだが、リアスがな。何、捕まった? そいつは……」
隊員の中の何人かは、冒険者をやりたいと申し出てくれた。
殆ど機能していなかったギルドは受付さんや事務員さんの数が足りない。
ボーダに頼まれたのもあって、しばらく手伝うことにした。
とはいえ、僕はギルドの事務作業に関して全く無知だ。内部のことを1から覚えるよりはと、元隊員たちとパーティを組んで実地でクエストについてレクチャーする役目を担った。
始めのうちは余所者扱いを覚悟していたのに、マサンの書き付けが効いたのか、皆すぐに打ち解けてくれた。
たまに[異界の扉]でトイサーチに帰りつつ、気がついたら、テファニアでひと月以上過ごしていた。
異変が起きたのは、元隊員出身の冒険者5組目のクエストを指南していたときだった。




