30 タイミングの悪い人
“次から、力の加減はできそうか?”
「やる。絶対身につける」
フレイムベアの死体が消えた後には、ドロップアイテムと、切り倒された木々が残った。
刀を振ったら勢い余って周囲の木を巻き添えにしてしまった。
戦う時、できるだけ環境破壊しないように務めるのは、冒険者の基本的な心得だというのに。
被害は僕を中心に半径20メートル程。
倒してしまった木は無限倉庫に仕舞っておいた。後で薪にしておこう。
「戻ろうか。加減の練習は異界でやるよ」
“そのほうが良いだろうな”
帰ってから日が暮れるまで異界に籠もり、ヴェイグが出してくれたゴーレムを相手に力のさじ加減を練習しまくった。
僕としては軽く振ってるつもりなのに、硬いゴーレムが野菜みたいな手応えで斬れてしまう。
腕力の問題ではなく、取り込んだ竜の力の仕業と判明した後は、そっちの調整に注力した。
“魔力とは違う力か。俺も試したい”
右腕に竜の力を溜めた状態で、ヴェイグに渡してみる。しばらく腕を色々と動かして、腕を返された。
“使えそうだが、アルハのように自在には操れぬな”
「じゃあ練習しとこうよ」
“いや。扱えるようになる前に暴走して、アルハの腕を壊しそうだ。俺はなるべく使わぬほうがいい”
ヴェイグが悔しがってる。多少は怪我しても問題ないのに、そういうことではなさそうだ。
翌日は、メルノ達とクエストを請けた。難易度Fのビッグイーター討伐。魔物が強くなっている間は請けるのを控えてもらっていたクエストだ。
メルノとマリノはいつも通りの連携プレイで、手際よく討伐を完了した。
「アルハさん、やりましたよ!」
メルノが興奮気味に、見ていただけの僕に報告してくれる。こんなにテンションの高いメルノは珍しいかも。
「これで、大丈夫ですよね?」
今後、僕抜きで同じクエストを請けてもいいか、という意味だ。
僕としてはメルノに危ないことさせたくないから、今後も禁止にしたい。でも、メルノにとって魔物討伐は仕事であり、生きるためにやるべきことの一つと考えている。
さらに言えば、魔物はメルノたちの両親の仇でもある。
これ以上止めるのは、酷な話だ。
「ちゃんと気をつけて、何かあったらすぐ呼んでくれるなら」
僕がOKを出すと、メルノは僕に飛びついた。
「うぉあ!?」
「ありがとうございます! もちろん、気をつけます!」
なんと顔に頬まで擦り付けて、甘えるような仕草までしてくる。今日は本当にテンション高い。どうしちゃったの?
「おねえちゃん、ずるい! わたしも!」
マリノも一緒になって飛びついてきた。
「二人とも、落ち着いて。魔物がまだ近くにいるかもしれないから」
これは本当の話であって、メルノの感触にドキドキした僕が一旦落ち着くための方便とかじゃないです。
ギルドハウスに戻ってメルノ達がクエスト完了の報告をしている間、僕はホールの隅でその様子を眺めていた。
他の町より気楽に過ごせるとはいえ、僕がアルハだと気づかれると面倒くさいので、フードを深めに被り、ついでに猫背気味になって目立たないようにしている。
それでも知らない冒険者に声をかけられた。
やたらと露出度の高い、派手な女性だ。装備的には剣士系かな。かなり戦いにくそうな格好だ。
「ねえ、もしかして貴方、アルハ?」
「違います」
間髪入れずに否定する。これで2割くらいの人は諦めてくれる。
「もしかして、ではなくアルハね。私は――」
「終わりましたよ、行きましょう」
報告を終えたメルノが、僕の名前を呼ぶことなく割り込み、手を取って引っ張ってくれた。
「ちょっと、話がまだ」
「僕は貴女に話はないです」
メルノに手を引かれながらもきっぱり答える。こうやってメルノが助けてくれて振り切れなかったことはない。
ところが今回の人はしつこかった。
何故かメルノに向かって、喚き出した。
「貴女ねぇ、貴女みたいな人が伝説と釣り合うわけ無いでしょう? 少しは身をわきまえたら……」
全部言わせる前に、フードから目だけのぞかせて睨みつける。
「そんなことを言う奴の話は、聞きたくない」
他人を悪く、下に見るように言えば、自分の立場や価値が上がると思ってる人がいる。
くだらない。
何より、メルノに矛先を向けたのが許せない。
“アルハ、やりすぎだ”
睨まれた方の女性は、後ずさり、壁に背を預けて座り込んでしまった。
「威圧はしてないんだけど」
やりすぎたことを謝って助け起こそうかなと一瞬考えて、やめた。
手を差し伸べてしまったら、縋られたり、そもそも睨みつけたことをネタに話を続けられてしまいそうだ。
そのまま放置して、メルノに手を引かれるまま、ギルドハウスを出た。
「メルノ、あのね」
僕の手をぐいぐい引っ張って商店街へ向かうメルノに声をかける。
「はい」
何度目かで、ようやく立ち止まって僕を見てくれた。
「マリノが追いつけてないから、まって」
「あっ」
マリノが後ろから、てとてと走ってくる。それをみたメルノが慌ててマリノに駆け寄った。
「ごめんなさい、マリノ」
「んーん」
マリノは気にしてない、というように首を横に振った。そんなマリノを僕が右腕に抱きかかえた。
「じゃ、行こう」
メルノと今度はちゃんと手をつないで、また歩き出す。
しばらく沈黙。やっと言いたいことがまとまった僕がその沈黙を破る。
「僕は、僕の方こそ、メルノみたいな人と釣り合ってるかどうか、自信ないんだよ」
「へぅ!?」
メルノから喉がひっくり返ったような声が出た。
「だって。かわいいし、しっかりしてるし、がんばり屋さんだし」
「あ、あの……私は、そんなに……そのぅ……」
なぜかしどろもどろになるメルノ。
「本当だよ」
“そのくらいにしておいてやれ”
「え?」
真っ赤になったメルノはよく見たら涙目になっていた。
「ありがとうございます……。でも、そういうのは、外じゃないときに、お願いします……」
「あ、はい、ごめん」
買い物をしている間中、顔色が元通りになったメルノは、なぜだか上機嫌だった。
メルノとマリノは1日か2日おきでクエストを請け、僕もそれに付き合った。
休養日には異界に籠もり、主に竜の力や精霊召喚について、あれこれと試した。
そんな生活は、二十日ほど続いた。本当はもっとゆっくりしたかったのだけど……。
メデュハンや他の町のギルドからの報告が集まり、これから行こうとする4つ目の大陸について、不穏な情報が届いてしまった。




