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ニコイチート~チート持ちとニコイチで異世界転生させられたので、手探りで冒険します~  作者: 桐山じゃろ
第三章

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25 困った精霊

 カラフルな靄は地面も形成しているようで、足元は見た目通りのふわふわした頼りない感触が続いている。

 そのアホとやらのところへ案内されている道中、ヴェイグにスキルが使えないことを話した。

「俺が使えるわけでもないな」

「消えたんじゃなくて、『無効』って書いてある。この世界のせいかな」

 ほぼヴェイグの推察通り、ここは精霊たちが即席で創り上げた世界だそうだ。精霊界、っていうのはまた別に存在する。

 精霊界は異界や竜の里とはまた別の軸にあって、人が行き来するのは難しいとか。


 ヴェイグやウーハンの話、前に聞いたラクからの説明を僕なりに再構築してみる。


 人がいる世界、異界、竜の里は、世界が存在する空間軸が違うだけで、時間の流れはほぼ同じだから、行き来は比較的容易。

 精霊界は時間の流れの軸も違うので、人の身では難しい。

 ちなみに今いるこのカラフルな即席世界も、精霊界ほどじゃないけど時間の流れが違うから、本来人が来れる場所じゃない。

 即席世界での1時間は人の世界のコンマ1秒だ。つまり、即席世界で長居しても、人の世界ではそんなに時間は経たない。

 ただし、人の体は時間の影響をバッチリ受ける。長居すれば普通に老化が進む。


「で、合ってる?」

「完璧だ」

 ヴェイグに褒められた。嬉しい。

「他に異世界人が来たら、そのように説明すれば良いのだな」

 来るのかな。


 体感で30分程歩いたところで、雰囲気が明確に変化した。スキルがなくても、嫌な空気が漂っているのが解る。

「空気が粘つくようだな」

 ヴェイグが服の首元をパタパタしだした。確かになんだか蒸し暑い。

「ああ、これ湿度が上がったのか」

 嫌な空気じゃなくて、単にジメジメしてきただけだった。


 こっちの世界の四季は、日本みたいにはっきりわかる場所が殆どない。

 例えばトイサーチは年に一ヶ月くらい、肌寒くなる時期があるそうだ。

 それ以外は大抵春のような気候で、過ごしやすい。

 苦手な夏の暑さや、真冬の寒さが無いのは大変ありがたい。

 この、日本の梅雨の時期みたいな湿気、久しぶりに体感したよ。ディセルブには雨期があるけど、僕はその時期にお邪魔したことがない。


「これも、例の問題を起こしているもののせいなんです。ほんと迷惑」

 ウーハンは全身あたたかそうな毛で覆われているから、この湿度は辛そうだ。

 ふと、疑問に思ったことを口にした。

「世界を即席で創れるなら、他の世界を創ってそっちに移動すればいいのでは」

「創ると言っても、お家は一つなので」

「えっと、基本の世界があって、今この世界はそこから延長した感じ?」

「はい」

 一軒家に後付けで部屋を増設するイメージなのかな。

 それなら、どこかで起きた問題は家中の部屋に影響がでるのも仕方がないのか。

「あ、あれです」

 目的の場所に到着したようだ。

 ウーハンが毛の一部をぴんと伸ばして、もぞもぞしている塊を指差す。

 その正体を確認したヴェイグが声を上げた。

 

「あれは、俺がマリノから借りているコマではないか」

 マリノの拒魔犬やさっきまでいた拒魔犬たちはポメラニアンかマルチーズに似た姿なのに、ヴェイグのところへレンタルされた途端、シェパードみたいな姿になっていた。

 そのシェパードが、ヴェイグの声に気づいて顔をあげた。

 身体の真ん中から下半身にかけて苔が生えたような深緑色に変色していて、座った状態のまま動かせないようだ。

 凛々しいはずの顔を泣きそうに歪めて、きゅう、と情けない声を出している。

「しばらく喚んでいなかったが、こんなことになっていたのか」

 ヴェイグが屈んで、変色した部分に触れようとすると、ウーハンが慌てた。

「それ触っちゃだめ!」

「む?」

 寸前でヴェイグが手を止めると、緑の部分がウーハンの毛と似たような動きで、にょろりとうごめきヴェイグの手を絡め取った。ぎちぎち、と音が聞こえるほど強く締め上げられている。

「ヴェイグ!」

「心配ない。これも精霊か」

「ああっ、すみません、説明しておけば……。こらっ! トーシェ! その御方を誰と心得てるのっ!?」

 急に時代劇じみた口調でウーハンが緑のにょろりをぺしぺしと叩く。

「トーシェというのか。離してもらえるか」

 ヴェイグはあくまで、静かに語りかける。しかし何の反応もなかった。

「おまえに訊いたほうが早いか」

 今度はシェパードコマちゃんに話しかけた。コマちゃんはヴェイグの空いている手に鼻先をふんふんと近づけてから、顔を上げた。


「こいつ、おれがヴェイグ様にお仕えしてるの、羨ましいっていうんです。おれの主はマリノ様だって言ってるのに」

「ふむ」

 ヴェイグの腕には血が滲みだした。思わずトーシェを引き剥がそうとすると、当のヴェイグに止められた。

「大丈夫だ、アルハ。しばらく様子を見ていてくれないか」

 絶対痛いはずのヴェイグは涼しい顔だ。

「わかった」

 ヴェイグから2,3歩離れて、その場にどかりと胡座をかく。両手で両足首のあたりをがっちりと押さえつけた。

 こうしてないと、すぐに止めに入ってしまいそうだ。

 僕のそんな姿をちらりと確認したヴェイグは、ふっと口元を緩めて、トーシェに向き直った。

「トーシェ、今すぐ離れないと、身の安全を保証できぬぞ。後ろに控えているアルハは、俺などより強いからな」

 そんな躾のなってない狂犬みたいな言い方しなくても。


 ヴェイグがトーシェの説得を開始した。

 終始穏やかに、根気よく言い聞かせて宥めている。

 ヴェイグの腕に巻き付いたトーシェは、緩んだりこわばったりしている。

 僕はそれを、眺めることしかできない。


 自分の状態を省みる。

 帰宅して装備を解く間もなかったからそのままのはずだったのに、腰の短剣や背中の剣といった武器は見当たらない。

 ウーハン達の話しぶりからして、僕らは魂だけがこちらの世界に来ている。

 服はそのまま身につけているのに、武器だけ除外されたのは何故だろう。

 魂に付随しているはずのスキルが使えなくなっているのもおかしな話だ。

 ヴェイグの魔法は、無効化している様子はない。

 元々、ヴェイグ一人を呼ぶ予定だったから、僕だけ何かしらの制限を受けているんだろうか。


 今、何かあったとして、ヴェイグを守れるかな。

 僕に残ってる力は……。



「ヴェイグ様っ!」

 ウーハンの悲鳴に、自然と立ち上がり、ヴェイグとトーシェの間に割り込んだ。

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