20 反省、前進
▼▼▼
イオが目を覚ますと、気配を察知したアルハがやってきた。
ヴェイグではなく、アルハだ。昨夜まで憔悴しておったのに、気丈なことだ。
イオについては、話してある。
チオの妹にあたる。
チオにない能力はイオが、イオにない能力はチオが持っており、お互いを補い合う、仲の良い兄妹であった。
ヴェイグにそのことを話した時、アルハが顔を上げ、儂をじっと見た。
謝りたいと。
その必要はないし、イオも気にせぬだろうと言うたが、今アルハはイオの前に膝をついて頭を垂れている。
中のヴェイグは身体を乗っ取るのを諦め、黙ってことの成り行きを見ている。
「僕が、チオを殺した。僕にできることなら何でもする。好きなようにしてほしい」
目を合わせるのも辛かろうに、アルハはすべての言葉をはっきりとイオに届けた。
ヴェイグが“イオに俺の声は聞こえるか”と尋ねてくるので、頷いた。
“俺も共犯だ。アルハだけの責ではない”
「ヴェイグっ」
二人のやり取りを、イオは驚きに満ちた顔で眺め、わずかに微笑んだ。そして人の姿になると、2人に頭を下げた。
「兄がどのように死んだのか、全て知っております。お二人には、感謝を」
「なんで……」
アルハが信じられぬようなものをみる顔をしているが、竜にとっては道理で、何ら不思議はない。
「言うたであろう。魔物化した竜を救う方法は殺すしか無いと。儂には、自ら手を下す覚悟がなく、アルハにはあった」
何度も言い聞かせてきたことを、繰り返す。
「竜の魂は廻ります。魔物と化した竜は、誰かを殺める前に命を絶たねば、それは叶いません」
アルハが「本当に?」と儂を見る。頷いてやった。
「ですが、お願いを聞いてくださるなら、ひとつ」
イオは未だ膝をついたままのアルハの側に寄ると、両手でアルハの頬を包み、顔を上げさせた。
「ご自分を、責めないでください」
◆◆◆
「こんなもんかな」
手にした服を軽く、ぱん、と伸ばす。
アマドに貫かれて穴の空いた服を繕い終わったところだ。
裁縫の基礎や、冒険で破損した服の繕い方を教えてくれたのはメルノだ。コートやジャケットの類は、破損が軽微なら、こうして自分で繕って使っている。
この穴を開けられた時、僕は自分でやらないと決めていた、痛覚の遮断をしていた。
他にも、敵を苦しめる方法を選択したり、そうした上で脅したり。
できるからって、やっちゃいけないこととしていたのに、自分であっさりと破ってしまった。
「まだまだ、だなぁ」
“丁寧にできているではないか”
繕った服を持ったままだった。
「裁縫の話じゃないよ。こっちもメルノに比べたら、まだまだだけどさ」
“メルノの裁縫は奇跡の技だ。あの域に到達するには並々ならぬ研鑽が必要だろう”
メルノに穴の空いた服を渡すと、継ぎ目が全くわからないレベルで補修してくれる。工程を見せてもらったら、信じられない緻密さと速さだった。
“区切りはつけたか?”
一晩たっぷり悩み、考えに考えて、結論を出した。だからこうして、表に出ている。
「うん。あの時の自分を絶対許さないことにしたよ」
許さないからって何をするわけでもない。反省を活かして今後に、という話でもない。
あんなことをした、許せない自分を抱え続けると決めた。
“随分と自分に厳しいな。頃合いを見て許してやってくれ”
ヴェイグは僕が出した答えに反対しなかった。僕ならそうする、と分かっていたみたいだ。
許せる日は、来るのかな。
「イオの言ってた、竜の魂は廻るっての、嘘だよね」
ラクは僕を納得させるために頷いたようにしか見えなかった。
“俺達が、それを否定するのか?”
「僕らのは何か違わない?」
異世界転生とか転移とかした結果が今の僕らの状態だ。魂があちこち行くのは否定できない。
“そうだな。しかし、イオが輪廻を信じているのなら、そのままにしておくべきではないか”
イオも本当に信じているのか微妙なところなのに。
皆、優しい。
僕らとラクは竜の里を出てメデュハンへ戻った。
イオがついてきたそうにこちらを見ていたのを、ラクが説得して残ってもらった。
「どうしてついて来たがったんだろう」
「ロムらと同じ理由じゃよ。アマドはこのあたりで一番強い竜だったからの。アルハに惚れたのだろうよ」
「!?」
「懸想の意味ではないぞ。人とつがいには成れぬからのう」
ラクがハハハと笑う。
ちなみにロムたち5竜は人の姿になれないので、全員自己判断で里に残ることを選択してくれた。
「修行を積んでおきますから、いつかお供させてくださいっ」
頑張ってください、としか言えませんでした。
まずはメデュハンの冒険者ギルドで、統括のジビルに声をかけた。
僕が最初に尋ねた話を別の町のギルドに通達してもらい、何かあったら教えてほしいと通信石を置いてきた。
ジビルは快く引き受けてくれた上に、早速その場で受付さんたちが各地へ連絡を試みてくれた。
情報が集まりきるまで数週間かかると言われたけど、十分すぎる。改めてお礼を言うと、ジビルは少し困ったような顔をした。
「アルハ殿が必要としていることなら、我らが必要としていることと同義です。通信石も、本来こちらが用意すべきもの。他にもなにかあったら、遠慮なく仰ってください」
どうやら僕が遠慮すると、逆に恐縮されてしまうようだ。とはいえ、踏み込み方の加減がわからない。
ハインとともにギルドハウスを出た。食事がてら、話があるそうだ。
「もっと伝説の称号を有効活用したらいいじゃないか」
「有効活用?」
「英雄の俺ですら、ギルドでは特別待遇を受けている。宿泊施設全無料、とまではいかないが、優先的に良い部屋を使わせてもらっているしな。さっきの話もそうだ。もっと命令しても皆、気を悪くしたりしないぞ。数週間といわず、3日で集めろ、とかな」
「あんまりギルドに貢献できないし、そこまでするのは……」
「これまで散々貢献してきただろうに」
ギルドか。恩倍返しシステムの根源はギルドなのか?
「アルハは前に『恩を倍にして返される』なんて言っていたがな」
言ったっけ!? ハイン本当に僕の心読めるんじゃ。
「俺はアルハが消極的すぎると思うぞ。もっと堂々と貰っておけよ。伝説が遠慮していたら、下のランクの俺達の肩身が狭い」
そう言われてしまうと申し訳ない。
しかし、それならばと開き直った。
食事が済んだ後、再びギルドハウスへ戻り、ハインを4時間ほど拘束して、英雄以上の冒険者の心得を根掘り葉掘り聞きまくった。




