Real アップデート ver.2.0
よいしょ.........っと。
葵は朝の登校を終え、おはようラッシュも落ち着いた教室で一息つきながら席に座った。
2日連続の有名人のキルでお腹はいっぱい。しんどいことも忘れられる。今日も帰ってからのBIOが楽しみだ。
いつもの日課、情報収集をしながら話しかけてくる相手に応じる。
そんなことをしているうちに、気付くと教室も賑やかになっていた。朝のSHRの5分前、ほとんどの生徒が登校してきた時間だ。
「おっはよーございまーす!」
え?
「あ、茨木さん!」
「おお! 有名人だ!」
茶髪で巻かれたツインテール。140代ほどの背丈。そして、首にはピンクのヘッドホン。
教室に入るなりそんな挨拶をした、その子の元にクラスメイト.........主に男子たちが集まっていった。
「茨木さん、昨日は大丈夫だった?」
「酷いよな、茨木さんの配信を荒らすとか」
「ずっと休んでたからノートとかとってないですよね? よければ僕のを貸しましょうか?」
そんな男子たちの声に対して、
「もー、朝から皆さん元気すぎですよー」
と、照れ笑いをして答える。
茨木 春。クラスメイトの1人にして極度の猫被り。男子からは私に匹敵する程の人気を持ちながら、女子からの印象は最悪である。現に今、彼女の周りに集まっているのは男子ばかりだ。
葵は席を立つと、茨木 春のいる教室の入口に向かっていき、目の前で止まる。
「春ちゃん。久しぶり」
私は完璧美少女である。いくら他の女子が嫌っていようと、私が誰かに対して嫌な態度を取ることは決して許されない。
「えーっと.........柏崎さん.........でしたっけ?」
こいつ! 私が覚えてるのに、なにを自分は「こんな人いましたっけ?」みたいな態度なの!?
ふー、落ち着け私。
「うん。そうだよ、春ちゃん。2週間も学校に来てなかったから私心配だったんだよ?」
「えー心配してくれてたんですかー?」
するわけないでしょ! あんたが来たら教室が男子と女子でギスギスになるんだから! あとその上目遣いやめろ。
「まぁ茨木さんは、仕事があるからしょうが無いと思うよ!」
「えー仕事じゃないですよ? ただ楽しくて趣味でやってるだけでー」
群がりにいた男子の一人が言った言葉に茨木 春が反応する。
そう。この子がこんなに人気があるのは、有名動画投稿者のハル張本人だということもある。
この子は自分がハルだということを一切隠そうとしない。それどころか、学校で自分の動画を宣伝するくらいだ。
それゆえに、こうして有名人という他とは違うプレミア感のある女子として多くの男子から拝められる。
「でも春ちゃん、あんまりお仕事ばっかりに気を取られてたら留年しちゃうよ?」
「えーでも、そんなこと柏崎さん? に関係ないですよね?」
こいつ! 今ニヤッとしやがった!
あー、もう。ストレスがたまる。
「そういえば茨木さん。昨日のあれ、大丈夫だった?」
先程尋ねた男子とは別の男子が茨木 春に尋ねた。
「あー昨日は配信途中で終わっちゃってごめんねー。みんな楽しみにしててくれてたんだろうけど。まぁでも、そのおかげで再生数もすごく伸びてて新規さんも増えたと思うし、ハル的には結果オーライなんですよねー」
「そうなんだ! 茨木さん落ち込んでるかと思って!」
昨日の配信.........あれは気持ちよかったなぁ。
パーティが揃って早速狩りに行こうとしたところで、まずはパーティメンバーをキル。そこからスキルをかけ直して本人にダガーを一刺し。最後にスキルが解けて目が合った時はもう――ああ、思い出しただけでもすごい!
でも、この子のメリットになってるって考えたらちょっとムカつくけど。
そんな感じのところで先生が来てしまい着席。
その後、私の休み時間は忙しく、あの子と話すことはなかった。
チラッと見た限り、私と似たような状況で、席に群がる男子たちとBIOの話をしているみたいではあった。その度に、女子たちがイライラしてるのを私が抑えるのでとても忙しい一日となった。
◆◇◆◇◆
午後3時30分。
帰りのSHRが終わり、部活動をしている人は部活動に、帰宅部は教室でベラベラと喋っている。
さて、私も早く帰って勉強しますか。
帰る準備を済ました葵は、席を立とうとしてある光景が目に入った。
「なぁ、今日俺たち用事で先帰るからあとは頼むわ」
「誰か来たら用事で帰ったとか適当に言っといてくれていいから」
男子3人がそんなことを言っているのが聞こえた。相手は有巣さんのようだ。
有巣さんの班は掃除当番か.........確か、有巣さんたちの班は旧校舎の理科室担当で、メンバーは今いる男子3人と有巣さん、あとは今日は休んでる子か。って、それじゃ有巣さん1人じゃん!
「じゃあよろしく」
そう言うと、男子3人は教室から出ていった。
いや、用事ってどうせ遊びに行くだけでしょ。あー、有巣さんは掃除に一人で向かってるし.........はぁ、全くもう。
葵は、その男子3人に呆れながら鞄を手に教室から出た。
◇◆◇◆◇
「はぁ.........」
薄暗い教室で箒を手に、大きなため息をする少女の姿が一つ。
「早く終わらせよ.........」
少女がそう呟いていると、ドアがガラガラと開く音が教室に響いた。
「有巣さん。お疲れ様」
それは教室を出ていった柏崎 葵だった。
「柏崎さん!? どうしてここに.........?」
「理科室に1人で向かう有巣さんの姿を見て、もしかしたらって思って来てみたんだ。1人で掃除するの大変でしょ? 私も手伝うから一緒にやろ」
「え.........でも、柏崎さんは掃除当番じゃ無いから........」
「関係ないよ。私が手伝いたかったから手伝うだけだから」
葵はそう言うと、掃除用具入れから箒を取り出し、掃き掃除を始める。
教室で合流してから2人で来なかったのは変に気を使わせないため。周りの目を気にしているこの子にとって、みんなの前で私といるところを見られるのはあまり好まないだろう。
教室から出て、掃除を始めた頃を見計らって合流。ここまでして始めて完璧なのだ。
「ありがとう.........ございます」
「なんで敬語なの!? クラスメイトなんだから気軽に接してくれていいから。あと、私のことは葵って呼んで。私も有巣さんのことは理花ちゃんって呼ぶことにするから」
「理花.........ちゃん.........」
気まずそうな顔をしている。いきなり距離を詰めすぎたかな?
「分かりました.........葵.........ちゃん」
か、可愛い!
こんな純粋で可愛い子がこの世界に存在したんだ! どこかの猫被りさんとは大違いである。
「じゃあ、ちゃちゃっと終わらせよう!」
そうして私たちは2人で掃除を始めた。
掃除中は好きな食べ物とか、本とかそういった当たり障りのない話題を出して理花ちゃんとの距離をさらに縮めた。
そんなこんなで、掃除は無事に終わる。
「ふーおつかれー」
「お疲れ様.........です」
「もー、また敬語ー」
笑いながら掃除用具を片付ける。
「じゃあ帰ろっか!」
机の上に置いておいた鞄を手に取り、教室から出ようとした。
「.........あの!」
「.........ん? どうしたの?」
ありがとう.........とかかな? 別にお礼なんて必要ない。けど、初めて言われる相手だと悪い気持ちはしない、かな?
「あの、葵ちゃんってBIO.........Beyond Ideal Onlineをやってます.........よね?」
――はい!?
初感想頂きました!
とても嬉しいです。ありがとうございます。。。