表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/39

その次の日には

チュートリアルは終わり、今回からはプロローグの次の日から始まります。

 

「うーん.........」


 葵は、カーテンの間から差し込む朝の日差しを受けて伸びをする。そして、起きるなり昨日の出来事を思い出してニヤニヤと笑った。


 まだ昨日の感覚が手に.........やっぱり、公式大会でのキルは一味違いますなぁ.........と、こうしちゃいられない!


 葵は体を起こし、学校へ行く支度を始めた。


 BIOを初めて1ヶ月。私が外で完璧美少女でい続けるためには、この朝の用意を疎かにするわけにはいかない。現実とゲームのケジメが大切なのだ。


「これでよし、と」


 葵は最後に鏡を見て自分の顔をしっかりと確認してから、学校へ向かう。


「いってきまーす!」


 高校二年生、柏崎 葵は完璧美少女である。


 ◇◆◇◆◇


「あおいー、おはよー」


「おはよー」


「柏崎さん、おはようございます!」


「うん。おはよう」


 私の学校での一日は、この「おはよう」ラッシュから始まる。


 よく話す女子からクラスメイト、別クラスの人に至るまで学校に通う多くの生徒が教室へ向かう私に挨拶を行う。


 当然、一度挨拶された相手の顔と名前くらいは全員覚えている。その上で、その相手との適切な距離での表情を作り、挨拶を返す。こんなことは1年の頃からやってきた慣れたことである。


「昨日のあのドラマ見たー?」


「あー9時からのやつ? 見た見た! 主演がもうかっこよくて」


 私が席に着いて、まずすることは聞き耳を立てて情報収集である。


 私が席に着いていると、放っといても誰かが話しかけてくる。私はそれに一つ一つ応じていく。


 けど、それだけじゃ完璧にはなれない。


 話しかけてくる人の少ない朝は、他の人がしている今流行りのネタや話題の会話を聞いて、自分がそのことを聞かれた時に答えたら好感度が上がるような言葉を考えなければならない。


「昨日のBIOのアレ、見た?」


「ああ。ってか朝起きたらニュースになってたし」


「掲示板でもアイツの正体を特定しようとかの話になってて流石に笑ったわ」


 私が聞き耳を立てるのに集中していると、そのようなとても興味深い話が耳に飛び込んでくるではありませんか。


 話をしているのはクラスの男子の一つのグループ。ゲームとかアニメ好きが集まっている印象のあるグループだ。


「アイツって結局なんなんだろうな」


 はい! 完璧美少女、柏崎 葵です! ここにいます!


 葵は、偽りの学校での姿ではなく、本当の自分の姿がみんなの話題になり、それをクラスメイトが自分の目の前でしているという事実に、とてもいい気分になっていた。


「あおいー、どうしたのー?」


「あっ、ううん! 何もないよ?」


 危ない危ない。一瞬気が緩んでしまった。気をつけねば.........


 葵は席を立ち、精神統一の意味も兼ねて、もう一度顔を確認するべく、教室を出ようとした。


「痛っ!」


「あっ.........」


 葵は教室に入ろうとする者とぶつかり、よろける。


「あ.........あのっ! 柏崎さん。すみません.........っ」


 葵が声の方を向くと、黒髪ゆるパーマで黒メガネをかけた大人しそうな少女が、焦りながら頭を何度も下げていた。


 有巣(ありす) 理花(りか).........勉強平凡、運動は出来ない方、クラスでは1人でいることが多い女の子。


 私に当たって慌ててるのかな? 可愛いなぁ.........


「いや私は平気! それより、有巣さんこそ大丈夫?」


「あ、いえ、私は.........」


「そう! なら、良かった!」


 葵はそう言うと教室から出ていった。


 相手のことを気遣いながら、相手のことも考えて大事にせず、すぐにこの場から立ち去る.........やっぱり私って完璧!


 そんなことを考えながら。


 ◆◇◆◇◆


「さて、今日もやりますか」


 午後9時。


 学校からいち早く帰宅し、勉強も早めに切りあげた葵は、寝る準備を済ませてジャージ姿でベッドの上に胡座をかいた。


「と、その前に」


 ゲームを起動しようとした葵は、何か思い出したかのようにスマホを付けた。そして、開いたのは動画投稿サイト。


「ええっと、あったあった」


 葵の開いたその画面にはハルという投稿者の名前と、BIOのパーティ攻略動画がずらりと並んでいた。


「うぇぇ、またあの子、再生数伸ばしてるし」


 葵はBIOの情報取得手段として動画投稿サイトの類は基本利用しない。それは雑談の多い動画だと、必要な情報を限られた時間で得るということが難しいという理由からである。


 しかし、その葵が唯一見る動画投稿者がこのハルである。


 葵は、昨日投稿された「SNSで募集したメンバーとモンスターを狩る」という内容の動画をタップした。


『じゃあ今回はよろしくおねがいしまーす』


 最初に簡単な挨拶を済ますと、早速パーティでモンスターを狩っていく。


 しかし――


『うわぁ、さすがです!』


『ええっ、そうなんですか!? 知りませんでした!』


『えー、こんなにくれるのですか? ありがとうございます!』


「なんなのこの笑顔! しかも猫まで被って!」


 葵は投稿者であるハルの明らかに狙ったような態度の連発にツッコミを入れる。


 BIOはゲーム内で現金通貨から浮遊型小型カメラを買うことで動画や写真を撮ることが出来る。投稿者たちは、それらをゲーム内で編集をして、直接動画投稿サイトに投稿している。


 だから、一々その可愛い子ぶった顔が正面から映る。それが、もう鬱陶しいったらなんの。


 そんな動画は所々編集でカットされているものの、20分ちょっとあり、10秒スキップ機能を使いながら飛ばし飛ばしで見ていく。


『今日も最後まで見てくれてありがとうございます! 明日は22時頃から生配信でやりますので、ぜひ遊びに来てください!』


 そう言い、お辞儀をしたところで動画は終了。


 なにを見せられていたのだろう。タグには確かにBIO攻略とある。けど、その内容はハルがお姫様プレイをされて喜んでいるというただそれだけである。こんな内容の動画に何万も見ている人がいるという事実に驚きだ。


「22時かぁ.........うへへ」



 その夜、有名動画投稿者ハルが生放送中にPKされるという事件で、掲示板は大盛り上がりだった。




【速報】例の連続PK犯、昨日の今日でやらかす


 001 BIOから名無し


 大物動画投稿者ハルの生配信に乱入。パーティメンバーを全滅。その後、姿を見せて動画は途絶える。



 002 BIOから名無し


 生で見てたわ



 003 BIOから名無し


 マジでドアップで顔映った時はビビった



 004 BIOから名無し


 公式大会でPK→動画投稿者の生配信でPK

 これが2日で行われてる事実



 005 BIOから名無し


 いやもうこれレジェンドだろ



 006 BIOから名無し


 >>003

 ほんとこれ。夢に出てきそうでわらう



 007 BIOから名無し


 だれかDeathReal(デスリアル)特定せん? 中身気になるわ






 柏崎 葵は完璧美少女である。


 そして、最悪のPKプレイヤーである。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ