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柏崎 葵はPKしまくります!

時間空いてすみません!

あ、あと日間(VR)29位ありがとうございます!

 

 森の手前に比べ、光の届きにくい薄暗い奥地。水が溜まり湖のようなものが形成された、そんなそこにたどり着くまでの雰囲気とは一変した場所がそこにあった。


「これで何個目だ?」


「んなもん数えてねーよ」


 そんな場所でゲラゲラと笑いながら会話する男の姿が3つ。


 そして――


「くっ.........お前ら、自分たちが何をしているのか分かっているのか!」


 一本の剣を両手で握りしめて構え、そう訴える男の姿が1つあった。


「そんなもん分かってるよ。俺たちがやってるのはPK(プレイヤーキル)。他プレイヤーへの無差別キルによるゲーム妨害。だが、それがどうしたってんだ」


 3人のうちの1人が、剣を握り締める男にそう言った。


「顔も割れてるんだ! ネット上に晒される覚悟はあるのか!?」


「晒されると言っても所詮顔ぐらいだ。それで俺たちを倒そうと来るもんなら、返り討ちにしてやるよ」


 もはや返す言葉も出なくなったその男は、剣を捨て棒立ちになった。この男の反撃する心は、既に目の前の3人によって折られていた。そして、唯一の手段である口による説得という手段も今潰えた。


 この男は、つい10分前までもう1人の男と2人で行動していた。モンスターを順調に倒し、着々と2人でレベルを上げ、パーティとしてそれなりに力をつけてきていた。


 しかし、突如現れた目の前の3人に為す術なく敗北し、相方は泣く泣くキルされた。


 一人残された男の目には絶望が写っていた。キルされたあと自分たちがどうなるのか、それを既に目の前の男から説明全て説明されているからである。


 やっとの思いで買った剣、防具、貯めた財産。数秒後にはそれが相手の所持品に変わるのである。


「んじゃやるか」


 そう口にした男。1歩ずつ無抵抗の男に近づいて行く。


 しかし――


「は?」


 その言葉を発した次の瞬間には、もう既にそこ男の姿はそこになかった。


「え? あいつ――」


 いなくなった味方に戸惑う男。しかし、その男も次の瞬間にはその場から消えていた。


「は? 通信障害か? 2人してどこに」


「ぷはぁ」


 そんな緊迫した状況を壊すような気の抜けた声。


「はぁ!? お前どこから湧いて現れやがった?」


「んえ? ずっとここにいたよ?」


 突如現れた少女の言葉に、男は戸惑いを見せる。


 仲間2人が消えたかと思えば、入れ替わりで現れた黒ローブの少女。


 男は、その少女の姿に見覚えがあった。


 ◆◇◆◇◆


 ふぅ。2人はキル出来ましたと。


 葵は、油断しきった男のうち2人を潜伏状態からの一撃でキルをした。


 初撃の一刀(ファーストブロー)の、戦闘における最初の攻撃って1人ずつが戦闘判定になるみたい。


 葵は、その()()というのが自分の戦闘の開始だと考えていたため、2人にボーナスが入ったことはいい意味で誤算だった。


「すみません。私の事、覚えていますか?」


「.........ああ。俺はキルした奴の顔を全員覚えているからな。恐怖、絶望、焦燥.........自分がPKされることを悟った奴らのあの顔。忘れるはずがねぇだろ。当然お前の顔も覚えている」


 葵の質問にニヤニヤと答える男。


「それで」


「は?」


「それで今はどんな気持ちですか?」


 男は葵の言葉の意味が理解出来ず黙った。


「自分がPKされることを悟った今の気持ちはどうですか?」


 男は口を閉じた。


「そうか。じゃあやっぱりお前があいつらを殺ったんだな?」


「.........はい」


「一体どんな汚い手段を使った?」


「姿を消してからの不意打ちで倒しましたよ」


「そうか。なら失敗だったな!」


 男はニヤッと笑うと、腰に携えた剣を抜き、葵に切りかかる。


「はぁ!?」


 しかし、その攻撃は葵には当たらず空を切る。


 へぇ。装備も物理無効判定になるんだ。


 葵は、攻撃が自分だけでなく装備もろとも透過したことに驚いた。


「お前は.........いや、その透けた肌、透過する体、お前まさか霊人種(ゴースト)か?」


「アハハハハっ」


 ずっと堪えていた葵はついに耐えられず、大声をあげて笑った。


 それを見たPK犯の男はもちろん、ついさっきまで絶望していた犠牲者である男までが呆然とする。


「ごめんごめん。現実で自分を作ってるのにゲームまで自分を作るって馬鹿げてるね?」


「ど、どういう意味だ!」


 男は先程までとの態度と一変した反応をした。


「私、実は現実にけっこう疲れてたんだ。しんどいことばっかでストレスは溜まるし、体はボロボロで、でもそんなの相談出来る人もいないし。けど、さっきキルした時はそれを忘れられた」


 おかしなくらい、笑ってしまうくらい、気持ちがよかった。だから――


「だから決めたの! これからはゲームくらいはありのままの自分でいようって」


 葵がそう言い終わった頃には、男は逃げ出していた。


 いつかの私みたい。


 葵はその男の後を追いかける。


 男と葵のAGI(アジリティ)には圧倒的な差が開いていた。葵と男との距離は一瞬で縮まり、次の瞬間には葵は男の後ろに立っていた。


「魔法攻撃も警戒してたんだけど、逃げるってことは物理攻撃にしかポイントを振ってないんだよね?」


 レベル差はそんなにないと思う。腐ってもPKばっかりしてるから、それなりに強いパーティだったんだと思う。


 だけど、それはパーティ内での個人の役割を振り分けているからなのだろう。


 私を昨日キルした人が魔法攻撃担当なら、この人は物理攻撃担当。物理無効の相手と1対1で戦うことなんて考えたこともないのだと思う。


 葵は自分の言葉にも反応を示さず、死にものぐるいで逃げる目の前の相手の背中にダガーで切りつけた。


「痛てぇ!!」


 男はゲームを始めて以来最も大きな攻撃を受けたというのと、ブラックアウトダガーによる視覚妨害効果も相まって足を止めた。


 あっ、そうか! 既に気付かれた相手だから沈黙の一刀(サイレンスブロー)のボーナスが乗らないんだ! それとHPにも振ってたのかな? まぁどうでもいっか。


「えいっ!」


 葵は今度は仕留め損ねないように、攻撃に【能力強化】をかけてナイフを突き刺した。


「あっ――」


 そんな最後の声を上げ、男は消滅した。


「うへへへ.........やっぱりだ」


 突き刺した時の感覚。最後にあげた途切れるような声。これヤバイかも.........


 葵は初めて行ったPKに罪悪感や後ろめたさなんてものを感じていなかった。


「はぁはぁ.........すみません!」


 葵は呼ぶ声に後ろを振り向いた。


 葵が後ろを見ると、そこにはPK犯3人に襲われていた男が、息を切らしながら立っていた。


「あいつはどうなりました?」


「あ、あの人なら私がキルしちゃった」


 葵がそう言うと、その男は勢いよく頭を下げた。


「本当にありがとうございます! なんてお礼を言ったらいいのか.........」


「いやいやお礼なんていいよ」


 現実で言われ慣れてるし。


「ですが.........あ、プロフィールカードを交換しませんか?」


 え、なんで?


「その、もし今度お礼なんか出来たらと思いまして.........」


 ああ.........まさか、ゲームの世界でまでこんなこと言われるなんて.........こういう時は、


「ごめん! 今から用事があって.........また今度ね?」


 葵は手を合わせ謝ると、その場から颯と姿を消した。


 ◇◆◇◆◇


「あっ! アルスマナさん!」


 葵はいつもの村に戻ってくると、見慣れた顔を目にして声をかけた。


「ああ。シリアルさん。どうかしましたか?」


「実は、ここら辺の相手に飽きてしまって、もっと強い相手を探してるんですよ」


「へぇ。それならシボラって街を目指すといいよ」


「シボラ.........ですか?」


 葵は初めて聞く街の名前に首を傾げる。


「うん。そこの近くにダンジョンがあって、そこなら結構高レベルなモンスターが多いからね。それに、人も集まってるから防具や武器、アイテムなんかの心配もいらないと思うよ」


 うーん。じゃあそこにしようかな?


「まあ仕方がないか。この村は所詮チュートリアルの村だからね」


「チュートリアル、ですか?」


「うん。この村は初めてゲームをするプレイヤーがゲームに慣れて貰うためにある村なんだ。だから、ここに滞在しているプレイヤーは低レベル層で近くのモンスターもそれほど強くないんだ」


「そうなんですか。でも、そんなに物知りなアルスマナさんがなんでチュートリアルの村にいるんですか?」


「ああ。それは、僕の職業柄上ここにいる方がメリットなあるからだよ」


「職業柄?」


「そう。僕は錬金術師と鍛冶師の職業を取得してるんだけど、それを売って儲けようとなると人の多い街なんかじゃ激しい競争になるんだ」


「あ! だから、初心者が多くて中級者上級者のいないこの村に来てるってことですか?」


「そうそう。良かったらまた商売で知った面白い情報とかあったら教えようか?」


「いいんですか!?」


「いいよ。じゃあフレンド登録しよっか」


「はい!」


 葵は、目の前に現れたフレンド登録と書かれた文字を押した。


 すると、アルスマナと書かれたプロフィールカードが現れる。


【プロフィールカード:本人が公開を認めた情報のみ書かれたカード】


 アルスマナさんは、プロフィールカードに名前と【商人】【鍛冶師】【錬金術師】の職業を持っているということしか公開していないみたい。


「え?」


「どうしたの? アルスマナさん」


「いや.........うん。シリアルさんってPKとかしてたりしますか?」


「え? してますけど.........」


 アルスマナは頭を抱える。


「えっと、シリアルさん.........それ隠しておいた方がいいですよ」


「え? どうしてですか?」


「まず、シリアルさんのプロフィールを今見ました」


 私のプロフィールカードは名前以外全て非公開にしている。別にここで深く人と関わる気はないからそうしてるんだけど.........


「シリアルさんって紫ネームなんですよ」


「え?」


 そう言われた葵は、自身のプロフィールカードを見る。


「あ、確かに。あれ? でもアルスマナさんは青でしたよ」


「普通は青ネームなんですよ。そもそも名前の色はPK数によって変化するんです。これは、PKばかりしている人と知らずにパーティを組んでトラブルになるのを事前に防ぐためのシステムなんですよ」


 確かに昨日は名前が青色だった気がする。


「10キルで紫ネーム。100キルで黄ネーム。300キル以上で赤ネームになるんです。そして、シリアルさんは紫ネーム。少なくとも10キルはしてますよね?」


「は、はい」


 むむむ.........そんなシステムがあったとは、まだまだ奥が深いなぁ。あれ?


「でも、私はパーティを組む気はありませんから紫ネームでも大丈夫ですよ?」


 葵がそう言うと、アルスマナは呆れた顔をした。


「いずれ、アップデートでパーティ必須のモンスターやクエストが出るかも知れませんし、それでなくともPKしていると知られたらどんな嫌がらせされるか分かりません。ポータルのある場所から出るのを待ち伏せされてキル、なんてこともありますからね?」


 ううっ.........確かにそれは困る。でも、プロフィールカードで名前だけは非公開に出来ない。どうしたもんか.........


「んへ?」


 葵が頭を悩ませていると、メッセージボックスに注意のマークがついた。


【ギフト

 →アルスマナ:骨人種の頭(スケルトンヘッド)


「これは?」


「装備してミラーシステムを使ってみてください」


 アルスマナに言われるがまま葵はそれを装備し、ミラーシステムを使用した。


「うわぁ.........」


 そこに映っていたのは可愛い可愛い顔.........ではなく、アルスマナさんそっくりの骸骨頭である。


「PKするならそれを使ってすると顔はバレないと思うよ。でもプロフィールカードまでは誤魔化せないからなるべく交換は避けた方がいいですよ」


 や、やさしい! 最初会った時は変な人とか思っちゃったけど、こんなことまでしてくれるんだ。


「ありがとうございます!」


 葵は頭を下げ、お礼を言う。


「いやいや。じゃあ、僕はそろそろ行くよ」


 アルスマナはそう言うと、村の入口の方を向いた。


「.........一ついいかな?」


 アルスマナが振り向いて葵に尋ねる。


「どうしたんですか?」


「いや、大したことじゃないんだけど、シリアルさんが最初言ってたここら辺の相手に飽きたってそれは.........」


「ああ、はい! プレイヤーのことです!」


 一度キルの快感を味わったのだ。あれを忘れるなんてこと私には出来ない。


 だから、心置き無くキル出来る環境を作ってくれたアルスマナさんにはとーっても感謝している。


「そうですか。じゃあまたお会いしましょう」


 アルスマナは少し笑い、今度こそ村の入口に向かって行った。


「じゃあ行くとしますか!」


 葵は気合を入れるようにそう言うと、次の目的地シボラを目指し、一歩を踏み出した。


 ――もっとPKをするために。


 ――憂鬱な現実を忘れるために。


補足)柏崎 葵は悪人のみキルするような善人ではありません。


これでチュートリアル編完結です。

しかし、これはあくまでチュートリアル。ここからが本編です。ぜひ楽しみにお待ちください。

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