柏崎 葵の真骨頂
「ふぅ.........」
どれくらい経っただろうか?
葵はそれを始めてから今まで他に一切何もせず、ただひたすらダガーを振り続けた。
そんな狂気とも言える葵を止めたのは、喉の乾きである。
VRというゲーム状、長時間ゲーム以外何も行えなくなる。そのため、喉の乾きや睡眠欲、尿意、性欲などの食欲など一部を除いた多くの感覚が現実とリンクしてある。
「.........ではレベルを確認するとしますか」
Lv:41
残りポイント:43010
「なっ!?」
葵は時間を確認した。
24時間連続プレイをすれば強制シャットダウンするみたいだから、そこまで経っていないはず.........
午前10時30分。
「ええぇ.........うそぉ.........」
一度キルされてログアウトした時は確か10時前だったはず。12時間!? うえぇ.........こんなゲームで時間を忘れるような姿、学校では絶対に見せられないなぁ。
葵は安全な村まで戻り、その場ですぐにログアウトした。
「よっこいしょ.........っと」
葵は頭のそれを取り外すと、体を起こした。
長時間寝ていたわけで、体もちょっと痛い.........
葵はとぼとぼと歩きながら台所に向かった。
冷蔵庫を開け、牛乳を取り出すと、コップに移してそれを一飲み。
「おいしい.........」
久々に何かを飲んだような気分だった。
葵はその後シャワーを浴びた。そして、学校の体操服である青ジャージに着替える。
「よし! お母さんは.........」
葵は静かに母の部屋を開けた。そこには、スヤスヤと寝息をたてる母の姿があった。
「まだ寝てるんだ。いつもならもう起きてる時間なんだけどなぁ」
いつもは午前3時ぐらいに帰ってきて、その後一時間くらいしてから眠るため、この時間には起きているはずだった。
「まぁ休みの日だし、ゆっくり休ませてあげましょう」
葵は静かに扉を閉めて、自室に戻る。
「うーん。どうしよっかな」
葵はスマホを使い、情報サイトや掲示板に目を通す。
さすがに配信3日目ともなると、情報も出揃ってきているみたいだ。
「隠しスキルの取り方もいっぱい出てるなぁ.........あれ? でも【沈黙の一刀】についてはどこにもない! そう言えば【強奪】もない!」
葵は出回っていない情報もあることを知った。
周りの知らないことを自分が知っていると分かった葵は、少し満足気になっていた。
「うへへ。やっぱり私って凄いなぁ」
ダメな笑みを浮かべながら、葵は次々と情報を頭に入れていく。
「これなんか使えるかも。あっ、これだけ上げればこんなにダメージが出せるんだ! ええっ、こんな裏技があったんだ!」
そして、かれこれ二時間スマホとにらめっこすることになった。
◇◆◇
母に呼ばれて昼食を食べた葵は、ゲームを再開するべく自室に戻ってきていた。
「お母さんにもゲームするって言ったし、準備万端! では、始めますか」
色々と覚えた葵は、それらを早く試したいとうずうずしていた。
葵はログインすると、その場で考えていた職業を次々に取り、その次にスキル、最後にステータスを振っていった。
そして――
「よしっ! 出来た!」
一時間かけて振り切った能力値を見て、葵は大きな達成感を感じていた。
シリアル
Lv41
HP:6051
MP:5051
ATK:12031
DEF:1
INT:1
MGR:6031
AGI:10031
LUK:2001
職業
【シーフLv5】
→【アサシンLv5】
→【トリックスターLv5】
【霊人Lv5】
→【霊人主Lv5】
→【霊人王Lv5】
【フェンサーLv5】
→【ソードマスターLv5】
スキル
常時スキル
【剣攻撃強化Lv5】
【短剣強化Lv5】
【隠密Lv5】
【暗殺術Lv5】
【集中Lv5】
【出血Lv5】
発動スキル
【沈黙の一刀Lv5】
【初撃の一刀Lv5】
【物魔変換Lv5】
【幻影Lv5】
【能力強化Lv5】
【潜伏Lv5】
【索敵Lv5】
【追跡Lv5】
残りポイント:860
【初撃の一刀:戦闘における最初の剣の攻撃にボーナスが入る】
【物魔変換:自分の物理攻撃を魔法攻撃に変換する】
【幻影:自分の偽造した気配を創造する】
よしっ! こんなところかな? 隠しスキルの3つもサイトにあった通り取れたし、SNSで誰かが呟いてた「隠しスキルが現れた時のためにポイントは残しておいた方がいい」ってのもちゃんとできてるし、文句なしでしょ。
葵にMMOの経験は一切ない。しかし、これまでの少しの戦闘と、掲示板や情報サイトでの情報で、どう戦うのが強いのか理解してきていた。
そして、どうすれば自分の思い通りにことが進むのか、それを進ませるために最も効率のいいスキルを選び、それに合うようにステータスを割り振った。
全てのことに完璧を求める柏崎 葵にとって、効率思考の面で勝るものなどそうそういない。
「さてさて。では、行きますか.........とその前に」
葵は所持金を確認した。
【285600z】
「うん。十分溜まってる」
葵は、モンスターを狩るとドロップ金が発生するシステムで大量に所持金を増やしていた。これも、長時間モンスターを狩り続けた成果である。
「えー、せっかくこんなに可愛いキャラが出来たんだから服とか買いたいんだけどなぁ」
現実では決して手に入らないモノも今は目の下にあるのだ。葵は武器屋の横に並ぶ服屋を思い出し葛藤する。
「ちょっとくらいなら.........」
葵は、武器屋に向かう足を方向転換させて、服屋に入ろうとした。
しかし、そこである人物の顔を思い出す。
それは、自分をキルしたにっくきあの男たちである。
「危ない危ない。危うく買っちゃうとこだった」
目的を忘れてはダメだ。
葵は自分に言い聞かせながら武器屋に入った。
そして、もう慣れた手つきで武器を探す。
【ブラックアウトダガー:200000z
攻撃対象の視覚を数秒奪う】
強そう! だけど、高いなぁ。
葵は、その高額さに一瞬別のにしようと考えるも、首を振った。
「こ、これをください!」
購入完了。
葵は店から出て、次の目的地に向かった。
「ここかな?」
葵は店に入り、中をぐるりと一周見回す。
鉄の鎧や紫のローブ、ガントレットに皮のブーツまで置かれている。
間違いない。装備屋だ。
「うーん。装備を買うとなるとどれも高いしなぁ.........そもそも私に装備っているのかなぁ?」
リストをスクロールしながらそんなことをボヤく葵だったが、一つの装備に目が止まりスクロールの手を止めた。
【夜隠れのローブ:18000z
一部の索敵系スキルに少量の耐性を得る】
効果はいいんだけどなぁ。でも、ローブって着たこともないし.........
そう言いながらも葵はそれを購入した。
「はぁ。なんか思ってたゲームライフと随分変わっちゃったなぁ.........あ、ここでいっか」
葵は人目のつかない所を見つけて、そこで先程買った二つを装備した。
「うーん.........」
葵はミラーシステムを使用する。
「あ、でも悪くはないかも? 元が悪くないからかな? うん、やっぱり可愛いや」
葵は自分で自分を褒めちぎる。
「では行きますか」
スキル【潜伏】を発動する。
もはや葵の【潜伏】は、【シーフ】【アサシン】【トリックスター】の職業で強化され、常時スキル【隠密】でさらに精度を上げた完全ステルスに近いものとなっていた。
よし。次に.........
葵は【集中】で精度を上げた【索敵】を発動する。
あ、いる! ログインしてない可能性もあったけど、いてくれたんだ! よかったぁ。
葵は、ほっと胸を撫で下ろす。
対象を発見した葵は、次に【追跡】を発動させ対象をマークした。
よーし!
葵は10031のAGIで、想い人の方にまっすぐ向かっていった。
――自分をキルした3人の男の元へ。
スキル詳細とか取得条件の説明欲しいって人は教えてね