総合能力値とPVP
3人組の後ろをしばらく歩き、大きめの岩がそこらじゅうに転がる荒地にたどり着いた時、男達は足を止めた。
ここには何度か来たことがある。
シボラから見てビルスキルより少し離れたところにあるこの地帯にはビルスキル最深部程まではいかないものの、それなりのレベルのモンスターが生息している。
シボラの街付近にはそれほど高いレベルのモンスターはいない。
だけど、ここはシボラから結構離れているため、モンスターのレベルはそこそこかつ、プレイヤーのレベルもそこそことなっていた。
そして、こんな場所でレベル上げをするくらいだ。この人達がただただ弱いわけがなかった。
「俺が前に出る! お前らは盾でヘイトを買いつつ、魔法で援護しろ!」
「ああ!」
「了解!」
リーダーの男がタンクと魔法職の男に指示を出しつつ、自分は大量にいるオオカミ型のモンスターに次々と剣の一撃を加えていった。
オオカミ型のモンスターも噛みを入れようとするものの、タンクの男が上手くヘイトを買ったところを魔法職の男がスタン、リーダーの男がトドメ、と苦戦する様子はまるでなかった。
決して、オオカミ型のモンスターのレベルが低いわけではない。
ここまで一方的にモンスターを狩ることが出来るのは、この3人のレベルがそこそこあるということもあるけど、一番大きいのは連携力だと思う。
的確な指示を出しつつ火力も出すリーダー、相手の攻撃をきっちり受けきり隙があれば反撃するタンク、スタンや妨害をしながら魔法による範囲攻撃でモンスターの体力をじわじわ奪う魔法職。
3人が上手く噛み合い、各々の能力を最大限引き出しているように思える。
かく言う私は戦闘が始まって以降、何もしていない。
そもそも役立たずを演じて、お荷物としてパーティーから追放されるつもりだったから予定通りと言えば予定通りなんだけど・・・・・・さすがにあんな大きな態度を取っていた人達がここまで戦えるとは思っていなかった。
「――シリアルちゃん?」
「あ、はい。なんでしょう?」
いつの間にか目の前のモンスターは一通り片付いており、戦闘後の休憩なのか一息付きながらリーダーの男が私の名前を呼んだ。
「君が代わりになるっていうから連れてきたんだから、少しは役に立ってもらわないと困るんだけど?」
確かにこの男の言うことは間違いではない。
だけど、この男達と縁を切るためには少しでも役に立ってはならない。
「すみません。皆さんのレベルが高すぎて私では着いていけないみたいです」
「あーそう・・・・・・」
なぜかそのリーダーの男は期待外れのような顔を見せた。期待していたのか? そもそも無理やりパーティーに入れようとしていたあの女の子はなんだったのだろう?
「あのパーティーに誘ってた女の子のこと、何か知ってたりするんですか?」
シリアルはリーダーの男にそう尋ねる。
「知らないんだ。知ってる上で代わりになるって言ったんだと思ってたんだけど」
男の口ぶりから察するに、あの女の子はそこそこ有名らしい。
「まぁいいや。あの子はね、魔法職でデバフ系の魔法とスキルを揃えてるらしいんだ。あの子が一時的に参加してたっていうパーティーは、そのデバフのおかげで本当なら手も足も出ないモンスターに余力残して勝てるようになったらしいよ」
デバフかぁ・・・・・・デバフと言えばハルちゃんもデバフを使ってたけど、基本使うのはバフのスキルや魔法だったし、デバフ自体にそれほどの力があると言われてもいまいち実感が湧かない。
――というか、単純な戦力目的でのスカウトならもっと頼みようがあるでしょ! あれじゃあ完璧に、女の子目的のナンパにしか見えない。
連携力もあって個々の力もそれなりにあるのに、あんな強引な誘い方をするところが勿体ない。
「まぁ普通にパーティーに女が欲しかったってのもあるがな!」
タンクの男の言葉に魔法職の男とリーダーの男が共感を示すように笑う。
やっぱり下心があったのは事実なんだ・・・・・・
「でも、君は戦闘はからっきしみたいだし、うちには必要ないかな」
「ちょっとでも戦えるなら大歓迎だけどな」
リーダーの男の言葉に魔法職の男が肯定する。
「まぁ、パーティーの花としてだけじゃあ入れないってことだ!」
そういうところはきっちりしてるんだ。
当たり前のことだけど、こういう実力や連携でパーティーを組まない人が案外多かったりする。
前にハルちゃんを囲っていた人達の大半がそうだった気がする。
「私も皆さんに着いていけないのに一緒にいるのは心苦しいので抜けますね。あ、でも誰かを無理やりパーティーに誘うのは止めてくださいね?」
シリアルの言葉に男達は笑いで返した。
こいつら・・・・・・絶対にまたやるな。
シリアルはそう確信しながらその場から退散しようとした。
――しようとした。
耳を防ぐほどの轟音。
そして、荒地のど真ん中で爆風が巻き起こった。
「――久しぶりのシボラへ向かう途中にプレイヤー。それもパーティーと来た。これは戦う以外ねぇな」
幼い声質と荒っぽい口調。
おおよそ収まった爆風から姿を現したのは、肘から下と膝から下に緑の鱗、鋭い爪と二枚の羽、二本の角を持った女プレイヤー。
装備は肩や膝、胸と腰に鎧を付けているぐらいで必要以上に付けていない。
特徴から竜人種なのは間違いないはず。
だけど、その威圧感はツェントの殺戮女神と対峙した時と似たものを感じる。
違う点といえば今回は相手が間違いなくプレイヤーだということだ。
「おかしい。総合能力値100位以内のプレイヤーは全員把握してるが、その中に竜人種の女プレイヤーはいなかった」
魔法職の男が目の前の竜人種のプレイヤーを前にそう零した。
「総合能力値ぃ? あんなもん、実績とかプレイ時間とか曖昧なもんまで加味した数値、 いざ戦闘になれば下の奴が上の奴を倒すなんてざらにあるからな?」
魔法職の男が零した言葉を聞き逃さなかった竜人種のプレイヤーは私達に向けてそう吐き捨てた。
確かにそれは間違いない。
実際に昨日PKした中には総合能力値100位以内のプレイヤーが何人かいたらしい。
協力と裏技のようなことを使ったとは言え、上位ランカーが相手でもPK可能だということは紛れもない事実だ。
「なら君が何位か知らないけど、僕達でも倒せるということだ」
リーダーの男がそう言うと剣を構え距離を詰めた。それに少し遅れて魔法職の男がスタンの魔法と攻撃魔法を竜人種のプレイヤーに飛ばす。
「――お前らが強けりゃな」
竜人種のプレイヤーはその一言と共に拳を作ると、リーダーの男に向かってそれを振り抜く。
そこで用意していたのか、すかさずタンクの男がダメージを請け負いに盾で割り込んだ。
何回見ても熟練の連携だ。
でもだからこそ目の前の竜人種が規格外だということが分かった。
それは盾でダメージを請け負ったはずのタンクの男が既にこの場にいないことが証明していた。
おそらく盾の上からの一撃で全てHPを削られ、一瞬でリスポーン地点送りにされたんだと思う。
それに動揺したようで、2人の男は手を止め、足を止めた。
だけど、竜人種はそれもお構い無しに2人に拳をぶつけ、気付いた頃には広い荒地に竜人種のプレイヤーと私だけになっていた。
「あー、つまんねぇ」
なぜか竜人種は酷く落胆した様子でその場に座り込んだ。
「シボラに来れば強い奴らと戦えるって聞いたから期待したんだけどな・・・・・・まぁ、ここはシボラじゃねぇけど」
ん? どういうことだろ?
「シボラで何かあるんですか?」
「あ? あー、なんかPKクランが昨日大量に殺ったらしくてな。それを聞きつけて興味を持った強い奴らがシボラに集まってるらしくてな」
「そうなんですか・・・・・・」
バーの人が言ってたみんなピリピリしてるっていうのと関係あるのかな?
このことも明日みんなと話し合わないと。
「じゃあまぁあんたは戦う気もねぇみたいだし、ワタシは行くわ」
「どこに行くんですか?」
「んなもん、シボラに決まってんだろ! ここまで来てあんな弱っちい奴ら相手にしただけで満足出来るかよ! シボラに行って強い奴と闘ってぶっ飛ばす!」
「そうなんですか・・・・・・では、お気を付けて」
「ああ。あと、つるむ相手は選んだ方がいいぞ?」
「ははは・・・・・・気を付けます」
「んじゃあな」
そう別れの言葉を告げると、竜人種のプレイヤーは背を向け羽を動かし、宙に浮いた。
「――ぐっ!?」
あーあ。やっぱり慣れない武器を使うべきじゃないや。いくら不意打ちとは言え深く入らない。
シリアルは片手剣を右手にため息をつきながら、斬り裂いた竜人種の左腕鱗と鎧の間の人肌の部分を見た。
「くっそ・・・・・・お前」
竜人種は酷く怒った様子でこちらを見ている。
確かに私が、私達がデスリアルだとバレたら皆に迷惑がかかってしまう。
それならデスリアルが使わない武器で、デスリアルが使わない戦い方でPKればいい。
目の前にこんなに自信に満ち溢れた強いプレイヤーがいるんだ。もし、キルできたらどれほど気持ちいいんだろう!
それを考えたら、ここで平和にさよならなんて出来るはずがない。
この竜人種、鱗の部分以外は人肌で顔も人間のものです(一応)




